「今日は両親がいませんから、泊まりに来てくれませんか?」
荒井昭二に誘われ、新堂誠は初めて彼の家へ上がる事になった。
明日は休日だ、その誘いが何を意味しているのかは鈍感な新堂にもわかっている。
「どうぞ、好きな場所に座ってください。冷たいものでも出しますから」
部屋に入れば荒井はすぐトレイに乗せた麦茶をテーブルへと置く。
外が暑かったのもあり迷い無く一気に飲み干す新堂を見て、荒井はクスクス笑って見せた。
「そんなに一気に飲んで、僕を疑ってはいないんですか。もし毒でも入っていたら、新堂さんはもう死んでますよ」
そう言われ、新堂はぎょっとしながら空になったカップを見る。荒井なら本当に入れそうだと思ったし、毒を盛られるような心当たりも多少はあったからだ。
だが思い返してみても麦茶の味がおかしい感じはしなかったし、笑いながら見る荒井の姿も普段と変わりがない。
「随分とタチの悪い冗談だなァおい。それとも本当に毒が入ってたのか? ま、お前なら俺のこと綺麗に飾ってくれんだろ……最高に楽しいまま殺してくれるんなら悪かねぇがな」
座布団の上に胡座をかいて笑えば荒井もまた満足そうに微笑むと新堂へと顔を近づける。
「ふふ……大丈夫です。何も入れてませんよ。それより、どうします? シャワーを浴びてきたほうがいいですか? それとも……」
荒井がすべてを言い終わる前に唇を重ねていた。
今日は家に誰もいないのは分かっているし、家にあがった時もすでに人の気配がないのも確認している。誰にも気兼ねなく荒井の身体を楽しめるのなら、早い内から好きなだけ貪り尽くしてやろう。
唇を重ねながらシャツのボタンを外そうとする新堂の指先を荒井はどこか惚けたような目でみつめていた。
「新堂さん、急きすぎですよ……いいんですか? 僕、随分と汗臭いと思いますけど」
「構うもんかよ、どうせ汗だくになっちまうんだしな」
唇を首筋へと滑らせ、もたつきながらもシャツのボタンを外せば荒井の病的なまでに白い肌が露わとなる。 顔立ちは中性的だがうっすらと筋肉の乗った身体は少年と青年との揺らぎにあり男の身体だとわかっていても艶めかしく美しかった。
「男の身体なんざ興味ねぇと思ってたんだがな……」
胸に顔を埋め唇で肌の感触を確かめる。
お世辞にも筋肉がついているとは言えない荒井の身体は抱きしめてもやや骨張った印象が強いのだがその肌は新堂が今まで触れたどんな相手よりも滑らかな肌をしていた。
「今はおまえの身体が一番いい……まったく、どうしてくれんだ荒井? もうお前以外は抱けそうに無ぇ」
そう言いながら胸に舌を這わせれば微かに塩辛い汗の味がした。
「どうとでもしてください……僕も、今はあなただけに抱かれたい。今の僕すべてをあなたのモノにしていいですから」
胸の感触を確かめるようゆっくり舐る新堂の髪を荒井は慈しむように撫でる。
少しじれったいくらいの愛撫だが、普段校内でする時は周囲の人目もあり声をあげる事も出来ないのだから広い室内で存分に動ける時くらいは時間をかけてゆっくりとその白い身体を堪能しても罰は当たらないだろう。
指と舌でたっぷりと滑らかな肌を感じていれば、荒井の身体は小刻みに震えているのがわかる。
漏れる吐息に甘い喘ぎ声が混じり、肌が少しずつ紅潮していった。
と、そこで荒井の顔に西日が差しているのに気付く。カーテンを開けっぱなしにしていたから日が入ってきたのだろう。 荒井の部屋は二階にあるしすぐ隣の家が見える窓でもないから気にしなくても良さそうだったが、それでも外から見られていると思うと落ち着かない。
新堂は荒井を抱き上げベッドに寝かすとカーテンを閉めた。
「どうしたんですか新堂さん。べつに窓なんか閉めなくてもいいでしょう? そんな事をしたって無駄ですよ……」
唐突に愛撫を中断されたのが不服だったのか、荒井は視線を逸らし呟く。
右手で額をおさえながら天井を眺める姿は内側から湧き上がる熱情に耐えているようにも見えた。
「見られてると思うと落ち着かねェだろ? 心配しなくても、ちゃんと良くしてやるって」
それに、ベッドの上ならもう少し激しく動いても問題ないだろう。
ふたたび唇を重ねいつもより丹念に舌を絡めて舐れば荒井はその細い手で新堂の背中を爪が食い込むほど強く抱きしめた。
「んぅ、新堂さっ……」
「黙ってろ……舌ぁ噛むぞ? 苦しいなら爪たてて目一杯喘げ……お前の苦しそうな顔は最高にイイからな」
今日はゆっくり時間があるのだから、焦らして待たせて散々と身体を弄び限界になって蕩けた姿をたっぷりと楽しみたい。 そんな欲望がふつふつと湧き出ていつもよりじっくり指先で愛でるその最中、唐突に玄関のチャイムが鳴り出した。
「くそッ……こんな時に何だよ……」
荒井の両親は戻ってこないと言っていたし他の親戚も近くにはいないらしい。だとすれば配達かあやしげな勧誘でも来たのだろうか。あるいは、荒井の友人が遊びに来たのかもしれない。
おおよそ人付き合いとは無縁そうな荒井だがこれでも結構社交的で友人も多い。だがどの友人も突出した才能をもつ変わり者が多く奇妙な趣味をもちあわせていたりある種の変態的な執着で一つの事に没頭したりする傾向があり、特に荒井とよく連んでいる時田は並外れた映画の知識をもち自身も立派な機材をそろえて自主映画などを作るという男だった。
面白そうな映画のネタを何処からか嗅ぎつけては率先して首を突っ込んでくるといった性格だから、新堂と荒井の関係にもすでに気付いており絶妙なタイミングを狙って訪れるなどいかにも彼がしそうな事だ。
荒井は「いまどき同性愛なんてさして珍しい事でもないですから、時田くんが知ってもそんなに興味をもつとは思えませんよ」とさして気にする様子はなかったが、それでも時田の性格なら「興味深いね」の一言でカメラを隠しこっそり撮影をするに違いない。
何かしていると感づいて後を付け大事なシーンで突撃してくるなんて事も想像に難くないのだから。
「おい、出ろよ荒井……大事な用かもしんねェだろ」
ちょうど仕上がってきたのだから今離れるのは惜しいが、かといってチャイムに出さない訳にもいくまい。大事な荷物などが届く予定だったら後で困るのは荒井だ。それにもし時田が来たら体よく追い払ってもらわなければいけない。
だがそんな思いすべてを止めるかのように、今度は荒井から唇を重ねた。
「嫌です……いいじゃないですか、誰が来ても……今度は僕が良くしてあげますから……」
荒井の細い指が新堂の身体を撫でる。
もうすでに幾度か肌を重ねているのもあってか、荒井の指は新堂の心地よい所をよく覚えていた。
「おまえ、この……っ」
このまま身体を任せても何ら問題はないのだがやられっぱなしのされっぱなしというのは気持ちよさよりも悔しさが募る。生来の負けん気が煽られた新堂は荒井の身体を押さえつけいっそう激しく責め立てた。
だから、全く気がつかなかったのだ。
ドアを開ける音がしたことも、階段をのぼる気配にも。
「ちょっとまってよ荒井くん! どういう事なのさ! 荒井くんは僕のものなんだぞ!」
勢いよく部屋のドアが開いたと思えば、見知らぬ二人が立っている。
一人は可愛い顔立ちをしており一瞬見れば女の子のようだが着ているシャツは男物だし体型も男性のそれだ。荒井もなかなか中性的な顔立ちだが、彼はもっと女性的だろう。あるいは意識的に女性のような格好をしているのかもしれない。
「そ、そ、そうですよ! 荒井さん……あの、どういうことですか。くわしく説明してください! 私はいま、冷静さを欠いてその人のこと殺しちゃうと思います!」
もう一人はやや大人しそうな顔立ちをしながらえらく物騒な事を言い捨てた少女だ。
鳴神学園の制服を着ておりリボンタイの色から二年生なのはわかる。荒井の事を知っているのなら、彼のクラスメイトか何かだろう。
「いや、テメェら誰だよ!? 何でこの家にいるんだ、ここは荒井の家だぞ!?」
それを言えば新堂だってこの家にいるのがかなりおかしい状況なのだが、それを気にする余裕などない。 驚きから声をあげる新堂をよそに、荒井は億劫そうに起き上がると自分の前髪をかき上げた。
「あぁ……やっぱりまだ僕の部屋に付けてるんですね、盗聴器と監視カメラ。あらかた取り除いたと思ったんですが……」
「はぁ? 盗聴器? 監視カメラ?」
荒井の言葉を理解できず思わず問いかければ、少女のような顔をした少年が一歩前に出た。
「だって、荒井くんが全部外しちゃうんだもん! だから新しいの付けたんじゃないかー、もう、そんなコトしちゃ、ダメだぞ」
可愛いお願い風に言っているが、人の家に盗聴器やら監視カメラやらつける方がダメだぞ案件だ。だが、そういった常識は通用しないのだろう。元々荒井のまわりには常識が通じる人間なんて集まっていないのだから。最も、鳴神学園の教師や生徒が全体的に常識外れだろうといわれたらその通りなのだが。
「合鍵は確か全部処分したはずですが……」
「あ、荒井さんの前で処分した合鍵は合鍵の合鍵で、その、まだいっぱいありますので……」
今度はいかにも大人しそうな顔立ちの少女が、俯き加減で合鍵らしい鍵を10も20も取り出して見せる。いかにもしおらしい態度だが、言っている事は軽く狂っている。
「いや、ちょっとまってくれ荒井。お前の家は、盗聴器やら監視カメラが日常的に仕掛けられているうえ、合鍵が……合鍵? おまえが合鍵を渡した……?」
「渡してないですよ、新堂さんにだって渡してないじゃないですか……お二人が勝手に作っただけです」
「つまり、荒井。おまえは、自宅に監視カメラや盗聴器をつけられて合鍵を勝手に複製されている……ってことか?」
新堂の言葉に、部屋に入ってきた二人は不満そうに口を尖らせる。
「部屋全部にはつけてないよ! 僕らの目当ては荒井くんだけだもん、荒井くんの部屋とお風呂だけだよ!」
「そ、そうです! それに、監視カメラや盗聴器だけじゃなく、ちゃんとGPSもつけてます!」
クレームを入れる所がそこで本当に良いのだろうか。もはや何もわからない状態になりつつある新堂を、いかにも大人しそうな少女が指さした。
「というか、最近は新堂さんにも付けてます……!」
「何でだよ!? ってか、どうして俺の名前知ってんだよ、こっちはテメェの事なんざ知らねぇぞ!」
「だ、だって荒井さんと最近よく話してるし……荒井さんが話す人にしては珍しい、チンピラヤクザみたいな男だから荒井さんに非道い事をしているんじゃないかとおもって……」
チンピラヤクザに思われる外見だというのは自覚しているし素行が悪いのも分かっている。
だが他人の家に盗聴器をつけ監視カメラをつけて合鍵を複製し勝手に出入りする事はひどい事じゃないと思っていそうな相手に見た目だけで犯罪者扱いされる言われはないというものだ。
見た目が怖いのは犯罪ではないが盗聴器を無断につけるのも家に不法侵入するのも犯罪なのだから。
「盗聴器つけるのは非道い事じゃねぇとでも思ってんのか!」
思うだけに留めようとしていたがつい口に出していた。どう考えても自分が責められるのは理不尽だ。
「でもいつも荒井さんに非道い事してるじゃないですか! 新堂さんと一緒にトイレ入る時いつも荒井さん辛そうな声出してますよ!」
そう思ったら大人しい顔立ちをした少女は強い口調で新堂を責める。
そりゃそうだ、確かに無体を強いてる自覚はある。だがそれを指摘するのは流石におかしい。ストーカーに熱が入りすぎて性的知識が欠如してしまったのだろうか。その声を聞いているという事は男子トイレまで様子を見に来ているということだ。女子が男子トイレに入るのは流石にいかがなものかと思う。
実際に彼女の隣にいる女性顔の男子は何かを察したように顔を赤くして俯いていた。
「うるせェ! そりゃコイツもヤりてぇって言ってるからしてンだ、別にイジめてる訳じゃねェ!」
「いえ、イジめられているといってもいいですよ。快楽には苦痛がともなうものですから。まぁ、同意の上ですし僕も嫌だという訳ではないんですが……」
「荒井、よけいな事言うんじゃ無ェ! 話がややこしくなるだろうが!」
と、そこでやや女性のような顔立ちをした男が我慢の限界に達したように叫んだ。
「どうしてだよ荒井くん! そいつとセックスできるのに、どうして僕じゃダメなのさ!」
室内は一瞬で水を打ったように静かになる。
そして、ようやく隣にいた彼女は何かを理解したように顔を赤くして「あ、あっ……えっ……あっ……」と挙動不審になりはじめた。
「えぇと……新堂さん、紹介しますね。あちらの、鳴神学園の制服を着た女性の方が僕と同じクラスの本郷茜さんで、隣が姫乃大五郎くんです」
ようやく静かになったからいいだろう、といった顔で荒井は二人の自己紹介をする。この状況でよくそんな事が出来るとも思うが、この状況でそういう事ができるのが荒井昭二という男だった。
「そうか、わかったけどわかんねェ。ちょっと情報が多すぎるから整理させてくれ……」
新堂は頭を抱える。だが情報が多すぎるという点では姫乃と本郷も一緒のようだった。
「わ、私たちもすこし新堂さんとお話したいです」
「情報交換をしようよ!」
もう何の情報を交換するというのだ。
意味がわからないしわかりたくもないが、荒井はこの状況をどこか他人事のように見つめていた。
「本郷と姫乃か……テメェら、荒井のストーカーって事か?」
「そうだよ」
「私たち、荒井くんの事が大好きで……二人で荒井くんを一日中見守っているんです」
そこで本郷と姫乃は二人顔をあわせると「ねー」と笑顔で向き合う。 その様子は仲の良い親友同士のようだったが、発言はおおよそ仲良しグループが話す事ではない。
「何だよ……犯罪だろそれ? ……荒井、どういうことだ?」
「僕はやめて欲しいといってるんですよ、ですがカメラも盗聴器も外しても外しても気付いたら取り付けられていて、いたちごっこなんです」
「おまえ……すげぇヤツに好かれてんだな……」
荒井フレンズもおおむね個性的だが、荒井ガールズもここまでぶっ飛んでいるとは流石に想像していなかった。そういえば荒井は集会の時もストーカーについて少し話していたが、あれがすべて事実だったとは流石に想像外だ。新堂の話だって多少盛って話していたのだから、てっきり荒井も脚色しているのだと思っていた。
「あ、あの……それで、私も聞きたいんですけど。あの、新堂さん、荒井くんと……お、お付き合いされてるんですか?」
脳が飽和しはじめている新堂に、今度は本郷が問いかける。
それを聞かれた新堂は少し考えた。
確かに今は荒井と頻繁にセックスする間柄ではある。最初は流され半分と好奇心、二度目以後は快楽が勝ったからだ。そのままズルズルと来ていたから荒井に対して好きだと言った事はない。行為の最中に気持ちが昂ぶってそういう言葉を口にした事はあるが、素面の時に伝えた事はない。
だから明確に恋人かと言われると違うのかもしれないが、ただセックスをするだけの割り切った関係で良いと思うには今は荒井の事が大切だった。
少なくとも目の前に現れたこの二人には渡したくはない。
「あぁ、そうだよ。荒井は俺の恋人だ。少なくとも俺ァそう思ってる」
新堂は自然と荒井の肩を抱く。そんな新堂を見つめると、荒井は微かに笑って見せた。
「僕もそのつもりです。ですから姫乃くん、本郷さん。すいませんがお二人ともどうかその思いを他の方に向けてくれませんか? 僕は今後もお二人を愛することはないと思いますから」
荒井は二人を前に丁重に告げる。自分の思いを口にしたのは初めてだが、荒井も同じように思っていてくれたことは嬉しかった。だがそれもつかの間の事だ。
「どうして、どうして僕じゃないんだよ荒井くん! 僕はさぁ、こいつよりずーっと前から荒井くんの裸を見てるし!」
「あ、誤解しないでください新堂さん。盗撮されていただけなんで。姫乃くんに自発的に裸を見せた事はないですから」
「荒井くんの好きな本とか、趣味とか全部知ってるんだからな!」
「これも、姫乃くんが勝手にゴミなどをあさって調べただけで自発的に教えた事はないですから」
荒井は冷静に注釈をしているが、姫乃の手にはカッターナイフが握られている。 薄っぺらい文房具のカッターだがそれでも刃物は刃物だ。やたらに振り回されたら怪我じゃ済まないかもしれない。
実際、岩下などはその気になればカッターナイフで人を殺せるのだ。
「くっそ、危ねェもん出してんじゃ無ぇよ!」
とっさに新堂は飛び出して、姫乃のボディに拳を喰らわせる。
見た目がいかにも女性的な姫乃を殴るのは多少抵抗があったが、拳を入れた感触が男の身体だったので手加減せず思いっきり内蔵をかき回すようなパンチをお見舞いすれば姫乃はその場に崩れ落ち膝をつく。床に落ちたカッターを拾うと新堂はそれを机の上に置いた。
「悪ィな、手加減する余裕はなかったぜ。でもよォ、刃物は良く無ぇだろ。その可愛い顔が傷ついちまったらどうするつもりだ……」
「いやぁぁぁぁ、私の荒井くんを返してよぉ!」
これで女性一人ならそこまで気にする事もないだろうと思っていたが、本郷はバッグから金槌を取り出すとそれを振りかぶり向かってくる。 新堂はすぐ構えて見せたが、目の前にいるのは姫乃よりずっと華奢な女性だ。本気で殴れば耐えられないかもしれない。それに女性を殴るというのは流石に抵抗がある。
一瞬戸惑う新堂の前に彼女の金槌が迫る。
「僕は別に本郷さんに心も体も貸した事はありませんよ」
だがそれは荒井の言葉とともに中断された。本郷の動きにいち早く気付いた荒井が先に動き出し、彼女を横から突き倒して抑えたのだ。
「やだやだ、荒井くん、荒井くぅん……」
本郷は暫くイヤイヤと首を振っていたが、やがて諦めたように金槌をはなして床に伏した。
「さて、新堂さん。とりあえず二人が大人しくなったので縛っておきましょう……僕の部屋に隠した盗聴器などのありかを聞いておかないといけませんので」
「荒井、お前なァ……」
この二人が見ている事を最初から知っていたのか。こんなヤバい奴らを野放しにしていていいのか。知っていたのならどうして招き入れるような事をした。
言いたい事は山ほどある。
だが、この二人が現れたおかげで今日、ようやく恋人だと伝える事が出来たのも事実だ。もしかしたらそれを言わせたくて自分を部屋に呼ぶ気になったのか。もしそうだとすれば、随分と非道いことをするものだ。
しかしこれまでズルズルと身体だけを貪ってきちんと伝えてなかったのは事実であり、荒井がずっと自分を思って身体を許していたのなら何も伝えずただ抱かれている間はずっと不安だったろう。そう思うと多少は仕方ないと考えるのは、新堂もまた鳴神学園の生徒がもつ異常性になじんでいるからかもしれない。
「新堂さんの鞄にもGPSついてるようですから、それも外しておきましょう。お互いの家に行ってもゆっくりできないのは、流石に困りますからね」
「そうだな……しかし荒井、テメェホントにひでェヤツだよ。いい趣味してやがるぜ」
だがこれくらいは、言ってもいいだろう。そんな新堂を見て、荒井はまた微かに笑う。
「新堂さんもですよ。こんな僕を好きになるんですから、いい趣味してます」
その笑顔は歪な悦びをもつ荒井が珍しく見せる、純粋な笑顔だった。