四機のモビルスーツが横一列に並ぶ形でステーションワンに突進する。
 間もなく目標点に到達する彼らの前に、立ちはだかるように現れた守備隊のモビルスーツ部隊に向かって、イザークが口を開いた。
「ジュール隊、イザーク・ジュールだ。打ち落とされたくなかったら、道を空けろ!」
「ですが、ジュール隊長。我々はこれを死守するよう上から命令されてます」
 戸惑いながらも引く気配のみせないパイロットに、イザークは鋭く一喝する。
「きさまら、それがプラントを撃った連合の兵器だと知ったうえで守るのかっ!」
「…!」
 その声に気圧されるように動きを止めたモビルスーツ部隊の間を、すり抜けるように前へ進む。
「…イザーク」
 どこか気遣う彩を帯びたアスランの声に小さく舌打ちしたイザークは、何か言いたげな様子をみせる彼を遮るように言った。
「援護してやるから、とっとと落としてこい!」
「わかった」
 イザークらしいその言葉にアスランの頬に苦笑が滲む。
「ディアッカはフリーダムを援護しろ」
「りょーかい」
 加速して飛び出したジャスティスとフリーダムが、ステーションワンの外壁をミーティアの砲火で切り裂いてゆく。
 その様子をモニターで確認しつつジャスティスの援護をしていたイザークは、今更ながらに複雑な心境に陥っていた。
 ザフトの軍人として軍規違反も甚だしい利敵行為で、仮にも隊長職にある者が取るべき行動ではない。ボルテールに残してきた部下達に何と罵られても、言い訳すら許されない状況だった。
 だが、イザークはこの決断に後悔はなかった。ただ上の命令に従うだけの二年前の時とは違い、今度は自分の意志で今自分が成すべきことを決めたのだから。
 破壊されたステーションワンの残骸を見つめていたイザークの耳に、アスランの声が届く。
「終わったよ」
「ああ。だが、ダイダロス基地にレクイエム本体が残っている。大元を潰さなければ意味がない」
「そっちにはオーブの主力艦隊が向かってるよ。俺たちもこれから急行する」
「そうか」
 確実にレクイエムの発射を阻止する為、艦の勝るアークエンジェルとエターナルで先に中継ポイントを落としたということか。絶対数が少ない中、手回しのいいことだと、イザークは微かに唇を歪めた。
「イザーク」
「何だ?」
「……その。正直、イザークが協力してくれるとは思わなかったよ」
 躊躇うように告げられたアスランの言葉に眉を顰めたイザークは、小さく嘆息すると静かに答えた。
「これは、プラントを攻撃した兵器だ。こんなものを残しておいて、また撃たれでもしたらどうする。俺は、もう二度と、プラントを撃たせたくないんだ」
 目の前で起きた惨劇を思い出し、悔しげに唇を噛み締めるイザークを気遣うようにアスランが声を掛けた。
「……イザーク」
 だが、俯いてしまったイザークにそれ以上何も言えなくなってしまったアスランが掛ける言葉を探していると、ふいにイザークが顔を上げた。
 その瞳に浮かぶのは、涙ではなく―――。
「……俺に来いと言ったのはきさまだろうが! それを、協力してくれると思わなかったとは、どういう了見だっ!」
 今まで溜まっていた怒りを爆発させたイザークの声が、アスランの耳に痛いほど響く。憤怒に燃えた蒼氷色の瞳に、彼が腹の底から怒っていることがわかって、弱りきったアスランの弁明はついしどろもどろになる。
「…あ。えーと、その……ごめん」
「謝ってすむことか、馬鹿っ! 大体、きさまはいつも…っ!」
「あのさー、お二人さん。痴話喧嘩はそれくらいにしといて、さっさとここ離れない? 一応今、戦争中なんですけど」
 妙に間延びしたディアッカの声に割り込まれ、イザークは瞬時に固まった。
「うん。後でいくらでもアスランのこと殴らせるから、今はみんなと合流しようよ」
 追い討ちをかけるようにキラの声が届き、顔に血を昇らせたイザークは唇を戦慄かせた。
「きっ、き…っ」
「ほらー。さっさと行くよ、たーいちょ」
「アスランも二人っきりになりたいだろうけど、場所を弁えようね」
「……キラ」
 その言葉に頭痛を覚えたアスランにはこの後の展開がイヤになるほど予測できて、思わずがっくりと項垂れる。
 直後、アスランの予想どおりにイザークの怒声がコクピットに響き渡った。
「きさまら、人をコケにするのもいい加減にしろーっ!」