ゴンドワナの司令官にレクイエムの件について説明を求めたイザークだったが、議長の指示の一点張りで納得のいく回答は得られなかった。
だが、これで諦めるような彼ではなく、ならば議長に直談判してやろうと通信を入れようとしたところでディアッカに止められた。
「やめとけ、イザーク。どうせ議長は出やしねえよ」
「やってみなければわからないだろうが。こんな愚挙を冒されて黙っていられるかっ」
ムッとして言い返すイザークにやれやれとディアッカは肩を竦める。
「それは俺も同じだけどさ。けど、口下手なお前が何を言ったって、あの人には通じねえよ。煙に撒かれた挙句に、何時の間にか言うことをきかされるのがオチだぜ?」
「……っ」
ディアッカの指摘は的を得ていて、咄嗟に反論できなかったイザークは悔しそうに唇を噛み締めた。
彼の言うこともわかるが、心の中にこんな蟠りを抱えたままで、果たして何事もなかったように上層部の命令に従えるかイザークには自信がなかった。
迷った挙句、とにかくぶつかってみなければわからないと腹を括ったイザークが口を開きかけた時、入電を知らせるアラームが小さく鳴った。
「艦隊司令部より入電です。現在、ステーションワンにて、守備隊とアークエンジェル、エターナルが交戦中。月機動艦隊並びにミネルバは、これの支援に向かわれたし」
「なんだと!」
思いもよらないオペレーターの声に、イザークは弾かれたように振り返った。
「モニターをオンにしろ!」
「はいっ」
中央部のスクリーンに映し出されたのは、守備隊と交戦中のアークエンジェル、エターナルの両旗艦。そしてザフト軍の防御陣を縫うように進むミーティアを装着したフリーダムとジャステスの機体だった。
「あいつらっ…!」
苛立ちを押し殺した声で低く唸ったイザークがモニターを睨みつける。
しばらく音信不通になっていたかと思えば、いきなりこんな所に現れて守備隊と一戦交えているとはどういうことか。
これ以上レクイエムを撃たせないためにステーションワンを破壊しようとしているのだと理解はできるが、事前に何の連絡もなかったことが腹立たしい。
そんなイザークの心情を察したディアッカが、飄々とした口調で宥めるように言った。
「でも、連絡ないのは当たり前だぜ? 俺達はザフト軍なんだからな、やっぱり」
非の打ち所のない正論を吐かれて面白くないイザークは、振り向きざまに小憎らしい副官に噛みつく。
「わかっているっ」
そして即座に前方に向き直ると、急かすように艦長へ指示を出した。
「ともかく発進だ! とっとと船を出せっ!」
「は、はいっ!」
イザークの剣幕には慣れているはずの艦長が、常になくピリピリとした空気を纏っている彼の様子に慌てて指示に従う。
「ボルテール発進。目標、ステーションワン」
戦場へ最大出力で向かいながら、イザークは悔しげに唇を噛み締めた。
アスランが生きていることは信じてはいたが、不安に思う気持ちがなかったわけではない。
ただでさえ地球と宇宙で物理的距離が離れすぎているうえに、ザフトを脱走してしまったためにこちらからは連絡を取ろうにもできない状況なのだ。大方アークエンジェルに拾われたのだろうと予想はしていたが、この目で無事な姿を確認するまでは心配が尽きなかった。
大体、無事なら無事と一言くらい連絡をよこしてもいいだろう。俺が心配していることくらいわかるくせに、なしのつぶてとはどういうことだっ!
イザークとて、身を隠しているアスランが連絡をよこすのは難しいことぐらいわかっている。ディステニーに撃墜されたのだから、かなりの怪我を負っただろうことも容易に想像がつく。恐らくは、連絡したくてもできない状況だったのだろう。
だが、頭ではそう理解していても、感情は別問題で。
ただでさえレクイエムの件で不安定になっていたところに、よりによってフリーダムと並んで出撃しているジャスティスを見てしまっては、イザークに冷静になれといっても無理な話だった。
結局アスランはいつもこうなのだ。何もかも勝手に決めて行動して、残されるこちらのことなど何も考えていやしない。アスランが何かする度に振り回される自分が滑稽だった。
胸の中に燻り続けていた苛立ちと憤りと不満が、アスランという格好の標的に向かって一気に溢れ出す。
もやは制御不能となってしまったその感情に突き動かされるまま、イザークはきつく拳を握りしめて決意する。
アスランめっ! おめおめと俺の前に現れたら、今度こそ絶対に殴ってやるっ!
怒りに燃える蒼氷の双眸でモニターを見据えるイザークの姿を、背後に控えたディアッカが幾分心配げな眼差しで静かに見守っていた。