爽やかな朝の陽射しが、生成りのカーテン越しに室内をやわらかく照らしている。その光に包まれて眠っていたイザークの目蓋が微かに動き、やがてゆっくりと開かれた。
とろんとした瞳のまま寝返りを打った彼は、隣にいるはずの人物の姿がないことに気付きもそもそと身体を起こすが、起きぬけのぼーっとした頭ではまともに思考が働くはずもなくぼんやりとベッドの上に座っていると、突然寝室の扉が開いた。
「おはよう、イザーク」
薄手のシャツにGパンという軽装のアスランはベッドに近づくと、未だどこか焦点の定まらない瞳で自分を見上げるイザークの肩に手を置き、さらさらの銀糸をそっと掬い上げて白い額に口付けた。
「朝ごはんできてるけど、起きられる?」
にっこり笑って返事を待つこと暫し。
「………起きる」
数分後、ほんのり紅く色づいた唇が、寝起きのせいばかりではない掠れた声を発した。
正常な思考能力が戻ってくるに従って昨夜の自分の姿が脳裏に浮かび上がる。自分でも信じられないくらいの痴態を晒してしまった記憶がまざまざと甦り、恥ずかしくてとてもじゃないがアスランの顔をまとも見れないイザークは、白皙の頬どころか首まで真っ赤に染めて俯いた。
「どうしたの? イザーク」
そんな恋人の内心など手に取るように判っているアスランは、そ知らぬふりをして問い掛ける。
「……………」
応えられないことを承知の上で聞いてくるこの男は、こんな時本当に意地が悪い。普段はうんざりするほど甘やかすくせに、時折こうやって意地悪く焦らして自分の反応を楽しむ傾向がある。アスランの戯言を借りるならば「イザークが可愛くて仕方ないから」だというから、まったくふざけている。
つい恨みがましい瞳で見上げれば、確信犯の笑みを浮かべたアスランは憎らしくなるほどの余裕ぶりで、イザークの心にむくむくと対抗意識が芽生えてきた。
大体、やられっぱなしなのは性に合わない。これ以上付け上がらせないためにも、この辺で一泡吹かせてやらなければ。
そう思ったイザークは、いきなりアスランの襟首を掴むと、油断していた男の身体をベッドの上に転がした。
「うわっ!」
不意をつかれ、そのまま組み伏せられたアスランが呆然と見上げると、悪戯っぽい光を湛えたアイスブルーの瞳が不敵な笑みを浮かべた。
「イザーク…?」
互いの視線を絡めあい、見せつけるようにゆっくりと顔を近づけたイザークは、吐息が触れるその瞬間、そっと瞳を閉じて唇を重ねた。啄むようなくちづけの心地よさをしばらく楽しんだ後、更に深く味わうためにそっと舌を差し入れる。積極的な恋人に気を良くしたアスランも自ら舌を絡ませ、二人は何度も唇の角度を変えて深いくちづけを交わしあう。
そうして満足するまで互いを貪った後、名残惜しげに唇を離したイザークは嫣然と微笑んだ。
潤んだアイスブルーの瞳には隠しようもない艶が滲んでいて、その無言の誘いを正確に読み取ったアスランは、爽やかな朝には似つかわしくないセクシャルな笑みを浮かべる。
もとより彼に異論があろうはずもないのだ。
「…大丈夫なの?」
それでも一応恋人の身体を気遣ってみると、そんな彼を揶揄するかのようにイザークが軽く目を眇めてみせる。
「そんなにヤワじゃない。もっとも、貴様がダメなら話は別だが?」
「その言葉、後悔しない?」
「もちろん」
視線で挑発しあった二人は共犯者の笑みを浮かべ、これからまた濃密な時間を過ごすために、先触れのくちづけを交わしあうのだった。
END