――――――――――ティエリア………。
ふいに誰かに名を呼ばれたような気がしたティエリアは、はっとして視線を上げた。けれど目線で確認した通信回線は開いておらず、空耳かと小さく息を吐いた。
ロックオンのことを心配するあまり、神経が過敏になりすぎているのかもしれない。
だが、いくら大丈夫だと言い聞かせても嫌な胸騒ぎは消せなかった。
焦る心に追い立てられるようにプトレマイオスに連絡を入れると、応答したフェルト・グレイスからデュナメスの機体を確認したと告げられ、ティエリアは己が杞憂にすぎなかったことにほっと安堵の息を吐いた。
「………本当に、心配させて…っ」
帰ったら有無を言わさずベッドに括りつけてやる!
そんなことを思いながらプトレマイオスへの帰艦ルートにヴェーダを乗せた直後、通信回線からハロの声が流れてきた。
『―――ロックオン…ロックオン…ロックオン……』
機械音声のはずなのに、物悲しく寂しい声…。
何度も何度もロックオンの名を繰り返し呼ぶその声に、ティエリアは身を強ばらせた。
「―――――まさ、か……」
すうっと身体中の血が下がっていくような感覚に捕らわれ、ティエリアは茫然と目を瞠った。
まさか、そんなはずはない。必ず生きて還ると、ロックオンはそう約束してくれたのだから。
約束を違える人ではないから、これはきっと何かの間違いだ。
『―――ロックオン…ロックオン…ロックオン……』
ならば何故、ハロはこうも切なげにロックオンの名を呼び続けるのだ?
何故、肝心のロックオンの声が聞こえてこないのだ?
何故………っ!?
絶対に信じたくない認めたくない答えが、ティエリアの胸を残酷な刃となって突き刺す。
『そんな顔しなさんなって。大丈夫。一気に本丸を落としてくるさ』
自信たっぷりにそう言ったのに。
『心配すんな。生きて還るさ。だからティエリア、トレミーのみんなを守ってくれ。頼むぜ』
そう約束したのに。
「―――――ロ………ック、オン………」
掠れた声がティエリアの唇から零れ落ちる。ひくりと咽喉を震わせ喘ぐように息を吐いた胸の奥から、抑えきれない熱い塊が込み上げてきて咽喉を塞いだ。
「―――嘘、だ……」
どうしても認めたくなくて、足掻くようにゆるゆると首を振る。
「嘘だ……」
ワインレッドの瞳には涙が溢れ、身を切り裂かんばかりの絶望にティエリアは激しく慟哭した。
「嘘だーっ!!」
こんなところで死んでいい人じゃない。
戦争根絶のために、世界を変えるために、これからも戦い続けるべき人なのに。
新しい世界を、変革を見とどけることなく、志半ばで逝かなければならないなんて―――!
守ると誓ったのに……あなたを守れなかった………すまない、ロックオン………。