「―――――わかったわ。貴方の意向を汲んで、ミッションプランを変更します」
 ティエリアからのある意味無茶な提案を、戦術予報士スメラギ・李・ノリエガはしばらく思案した後、承諾の返事をした。
「でも、わかっていると思うけれど、かなりきついミッションになるわよ? エクシアの帰艦まで国連軍が待ってくれる保証はないから、最悪キュリオスとヴァーチェだけで戦うようになる」
「それは覚悟のうえです。それでも、足手まといの怪我人を戦場に出すよりはマシです」
 彼女の懸念をティエリアは一言で切り捨てた。冷静なワインレッドのまなざしは相変わらずだったが、その瞳の奥には確固たる意思の光があった。何かを決意した者の持つ強い輝き――。それは、今までのティエリアにはなかったものだ。
 静かに退室していくティエリアの背中を見送りながら、スメラギ・李・ノリエガは彼がこの短時間のうちに変わったことを悟っていた。
 ヴェーダに依存し、その意思にのみ従うと宣言していたティエリアが、ヴェーダのバックアップを失ってしまったからとはいえ自分の元にミッションプランの変更――それも負傷したロックオンを戦力から外すことを要望してくるなど、計画の完遂のみを念頭において行動していた以前の彼からはとても考えられない。
 今も辛辣な言葉を口にしていても、本音は負傷したロックオンのことが心配してのことだと彼女にはわかっていた。
 ティエリアを変えたのは恐らくロックオンだろう。それが彼にとって望ましい変化なのかどうかは正直彼女にはわからないが、それでも他人を拒絶してきたティエリアがこうして人を気遣うようになったことは好ましいことだと思う。それもロックオンの影響かと思えば、いつのまにか結びついた二人の絆の深さに苦笑を禁じ得ない。意外と言えば意外だが、今となっては必然のように思えるから不思議だ。
 けれど、不安がないわけではなかった。
 自分の足で立つことを覚えたティエリアは一見強くなったようにみえる。だが、その強さはどこか両刃の剣のように彼女には思えてならない。まるで庇護者を失った子供が、精一杯背伸びをして虚栄を張っている姿を想像させられるからだ。
『―――俺が寝てると気にする奴がいる。いくら強がっていても、あいつは脆いからな』
 ロックオンの言葉がスメラギ・李・ノリエガの脳裏に甦る。
 ティエリアの脆さを支えているのがロックオンならば、もし彼の存在がなくなってしまったら、ティエリアはどうなってしまうのだろう…?
 あらゆる可能性を考慮し最悪の情況までシミュレーションするのが戦術予報士の性質とはいえ、嫌な想像にスメラギ・李・ノリエガは眉を顰めた。それでも、それが彼女の仕事である以上、非情なシナリオも描かないわけにはいかなかった。すべては生き残る為に。
 戦場で絶対はないことは嫌というほど承知しているが、それでも彼女は願わずにはいられない。
 みんな、無事で帰艦して、と―――。