プトレマイオスに帰艦しコックピットから降りたティエリアは、コンテナ内の待機室で茫然と佇んでいた。
 メディカルルームへ運ばれていったロックオンの姿が頭から離れない。
『…そんな顔しなさんなって。このくらいの怪我、大したことはねえよ』
 ロックオンはそう言って苦笑を浮かべていた。傷付いた右目を手のひらで隠しながら。
 こんな時なのに自分を気遣ってくれるロックオンに胸が痛くなる。
 ―――右目。
 ティエリアは震える指先で目蓋越しに自身のそれに触れた。
 狙撃手である彼が、命とも言うべき大切な利き目を負傷してしまった。
 ほかのだれでもない自分のせいで。自分を庇って…っ!
 もしこのままロックオンの右目が永久に光を失うようなことになってしまったら…?
 考えるだけで恐ろしい想像にティエリアは身を震わせた。
 メディカルルームへ行くべきだと頭ではわかっている。けれど、自分のせいで傷付いたロックオンの姿を見るのが辛くて、ドクターの口から絶望的な言葉を聞くのが怖くて、足が動かない。
 どうしよう。どうしたらいいのだろう。
 激しく動揺していたティエリアは、突然背後からかけられた声にビクリと身体を揺らした。
「…ティエリア?」
 恐る恐る振り返った先にはアレルヤと刹那の姿があった。
 責められる、とティエリアは思った。
 ロックオンを負傷させる原因を作ったのは紛れもないティエリア自身で、何と糾弾されても仕方のない立場だし、甘んじて受ける覚悟もできている。
 ティエリアはそっと目蓋を伏せると、潔く二人からの叱責を待った。
 ところが、ティエリアの耳に届いた言葉は意外すぎるものだった。
「……顔色が悪いよ、ティエリア。早く着替えて休んだほうがいい」
 アレルヤの気遣うような言葉に、ティエリアは茫然と顔を上げた。
「………え?」
「ロックオンの様子は僕達が見てくるから。ね、刹那?」
「ああ」
 二人の様子にティエリアは茫然と目を瞠った。
 責められて当然なのに、逆に気遣われてしまうなんて……。
 そんな戸惑いが顔に出ていたのだろう。アレルヤが労るようなまなざしを向けてくる。
「……………」
 そんなふうに慰められると余計に苦しくなる。いっそお前のせいだと罵られた方がマシだった。
 何故責めないのだろう。何故なにも言わないのだろう。
 揺れ動くティエリアの脳裏にロックオンの言葉が甦った。
『誰だってミスはするさ。人間なんだから』
 ―――それでも、僕は……。
 迷うように瞳を伏せたティエリアに、刹那が口を開いた。
「ロックオンなら大丈夫だ。彼は、強い」
 視線を向けるとダークレッドのまなざしが静かにティエリアを見つめていた。
「―――刹那・F・セイエイ……」
 そのまま言葉を失ってしまったかのように黙り込んでしまったティエリアの肩をアレルヤが軽く叩いた。はっとして目線を上げたティエリアに微笑んだアレルヤは、宥めるように小さく頷くと出口に向かった。彼に倣うかのように踵を返した刹那もアレルヤの後を追う。
 一人残されたティエリアは、二人の背中が視界から消えた後も暫くその場を動けなかった。