ユニコーン

当時、私はコンサートスタッフアルバイトの取りまとめ役をしていた。

 

私は見掛けによらず(?)、

 

親しい友人であってもアルバイトに1度でも遅刻してきたら、

 

きっちりとみんなに謝るまでは絶対許さず、

 

謝罪しない限りは2度とアルバイトの仕事をまわさなかったり、

 

仕事中にふざけているヤツがいると、

 

「お前の分もみんなで働くから帰れ!」

 

とそのまま追い返すなどという、

 

学生のクセに仕事に関してはやたら厳しいということで知られていた。

 

 

 

 

私が紹介するアルバイトは

 

基本的に時間給が高く面白いものが多かったため、

 

友人や後輩は絶対に遅刻をしなかった。

 

ただし、コンサートスタッフのアルバイト代は安い。

 

 

 

 

 

 

当時人気急上昇中のユニコーンのコンサート当日。

 

 

 

夕方4時。

 

県民ホール楽屋口。

 

 

 

新入りのアルバイトが2名来る予定になっていたが、

 

予定の時間を5分過ぎてもまだ来ない。

 

 

 

「こいつら、来たら今日だけシコタマ働かしてクビじゃ!」

 

 

私は一緒に待っている友人のY井とともにイライラしていた。

 

 

 

 

 

 

待つこと10分。

 

 

 

向こうから男が2人、

 

オシャベリをしながらこっちに向かってくる。

 

 

 

あいつら〜、

 

初日から遅刻した上に、

 

ベラベラしゃべりながら来るとはたいした余裕じゃ。

 

 

 

許せん!

 

 

 

 

短気な私は思わず大声で怒鳴った。

 

 

 

「こらぁ!バイト!遅刻やぞ!走って来んか〜いっ!」

 

 

 

男2人はニヤニヤしながら走り始めた。

 

 

 

くっそー。

 

完全に舐めとる!

 

絶対に許さん!

 

 

 

 

 

 

私「遅いぞ!何しよったんや!」

 

 

男「ちょっとコンビニに買い物に…」

 

 

私「買い物くらい仕事が済んでから行ってくれ。

 

遅刻なんぞ以ての外じゃ。

 

アンタの名前は!」

 

 

男「奥田です」

 

 

 

私「奥田?」

 

 

 

え〜、奥田、奥田…と。

 

 

 

名簿にない名前だった。

 

 

 

 

 

奥田?

 

 

 

ちょっと待てよ。

 

何か聞いたことあるぞ。

 

 

 

隣にいたY井に目をやると顔が引きつっている。

 

 

 

 

 

私はコンサートスタッフのアルバイトを年間60本もやっているくクセに

 

芸能人の顔をほとんど知らない。

 

 

 

 

さっきユニコーンのメンバーを空港にワゴン車で迎えに行った時、

 

飛行機から降りて来た人が、

 

今、目の前に立っていた。

 

 

 

てっきりスタッフやと思とったのに…。

 

 

 

 

ニヤニヤする奥田さんに私は慌てて土下座をした。

 

 

 

私「すんません!バイトと間違えました!」

 

奥田「いいよいいよ(苦笑)」

 

 

 

 

 

その直後、楽屋から爆笑が聞こえてきた。

 

 

 

「今、そこの楽屋口で

 

バイト君にバイトと間違えられて叱られちゃったよ。

 

 

オレもまだまだだよなぁ」