緊張の剃毛プレイ
入院2日目の朝食後、その看護婦さんはやって来た。
名前をK西さんという。
目元がキレイな美人である。
なかなかいいぞ。
それでこそ、大学病院。
メガネを外して見ると、小太りの工藤静香みたいだ。
ちなみに私の視力は、
右0.03、左0.04。
「見えとらんがな」
しかし、決してK西さんが太っているのではない。
どちらかと言えば細くてスタイルが良い。
K西さんは一見冷たそうに見えるが、実は非常に優しく、
しかも、予想に反して真面目である。
K西さんを看護婦さん以外の職業に例えて言うなら
バスガイドさん。
しかも中学生の九州の修学旅行とかで人気者になりそうなタイプである。
いかにもモテそうな美人なので、男子生徒はもちろんのこと、
「アタシ、昔はブイブイいわしてたのよ」みたいな、
憧れのお姉さんとして女子生徒にも人気が出そうだ。
バスガイドは九州から四国に渡るフェリー乗り場での別れの時に
必ず泣く。
生徒も先生もつられて
みんな泣く。
紙テープなんかをヒラヒラさせながら、バスガイドは岸壁から
「さよぉーならぁー!
みんなのことは一生忘れないわよぉー」などと、
ウソ丸わかりで歯の浮くようなセリフを放ちつつ、
どんどん離れて行くフェリーを
ちょっとだけ小走り
に追っかけてみたりするのである。
中学生の心に残るよう感動的なシーンにするためには、
それぐらいの臭い演出も必要なのだ。
しかし、それでも歳を取ると
その時のことは誰も覚えていない。
演出が足りんのである。
どうせやるのなら、
小走りしながら
そのまま岸壁から足を踏み外して
頭から海に落ちて溺れてくれれば、
爆笑のうちに幕が閉じて、
一生みんなの心に残るのに…。
もとい。
放っておいたら、どこまでも話が逸れる。
初対面のK西さんは、なぜかやたらニコニコしている。
目が非常に印象的でかわいい。
実に感じの良い看護婦さんだ。
気に入ったぞ。
ところが、そのかわいいハズのK西さんの口から
とんでもない言葉が飛び出した。
K西「あげはらさぁ〜ん、
今日、毛剃りやりますから。
私が担当しますんでよろしくぅ!」
初対面で「よろしくぅ!」である。
つい横浜銀蝿を思い出してしまった。
私「え?今日ですか?明日の朝でないんですか?」
小「また後で呼びに来ますから
楽しみにしといてくださいね」
私「は、はぁ…」
私が恐れていた瞬間が訪れようとしている。
楽しみになんかできようはずもない。
今までK西さんを褒めて損をした。
アイツは悪魔だ。
それにしても、まさか初対面の
20歳過ぎの看護婦さんに剃られることになるとは
夢にも思わなかった。
もちろん男性の先生に剃られることを考えれば
看護婦さんの方がウレシイに決まっているが、
恥ずかしいもんは
恥ずかしい。
看護婦さんが若くて美人なだけに、
剃毛中に男の本能が目覚めてしまったら
えらいことだ。
ま、目覚めたとしてもたいしたことないんですが…。
あっという間に処置室に呼び出された。
K西「ハイ、じゃぁ、
ズボンとパンツを一緒にさげてくださ〜い」
随分と簡単そうに言ってくれるじゃねぇかよぉ、
オネエチャン。
私「あの…、何かで隠したりとか、
そういうのは何もないんですか?」
小「ないですよ〜」
私「みんな恥ずかしがったりとか、そういうことは…」
小「ないです(キッパリ!)」
あんまりにも私が恥ずかしがるので
K西さんもつられて恥ずかしくなってしまったらしく、
顔を赤くしている。
ういヤツじゃ。
私「こんなこと初体験なんで、せめて何かで隠させてもらえません?」
小「じゃぁ、このガーゼでいいですか?」
私「あ、そんなに大きくなくていいです」
小「こんぐらい?(半分に折る)」
私「いえ、そんなにも」
小「じゃ、こんぐらい?(さらに半分)」
私「…」
小「こんぐらいでは?(折り過ぎてガーゼは団子状態)」
ちっちゃ過ぎるわい!
ところが
不覚にもそのガーゼでこと足りてしまった。
・・・。
小「じゃ、剃りますよぉ」
もうこうなったらヤケクソじゃい!
どーせ小さいのはすぐバレる。
ジョリジョリ。
お?
意外と気持ちええやんか。
カミソリが見事なまでに良く剃れる。
小さく折りたたまれたガーゼが
申し訳なさそ〜に身体の中心部に乗っかっている。
明日は太モモの付け根の動脈から管を入れる検査だけということもあり、
今回のところは全部剃るのではなく、
とりあえず両サイドを剃り落とすだけで良いらしい。
K西「あげはらさんの
お好みどおりにしますよぉ。
何でも言ってくださいねぇ〜」
アンタは散髪屋かい。
僅か数分後、両サイドをビシッ!と剃り上げた
モヒカン刈り(アフロ風)の不良少年が出来上がった。
いや、
キャイ〜ンのウド鈴木の方が適当かもしれない。
これで剃り跡に霧吹きすれば
昔懐かしい安物のエロ本一丁上がり。
わかるやろか?この表現…。
ちなみに、
剃毛中は男の本能が目覚めるどころか、
初体験の恐怖に
縮み上がっていた。