ドリカム
その日は私の誕生日だった。
偶然にもドリカムのコンサートのバイトがあったので、
その仕事が終了次第、居酒屋の吾割安で、
急遽アルバイトのみんなが私の誕生会をやってくれることになったのである。
と言っても、バイトが終了するのは夜の10時。
いつも仕事が終わったら吾割安あたりで、
その日のバイト代を使って午前1時頃まで騒ぐのが恒例になっていた。
早い話が、その晩飯の会に、
あげはらのお誕生会というお冠が付いただけである。
お誕生会の会場は私達アルバイトのお客さんで賑わっていた。
客席の4分の3は私達アルバイトで埋まっている。
他の客はいない。
しばらくしたら残り4分の1で
ドリカムのメンバーとスタッフが食事をするために現れた。
が、アルバイト連中は、コンサート終了後の歌手やスタッフが
一緒の店で食事をすることには慣れていたので
誰も気に留めなかった。
それよりも、私はバイト仲間が30人も集まってくれ、
しかも知らないうちにケーキまで用意してくれるなど、
生まれて初めてのことに感激していた。
ゴージャスな花束までもらった。
が、これは夕方、
ドリカムの楽屋にメンバー宛に届けられた物であることはわかっていた。
楽屋に届く花は、
ライブが終わったら歌手本人が持って帰ることは殆どなく、
大体はマネージャーさんが
楽屋のアルバイトの女の子に家に持って帰るよう指示していた。
宴もタケナワ―――――。
後輩達が、
「あげはらさん、ケツ出せぇ〜!」と騒ぎ始めた。
さんを付けてもらいながらも、
「ケツ出せ」と命令形で後輩に言われてしまうあたりが、
私のキャラクターをよく表現していると、いつも思う。
しかも尻を人前で出せだなんて…そんな恥知らずなこと、
俺にできるか!
私はテーブルの上に上がって拍手を要求していた。
いつものことであった。
まったくの下戸の私ではあるが、酒を断るのが苦手なため、
誰からも酒を勧められないよう、
わざと酔っ払ったフリをして
飲むヤツ以上にハイテンションになり、
なおかつシラフで女の子達の前でも尻を出すことが平気だった。
ただし、社会人になってからはやっていない。
あ、1回だけやりました。
出した私の尻のほっぺたを
バイト仲間の女の子達が大笑いしながらペチペチ叩いている。
「よし。ウケた」
私は大いに満足した。
ちなみに飲み会の席で尻を出す時は、
必ず肛門を食い縛って誰にも見えないように配慮してある。
食事時に肛門を見せるのは、マナーにうるさい私のポリシーに反するからだ。
「どんなんや!」
だから、入院するまで他人に肛門を見せたことはなかった。
十分に満足した私はそろそろテーブルから降りようと思い、
満面の笑みをたたえて後ろを振り返った。
ちょうど肛門の先では、
ドリカムのメンバーとスタッフが静かに食事をしていた。
多分、私達の馬鹿騒ぎはかなりうるさかったに違いない。
振り返った私は、
吉田さん(歌がうまい女の人)と目が合った。
ヒジョーに気まずい空気が流れた。
黙って箸を置いた吉田さんは
マネージャーにタクシーを手配するように言ったかと思うと、
怒ってそのまま店を出て行ってしまったのである。
ちょっとだけ後悔しながらも、
後輩達にヤンヤヤンヤの喝采を浴びつつテーブルを降りた。
ごめんなさい、吉田さん。
今度は反対側向いて出しますから…。