――――― 着替えを買おう、と言う話からどうしてこうなったのかは覚えていない。 「へへ〜、どーお? 可愛いけどちょぉーっと裾が短かったかな」 ふわりと広がったスカートの裾を摘んでくるりと回ったレイアが身につけていたのは、黒い短いエプロンドレス。 いわゆるメイド服、と言う奴だった。 彼女だけではない。 エリーゼもデザインこそ違うものの同様に黒と白を基調にした衣装で、いつもと違う服が嬉しいのか頬を上気させて駆け寄ってくる。 「……似合う、ですか?」 「あ、うん。すごく似合ってるよ」 見下ろしたエリーゼに微笑みかけて頭を撫でてやると嬉しそうにその頬が綻ぶ。 初めの頃はぎこちなかった笑みが、今ではこんな風に柔らかく、自然に出てくるようになった。 それはジュードにとっても嬉しいことで、彼女がもっと笑えるようになるといいと思う。 「ちょっとジュード! エリーゼばっかりなんだからー」 「え? あ、うん、レイアも……似合ってるよ」 一瞬間が空いてしまったのは、近くで見ると広がったスカートが思いの外短かったからだった。 ほっそりとした太股が半ばほどまで露わになっている。 「……なによ、今の間」 「あ、いや、その……」 ぐぐっと詰め寄られ、仰け反って距離を取ろうとするも更に足を踏み出したレイアに壁際まで追いつめられる。 「……どうした?」 と、女性陣が試着をしていた個室の方から凛として涼やかな声が聞こえてきて、ジュードはそちらに視線を向けた。 重た気なドレープを描くエンジ色のカーテンを掻き上げて姿を現したミラは、レイアとはまた違う、タイトなラインのメイド服を身につけていた。 お願いして入れて貰ったのか、それともたまたまそういったデザインのものがあったのか、いつも着ている服と同様に左の太股に深いスリットが入っている。 髪はくるくると巻いて結い上げられていて、おそらくはそれに時間がかかったのだろう。 「っ……」 まるで人形か何かのような完成された美しさではあったが ――――― 彼女が近付いてくると、そのたびに深いスリットが更に大きく開いて、そこから眩しいほどに白い太股が零れて、なんだかとてもじゃないが直視できそうになくて慌てて妙な声の漏れかけた口元を押さえる。 スカートの長さはいつもと変わらない、なのになんだか妙に色っぽい。 「……ほぉ、いいじゃないか。相変わらず素晴らしいラインだな」 「そうか? ありがとう」 「レイアもだけど、特にこの短さがいいね。フレアもいいがタイトも悪くない」 悪びれるでもなく揶揄めいた台詞を口にするアルヴィンを睨みつける。 「うぅ、やっぱり短すぎるかなあぁ……」 「そうか? 動きやすくていいじゃないか」 レイアは短さを気にしている様子だが、ミラはまるっきり気にした様子がない。 「ふっ……アルヴィンさんはまだまだ青いですな……」 と、それまで黙っていたローエンが小さく笑って、ジュードは驚いてそちらを見た。 「……んだと?」 予想外の台詞に、アルヴィンも目を見張ってそちらを見やる。 睨みつけるような視線をものともせず、ローエンは老紳士そのものの穏やかな笑みを浮かべて ――――― けれどどこか芝居がかった仕草で肩を竦めて見せた。 ― END ―
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C82無料配布より。 再掲し損ねていたので……何気にジジイ大好きです。 |