精霊達の長であるマクスウェルの化身であるミラの衣装は、ジュードが長くを過ごしたイル・ファンや故郷のル・ロンドでは目にしたことのない独特の様式ものだ。 (……結構目に毒……だよね) ちらりと、すぐ傍らの倒木に腰を下ろして休んでいる彼女の方を伺う。 セパレートタイプの水着を思わせる胸下から腹部までが露わなその衣装は体幹の見事な細さも相俟ってふくよかな胸元を強調しているようにさえ見える。 これまでの言動から考えて、彼女が自分が着る衣服のデザインに拘る方だとはとても思えない。 拘るとすればせいぜい動きやすいか、着心地がいいか、寒くないか、暑くないか。 要するに合理的且つ実用的な面だけだろうと思う。 あの極端に短いスカートも動きやすさの面からすれば何ら問題はないらしいのだが、傍から見ていると戦闘の際や岩場の上り下りの際にちらちらと見てはいけないものが見えてしまいそうになるのがどうにも困る。 あの短さではただ座っているだけの今でさえ角度によっては相当問題があるはずで、短いからこそいいのだと言うアルヴィンの発言を思い出して赤面してしまいそうになる。 長さが短くともせめてレイアのように中に何か見られても構わないものを着ていてくれればいいのが、彼女にそんな発想があるとも思えない。 ――――― 大精霊様はどうにも、羞恥心と言うものが薄いらしい。 (………と、言うよりそんな概念がない?) とは言えジュードの方も伊達に医学生をやっていたわけではない。 その程度のことで赤面していては女性患者を相手にすることなど到底不可能だ。 第一今、見てはいけないものが見えてしまっているというわけですらない。 思い出すだけで赤面するなんてどうにかしている。 (……大丈夫、大丈……っ!?) 心を落ち着けようと胸の中だけで何度か呟いて目を開けた瞬間、ジュードは息を飲んだ。 「どうした? 眠いのか? それとも具合でも?」 予想外に近い場所に彼女の顔があって、そればかりかぐっと身を乗り出してきた彼女の身体が腕に触れたからだ。 (っ……) その上、額に額が擦り寄せられる。 「……ふむ。熱はないようだな」 「なっ……」 その段になって初めて口を開きかけたが、思考が付いてこない。 何せ腕に当たっている柔らかなものは、間違いなく白い薄布の服に覆われただけの彼女の豊かな胸の膨らみだったからだ。 「ん? どうした?」 猫を思わせる鴇色の、きらきらとした瞳がのぞき込んでくる。 体勢は変わっていないので至極近い ――――― ほんの少し、例えば後ろから軽く背中を叩かれただけで顔と顔がぶつかってしまいそうな距離だ。 猫っ毛と言うのだろうか、柔らかそうな髪や白い肌から仄かに甘い香りがする。 「……………」 「…………?」 顔の前で手が振られた。 それでも動けずにいると幾重にも重なる装飾に覆われたグローブに包まれた手が伸びてきて、きゅっと鼻を摘まれた。 10秒、20秒、30秒 ――――― 1分。 「……ぷはぁっ!!」 危うく意識が遠のきかけて ――――― 口で息をすることさえ思いつかなかった ――――― 彼女の肩を押し退けて思い切り空気を吸い込む。 しばらくの間、無言でゼイゼイと肩で息をするジュードを見ていた彼女だったが、次の瞬間にっこりと。 それはそれは満足そうに笑った。 「目を開けたまま眠るとは器用だな! しかし、話の途中で寝入るのは感心しないぞ?」 「………あ、いや…」 寝てたわけじゃ、と言おうと思って、やめた。 だったら何だったのかと問われたら、それに答える自信がなかったからだ。 「どうした? 何か言いたいことがあるならはっきり言うといい」 「……うぅん、なんでもないよ、大丈夫。少しぼうっとしちゃってたみたいだ」 首を捻る彼女に、なんでもないと笑ってみせる。 彼女は不思議そうにしながらも、大人し元の位置へと戻ってくれた。 安堵が半分、残念なのが半分で彼女に気付かれないよう、密やかに苦笑する。 ――――― 君に恋した時から、この苦難は初まった。 ― END ―
|
まだ序盤だったのですがやってしまいました〜。 我が家のジュード君は生殺しの刑がデフォルトです……(笑)。 |