「何で俺には仕事くれねぇんだよ!! たまには俺だってギルドの役に立ちたいんだって!」 最近ゲストルームに引き篭りで、親善大使としての事務仕事に勤しんでいたルークが鬱憤をぶつけた相手は、当然のごとく自身を護衛する軍人達の筆頭であり、ギルド・アドリビトムを裏から仕切っているともっぱらの噂の性悪軍人、ジェイド・カーティス大佐だった。 子供のようにだだをこねる様子をジェイドは相変わらずの笑顔仮面で、ガイは少し心配そうに、アニスはどこかおもしろそうに見つめている。 「………………」 何だかよくないことになりそうな予感を覚えて、ティアは密かに溜息を吐いた。 「貴方は自分がグランマニエ皇国の要人であると言うことを忘れてませんかねぇ……」 グローブに包まれた指先で眼鏡の弦を指先で押し上げて、ジェイドは困ったものだと言うようにどこか芝居がかった仕草で肩を竦めた。 「そりゃ、そうかも知んねーけど、でも今はこのギルドの一員だろ? ちょっとぐらい仕事回してくれたっていーじゃんか!」 けれどルークは引き下がらない。 ギルドのメンバーは大きなものから小さなものまで、様々な依頼を受けては船を下りて仕事をこなしている。 ルークも何度か連れ出してもらったことがあるのだが……最近はアニスの手によって山の様な書類が持ち込まれた所為でとんとご無沙汰だった。 もともとルークは身体を動かすことが好きで、机に向かうことは得意ではない……その上あそこに行った、ここに行ったとあちこちで仕事の話を聞いてしまえば、羨ましくならないワケがなかった。 (ある意味、前より辛いよなぁ……) 屋敷で暮らしていた頃は何も知らなかった。 だから羨ましがりようもなかったのだけれど、今は興味を引く出来事が幾つも眼の前にぶら下がっている。 ぼんやりと考えたガイの耳に、上司の深く重い……どこかわざとらしい溜息が入ってきた。 「仕方ありませんねぇ……」 (お………?) 「! 仕事、回してくれんのか!?」 ルークが大きな翡翠色の瞳を輝かせる。 本当に嬉しそうな子供の様な笑顔で、見ているこっちまで嬉しくなって思わずガイの口元が綻ぶ。 「よかったなぁ、ルーク!」 「おぅ!」 嬉々として跳ね上がりそうな勢いのルークを尻目に。 (……そう、上手くいくかしらね……) ティアは一人冷静に……どこか楽しそうな、つまりは腹黒い笑みを浮かべる上司を見つめていた。 「……ッんで、こうなるんだよっ!!」 後日、ルークはホールの片隅で書類の山に囲まれていた。 場所が変わっただけで、書類の内容が変わっただけでやっていることはあまり変わっていない。 「何が不満なんです? ちゃぁんとギルドの仕事を回してあげているじゃないですか」 ニコニコニコと非常に嬉しそうに、楽しそうに死霊使いが笑っている。 「いやー、ギルドが大きくなって細々した書類仕事が増えましてねぇ。ここには書類仕事が得意な人間が少ないもので色々と溜まってたんですよ。ルーク様が手伝ってくれたら随分と楽になります」 「俺より向いてるヤツなんて幾らでもいるだろっ!!」 アドリビトムには魔術師系、頭脳系のメンバーもたくさん居る。 当然机に向かうことを得意とする面子もいるはずなのに、何で自分が。 ―――――― そう思ったのだが。 「やー、科学者と言うものはワガママなもので。自分の研究以外には興味を持たない人間が多いんですよねぇ……それに、ギルドの役に立つ仕事をしたいと言ったのは貴方ですよ?」 非常に楽しそうに正論を告げられてルークはぐっと押し黙った。 「………………」 「あの、私達も手伝いますからっ」 慌てて帳簿を抱えたカノンノがフォローに入る。 「みんなでやればきっと、早く終わる……と、思うんだ?」 お人よしで頼まれると中々嫌とは言えないルカはいつも、事務に掃除にと仕事に追われている。 それにパニールと、ジェイド……この4人が何時ものメンバーらしい。 「……大佐に頼んだのが、間違いの元ね」 「…………ティア」 聞きな慣れた声に顔を上げると、トレイを両手にティアがホールに入ってくるところだった。 トレイの上にはシンプルな白いカップが幾つか乗せられている。 そのうちの一つがコトリと眼前に置かれて、ふわりと白い湯気が上がった。 辺りに仄かに甘い紅茶の香りが漂って、女性陣の歓声が上がる。 「わぁ、いい匂い!」 「あらあら、いい香りですねえ。……あぁ、そうだ、おやつのパウンドケーキが残ってたんだわ。折角だからちょっと取ってきますね」 ぱたぱたと小さな羽音を立ててパニールがホールを出てゆくのを見送って。 「………だって、他にいえるヤツなんかいねーじゃん」 ぶちぶちと小さく文句を言いながら、ルークはそれに手を伸ばした。 ティーソーサー置かれた小さなスプーンには角砂糖が二つ、乗っていて。 けれど隣に座っているカノンノの前に置かれたそれには一つで、ちょっと嬉しくなる。 (…………我ながら単純だよな) 茶葉本来の自然な甘さ、と言うのもいいのだけれど、どちらかと言うと甘党のルークは紅茶に角砂糖を入れることが多い ―――――― それも、二つ。 だから二つ、なのだ。 「……私も手伝うから、さっさと片付けましょう」 紅茶を配り終えたティアはそういってルークの隣に……カノンノの反対側に腰を下ろした。 「身体動かせると思ってたのにさー」 「……ルーク」 まだぶつぶつと文句を言っているルークに、嗜める様な低い声が飛ぶ。 ルークはうぅと小さく唸って、がしがしと乱暴に頭を掻いていたが……やがて何かいいことを思いついたとでもいいた気な表情になると、ティアの肩口に顔を寄せた。 「………、………」 ボソボソと、極小さな声で何か言ったようだったが、内容までは聞き取れずカノンノは小さく首を捻った。 (……ティアさんって、確かルークさんの護衛なんだよね……) その割にはなんだか随分と親密な様子に見える……もともとルークは明るく、あまり身分を感じさせない気さくな青年だが……それにしても。 「…………調子に乗らないで」 かと思えば次の瞬間、ティアの唇から零れたのはそんなどこか冷ややかな言葉で。 カノンノは目を瞬いて、ただただ二人を見比べるしかない。 やがてルークは諦めたのか、ちぇっと小さく舌打ちをすると机に詰まれていた書類の束に手を伸ばした。 どうやら大人しく書類に向き合うことにしたらしい。 「では皆さん、お願いしますよー?」 にっこり腹黒大佐の声が辺りに響いた。 『……ティアがキスしてくれたら、やる気出ると思うんだけど?』 ― END ―
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自爆したので何かネタはないかと友人に振ったところ、「マイソロのルークとジェイドで、黒幕ジェイドと巻き込まれルークが読みたい」と言う意見をいただいたのでこんな感じに。 黒さが足りないと思いつつも、実際にマイソロをプレイすると本物の王族(笑)だからかそれなりに大事にされていて苛めにくくなってしまいました……(笑) |