「船がギルドってのもいいな。オレ、ここ気に入ったぜ」 「うええ? そお〜ぉ? あたし、もうウンザリなんだけど……」 ディセンダーが新しく仲間になったルカやイリアの友人に挨拶に行くと言うので何気なくそれに同行したルークは鮮やかな緑の髪の青年が相変わらず機嫌の悪そうなイリアと楽し気に話しているのを目にして僅かに眉を動かした 「相変わらず船が苦手みてェだな」 「もう、船キライ! 全部沈んじゃえばいいのにぃぃっ!」 イリアも口が悪い方だが友人とやらも何とも口が悪い ――――― というか何となく覚えがある。 荒っぽいというか、柄の悪さがいい勝負と言うか。ルーク自身のそれとなんとなく似通っているような気がしたからだ。 ――――― 貴族の家柄だと言うが、そういうヤツに限って何故こうなのか。 (ゼロスも喋る時はちゃんと喋るけど基本的にぽくねえしなぁ……) ひょっとしたらフツーと言うヤツに、或いは下町であったり荒事であったりに憧れめいたものがあるのかもしれない。 「……仲が良さそうね。知り合い?」 他人事のように考えていたら同じく同行していたティアが口を開いた。 「あ、ティア。コイツはルカの村で知り合ったヤツでさあ……」 「っと、紹介ぐらいオレにさせろよな!」 イリアがそいつを紹介しようとしたのだが、彼はイリアを押し退けてぐっと身体を乗り出してきた。 「デヘヘ……。オレはスパーダ・ベルフォルマ。地元じゃオレの名前を知らねェやつはモグリだぜ」 視線がティアの豊満な胸元から顔の方へと動いて、鼻の下の伸びたような笑いが漏れてムッとする。 そんなルークに気付く様子もなく、スパーダは立てた親指で胸元を指してにやりと笑って見せた。 「……有名人だったの?」 ティアの声はお世辞にも興味津々、と言う風ではなくて。 それにほっとするのと同時になんとなく嫌な予感を覚える。 「ああ、そりゃもう。オレの名を聞くだけで泣く子も黙る、超不良さ」 「はぁ? ただ実家に寄り付かないいいトコのボンって事で有名だっただけじゃん」 「ああ? そんなワケねーだろ! おまえ、オレの悪行の数々、知らねェだけだって」 「ま、ケンカじゃ有名だったみたいね」 「だろ♪」 「他には?」 暫く和気藹々とイリアとやり合っていたスパーダだったが、答えが見つからなかったのか彼女の追撃を咳払いで制して、再度ティアへと視線を向けてきた。 「……まァ、とにかく、だ。オレは不良なのさ。わかってくれたか、お嬢さん?」 「………格好をつけてるつもりなら、もう少し別路線を考えた方がいいわ」 バッチリ決めたつもりだっただろうその台詞に、けれど返されたのは恐ろしく静かな声だった。 「う……い、いや、カッコつけとかそんなんじゃなくってさ! オレって、本当に悪くて悪くて、もうっ」 「一度、私達のところに入隊してみたらどうかしら。鍛えなおされると思うわ。もうこれ以上、そう言う人間の面倒見られないものね」 予想外の反応に慌てるスパーダに畳み掛けるように ――――― 本人にそんなつもりはないのだろうが ――――― 冷ややかな声が重ねられて、ルークは頭を抱えたくなった。 それが誰を指しているかなんてあまりにも明白だったからだ。 「……ティア、行くぞ!」 「………ぇ?」 居た堪れなくなったルークは、ぐいと強引に彼女の腕を掴んで踵を返した。 驚いたような声が上がるのも構わず半ば引き摺るようにして廊下へと飛び出る。 ディセンダーはちらりとこちらを見ただけで追いかけてこようとはしなかった。 「ちょっと、ルーク! 一体何の……」 後は彼女がフォローしてくれるだろうと勝手に決め付けてどすどすと足音も荒く、抗議の声を無視してすぐ先の、自分達に宛がわれている個室へと向かう。 廊下に突っ立っていたゼロスがニヤニヤと意味ありげな視線を送って来ていたが知るものか。 ――――― と言うかむしろゼロスより無表情に個室のすぐ前に突っ立っているクラトスをどうにかして欲しい。 ゼロスはからかう気満々なのが見て取れるのでわかりやすく相手をしたら負けだ、と思えるのだが。 彼の場合、何を考えているのかわからないのでどんな反応をすればいいのかわからなくて困る。 何の感情も伺えない透明な視線を振り払うようにして、ルークはそのまま個室に滑り込んだ。 幸いアニスやガイは出払っていて、室内は無人だった。 「ちょっと、ルーク! 一体なんなの!? あれじゃ失礼……ッ!!」 それ幸いと無言のまま彼女を壁際へと押し付けて、両方の腕で囲い込むようにして口付ける。 なんだか色々と、頭の中がぐちゃぐちゃでそうしないでは居られなかった。 言葉を奪われた彼女は驚きながらも半ば反射的に目を閉じて押し付けられたそれを受け入れていたが、唇を割ろうと舌で表面を撫でたところで我に返ったらしく唇をぎゅっと引き結んでルークの胸を押しやってきた。 「ん、もっ……」 離せと言いたいのだということはわかっていたが解放してやるつもりはなく、彼女が息苦しさに根を上げて口を開けるのを待って口内に舌を滑り込ませる。 「っ!……ぅ……」 びくっと震えたティアは、けれどその仕草とは裏腹の弱々しさの欠片もない苛烈な瞳を向けてきて、その強さに引き込まれそうになる。 静かで、強い。この射抜くような瞳が好きだ。 そんなことを思いながら追い詰めた肢体に触れようと手を伸ばした瞬間、舌先に鋭い痛みが走ってルークは小さく呻き声を上げた。 「………っ、にすんだよ!」 口の中に鉄臭いような血の味が広がって、舌先に噛み付かれたことを知る。 思わず悪態を吐くと冷ややかな視線に問い返された。 「……それは私の台詞よ。一体何のつもり?」 「な、何って、キス……」 「その前よ! いきなり人のことを引っ張り出して、その上こんな真似……幾ら貴方でも事と次第によっては容赦しないわよ?」 流れるような言葉と共に鼻先に指を突きつけられて、ルークはぐぅっと低い呻き声を上げた。 ティアの言うことには一理ある。一理あるのだが、譲れない。 ルークはキッと相手を睨み返すともう一度その腕を掴んで細い身体を壁に押し付けた。 「……ルーク、いい加減にっ……」 「お前は!」 いい加減にしなさい、と叱りつけようとしたティアだったが、予想外の大きな声に呑まれて反射的に言葉を切ってしまっていた。 「………お前は、俺んだろ」 先程までの強引さが嘘のように眉を八の字に下げたルークの、絞り出すような声にはぁと溜息を吐く。 「……私はものではないわ」 「……いやだ。ティアは俺んだから、あんな風に見られんの、我慢ならねぇ」 いつもならしゅんとするはずのルークは、けれど強硬な姿勢を崩さなかった。 「………あんな風?」 ティアがその腕を振りほどこうとしなかったのは、『俺のもの』と言う言葉を受け入れたからではない。 ルークが何を言っているのかよくわからなくて反射的に問い返してしまっていた所為だ。 「あのスパーダってヤツ! 明らかにお前に気があったろ! それに……っ……」 怒鳴るように言われてティアは珍しくきょとんとした表情を浮かべた。 「……なんのこと? それに?」 その細い面に困惑の表情が広がるのを見て取って、ルークはようやく思いだした。 彼女が色恋沙汰にはとこっとん鈍かったということを。 「……ぁ、いや……その……つーかお前、気付いてなかったのかよ……」 「だからなんのことよ!」 「………はぁ」 「きゃっ!?」 何となくアホらしくなって痺れを切らして怒鳴り返してきた彼女の肩に頭を乗せて脱力すると、突然体重をかけられてバランスを崩しかけた彼女が悲鳴を上げたがルークは顔を上げようとはしなかった。 「……………」 ルークの変化を感じ取ったのか、ティアはそれ以上何も聞かずに肩に顔を伏せた大きな子供の背中をぽんぽんと叩いた。 ――――― ちゃんと言ってご覧なさい。聞いてあげるから。 そんな風に言われている気がして、でも気不味くて、ルークはしばらく何も言えなかった。 「…………ルーク」 「ぁ……えっと……その……」 先ほど違う柔らかな口調で促されて、言葉を捜して口をもごつかせる。 けれど黙っていても彼女が逃がしてくれるはずはなくて、それで気不味くなるのも嫌で、ルークは観念してゆっくりを口を開いた。 「……アイツ、お前のこと見て鼻の下伸ばしてた。絶対お前に気ぃあったろ」 「………そう?」 「そうなの! お前、美人なんだから自覚しろよな!」 不思議そうな声に咄嗟に頭を跳ね上げて至近距離から彼女の顔を覗き込むと、ティアの目元が始めて動揺に僅かに赤く染まった。 「わ、私はそんな……」 「そんなことあるっつーの! お前、自覚ないし鈍いから俺は気が気じゃねえんだぞ」 慌てて否定しようとする言葉を強引に切って、黙らせる。 「…………」 美人かそうでないか、は主観にもよると思うのだが、少なくともルークが気にしているということは間違いないのでティアはそれ以上の反論はせずに彼の言葉の続きを待った。 「それに……さ」 口の中だけで小さく呟いて、項に鼻先を摺り寄せる。 ティアは黙ってそれを許容してくれた。 「……アイツ、なんか俺に似て見えたから」 悪ぶっていた頃の自分に少しだけ重なって、だからどうしようもなく居た堪れなくなった。 スパーダが自分のように、自分の愚行を諌めて導いてくれた彼女に惹かれたら嫌だ。 彼女が、それに絆されてしまったら嫌だ。 そんな風に思ったら彼女をあの場に置いておきたくなくて、気が付いたら身体が動いていた。 訥々と話すと彼女は静かに、少しだけ呆れたように息を吐いた。 「……バカね、もう」 声が、柔らかい。睦言のようだと思う。 「そんなわけないでしょう」 細い指先がくしゃりと髪を撫でる。 「………ィア……」 許されたような気がして、それが心地良くてルークはゆっくりを瞼を伏せた。 ――――― しばらく経って失礼を謝って来ましょうとティアに促されて廊下に出た二人が。 ちょこんとドアの横に座って彼らを待っていたらしいディセンダーに、やっぱり何を考えているのかよくわからない透明な表情で無言のまま「終わった?」と言うように首を傾げられて何とも居心地の悪い思いをしたのはまた別の、話。 ― END ―
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マイソロ強気ルーク(裏もいけたら)とのことだったのですが、強気と言うか……ちょっと強引なルークなだけの気も……。 裏との両立は難しかったです、すみません>< ちなみに冒頭のイリア、スパーダ、ティアの会話は実際にマイソロ内のスキットで存在するものです。 いつかネタに使おうと思ってメモってありました……ちなみにティアが退場した後はこんな感じに……。 スパーダ「あああ……、行っちまった……。クソ……、いい女だったってのによォ〜〜〜」 イリア「もう、不良卒業すればぁ〜?」 イノセンスからはルカ、イリア、スパーダのみの参戦なのでこういう立ち位置らしいです。 ちなみに私は結構好きです……w。 少しでも楽しんでいただければ幸いです。 |