「わっ、とと……」 世界最大の流通都市、ケセドニアの混雑は凄まじいものだ。 ティアと二人で買出し当番に当たったルークは、前を見て居るのか居ないのか偉い勢いで突っ込んできた男にぶつかりかけてたたらを踏んだ。 抱えた荷物を取り落とさないよう引き寄せて、小さく息を吐く。 旅を始めた当初より幾らか慣れたとは言ってもルークもティアも人混みを歩くことに慣れて居ない。 だからいちいち人並みに流されたり、ひっかかったりしてしまうのも仕方のないことで。 こんな場所で買出し当番に当たってしまったのは不運以外の何者でもなかった。 (………ティアと一緒ってのはラッキーなんだけど……) ルークとナタリアが組まされることはまずないので……アニス曰く金銭感覚に不安がある為、とのことである……確立は1/4。 実際にはガイがさり気なく援護してくれたりするのでもう少し高いのだが……全員が当番に当たるわけでもないので、二人きりと言うのはやっぱりなかなかに貴重なのだ。 (っても何か出来るわけでもないんだけどさ………) コクったり、手を繋いだり、あまつさえキスしたりだなんて、夢のまた夢。 現実にはただただその背中を見つめるのが精一杯だ。 (いや、どっちかっつーと見られてると言うか見てくれてると言うか………) 時折感じる視線が、いつも純粋に自分に向けられているかと言えば微妙なところだ。 ―――――― 勿論肝心な時にはちゃんと見てくれていると思うのだけれど。 普段は上着の背中に描かれたマークだとか、時折肩にしがみついているミュウのオムツでも着けているかのような白いお尻の方がよっぽど彼女の視線を引き付けている気がする。 そんな時、唐突に振り向くと彼女は顔を赤くして俯くからそれはそれで可愛くてアリなのだけれど。 そんなことを考えながらずり落ちてきた荷物をよいせとばかりに揺すり上げたところで、きゃと小さな悲鳴にも似た声が耳に入った。 慌てて振り返ると、ちょうど彼女がぶつかってきた子供によろめいたところだった。 「………ティアっ」 慌てて彼女に駆け寄ったものの、片手が塞がっていたからバランスを崩した彼女を半ば身体で受け止めるような形になる………胸になんだかやたらと柔らかいものがぶつかった。 「……ッ……!?」 「………あ、ありがとう」 普段聞くことのない、驚いたような細い声。 肩に置かれた手は細くて華奢で、身体を寄せ合った所為で近くなった項からふんわりといい匂いまでする。 (……コ、コレって………) 顔がじわぁっと赤くなるのがわかった。 「…………ルーク?」 不思議そうに首を傾げて身体を離した彼女に、安堵と未練を同時に感じて、ルークは思わず漏れ出そうになった呼気を無理やり飲み込んだ。 離れてしまったのが残念で、でも同じぐらい、惜しい。 ぐぐぅっと小さく唸って、ルークはぐるりと振り向いて彼女に背を向けると、思い切って左手を後ろに差し出した。 「…………手!!」 「……ルーク?」 もう一度名前を呼ばれる………顔から火が出そうなぐらい、恥ずかしい。 「は、はぐれたら困るだろ! だから、手!!」 上擦ってしまわない様に気をつけたつもりだったけれど、裏返ってしまっていたかもしれない。 (なんでガイみたいにスマートにいえねーかな……!!) 彼女は手を取ってくれるだろうか。 不安に苛まれながら、返答を待っていたら。 「……子供じゃないのよ?」 呆れたような、でもどこか優しい声が聞こえた。 「っ………」 細くてしなやかな指先が、自身のそれに絡む。 「この人混みじゃ、大人でもアブねーっての!」 吐き捨てるように言って、ルークはぎゅっと彼女の指を握る手に力を込めた。 「………つ、次は食材だったよな?」 多分、今自分は耳まで真っ赤になってしまっているのだと思う。 それを自覚しながら、ルークはゆっくりと歩き出した。 「……え、えぇ……」 彼女の指先はいつもの白い手袋に覆われていて。 その温度が感じられないことが少し、残念だと思った。 …………直後、自由行動中のアニスとナタリアに遭遇し。 さんざんからかわれることになったのは、また別のお話。 ― END ―
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ルクティアでSSと言うことで、内容の指定がなかったので自由に書かせていただきました。 ありがとうございました〜。 |