審査の思い出・・
極真空手の門をくぐってくる人はだいたい皆喧嘩が強くなりたくてはじめることが多い。
というより最初は皆肉体的な強さを求めて入門してくる。喧嘩好きで、更に喧嘩の技量を身につけたいという考えで入門してくる人もいます。
初段の黒帯までには5段階の昇級があって、皆入門してひと月もすると早く昇級して白帯を捨てて最初の青色帯を締めたくなる。極真空手というものの中で自分の腕力を試してみたくなります。
最初の昇級審査のとき、地方の道場からもたくさん入門したての喧嘩好きの連中がたくさん集まってくる。
審査では午前中に一通りの基本稽古の様子やら空手の最初の型の演舞、基本的な技能の審査が穏やかに進められる。しかし、怖いのは午後からの審査で、これは組み手がメインになる。
最初は入門したての白帯同士で一人1分の組み手を10人程度で一周する。
「俺は喧嘩が強いんで極真空手でも通用するんだ!」と言わんばかりに無茶をした激しいドツキ合いの組み手をする。技もなにも無い、ただの勢いのぶつかり合いである。
黒帯や茶帯の先輩達はそれを黙って眺めている。
白帯同士ではそれなりに腕力の強い連中が優位になるし、師範や先輩達も一目置く。
しかし、本当の恐怖はその後の茶帯、黒帯の先輩達との組み手である。というより、この段階で先輩達は物色しているのである。
一通り同レベルでの組み手が終わって、30分ほど休憩をとってから、審査道場に戻ると、さっきまで私服でそこらへんで審査を眺めていた茶帯、黒帯の先輩達が道着に着替えて横一列に15人ほど並んで待っている。
その後ろには控えの先輩達が更に10人ほど立っている。
その場は、これから始まる激しい格闘の前の緊迫に満ちていて、同じ帯同士で優位に組み手をこなしていた白帯は、だんだん顔が青ざめて行く。
審査開始の太鼓が鳴らされると、白帯は先輩達の前に付くように指示され、ゆっくりと師範の説明が始まる。
説明は元立ちに立っている黒帯と茶帯の先輩達の紹介である。
紹介が終わると、最後に号令をかける先輩に「”押忍!参りました”」の声を上げるタイミングだけは忘れるな・・
とどんなに苦しくてもガードだけは下げるなよ!いいか!という注意を与えられ「はじめ!」の声とともに審査本番の組み手が始まる。この注意事項も、よけいその場の緊張をあおるだけである。
この「参りました」と言うタイミングと疲れて気を抜いてガードを下げていると間違い無く大怪我をする。
審査にはちゃんと専属の外科医と看護婦がつきそっている。
次の瞬間、まるで雪崩のように黒帯や茶帯の鋭い蹴りや正拳が飛び交い、肉体に衝撃を与える鈍い音と悲鳴にも似た「押忍!参りました!」の声が道場の中を一斉に飛び交う。壁際まで追い詰められ、危険を察知した亀のようにふさぎこんだまま「参りました、参りました・・」を繰り返し組み手を逃げ出す者もいる。
特に最初の白帯同士の組み手で威勢の良かったやつは徹底的にやられる。
その様子は壮絶である。自分の順番を待ち、その様子を見ていると余計恐怖心が高まってくる。
これは実質、茶帯、黒帯の先輩達が白帯を具の根も出ないほど叩きのめすだけの組み手なのである。
組み手は15人の先輩達を一周するまで続き、最後の方には白帯は皆、防御らしい防御も、逃げることも出来ず、皆うわごとのように「参りました・・」と呟くだけで、殆どサンドバック状態になる。
組み手が終わっても、まともに座ることもできない。白帯の虚勢は、茶帯、黒帯の先輩達の技と力の前に完全に一掃される。
審査が終わるとき、最後に道場で正座をして師範の話を聞く。
その中で、悔しいやら、情けないやら、いろいろな感情がめぐって、初めて受ける洗礼に涙を流す者もいる。
審査前の最初の虚勢など微塵も消えうせ、本当の強さとは何なのか、考えさせられる者が多い。
「力だけの怖さや痛みをよく理解し、本当の強さをこれから極真で学んでいってくれたらと思う…」
いろいろなことから自己の強さや人間としての逞しさを学び、身につけて行く。
その方法は人それぞれある。生まれつき、何物にも負けない心を持っている人というのはそうそういない。
極真空手は、今は亡くなった大山倍達館長の理念でもあった
「正義が弱くちゃいけない、暴力なんかに負けるような正義であってはいけない・・」という考えが強くある。
一見、乱暴で、無茶に感じられる空手だけれど、その目的は結局、人生の中でいろいろな誘惑や、暴力、迷いにあっても、常に正義の側に身をおける強く、逞しい人であってくれ・・ということを道場生に教えているのです。
極真空手はそういった人としての資質を身につけるひとつの経験になると思います。
自分がそうなったかどうかは難しいです。いろいろな誘惑に日々苦悩し迷います。冷静さを失い、時に間違いを犯すこともたくさんあります。ほとんどそんなことばかりです。
------極真空手道場訓-------
吾々は、心身を錬磨し確固不抜の心技を極めること
吾々は、武の神髄を極め機に発し感に敏なること
吾々は、質実剛健を以て克己の精神を涵養すること
吾々は、礼節を重んじ長上を敬し粗暴の振舞いを慎むこと
吾々は、神仏を尊び謙譲の美徳を忘れざること
吾々は、知性と体力とを向上させ事に臨んで過たざること
吾々は、生涯の修行を空手の道に通じ極真の道を全うすること
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※吉川英治監修
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