コーポラティブ住宅
柳田良造
1 コーポラティブ住宅とは?本来、自分たちの生活にふさわしい住宅に住めるのが、当たり前であるにもかかわらず、現在の住宅、住環境はほんとうにそうなっているだろうか。多くの住み手は建物に暮らしを合わさなければならないという、受身的な住生活を強いられてないだろうか。おしきせの住まいに別れをつげて、住み手が主人公になる「いえづくり」を建設する方法はないものであろうか。
同じ悩みをもった人々が5人、10人と集まって力を合わすことで、お互いの生活にふさわしい住まいをつくることが可能である。住み手が主人公となって、建築の専門家と協力し、住宅を協同建設する方法で一般的コーポラティブ方式と呼ばれる。この方法はヨーロッパやアメリカでは100年近い歴史があり、日本にも紹介されて以降東京や大阪で大都市の住宅難を解決する取り組みのなかで建設されてきた。
コーポラティブ住宅は、自分達の手でやる限り、いろいろな工夫や協力をしなければならない。みんなで話し合いながらつくっていくわけであるから時間もとられる。しかしその過程で、地域で生きていく上で大切な得難い仲間やコミュニティがはからずとも、形成されていくのである。
2 コーポラティブ住宅のメリット
このようにコーポラティブ住宅は、消費者が自分たちで建築物の安全性や耐久性を確認した上で、高齢者や障害者を抱える家族から、ペットを飼いたい、趣味の道具のために広い収納スペースが欲しいといったことまで、個人の事情に合った仕様を決定することができるほか、また建築を計画する段階から住民同士で議論を重ねることで、お互いをよく知り尊重しあえる無機的でないコミュニティーを作ることが可能である。確かに自分たちで議論を重ねる必要があるため、通常の住宅取得より手間がかかることは否めない。しかし、自分にあったものを創るということは楽しいことであるし、この過程を通じて仲間どうしの理解とコミュニティ形成が深まるという側面もある。
コーポラティブ住宅のメリットは以下のような内容にまとめることができる。
<コーポラティブ住宅のメリット>
1)家族構成や好みに合わせた間取りやデザイン、自由設計ができる。
2)品質に信頼がおけ、安全な住宅を手に入れることができる。
3)実費(原価と適切な経費)で建設することができ、コストの中身もオープンである。
4)気のおける友人や仲間が近くにいる暮らしや安心できる近隣関係の環境ができる。
5)みんなで集まることによって個人ではできない空間や共同の施設を作ることができ、また建物の維持管理も安心である。
3 北海道でのコーポラティブ住宅の実践
97年、北海道ではじめての、また北海道ならではの大変ユニークなコーポラティブ住宅が札幌の郊外とニセコ町に相次いで、完成した。いままでコーポラティブ住宅は集合住宅と思われていた常識をくつがえす郊外型、田園型のコーポラティブ住宅の誕生であった。現在、都心型、農村型などさらに多様なコーポラティブ住宅も試みられている。そのいくつかを紹介しよう。
1)あいの里コーポラティブ住宅
札幌市北区郊外のあいの里地区の一角、総面積約1,000坪の土地に14戸の戸建てタイプの住宅からなるコーポラティブ住宅。1995年から3年かけ、毎年4、5軒ずつ建てられて、1997年末に全戸の完成をみた。「北海道の風土にふさわしい集合住宅をつくる」ことを大きなテーマとし、冬の除雪が楽にすむよう、日当りがよくなるよう、夏の緑が豊かになるよう、ちょっとかっこよくて美しい町並みとなるようにと願い、土地の利用のしかたや建物の配置、デザインにいろんな工夫をこらしている。
住宅は各戸の希望をとりいれ、外観、インテリアともそれぞれの住宅に個性的なデザインがほどこされている。中には、手作りパンの工場・店、染織のアトリエ・教室を併設した家もあり、いろんな人との交流の機会の窓が開かれている。
各戸の個性が際だつと同時に、屋根の勾配を一定にするとか外壁の材料や色を数種類にするなどのルールを取り決めたので、全体の町並みにはある種のまとまりが生まれている。共同の利点をいかして緑豊かな環境をつくろうと、共有地を確保すると共に、各戸の敷地との境界には塀、柵を設置しないことにしたので、全体の土地のほぼまん中に大きな緑地スペースが生まれている。子供が安全に遊べる場所であり、春夏には花が咲き乱れる場所なっている。
住民は30代から60代の世帯が適度に混じりあい、下はよちよち歩きの幼児から、上は米寿を過ぎたお年寄りまで、いろんな年齢の人たちが住む。親子2世帯以外はみな赤の他人であったが、家を建てる前に何十回となく集まって各自の希望や意見を出し合ったので、今ではすっかり互いに顔見知りとなった。子供達は年齢に関係なくよく一緒に遊んでいるし、時には2,30人の大世帯でバーベキューやクリスマスのパーティーを開き、子供も大人も、もみんなで楽しむこともある。
2)ニセコ生活の家
「ニセコ生活の家」は、障害者とその家族、ボランティアらが共に集まって住む、小規模作業所を含んだコーポラティブ住宅である。現在、障害者は6名(男性2名、女性4名)。各人の障害の度合いが重く、完全な一人立ちは難しいものの、自立を促すなどの目的から原則として平日を生活寮、土日祝日を家族の元で過ごすというスタイルを実践している。
「生活の家」は1983年、札幌市北区に開所した小規模作業所。「家にこもるか、施設に入るか」。傷害を背負った人々の進路が極めて限られている中、障害を持つ子供を「家族ら身近な人々が、共同でケアしよう」という目的で設立された。開設以来15年あまり経過し、札幌では周辺が建て混んできて子供たちが伸び伸び過ごすには難しい環境となったことや、毎日の通所の不便さなどから、「雄大な大自然の中、皆が近くに住み、互いに支え合いながら、地域社会に溶け込んで暮らすこと」を考えるようになったのである。土地探しの末、ニセコ町有島の丘に約千坪の土地が見つかり、96年に計画が動き始めた。
障害者の作業所を兼ねた生活寮1棟とその家族らが住む戸建住宅7棟の計8棟の建物の配置は敷地の東、南、北を囲む3つの山々(羊蹄山、昆布岳、アンヌプリ)への軸線に向かって建てられ、建物群は少しずつ向きを変えながら円弧の平面をもつ3つの雁木を介してつながっている。雁木による連結は、移動しやすいだけでなく、生活の家全体の一体感の演出にも一役買っているのである。建物内部も生活寮の個室の間取りや使い方、障害者も使いやすい様々なデザイン、床下暖房とパッシブ換気システムを採用した室内環境の考え方など、建築的に様々な工夫がなされている。
建設を通してニセコ町の町長や近隣住民など、理解者、支援者の輪は広がり、バザーや餅つき大会、そしての札幌のアーティスト達とのアートを通した交流「サナトリウム」など、共に暮らすという基盤を固めつつ、ニセコ町に根を生やしていっている。今年5月、ニセコ生活の家はNPO法人となっている。
3)札幌都心型コーポラティブ住宅
札幌の中心部に近く、しかも豊かな自然や、古くからの住宅地で落ち着いた佇まいの残る環境を舞台としたプロジェクトである。都心近くだけあって集合型のコーポラティブ住宅である。そのひとつの旭ヶ丘コーポラティブ住宅はほとんどが30代の若い世代の家族が7戸集まっている。札幌の街が一望できる丘の一角にあり、しかも緑豊かな魅力的な敷地に3階建ての個性的な建物が来年春には完成する。また市電の通る山鼻地区には、落ち着いた住宅地の中に、買い物や文化施設がすぐ近隣にある、生活利便型のコーポラティブ住宅が計画されている。
4)当別農村コーポラティブ住宅
田園風景の広がる当別町の丘陵の麓で、土にふれながら暮らす田舎暮らしを実践する農村コーポラティブ住宅。野菜やハーブづくり、山羊や羊、うさぎなどの動物飼育、乗馬やカヌー下り、つりのアウトドアライフ、近年ブームのカントリーライフの夢が膨らむ田舎くらし。しかし都会人にとって慣れない田舎暮らしの不安はつきない。「農業をはじめたいが、どうすればいいかのかわからない」「田舎暮らしをしたいけれど、一人では心細い」そういう田舎暮らし指向の都会人が集まって、専門家や地域の人々とともに、農村に住む暮らしを実践するコーポラティブ住宅。現在、カントリーライフ仲間を募集中だが、来年秋には、第1期計画が完成予定。
住むこととその受け皿の住宅には本来多様な選択肢があるはずである。集まって住む「コーポラティブ住宅」は都市から農村まで、様々な条件のもと、その暮らしをサポートする。