デジタル・アーバンデザイン


  柳田良造 石塚雅明  

デジタル・アーバンデザインは、都市空間をデジタル情報の中にモデル化して再現し、計画に関わる主体相互のコミュニケーションを媒介とする方法論である。セミナーは柳田良造、石塚雅明(柳田石塚建築計画事務所)が横浜などの都市デザインをモデルケースに、デジタル・アーバンデザインの方法論を提起し、倉田直道(アーバンハウス都市建築研究所)がアメリカでの都市の環境シミュレーションの例を紹介しながら、パブリック・コミュニケーションの方法としての計画主体と住民のインタラクションのプロセスを論じた。 
私たちがデジタル・アーバンデザインというキーワードに到達した背景には、複雑な関係性の上に成り立つ都市と向き合う新たな方法論が必要とされているという認識がある。従来の日本の都市計画は都市を二次元的、平面的にとらえ、三次元形態として立体的に把握する視点が欠如しており、本来の都市計画体系からすると未完の状態にあった。その中で、三次元的都市形態を扱おうとした都市デザインの分野においても、都市のアクティビティあるいは時間的変容といったファクターを重層的にあつかう視点や方法論が確立されてこなかったし、また地域の力を高める住民の参加による計画づくりやまちづくりの実現も社会総体としては十分に認識されてこなかった。
これら現在の都市デザインの課題を明確に認識し、アプローチするのであれば、デジタル環境はすぐれて、複雑な関係性をもつ都市とむきあう方法論を構築する手段となろう。都市空間のデジタル情報によるモデル化、計画にかかわる主体相互のコミュニケーション媒介や情報ネットワーク環境におけるデジタル情報の多様性は現在の都市計画が陥っている制度的な閉塞状況を突破していく可能性が秘められているのである。
デジタル・アーバンデザインにはふたつのプロセスがある。ひとつは「シミュレーション・プロセス」で、都市空間をデジタル情報のなかにモデル化して再現するプロセスをさす。現象を人間が理解する場合、数値情報はいわば断面値を捉えるのに対して、モデル化した視覚情報は像(構造、関係)をつかむことが容易で、計画などの内容を把握しやすい情報といえる。都市空間をデジタル情報のなかにモデル化するシミュレーション・プロセスは代替案を検討する都市デザインの重要な方法論となる。もうひとつは、「インタラクション・プロセス」である。このプロセスはシミュレーション情報を、わかりやすく視覚言語化された情報としてまちづくりの主体へ提示し、都市空間をめぐる情報の応答、共有化を導くものである。これらのふたつのプロセスは、「シミュレーション・プロセス」→「インタラクション・プロセス」と完結するのではなく相互作用として連続的サイクルを描くものといえる。この連続的サイクルを社会のなかにより開かれたものとして展開していくことが展望される。
セミナーの質疑応答のなかで、アメリカとの比較でシミュレーションの前提となる代替案という考え方がそもそも成立していない日本での環境シミュレーションの意味を問う議論があった。それに対しては川越や函館などの実践例のなかで、まちづくり過程での市民、行政の問題共有の「場(フィールド)」がシミュレーションを通して形成され、結果すぐれたまちづくりの成果に結びついていったケースが示された。それらの過程は実験的な試みであったが、その後環境シミュレーションをまちづくり過程に組み込んでいくというスタイルがそれぞれの現場で定着してきている。
デジタル化した情報がインターネットなどのネットワーク環境に乗って流通し、地域のなかで自由に編集されながらルールをつくり出す、新たな都市計画のフィールドが今後切り開かれことが期待されるのである。

景観シミュレーションと参加のデザインとしてのデジタル・アーバンデザインの方法がある。デジタル・アーバンデザインとは都市空間をデジタル情報のなかにモデル化して再現し、計画にかかわる主体相互のコミュニケーションを媒介する方法論であり、次のふたつのプロセスがある。
(1)シミュレーション・プロセス
(2)インタラクション・プロセス
これらのふたつのプロセスは、「シミュレーション・プロセス」→「インタラクション・プロセス」と完結するのではなく相互作用として循環的サイクルを描くものである。

(1)シミュレーション・プロセス
都市空間をデジタル情報のなかにモデル化して再現するプロセスをさす。現象を人間が理解する場合、数値情報はいわば断面値を捉えるのに対して、モデル化した視覚情報は像(構造、関係)をつかむことが容易で、計画などの内容を把握しやすい情報といえる。都市空間をデジタル情報のなかにモデル化するシミュレーション・プロセスは代替案を検討する都市デザインの重要な方法論となる。それは3つの方法からなっている。
1)アーバン・データベース
都市の空間情報を把握し、シミュレーションのベースとなる環境をつくる。
2)アーバン・モデリング
シミュレーションに必要な三次元情報を書き込む(あるいは発生させる)環境
3)ビジュアル・アナリシス
都市の文脈や空間の質、目標などを誰もが容易に理解できる情報として視覚化する

(2)インタラクション・プロセス
シミュレーション情報を、わかりやすく視覚言語化された情報としてまちづくりの主体へ提示し、都市空間をめぐる情報の参加、応答、共有化を導くものである。視覚情報をめぐる応答のプロセスは次の4つのフェーズがある。
1)モデル化とリアリズム
誰にどのような意味をもった視覚情報を提示するかということを明確に意識することである。
2)段階的選択性
計画の案や街並みの整備レベルなどについていくつかのレベル・水準を視覚情報として段階的に提示し、関係主体の合意形成点を討議、模索するものである。
3)役割関係性
都市デザインの目標を視覚情報として示す場合に、どの主体(行政、住民、企業など)が、どの局面で、どのようにかかわることによって達成されるのかを局面毎に分解して提示するものである。
4)現場応答性
リアルタイムに発見された新たな課題やアイディアに対して、適切な視覚情報を通じてビビッドに応答し、コミュニケーションを活性化させることである。