歴史的環境の変容過程に関する研究

               −函館・小樽の歴史的環境の比較研究−


研究の目的と方法
/水辺と一体となった近代建築群の特徴的な街並みを有する港湾都市函館と小樽の歴史的環境は、80年代後半以降大きな環境変貌に遭遇することとなった。それぞれの地区の歴史的環境は、近年の主要な都市形成のテーマが先取りされていたともいえる複合的な都市問題をはらんでいた課題でもあった。歴史的環境の保全の他、衰退地区の再生、80年代の東京などで大きなテーマとなった港湾再開発と都市のウォーターフロントのあり方、リゾート・観光開発と都市整備のあり方など。本論文では、2都市の様々な複合的な都市問題を抱えた歴史的環境の保全と変容過程の比較分析を通して、90年代における都市デザインの課題および、目標とすべき都市空間の質について明らかにする。
研究の内容
/研究の内容は5点からなる。
1)歴史的環境の形成と地区の変容
明治以降の歴史的環境の形成過程と地区の機能、戦後特に1960年代以降の変容過程を明らかにし、現時点での環境の特徴を述べた。
2)都市全体の景観的特徴と歴史的環境の関連
それぞれの都市全体の空間的特色と歴史的環境の位置を明らかにした。
3)住民運動の展開と行政の対応
歴史的環境をめぐる住民運動においては、「小樽運河保存運動」や「函館西部地区街並み保全運動」など全国的にも有名になった運動などがある。運動の内容、行政との対応について明らかにした。
4)都市の観光化のプロセスと特徴
都市観光の成立の時期、内容が歴史的環境の保存にもたらした影響。
5)歴史的環境の評価と今後の課題
景観問題や都市像に対する住民意識の分析等を通して、歴史的環境保存の現時点での評価と今後の都市デザインの課題を明らかにした。

研究のまとめ
/函館の歴史的環境は様々な問題を発生させながらもその基本的構造を変えなかったが、小樽はドラステックな変貌を通して、様々な都市デザイン的課題を発生させ、市民意識においても問題を残している。