まちづくりにおける環境の教育力と環境イベント型市民運動の展開に関する研究
               −小樽運河問題を通して
トヨタ財団第2回研究コンクール”身近な環境を見つめよう” 1982

研究対象区域の現状と特徴
 小樽は明治末から昭和初期にかけて、北日本有数の商港として栄え、物資流通の一大拠点となった都市である。しかし、戦後、商圏の喪失や流通システムの変動により、経済的な活力を失い、●港湾機能の低下を中心とする経済の沈滞、●人口の減少、●アメニティの低下、●札幌依存の拡大などにみられる都市としての自立性の低下の誇りや自身を失い、環境への無関心、まちづくりに対する意識の低下が生じていると考えられる。
 繁栄時のまちの中心であった臨港部に位置する小樽運河地区は、木骨石造という独特な建築構造をもつ明治期の大規模な営業倉庫群を中心に、レンガ造、RC造の商店、事務所、銀行等、幅広い構造、機能にまたがる特色ある近代建築が集積し、運河、港の水辺と一体となった歴史環境を現在も残している。が、都市全体の衰退に伴い、地区機能の低下、環境の悪化、モータリゼーションの影響など、環境が大きく変貌する要因をかかえている。
 こういう状況の中で、この10年来、運河埋立て道路建設に反対し、歴史環境の保全・再生をめざす市民運動と、その発展系としての環境イベント型市民運動が展開されていることが対象区域における最も大きな特徴である。環境イベント型市民運動とは、・運河での市民手作りのまつり「ポートフェステバル・イン・オタル」、・運河問題とまちづくりに関する総合的な学習の場づくりとしての「小樽運河研究講座」、・まちづくり運動の機関誌と地域情報誌の役割をもつミニコミ「ふいえすた小樽」の発行、・散策をつうじて歴史的な町並みと建物に親しみ再発見する「タウンオリエンテーリング」、・運河を題材にした子供への環境教育の試みとしての紙芝居、などであり、新しいタイプの文化運動としても注目されている。これらは、誰もが参加できる開かれた企画と創意工夫に富む方法により、市民の共感をよび、市民の環境観、運河問題に対する考え方に影響を及ぼしていると考えられる。
 小樽はいま転換期にあり、その再生をどのようにはかるか、きわめて重要な地点に立っている。その基本方向は、運河を中心とする歴史環境をはじめ、海・山の自然、坂・丘の地形環境など、独自の環境資源をいかしたまちづくりを、市民の自分が住んでいる環境を良くしていこうとするエネルギーに依拠してすすめていく「内発的再生」にあり、運河問題はその重要な課題であると考えられる。

研究事項とその方法

 小樽では、小樽運河を中心とする環境の再生がまちづくりの大きな課題になっている。しかし、都市の衰退のなかで問題が複雑化しており、再生のための理論や方策、体制、人材には大きな立ち遅れがみられる。本研究では、再生の手がかかりとして「環境の教育力」という概念を設定し、市民のまちづくり運動と連動しながら、地域の内発的再生の可能性と方法論を導くことをめざしている。「環境の教育力」とは、一応「まちづくり意識を啓発する力」とし、次の内容で構成されるものと仮説をたてた。
       環境が構成する力・・・・環境のもつゲニウス・ロキ(土地から
                   引き出される霊感、土地に結びついた
      連想性あるいは土地がもつ可能性)
環境の教育力                           
                   環境のもつアメニティ
                                    
       環境に係わる人間集団が構成する力            

研究の方法として、1.歴史的環境の現状と課題、2.市民意識と環境学習の実態、3.環境のイベント型市民運動の展開について調査、分析をおこない、それをつうじて「環境の教育力」を理論化する。さらに、「運動の中で生きてくる概念」として、その意味を深めていくことを目標とする。

1.歴史環境の現状と課題
 既存の研究資料をもとに、●地区機能、景観、建物、水辺環境、人口構成の各側面からの現状の把握、●それらの変容過程−変容の実態とその要因の把握、●地区に係わる再開発計画、建物所有者の意向をもとに、地区の動向の把握をつうじ、課題を明らかにする。

2.市街地の物的環境の特質
2−1)調査対象地区の環境を形成する物的要素(山、丘、坂、川、運河、港、通り、町のまとまりetc.)の構造をフィールドサーベイするとともに、文献・ヒアリングによる歴史との係わり、市民へのアンケート・イメージアップ記入による認知の実態把握などをつうじ、物的環境の特質を把握する。
2−2)小樽の原風景をあらわすものとして、小樽を題材にした文学作品、絵画、子供の作文にあらわれてくる物的環境の描写、表現の分析をつうじ、特質を把握する。

3.市民の意識−小樽人気質と市民の環境観
3−1)小樽人気質がどのような要因により形成されてきたか、町の歴史、物的環境の特質などと市民生活の係わりを軸に文献調査、市民へのヒアリング・アンケートにより把握する。
3−2)市民の環境観、運河問題に対する考え方を市民へのアンケートにより把握する。市民の環境観の形成要因について、環境のアメニティ、物的環境の特質などと市民生活の係わりを軸に、市民へのヒアリング・アンケートにより把握する。

4.子供の環境学習の実態
4−1)小・中・高校における地域環境を素材とする環境学習の実態を、小学生の作文、運河問題に係わる中・高校生の自主研究等の資料収集及び生徒・教師へのヒアリング・アンケートにより把握する。
4−2)環境イベント型市民運動の一つである「運河紙芝居」の上演の実態を把握する。

5.環境イベント型市民運動の展開過程と市民の環境観への影響
5−1)現在までの運動の展開過程を年表に整理し、
5−2)運動の展開にともなう運動主体の問題意識の展開プロセスを年表をもとにヒアリングする。
5−3)運動が市民の環境観に与えた影響について、運動の展開過程を整理した年表をもとに市民へのヒアリングをおこない、運動への評価の内容、環境観の変化のプロセスを把握する。

6.市民運動の展開と課題
6−1)小樽運河をめぐる環境イベント型市民運動について、その経過、現在の小樽運河をめぐる状況とあわせて分析し、課題を明らかにする。
6−2)新しい運動展開−石造倉庫の再生運動としての「ロフト基金」、小樽のまちづくりに関する情報・研究機関としての「まちづくりセンター」−の可能性を検討し、実践する。その展開過程を、反響などを含め記録、分析し、運動の課題を整理する。

7.総合化とまとめ
 以上の研究成果にを総合的に検討することにより、「環境の教育力」を理論化し、それを高める方法論をさぐる。また、絶えず理論と運動の実践とのフィードバックをおこなうことにより、理論の深化と運動の高揚をはかる。