小樽の歴史的環境の再生に関する研究
その6.建物所有者の意向調査をつうじて
日本建築学会北海道支部研究報告集No.55(昭和57年3月)
1 はじめに
一般に、歴史的環境を有する地域では、個性ある景観や伝統文化などのすぐれた蓄積を持つが、一方では地区機能の低下によって活力を失っている場合が多い。本研究の目的は、このような二面性をもつ地域の歴史的環境整備を考えるうえでの課題を明らかにすることにある。本研究では小樽市臨港部の歴史的環境を対象に、その1〜その5において都市構造の変遷、昭和40年代を中心とした地区の変容実態、歴史的建築物の取り壊しの背景などをつうじ、整備課題を概観してきた。それらの総合化を試みたのが図−2である。小樽市の経済的ポテンシャルの低下に起因する環境維持主体の流出や建物の維持管理能力の低下、さらに港湾をめぐる社会的条件の変動による地区機能の変化や流通形態の変化が地区の環境悪化を導いていること、歴史的景観が残っているのは、経済的ポテンシャルの低下により、急激な都市の更新が進まなかったためであるが、更新活動を活性化させる潜在的要素は高まっており、歴史的建築物の保存対策が具体化されていない現在、景観が大きく変貌する可能性が高いことなどが、概略としてあげられている。
今回の研究の目的は、以上をふまえ、地区が潜在的にもつ今後の変動要因を、地区の建物所有者の意向をつうじて、より具体的に明らかにすることにある。意向の把握は個々の建物所有者に対するヒアリングによった。ヒアリングの主たる項目は、建物の移転・建替に関連性をもつ1)建物を使用していくうえでの問題点(構造、維持管理、使い勝手)2)モータリゼーションの影響(地区内に計画されている幹線道路の影響を含む)3)港湾背後地中心としての地区機能が変化してきたことによる立地条件の問題4)転出・建替などの可能性とした。
調査対象建物は、主要街路沿いの180棟を対象とした[A地区(運河沿い)84棟、B地区(色内通り沿い)84棟、C地区(緑山手通り沿い)12棟](図−1)。うち過去の調査研究で価値を有するとされたものを歴史的建築物とし、その数は67棟[A地区38棟、B地区22棟、C地区7棟]である。対象建物の建設年代、構造種別、用途は、表−1に示すとおりである。2 建物使用上の問題点との関連
建物使用上の問題は地区全体にわたって非常に多い(図−3)。地区全体の建物180棟のうち半数が何らかの問題点をもち、なかでも歴史的建築物は約7割にのぼる。地区別にみると、とくにA地区の倉庫、工場に多い。問題点の具体的な内容は、1)構造上の問題点−とくに木骨石造建築に多く、問題箇所は基礎、土台、柱、壁、連結材、屋根など、建物の構造材全般にわたっている。構造の老朽化はかなり進行しているとみられる。2)維持管理上の問題点−石壁や屋根瓦の補修に要する費用が高く、経済的な余裕がないことから、それらの材料の入手が困難であることがあげられている。また、非防寒構造に伴うすがもり、内部結露による塗装のハゲ落ちや、屋根雪の除雪費用がばかにならない等、北海道の自然条件との関連から生じる問題もみられる。3)使い勝手の問題−とくに、地区機能を特徴づけている各地区の主たる用途、すなわちA地区では倉庫、工場、B地区では店舗、事務所に多い。倉庫、工場では、建物規模(間口、高さ)の狭小や構造上の問題により、クレーン等の近代的な荷役機械や工場設備の導入が困難なこと、入口がせまいために大型トラックの出入りに支障があること、構造上、内部の柱が多いために作業リフトが使いづらいこと等、作業効率の低下を訴えるケースがほとんどである。これらはいわば、使い手の根本的な機能に関わる問題であるといえる。これに対して、店舗、事務所では、天井が高くて冬寒い、湿気がひどい等の室内環境上の問題、トイレが水洗でない等の設備上の問題が主にみられる。
建物取り壊し、転出の意向との関連をみると、A地区では上述の問題点と密接な関連性をもつことがうかがえる。とくに倉庫、工場の歴史的建築物において顕著である。これは、構造、維持管理、使い勝手の問題点が重合していることによるものと考えられる。B地区ではA地区にくらべると問題点との関連性は強くみられないが、倉庫、工場で問題点のあるものすべてにおいて、取り壊し、転出の意向のあるのが特徴的である。なお、C地区では関連がみられない。3 モータリゼーションの影響との関連
モータリゼーションの影響は、地区全体の4割に及び、大きな問題となっている。とくにB地区に多く(図−4)、用途でみるとA地区の工場、B地区の事務所、店舗、工場に多い。その具体的な内容は、右表のとおりである。B地区の卸売業の事務所、店舗では、もともと前面道路を貨物輸送車の駐車スペースに利用していたものが、交通量の増大に伴い駐車禁止となり、作業効率が低下したこと、交通渋滞に伴う貨物の輸送力の低下等、所有者の営業上、死活に関わる問題が、住宅を併用しているところでは、交通量増大に伴う騒音、振動の激化による住環境の悪化が多く指摘されている。
建物取り壊し、転出の意向との関連をみると、A地区の倉庫、工場、事務所、なかでも歴史的建築物の倉庫、工場との関連性がうかがえる。これは、交通量増大に伴う荷物の積み降ろし等の作業のしずらさ、道路建設計画に伴って予想される駐車スペース、作業スペースの喪失が大きな要因になっているとみられる。B地区において関連性がうかがえる倉庫、歴史的建築物の事務所では、建替あるいは建物を取り壊し、幹線道路沿いへの転出によって駐車スペースをうみだし、作業の利便性をはかることが大きな要因になっている。4 立地上の問題点との関連
立地上の問題点は、地区全体の約2割にみられる。とくにA地区の倉庫に多く、全体の約5割、歴史的建築物では約7割にみられる(図−5)。
建物取り壊し、転出の意向との関連をみると、密接な関連性をもつことがうかがわれる。問題点との関連の具体的な内容は、A地区の場合、1)倉庫では、施設近代化と機能集約化によって荷役の効率化をはかる倉庫等集団化事業に伴う転出、取り壊しである。この事業は、港湾背後中心としての地区機能の低下を背景におこなわれるものであり、地区機能の変化が所有者の動向に影響を与えているケースであるといえる。2)工場では、道内の流通機能の中心が太平洋側に移ったことに伴う、小樽に立地するメリットの喪失(工場材料の入手困難)、現在作業スペースとして使用している運河の水際線の空地が、道路建設事業によって喪失してしまうことに伴う転出等である。B地区の場合、3)事務所では業務中心の移動に伴う、市中心部への転出である。これは卸売業店舗の所有者の多くが、地区に立地する必然性は特にないとの指摘からもうあかがえるように、かつての商業業務中心としての地区機能の低下が背景にあるといえる。4)その他では、ガソリンスタンドが道路建設計画に伴って、幹線沿いへ転出をはかるというものである。以上、とくに地区機能の変化、それを背景とする倉庫等集団化事業、道路建設事業に伴う所有者の動向が注目される。5 地区の変動要因に関する総合的考察
所有者が転出や取り壊しの意向を持つ建物の割合と分布を表したのが図6・図7である。A地区において約半数の建物所有者が、転出や取り壊しの意向をもっているのが注目される。歴史的建築物についてみれば約6割5分とより高率になる。転出や取り壊しの要因は複合的なものであり、今までの各々の分析を総合的に検討する。まず大きな割合を占める倉庫についていえば、使用上の問題点に加え立地条件の変化が大きな要因となっており、倉庫等集団化事業成立の背景をなす。さらに一部では、幹線道路建設事業により取り壊しが予定されるものがある。工場については、ほとんどが明治期の木骨石造倉庫を転用したものであり、それに伴う使用上の問題点に加え、道路建設事業により前面の作業スペースを失うことが大きな要因といえる。特に、土地あるいは建物を借用している場合が多い事も、変化への物的対応を困難にしてるといえる。事務所は、主に市場関連と自動車関連企業のもので、前者は、使い勝手の悪化を中心とした使用上の問題点と、市場の移転計画による立地条件の変化が要因としてあげられる。後者は、幹線道路建設事業に対応して施設整備を計るものである。以上A地区においては、事業化が実施された場合の歴史的景観に与える影響は大であり、加えて地区機能が、海・港との関連を一層失う点、転出後の跡地利用が未定である点など、地区の環境悪化を助長させる要素が多いことが問題となる。一方、B地区についてはA地区ほど顕著な変動は読みとれないものの、事務所・店舗を中心に建物使用上の問題・モータリゼーションの影響などの問題を内在しており、A地区の事業の実施を引き金に、移転・建替などが具体的な検討課題としてのぼることが予想される。さらに、住宅や、住居を併存した店舗などの転出が4棟あり、地区人口の流出に直接つながるなど、地区の環境維持主体の現象が助長される方向にもある。C地区は、企業倒産による転出が1棟ある他は、ほぼ安定しているといえる。
以上、建物所有者の意向調査をつうじて、地区の変動要因を分析してきたが、最後に地区の整備課題との関連で考察すると、建物使用上の問題に対する経済的技術的対応策など個別の対応を考慮することも重要であるが、図2にみる課題相互の関連性をふまえた総合性のある対応を検討することが、地区環境の全体的底上げに重要であることが認識される。
小樽の歴史的環境の再生に関する研究
その7.運河、色内、緑山手地区の変動要因と建物所有者の意向
日本建築学会大会学術講演梗概集(東北)昭和57年10月■はじめに
本編では、運河、色内、緑山手地区が潜在的にもつ今後の変動要因を、地区内建物所有者の意向をつうじて明らかにすることを目的としている。地区外への転出および建物取り壊しといった所有者の意向は、地区の変動に直接つながるものであり、その要因としては、1)建物使用上の問題、2)モータリゼーションの影響による問題3)港湾背後中心としての地区機能が変容してきたことによる立地上の問題の3点が考えられる。その具体的な内容の把握と、地区再開発計画の動向も考慮に入れ、建物所有者の意向との関連性を分析、考察するものである。調査は主要街路沿いの180棟(うち過去の調査研究で価値を有するとされたものを歴史的建築物とし、その数は67棟)を対象に(図−1)、個々の建物所有者にヒアリングをおこなった。調査期間は1981年8月である。■建物使用上の問題点と建物所有者の意向との関連
地区全体の建物のうち半数が何らかの問題点をもち、なかでも歴史的建築物は約7割にものぼる(図−2)。とくに運河地区の倉庫、工場に多い。問題点の内容は、1)構造上の問題点−とくに木骨石造建築に多く、問題箇所は基礎、土台、柱、壁、連結材、屋根など、建物の構造材全般にわたっている。2)維持管理上の問題点−主として、石壁や屋根瓦などの補修に要する費用が高く、経済的な余裕がないことから、それらの材料の入手が困難であることがあげられている。3)使い勝手の問題点−とくに運河地区の倉庫、工場では、建物規模(間口、高さ)の狭小や構造上の問題により近代的な荷役機械、工場設備の導入が困難なこと、入口がせまいために大型トラックの出入りに支障があること、構造上、内部の柱が多いために作業リフトが使いずらいこと等、作業効率の低下を訴えるケースがほとんどである。建物取り壊し、転出の意向との関連をみると、とくに運河地区の倉庫、工場の歴史的建築物において、問題点との関連性がうかがえる。これは、構造、維持管理、使い勝手の問題が重合していることによるところが大きい。■モータリゼーションの影響による問題点と建物所有者の意向との関連
モータリゼーションの影響による問題は地区全体の4割に及ぶ(図−3)。とくに多くみられる色内地区の卸売業の事務所、店舗では、もともと前面道路を駐車スペースに利用していたものが、交通量の増大に伴い駐車禁止となり、作業効率が低下したこと、交通渋滞に伴う貨物の輸送力の低下等が、住宅を併用しているところでは、交通量増大に伴う騒音、振動の激化による住環境の悪化が指摘されている。建物取り壊し、転出の意向との関連性がうかがえる、1)運河地区の倉庫、工場の歴史的建築物では、交通量増大に伴う荷物の積み降ろし等の作業のしずらさ、道路建設事業に伴って予想される駐車スペース、作業スペースの喪失が、2)色内地区の倉庫、歴史的建築物の事務所では、幹線道路沿いへの転出によって駐車スペースをうみだし、作業の利便性をはかることが大きな要因になっている。■立地上の問題点と建物所有者の意向との関連
立地上の問題点−地区機能の変容に伴う立地上のメリットの喪失−は、地区全体の約5割、歴史的建築物では約7割にみられる(図−4)。建物取り壊し、転出の意向との関連性がうかがえる、1)運河地区の倉庫では、港湾背後地中心としての地区機能の低下を背景とする、施設近代化と機能集約化によって荷役の効率化をはかる倉庫等集団化事業に伴う転出、取り壊し2)運河地区の工場では、道内の流通機能中心が太平洋側に移動したことによる小樽に立地するメリットの喪失などに伴う転出、3)色内地区の事務所、店舗では、商業業務中心の移動に伴う市中心部への転出である。■むすび
所有者が転出や取り壊しの意向をもつ建物の割合と分布を表したのが図−5、6である。運河地区において約半数、うち歴史的建築物では約7割が、転出や取り壊しの意向をもっていることが特徴的である。意向の要因は、これまでの分析を結合すると、建物使用上、モータリゼーションの影響、立地上の、それぞれの問題点の顕在化や地区に関連する都市計画事業、施設近代化事業などの複合としてとらえられるが、とくに運河地区においては、直接関係する各種事業が着手されているため、それが一つの契機となって、潜在的な所有者の意向が現実化する可能性が高いといえる。それに伴う地区の変動は、歴史的建築物の取り壊し、転出後の跡地利用が未定であることなど、環境の悪化を助長させる方向にあると考えられ、問題が大きい。
小樽の歴史的環境の再生に関する研究
その8.市民意識と保存運動(2)
−「環境学習型」イベントの試みをつうじて−
日本建築学会大会学術講演梗概集(東北)昭和57年10月■はじめに
運河、色内、緑山手地区を中心とした小樽の歴史的環境は、地域経済の衰退を主たる要因として、現在、市民とは無縁のものとなりつつある。それに伴い環境の荒廃化も進んでいる。市民の意識としてもそのような環境に誇りを喪失し、産業基盤整備に対してはともかく、歴史的景観などには積極的な関心が失われ、運河に大して極端な評価の分裂を生んでいるのが現状である。一度失われた市民の関心と誇りを回復するには、地道な啓発的環境学習の機会が必要である。昭和56年度学会大会講演で、”歴史的環境に対する市民の共感づくりを目標とした創意工夫に富んだ試み”としてふれた小樽運河保存運動に係わる市民手作りのイベントは、啓発的環境学習の実践として示唆的な内容を多く含み注目される。本編では、それらイベントを上記の意味合いにおいて「環境学習型」イベントと名付け、その内容を報告する。■「環境学習型」イベント
保存運動に触発され、昭和53年から開始された各種の「環境学習型」イベントとは、◎運河での市民手作りのまつり「ポートフェスティバル・イン・オタル」◎運河問題とまちづくりに関する総合的な学習の場づくりとしての「小樽運河研究講座」◎まちづくり運動の機関誌と地域情報誌の役割をもつミニコミ「ふぃえすた小樽」の発行◎小樽の歴史的な町並みと建物に散策をつうじて親しみ、再発見するタウン・オリエンテーリング◎子供への環境教育の試みとしての運河を題材にした紙芝居、などである。イベントの担い手は、運河保存運動に参加する者、若者を中心に地域で様々な文化活動を行なっている者、小樽青年会議所のメンバーなど各イベントによっていろいろであるが、皆程度の差こそあれ運河問題に関心をもち、ふるさと小樽で生きることに強いてこだわりを持つ点で共通していた。
これらのイベントのほとんどは昭和53年から1、2年の間に矢つぎ早に展開されるのであるが、その萌芽は昭和52年の春に「小樽運河を守る会」が呼びかけた運河一帯の市民清掃活動にある。それまでの保存運動が議会への陳情や行政への抗議に終始しがちで、十分な展開のなかったことを反省し、「ゴミと雑草におおわれた運河を少しでも良い環境にするため、自分たちの力でできるところから手掛けよう。」「…そのようなことをつうじて初めて市民の関心と共感が生まれるのではないか…」。こういう問題意識から生まれた運河清掃活動がその後、何回か持続して行われ、地域に根ざした文化活動を指向する若者の共感を生み、運河での手作りの成功に開発され、タウン・オリエンテーリング、研究講座、まちづくりのミニコミなどが、いわば連鎖的に、各々の関心と表現のありようにそって自発的に試みられていったわけである。それぞれの試みは、数年にわたり持続されるなかで、地域の生活のなかに入りこみつつある。■まとめ
これらのイベントが、市民の意識にどのような啓発的役割を果たしたかについては、今後の研究課題とする。現時点では、各々のイベントが、市民の誰もが参加できる開かれた企画と創意に富んだ方法により、市民の共感を呼び、1)まつりに見られるように運河地区の環境資源としてのひとつの可能性を呈示したことや、歴史的町並みや建物の存在を内外にひろめたことにより、環境の再発見に寄与した点、2)研究講座などにより保存運動の学習活動や理論化に少なからぬ影響を与えてきている点、3)さらに萌芽的には、子供や若者を対象とする市民の環境教育の重要性に対する問題意識も育まれつつある点、など注目されるものがある。
小樽の歴史的環境の再生に関する研究
その9.環境再生計画の考え方
日本建築学会大会学術講演梗概集(東北)昭和57年10月■はじめに
1〜8稿において、小樽の歴史的環境の動向と整備課題、保存運動にかかわる市民意識について報告してきたが、本稿ではそれらをふまえて、環境整備の考え方をのべたい。
小樽の歴史的環境の整備課題としては、特色のある景観や水辺資源を保存していくことともに、経済、社会、生活、環境等の総合的な面からの底上げが必要となっている。とくに、後者の課題を達成しないことには、特色のあるものの保持が、内的にも、外部からのインパクトの面からも、もはや困難となりつつある。それゆえ、手法としては、保全的修復よりも保全的再開発という手法が求められているといってよい。しかし、港湾の産業活動の場であり、かつ複合的な機能をもった広い範囲の当地区のような環境における、そういう方法論は現在ほとんど用意されていないといえよう。
経済的、社会的な面もふくめ、その背景は複雑であり、現状の問題点や整備課題などまだ十分に把握しえていない面もあるが、試論として整備再生計画のフレームを提出することも、環境変容の強い現状のかかわりにおいて意味のあることと考えた。■環境再生計画
○環境再生計画の位置づけ
地区再生のモデルとして図1のような三角錘を考える。経済再生計画の位置づけとしては、経済再生計画、社会再生計画とともに三本柱として総合化されて、再生の目標に達するものである。また、三角錘を構成するA、B、Cの3つの側面は、それぞれの再生計画を横につなぐものとして、目標達成に欠かせないものとなる。それらは人体にたとえればA体力(環境−経済−再生)、B血液の循環(経済−社会−再生)、Cやる気(社会−環境−再生)とでもいうべきものになろうか。一要素の独走をおさえ、特化的な環境改変ではない有機体的藤正を目標とする。地区再生のモデルとしてその進展にとってのバロメーター的役割となる。
○環境再生計画のフレーム
環境再生計画は、[課題の整理]、[目標設定]、[保全再生計画]、[計画のすすめ方]の4つのフェーズからなる。その内容と展開については図2で示した通りであるが、ここでは各フェーズで計画をたてる場合のポイントについて述べておきたい。
[環境整理]:まずどこから、どのように問題にとりくむかということであるが、問題へのとりくみ方の検討と課題の整理からなる。経済、社会、生活、環境数々の学際的アプローチによる分析がぜひとも必要となる。
[目標設定]:課題の整理をふまえて、整備再生のための目標を設定することであるが、なによりもまず第一に、歴史的環境地区の位置づけを明確にすることが必要である。現状では位置づけがあいまいであり、諸々の混乱をまねいている。
[保全再生計画]:整備のための目標とされた柱を、実現化していくための戦略と手法からなる。
[計画のすすめ方]:計画の実現化に向けてのレールをどのようにしていくかということである。地区での保全、整備、開発のルールをどうつくっていくかということも重要であるが、整備が放置されているような現状では、まず実際にできるものからはじめていくことが重要である。■環境再生計画と市民参加
環境学習の機会をつくり、市民の自前の精神による環境づくり、まちづくりを広めていくためにも、環境整備計画はなによりも市民に開かれた計画でなければならない。