アートがまちをおもしろくする
柳田良造 H&C財団応募:2000
Free Space PRAHAとは
1988年、建築家の呼びかけにより集まった若いアーティストたちが、スタジオとギャラリーとして、かつて病院だった建物を改造・再利用して、Free Space PRAHA(フリースペース・プラハ)が開設された。1993年、個々の活動にとどまらず、地域に向けてアートの情報発信やNPO的な立場からの地域づくりの必要性を感じ、ワークショップ、レクチャー、情報発信などの企画・運営を目的としたグループ、PRAHA Projectが発足した。地域におけるアートとまちづくりの機能を探り、提案していくとともに、参加者であるアーティストや地域づくりに携わる人が自らの活動の場を広げていくための情報の交換や、ネットワーキングの機会を提供していくことを目的としている。
ここ数年、<アーティスト・イン・レジデンス>というアーティスト(作家)が地域の滞在しながら作品を造りあげていく、地域とアートの新しい関係を見いだそうとする動きが注目されはじめている。札幌でも、昨年度から5カ年計画で始まった国内外からの作家を招待する「札幌アーティスト・イン・レジデンス(S-AIR)」事業や、篠路地区という小さなコミュニティに、美大の学生や若いアーティストが商店街と協同してまちづくりカフェを開き、道路計画によって切られた河畔林の木を使って、街のアート作品を造ろうとするローカル型のアーティストインレジデンスの試みである「シノロ・アートプロジェクト」など、様々な取り組みがスタートしている。アートと地域の接点を大きくし、地域づくりにアートを取り込む試みとして期待はされるが、方法は未だ手さぐりの状況であり、またそれぞれの活動が個々に散発的でつながりをもたないため、地域の幅広い関心を喚起するには未だ至っていない。そこで今計画では、札幌で展開し始めている様々な<アーティスト・イン・レジデンス>プロジェクト間の●相互の情報交流の場づくり、●福岡、北九州などでの先駆的な試みとの交流、●他地域に向けての情報発信等を通して、自らの置かれている状況を客観的に判断する機会を提供するとともに、内外のネットワークを構築し、札幌に地域発掘型のアートが根付いていく土壌を耕すことを目標とする。具体的には地域とアートの関係に関心のあるすべての人を対象とした1)リレーレクチャー、2)ワークショップ、3)研修旅行 の3つのプログラムを実施する。プロジェクトコーディネーターとして、S-AIR参加アーティスト・磯崎道佳氏の協力を得、自身─他地域の人─地域間を移動する人の3つの視点からプロジェクトが展開していくことが期待されている。
地域という日常の空間のなかで、アートはどんな力を持っているのか?まちづくり、アート、市民という3つの立場からの「公共性」の捉え方の違いとは?地域とアートの関係を意識するなかで生まれてくる、これらの基本的で重要な問いに対して、<アーティスト・イン・レジデンス>の試みを相互の情報交流と他地域の取り組みの中からとらえ直すことは、上記の命題を考える恰好の機会となるであろう。
アーティストは<旅人>であり、ギャラリーや街は<駅>であり、<カフェ>は情報交換の場である。<アーティスト・イン・レジデンス>の試みは外からの旅人であるアーティストが、新しい視点で地域を捉え、地域を刺激し、交流することにその目的がある。その評価は地域が行うわけだが、今計画ではその評価を閉鎖された地域の中だけで行うのではなく、他地域でのエキスパートがやはり<旅人>として札幌を訪れ、批評し、交流し、相対化するところに、特色がある。具体的にはリレーレクチャーを通じて、地域の情報と状況を創出するノウハウを交換するためのネットワーク構築が期待される。アーティストや講師をとの交換の場を設けることで、参加者が問題意識を共有し、地域における課題を見いだす方法を生むきっかけとなり、それぞれの活動の中で継続していくことも期待される。さらに活動の場をコミュニティーの内外へと拡げて、情報交換によるアートと地域づくりのノウハウの取得も可能となろう。また北海道では学ぶ機会の少ない、アート・マネジメントを学ぶ絶好の機会ともなるだろう。