歴史的町家に住まいとしての快適さを


植松治代(フリーライター)
 から15号まで編集のお手伝いをさせていただいていたが、その後、東京に引っ越 したために、すっかり函館のまちづくりから遠ざかっていた。それが今年6月末、住宅取材の仕事で、久しぶりに函館を訪れ、歴史的な町家の内部を見る機会に恵まれた。また、お住まいの方々から直接、話をうかがうこともできた。
 このインタビューによって、私が改めて実感させられたのは、古い住宅に暮らす方々のご苦労だった。特に次世代に建物を残す苦労には、外部からは計り知れないものがある。函館には伝統的建造物として市の指定を受けて、外観がきれいになっても、内装は古いまま手つかずという家も多い。そういう建物は暖房効率が非常に悪く、2階の床が傾いでいるところもある。
 今回、お話を聞かせていただいたお宅では、建物に愛着を持ち、今後も頑張って残していきたいと、笑顔でおっしゃっていた。しかし次世代の住人に伝えていくために は、もう少し住まい勝手のよさが求められるような気もする。そのほか、通りに面した店部分を残し、奥の住まい部分を、現代生活に合うように 改築された町家にも、取材にうかがった。そこにお住まいの方は、先祖から引き継いだ価値のある建物だけに、改築の際には柱や素材など、できるだけ多くの要素を残したという。しかしそのためには、重機で一気に壊して新築するよりも、はるかに多額の費用がかかってしまったという。
 それでも改築や改装ができる家はいい。しかしそれが経済的に無理な場合は、住み手の我慢や心意気という、きわめて危ういバランスの上に、歴史的な建物がようやく存続している状況と言わざるを得ない。
 歴史的な町並みが残る地域は、全国各地にある。こんな問題は、どこでも起きていることだろう。ほかの地域では、どんなふうに対処しているのだろうか。国内では特に対応策がないかもしれない。ならば海外ではどんな方法があるか、調べてみることはできないだろうか。
 今後、公益信託函館色彩まちづくり基金は、元金の取り崩しを検討していると聞く。取り崩しにより、大掛かりなペンキ塗りプロジェクトを展開することは、今までにない町並み保存の効果が期待でき、取り崩しは前向きな決断である。
 思えば基金立ち上げの際、下見板建築のペンキ塗り替えは大きな目的だったが、一 方で助成金で若い人を海外に送り出すことも、目的のひとつだった。今まではそれだ けの余裕がなかったかもしれないが、取り崩しが実現すれば、それも可能になる。
 そうなったらアーバンデザイナーを目指す若い学生などに、海外の歴史的町並の実情を調べて来てはもらってはどうだろうか。古い住宅を住まいとして活かしていくために、どんな問題があり、どんな解決策があるのか。広い世界には、きっと函館の問題を解くヒントがあると思う。
 たとえばアメリカには、NPO法人が歴史的な建物を買い入れて、修復し、転売するしくみがあると聞くが、具体的にはどんなふうに不動産を動かすのか。それを函館で実現するには、どうしたらいいのか。そこまで思い切った具体策を、提示して欲しい気がする。さらに、それを基金の助成で実現させるところまで、頑張るためには、基金そのものを拡大する方法も、探らなければならない。
 たとえ実現までたどり着かなかったとしても、そんな動きを起こすことが、将来への布石になるし、ほかの地域の歴史的町並保存にも、影響を与えることができるかもしれない。
 また、これまで長く続けてきた西部地区のコーポラティブ住宅計画は、足踏みを強いられている状況のようだが、なかなか難しい問題が山積みで、頭が下がる思いである。
 ただ今回のインタビューで、ちょっと面白いことを聞いた。歴史的な町家は、もともと集住の場だったというのである。歴史的な建物は奥行きが深く、通りから見るよりも案外、大きな建物だったりする。昔はそんな家に、何世帯もが同居していたという。親戚だったり、仕事仲間だったり、ただの知り合いだったりする家族が、ひと部屋ずつ間借りして住んでいた。
 なるほど函館の町家には、集住の伝統があったのだ。ならばその伝統を、何とか生かす方法はないものだろうか。たとえば歴史的町家の内装に手を加えて、住まいとしての快適さを整えてから、シェアハウスやグループホームとして活用するとか。その改装費まで基金で助成するというのは、やり過ぎだろうか。それとも歴史的な町家や倉を核にして、周囲にコーポラティブ住宅を建てるなどのアイディアも考えられないか。
 私たちは函館の歴史的な建物を、できるだけ多く次世代に残してほしいと思う。ならば住まいとしての根本的な問題を、避けて通るわけにはいかない。行政が外観をきれいにしてくれたのなら、その次の段階として、建物内部の問題を、基金で取り組んで欲しいと思う。
 なんだか外部から勝手なことばかり言うようだが、住民主体の町並み保存の先進例となってきた函館色彩まちづくり基金だけに、行政の手の届かない思い切った策に期待したい。基金取り崩しを機に、さらなる飛躍を!