空地インフィル・小規模低層中密・住民ネットワーク型集合住宅供給による地区再生を


森下 満(北海道大学助手)

時が経つのは早いもので、我々が西部地区でペンキのこすり出しをおこなったのは1988年から89年にかけてである。それから13年後の現在、西部地区の環境は大きく 変貌した。とくに最近目につくのは、空地と露天駐車場が増え、街区が歯抜け状態に なったことである。具体的なデータで示そう。  

表−1は、こすり出しをおこなった85件の建物について、その後の変化を昨年の11月に調べたものである。伝統的建造物と景観形成指定建築物の補修が合わせて22件で、全体の26%を占めている。景観条例等の町並み保全の行政施策が一定の役割を果たしていることがわかる。また我々ボランティアと建物所有者による自発的なペンキの塗り替えが各5件、6%と、町並み改善に対してささやかなる役割を担っているといえる。これらを合わせると32件、38%は西部地区の町並み、環境を改善する方向の動きとして位置づけられるものである。
これに対して逆に、町並みや環境を悪化させる方向の動きとして、木造下見板張りペンキ塗りの歴史的建物が取り壊され、その後には町並みに調和しない高層マンションや新築住宅が建設されたり、下見板の防火サイディングへの張り替えなど町並みに調和しない建物改修が施されたりしたものが合わせて35件、41%にものぼる。このうち空地と露天駐車場は合わせて13件、15%である。この数字は、仮に50件の戸建住宅 (一戸当たり200平方メートルの敷地面積として)が建てられる予定の1ヘクタールの街区を想定すると、7、8件の家が建てられていない状況に相当する。こういう状況がさらに進行すると、生活環境体としての西部地区が崩壊してしまうのではないか、という危惧を抱かざるをえない。
 伝統的建造物群保存地区などの従来の景観施策だけでは駄目なのは明白であり、街区単位の住環境整備が必要とされているのである。このことは25年も前から私の恩師である故足達富士夫先生が看破されていた。その具体的な戦略として、現在増えつつある小規模の空地を逆手にとり、それを埋めるようなかたちで、(大規模集中ではなく)小規模分散、(中高層高密でも低層低密でもなく)低層中密、(行政やマンション業者だけではなく)地区住民、新住民、まちづくり専門家、建築家、不動産業者、行政有志などのネットワークによる主体形成が統合された、「空地インフィル・小規模低層中密・住民ネットワーク型集合住宅供給」による地区再生が描けないか、と思うのである。