平成9年度助成活動報告2 ペンキ十字軍  


糸毛 治(ペンキ塗りボランティア隊代表)


1. 活動の目的・内容

 町家ペンキ塗り活動は、1994年から「ペンキ塗り替え支援・札幌勝手連」によって継続しておこなわれてきたが、3年目を迎えた1996年、地元函館工業高校の学生20名の参加があるなど、活動参加者および活動を支援してくれる住民、市民の輪が飛躍的にひろがった。昨年からペンキ塗りの活動を継承しながら、新たな展開の第一歩を踏み出したいと考え、グループ名を「ペンキ塗りボランティア隊」と変更し、町並みとしての改善が目に見えるかたちであらわれる「3軒効果」をねらってきた。


2. 塗り替え対象建物の選定、建物所有者の承諾

 まず西部地区の中で、3軒以上の下見板張り町家が建ち並んでいるところとして、現地踏査した結果の中から、1. 弥生町8番(幸坂沿い、小山さん所有の長屋2軒と品田邸)、2. 弥生町7番(姿見坂沿い、函館ドックの社宅長屋3軒)の2地区をペンキ塗り替え建物対象候補として選出した。このうち、1. の弥生町8番を第一候補とし、1998年5月14日(日)、15日(月)の2日間、代表・糸毛、顧問・森下の2名が来函し、直接、建物所有者小山氏との交渉にあたった。しかし、小山氏のご理解を得ることはできず、固く断わられたため、2. 弥生町7番を候補とし、建物所有者との交渉を行った結果、快諾を得たので、2. 弥生町7番をペンキ塗り対象建物とすることに決定した。6月20日(土)、21日(日)の2日間、糸毛、森下の2名は再び来函し、ペンキ塗り活動の準備作業を行った。またペンキ塗りの実施日は、例年どおり、北大の大学院入試が終わった後の土、日の8月29、30日の両日とした。


3. CG用の建物外観写真、町並み写真の撮影

 例年ならば、色決めの参考にするために、オリジナルの色や歴史的な色をさぐるべく、こすり出し調査、時層色環の採集・写真撮影を行うところであるが、弥生町7番についてはペンキが塗られた経験が全くないことから、今回はこすり出し等はおこなわず、CGシミュレーション用の建物外観写真、町並み写真の撮影のみ行った。


4. 塗り替える色の検討とシミュレーション

 塗り替える色を決めるにあたり、以下のような方針を考えた。

1)函館ドックの社宅長屋3軒は、建物所有者によると、数年先の近い将来に取り壊す意志があることもあり、今までにない新しい試みとして、ペンキの色彩によって建物1軒1軒が個性を持ち、町並みとしては色彩によるリズム感が生まれるようなものを考えた。

2)函館西部地区に住む子供達約30人(元町在住河内昌子さんのピアノ教室の生徒さん)に函館ドック社宅長屋3軒の白図に自由に色塗りをしてもらい、「市民の手による町並み色彩シュミレーション」を行った。それらの作品には赤、青、緑、黄と色鮮やかな原色を大胆に使った作品が多かったことから、外壁に原色を配することによって建物1軒1軒に個性を持たせ、また全体の調和、リズム感をつけるため、3軒の柱・窓枠等を1色に統一し、さらに強調するため姿見坂に面する東面だけを塗る方針にした。

3)連続する3軒は切妻屋根の妻面を姿見坂に向け面している。3軒並ぶうちの最も海側に位置する1軒には姿見坂を上から下と下る際に背景となる函館の海の色に調和する色として青系の色を選んだ。次に最も山側に位置する1軒には姿見坂を下から上と上る際に背景となる函館山の緑に映える色として鮮やかな黄系の色を選んだ。そして中央に位置する1軒には黄と青に対して負けない個性を示す色として赤系の色とした。最後に3軒の柱・窓枠等を統一して塗る色として切妻屋根の三角形を最も美しく表現でき、青、赤、黄のどの原色にも調和する鮮やかな白色を選んだ。

 以上に加え、外壁と柱・窓枠等との塗り分け、バランスも考慮して、CG(コンピューターグラフィックス)によるシミュレーションをおこない、微妙な色の違いを比較しながら検討した。


5. ペンキ塗り替えの準備

1)足場の手配

 以前協力をあおぎ、快諾していただいた事もある地元の又十小板建設さんに協力をお願いした。地元の高校生も大勢参加し、皆ボランティアでやっていることを説明し、交渉した結果、足場の運搬、組立、撤去作業のすべてを3軒分10万円という、相場の半額以下の格安値で引き受けてくれることになった。感謝。

2)ペンキ塗料刷毛等の用具の手配

 すでに決定した数種類の色について、それぞれの塗装面積を計算し、例年お世話になっている札幌(北広島市の大曲工業団地に社屋を移転した)の日本ペイント販売北海道(株)の米沢氏にペンキ塗料、刷毛等の用具を注文した。

3)ペンキ塗り手ボランティアの募集

 案内ちらしを作成し、函館からトラスト事務局やMGM、その他知り合いの方々をつうじて塗り手のボランティアを募集した。


6. ペンキ塗り替えの実施

 地元函館工業高校から大勢の学生(32人)の参加が得られた。これに北大勢12名他を加え、総勢44名の塗り手があった。以下にそれらの方々の氏名等を記す。

 なお、この活動は後日、地元の新聞に大きく取り上げられ、大勢の函館市民の目にふれることとなった。


7. 成果と今後の展望・課題

 第一は、昨年は連続して建ち並ぶ3軒を塗り「3軒効果町並改善」を実現した。今年はさらに一歩進め、「3軒効果」を生かしたうえで建物単体に強い個性を与え、同時に町並みとしては調和させるということを両立することにより町並みに今までになかったリズム感と躍動感をつくり出すことができたのではないだろうか。

 第二に、函館の子供達に「市民の手による町並み色彩シュミレーション」を行った中での作品をペンキ塗りの現場で展示し、来られた人々に投票してもらい優秀作品を選んだ。地元函館工業高校からの学生の参加が昨年の16人から32人へと倍増したことなどから、今回のペンキ塗り活動が、活動を支援してくれる人々の輪をさらに大きなものへと発展した。参加してくれた高校生を含め函館の将来を担う子供達に、自分たちの故郷である函館の町並みに対して少しでも愛着を持てるきっかけづくりができたことは、町並みを元気づけること以上に意義あることではないだろうか。

 今後は、この「3軒効果町並改善」を持続的に展開し、さらなる発展ができればと考えている。


〈塗り替えボランティア〉

杉本陽子さん、石川あゆみさん、玉村和子さん、船尾昌嗣さん、吉田祥治さん、佐藤貴則さん、小田圭祐さん、田上孝司さん、鈴木直幸さん、敦賀誠さん、矢富佳剛さん、計良遼さん、横田友美さん、佐藤圭さん、三浦麻美さん、永田ともさん、瀧川彩子さん、宮森俊彰さん、福田大樹さん、大塚翔太郎さん、海老子宏志さん、西本康治さん、藤田香織さん、谷ひかるさん、小林樹里さん、久保さやかさん、嶋田知朗さん、河原直哉さん、松金健太さん、松本勝さん、富樫沙央里さん、山村直子さん(以上函館工業高校1、3年生)、 高橋毅さん、松本渉さん、常本千里さん、糸毛治さん、岡本浩一さん、吉田岳矢さん、田中敬子さん、竹内朋子さん、耶雲恵さん、矢野めぐみさん、森下満さん(以上北海道大学建築計画学講座住環境計画学分野)、太田誠一さん(元町倶楽部)。

〈その他の協力者〉

函館ドック(株)(建物所有者)、吉村冨士夫さん(函館工業高校建築科教諭&工業高校生のボランティア手配)、陳有崎さん&河内昌子さん(女子大生3名の宿泊受け入れ&ペンキ用具の保管)、太田誠一さん(男子学生の宿泊受け入れ)、又十小板建設(株)(足場の手配)、日本ペイント販売北海道(株)(ペンキ塗料・刷毛等用具の手配)、山本真也さん(対象物件の助言)。