最終報告レポート2「こすり出し」の北欧への発信と町並み色彩の日米欧比較研究の展開
  
−ノルウェーの下見板張り建物のペンキ色彩調査と函館、神戸、アメリカとの比較−


町並み色彩国際交流研究会/代表・森下 満

0.はじめに−ノルウェー交流のきっかけ

 一昨年の平成8年10月、ブルガリア・ソフィアで開催されたイコモス ICOMOS(国際記念物遺跡会議)第11回総会&国際シンポジウム、エクスカーションに参加し、ノルウェー・イコモス国内委員会メンバーのケイ・スターランさん Mme. Kay STAALAND(文化遺産保存委員  Directorate for Cultural Heritage)、アクセル・マイクルビー氏Mr. Axel MYKLEBY(地区保存オフィサー District Conservation Officer)の両氏と知り合いになった。


1.調査準備−協力の依頼

 両氏に対し、平成9年6月10日付けで、ノルウェーでの「こすり出し」調査の協力依頼の文書をfaxで、それと英文の調査レポートを同封した封書の2つの方法で送った。主な内容は、

・調査目的・方法/日米欧の比較、「こすり出し」の調査手法

・調査期間/第1案:平成9年7月20日〜8月10日の間の7 - 10日間

第2案:平成9年9月5日〜10月5日の間の7 - 10日間

・調査対象建物/ 1900年以前に建てられた下見板張 り・ペンキ塗りの20-30件

・調査対象地域/第1案:ベルゲン市ブリッゲン地区(ユネスコの世界遺産として有名)もしくは他の地区

第2案:オスロ市内のいくつかの地区

 しかし、これに対する返信がなかなかこなかったので、8月6日付けで再度faxを送った。ヨーロッパ旅行中のからトラスト事務局・柳田氏が御地に立ち寄るかもしれないこと、調査は来年に変更するかもしれないこと等を内容とするものであったが、遠回しに返事の催促をしたものである。

 そうしたら、さっそくマイクルビー氏から8月6日付けでemailが、7日付けでfaxが届いた。その主な内容は、

1. オスロには19世紀後半の木造建物があまり残っていない、ベルゲンのブリッゲン地区は18世紀の建物が主なので、19世紀後半の建物を調査対象とするならば、両方ともあまり適切ではない。

2. それよりも南部の諸都市がお薦め−アーレンダル、グリムスター、マーンダル、リーセル、ドランメン(オスロに近い)、または西部のスタバンゲル、ハウゲスンなど。いずれも19世紀後半に建てられた木造建物がたくさん残っている。

3. 仲間のクヌート・ラールセン Knut E. LARSEN 教授(この方はノルウェー工科大学教授、ノルウェー・イコモス委員長をつとめている。博士は、「日本の文化財建造物の保存手法に対する国際的理解の向上に果たした功績」により、平成8年度日本建築学会文化賞を受賞している。平成8年5月末に来日され、日本建築学会意匠委員会と日本イコモス国内委員会の共催による記念講演会、祝賀会が東京で催された。)とジョン・ブラエン Jon BRAENNE 氏に相談し、彼らも上記の案に賛同してくれた。

4. ジョン・ブラエン氏は、オスロにあるノルウェー文化遺産研究所 Norweigian Institute for Cultural Heritage Research(NIKU)の研究員で、色彩に関する最も著名な専門家。協力や有益な情報提供をしてくれる。

5. 今年の調査は可能だが、ただし、ジョン・ブラエン氏は8、9月とも不在。

6. 来年なら十分な調査協力ができる。

 以上のように、我々の調査研究意欲をかきたててくれるものであった。


2.ノルウェーでの現地予備調査 −函館からトラスト事務局・柳田氏によるー

 平成9年8月中旬に、ヨーロッパ旅行中の柳田氏(函館からトラスト事務局)がノルウェーに立ち寄り、オスロとその近郊、ベルゲンで予備調査をおこなった。ベルゲンは歴史のある港町で、坂道など函館西部地区と雰囲気が似ており、一般の住宅地には下見板張り・ペンキ塗りの建物がたくさんあったとのこと。


3.調査内容のしぼりこみと再度の協力依頼

 これまでの経過をふまえて、以下のように調査内容をしぼりこんだ。

*調査対象地域/
1. ベルゲンの住宅地−ブリッゲン地区以外の他地区、の他に、オスロになるべく近く、調査体制のとりやすい、2. ドランメン(オスロ近郊)、3. アーレンダル(オスロから約250km)、の3地域。

*調査対象建物/各地域10 - 20件、計30 - 60件。

*調査期間/
平成10年の8月下旬から9月上旬を予定(この時期寒くならず、かつ航空運賃が安くなるので)。各地域3日で「こすり出し」調査をおこない、移動日も含めて12 - 14日間。

 この内容で、再度マイクルビー氏に連絡(平成9年11月17日付け)したところ、快く調査に協力してくれるとの返信があった。


4.今後の予定

 平成9年度の活動は、一部ノルウェーでの予備調査を実施したほか、ほとんどがノルウェーの知人に対する現地でのこすり出し調査協力の依頼の連絡に終始し、本調査まで手が回らなかった。しかし、連絡の結果、次年度の平成10年度にはノルウェー側の十分な協力体制が期待でき、調査対象地域等の調査内容もしぼりこまれてきた。

 以上の経過から、私の要望として、この活動は平成9年度と10年度の2ヶ年にわたる事業というかたちにしていただきたい。

 平成10年度には、マイクルビー氏とさらに密な連絡をとり、調査対象地域・建物、調査期間等について確定し、本調査を実施し、研究を進めていきたい。