最終レポート1  下見板張り町家ペンキ塗りワークショップ−「3軒効果」の町並みづくり−
 

ペンキ塗りボランティア隊/代表・松本 渉


1. 活動の目的・内容

 町家ペンキ塗り活動は、1994年から「ペンキ塗り替え支援・札幌勝手連」によって継続しておこなわれてきたが、3年目を迎えた1996年、地元函館工業高校の学生20名の参加があるなど、活動参加者および活動を支援してくれる住民、市民の輪が飛躍的にひろがった。

 今回、これらの活動を継承しながら、新たな展開の第一歩を踏み出したいと考え、グループ名を「ペンキ塗りボランティア隊」と変更し、活動内容も西部地区で下見板張り町家がまとまって現存する通りや街区を選び、連続する3軒のペンキ塗りをおこない、町並みとしての改善が目に見えるかたちであらわれる「3軒効果」をねらった。


2. ペンキ塗り替え対象建物の選定

 西部地区の中で、3軒以上の下見板張り町家が建ち並んでいるところとして、弥生町6番の、1軒おきに建ち並ぶ3軒−1.梅木家所有建物(弥生町6-14、たこやきみっちゃん、内海家住宅として使用)、2.小倉家所有建物(弥生町6-15、現在空き家)、3.函館ドックM所有建物(弥生町6-17、3軒長屋でうち2軒を橋川家住宅、木村家住宅として使用)を候補とし、建物所有者との交渉をおこなった結果、いずれも快諾を得たので、この3軒をペンキ塗り対象建物とすることに決定した。


3. CGシミュレーション用写真の撮影

 例年ならば、色決めの参考にするために、オリジナルの色や歴史的な色をさぐるべく、こすり出し調査、時層色環の採集・写真撮影をおこなうところであるが、函館ドックM所有建物についてはペンキが全く残っていなかったことと、梅木家所有建物と小倉家所有建物については、1989年に元町倶楽部・函館の色彩文化を考える会が採集した時層色環の写真があるのでそれを利用させてもらうことにし、今回はこすり出し等はおこなわず、CGシミュレーション用の建物外観写真、町並み写真の撮影のみおこなった。


4.塗り替える色の検討とシミュレーション

 塗り替える色の検討とシミュレーション通りに建ち並ぶ3軒をまとめて塗り替えるにあたり、次のような方針をたてた。
 1)3軒それぞれの色に、ある関係、物語性が必要であると考えた。3軒とも違う色だが、3軒並ぶとある種の調和があり、歩きながら眺めると色が徐々に変化していくようなものをイメージした。
 2)梅木家所有建物と小倉家所有建物については、現状がピンク系の色で、この色は西部地区の特徴的な色の一つであり、近くの大正湯でも用いられている色なので、これを基本に用いる。ただし、少し色合いを違えるようにする(全く同じものにはしない)。
 3)函館ドックM所有建物については、周辺の建物が建て替えや修繕などにより外壁に新しいサイディングを貼っているものが多く、その色がほとんど白系であったので、これと調和する同系統の白系、クリーム系がよいと考えた。
 以上に加え、外壁と柱型・窓枠等との塗り分けも考慮して、CG(コンピューターグラフィックス)によるシミュレーションをおこない、微妙な色の違いを比較しながら検討した。

 その結果、以下のとおりに決定した。
・函館ドックM所有建物では、外壁を白色に近い淡いクリーム色+柱・窓枠等を渋目の薄茶色(外壁のクリーム色にあうような)、
・その隣の小倉家所有建物では外壁を淡いピンク色+柱・窓枠等をこげ茶色(函館ドックM所有建物のクリーム色+薄茶色にあうような)、
・梅木家所有建物では外壁を濃いめのピンク色(小倉家所有建物の淡いピンク色にあうような)+柱・窓枠・胴蛇腹・軒蛇腹・持ち送りを白色(小倉家所有建物とはちがう塗り分けで、かつ函館ドックM所有建物のクリーム色にあうような)。


5. ペンキ塗り替えの準備

 前回に引き続き、地元の第一建設さんに足場の手配を、札幌の日本ペイント販売北海道Mの米沢氏にペンキ塗料、刷毛等の用具を注文した。また、ペンキ塗り手ボランティアの募集案内ちらしを作成し、函館からトラスト事務局やMGM、その他知り合いの方々をつうじて塗り手のボランティアを募集した。


6. ペンキ塗り替えの実施

 ペンキ塗り替えは、1997年8月30日(土)、31日(日)の2日にわたりおこなった。前回に引続き、地元函館工業高校から大勢の学生(16人)の参加が得られた。これに北大勢16名他を加え、総勢33名の塗り手があった。以下にそれらの方々の氏名等を記す。

 梅木家所有建物では、我々がボランティアでペンキ塗りするのを所有者の梅木さんが恐縮されて、自ら側壁の傷んだ下見板を真新しいものに貼り替えていただき、大変感激した。色彩シミュレーションではペンキが塗られていなかった1階車庫のシャッターと2階軒の歯形飾り、飾りパネルもペンキを塗った方がよしと現場で変更するなど、臨機応変に判断した。特にこの建物は、胴蛇腹、軒の蛇腹・持ち送り・歯形飾り・飾りパネルと装飾要素が多く、それらを外壁と異なる色で塗り分けたので、目鼻立ちがはっきりとし、これまで隠されていた建物の特性がうきぼりになったように思われる。また、3軒ともペンキが剥がれ落ちたり、全く塗られていなかったりしていたのを丁寧に塗り上げ、塗り分けをしてコントラストを強調したこと、また通りの町並み全体が白系の色の多い中で、個々の建物の個性を際だたせながら町並みに調和するような色を選択したことなど、当初の我々のねらいは実現できたのではないかと自負している。

 今回は、初日の30日(土)を函館からトラストの中間報告会とぶつけ、運営委員会のメンバーが現場での作業を視察できるよう企画されていたので、現場では30数名の塗り手のほかに、運営委員、マスコミ関係者、さらには周辺住民も加わり、大変にぎやかなペンキ塗り現場となった。

 なお、この活動は後日、地元の新聞2紙に大きく取り上げられ、大勢の函館市民の目にふれることとなった。


7. 成果と今後の展望・課題

 今回のペンキ塗り替え活動は、これまでの活動より一段レベルアップした成果をあげることができたように思う。

 第一は、連続して建ち並ぶ3軒を塗り、「3軒効果町並改善」と銘打ったことがうまくいったことである。3軒効果は前々からねらっていたことであるが、今回実際にやってみると、予想以上の効果が上げられたように思われる。背景には総勢30名余の活動参加者のひろがりと定着がある。これは今後も持続的に安定した活動を展開できる基本要件となろう。また、活動を支援してくれる人々の輪のひろがりと定着も大きい。

 第二に、ペンキ塗り替えのボランティア活動が呼び水となり、傷んだ下見板を建物所有者自らが修復したことが特筆されよう。こういう我々の活動と建物所有者の自発的な町並み改善活動との応答関係の生成は、理想形としてイメージはあったが、それが今回はからずも実現したことに大変感激し、感謝もしている。

 今後は、この「3軒効果町並改善」を持続的に展開することができればと考えている。弥生町には対象物件がまだまだある。



〈塗り替えボランティア〉

太田真巳さん、小山剛さん、斎藤洋介さん、新栄勝利さん、高嵜陽介さん、早坂聡さん、藤田洋幸さん、三川賢二さん、吉澤裕治さん、谷澤諭さん、有路勇一さん、北村祐基さん、吉田健吾さん、今和弥さん、恒吉修子さん、村山美貴子さん(以上函館工業高校3年生)、BADRAKH BATBOLDさん、市原正大さん、大島英司さん、小林靖樹さん、福岡研悟さん、高橋毅さん、松本渉さん、渡辺正憲さん、青柳剛さん、糸毛治さん、岡本浩一さん、倉内菜々さん、佐藤隆子さん、吉田岳矢さん、世戸麻起子さん、森下満さん(以上北海道大学建築計画学講座住環境計画学分野)、太田誠一さん(元町倶楽部)。

〈その他の協力者〉

梅木慎一郎さん(建物所有者&カンパ)、内海広子さん(建物居住者)、たこやきみっちゃん(建物使用者)、小倉和喜子さん(建物所有者)、函館ドック(株)(建物所有者)、橋川与作さん(建物居住者)、木村政弘さん(建物居住者)、吉村冨士夫さん(函館工業高校建築科教諭&工業高校生のボランティア手配)、陳有崎さん&河内昌子さん(女子大生3名の宿泊受け入れ&ペンキ用具の保管)、太田誠一さん(男子学生の宿泊受け入れ)、板垣憲一さん(第一建設(株)、足場の手配)、米沢猛夫さん(日本ペイント販売北海道(株)、ペンキ塗料・刷毛等用具の手配)、山本真也さん(対象物件の助言)。