時層色環に新しい『平成の函館色』を重ねよう


記/植松治代

私たちはまだ充分着れる服があるというのに、シーズンごとに服を買ってしまう。特に流行を追うつもりはないが、つい目新しいデザインや色に魅かれて、なけなしのカードを出してしまう。それで支払いの期日が近づくにつれて、毎月、青くなるのだ。

 下見板のペンキも同じようにできないだろうか。ファッションデザイナーが新しい流行を提案するように、まちの新しい色『平成の函館色』を提案して、流行させることはできないだろうか。それは今まであまり使わなかった目新しい色で、みんながとびついて塗り替えたくなるような魅力的な色。今の函館のたたずまいに似合う色。それがどんな色なのか、専門家も交えてみんなで考えて、何色かラインアップできないだろうか。どこか外国のまちあたりにヒントがあるかもしれないし、ファッションやグラフィックデザインの世界から転用できる色があるかもしれない。

 そうして『平成の函館色』が決まったら、ボランティアグループがその色で塗り替えさせてくれる物件を公募してはどうだろうか。応募はご近所一緒に3〜4軒まとめて応募してもらう。まちの流行色づくりだから、下見板以外の建物も含んでもいいことにする。これはけっこう注目を集めて盛り上がる、と思う。

 なるべく効果が目立ちそうな塗り替え物件を選んだら『平成の函館色』のラインから色を決定する。今まであまり使われない色だから、イメージづくりのために、もちろんカラーシミュレーションが欠かせない。塗り替えには住人自らペンキのはけを持ってもらって、ボランティア隊が助っ人に加わる。お年寄りでもひとはけくらいは塗ってもらって、住人自身にペンキ塗りの楽しさを知ってもらおう。住人主体のペンキ塗り替えというわけである。何軒か『平成の函館色』で塗り替えたら、目新しい印象だし、きっとマスコミも取り上げてくれる。それが魅力的な色だと多くの人に認識してもらえれば、しめたもの。波及効果が期待できる。

 以下は近未来の函館西部地区、下見板町家の住人による会話(予想)。

 「こないだあっちの家がペンキ塗り替えたけど、今までちょっとない色で、いい感じだよな」「そうなんだ。向こうの通りでも、ちょっと似たような色調っていうか、やっぱりいい感じの色で塗り替えたのさ。どうも最近、流行り始めた『平成の函館色』ってやつらしいんだわ」「うちも、あんな色で塗り替えてみたいな」「そうだねえ、でもまだペンキがはげてきてるわけでないしィ。お金もないしィ」「いや、ペンキって案外素人でも塗れるらしいぞ。ちょっと今度の週末あたり手伝い探して、ペンキ買ってきて塗ってみっか」

 こうして人々は新しい服を買うように、外壁のペンキを塗り替えるのである。塗り替えると建物の価値を改めて見直す気分になる。すると建物の傷んだ部分が気になり始める。この時こそボランティアグループの再出動。住人が自分で簡単な部分は直せるように、日曜大工の修理講習会なんていうイベントを仕掛ける。以来、住人は小まめに手を入れ、数年後には見違えるようになった下見板町家が出現するのだ。

 住人は改修した家を高く売り払い、まだ手入れの行き届かない下見板町家に買い替え、住みながらちょこちょこ直し、ペンキを塗り替えてきれいにして、また転売する。それを繰り返していくうちに、気がつくと彼らはお金持ちに。そしてこの手の修理転売がけっこう旨味があると知れ渡り、修理転売を始める人が続出。本格的な修理も増えて、塗装業者や建設業者が忙しくなり、まちの景気も良くなっていく。そして函館の下見板建築は軒並みすっかり修理され、50年後、100年後にもびくともせずに残っていく。

 うーん、そんなにうまくいかないかなァ。まあ、とにかく勝手に言わせてください。

 さらに時を経て、今から50年後の会話(予想)。好奇心の強い若者たちが、戦前から残る下見板建築の外壁をサンドペーパーでこすっている。幾重にも層が重ねられた時層色環が浮かび上がる。

 「ほら、ここの辺り、パステルカラーが重なっているところまでが、昔『元町倶楽部』と『函館の色彩文化を考える会』が調査した最後の部分、昭和の末から平成初頭くらいまでのペンキ層だよね」「その頃はピンクとかクリーム色とかが流行ったんだね」「だけどその次の層から、明らかに色調が変わってると思わない?」「これが『平成の函館色』か」「そう、この『平成の函館色』が新しく流行し始めたのが平成10年頃で、それ以降、外壁を塗り替える家が一挙に増えたんだって」「それから本格的に修理する家も急増して、たくさんの下見板建築が残るようになったんだね」

 今こそ、みんなで時層色環に新しい色層を重ねよう。それは未来に向けての提案である。