コーポラティブ家づくりの会の試み

北海道新聞連載記事1994年11月




森下満

 
 私たち「コーポラティブ家づくりの会」では、現在、あいの里のコーポラティブ住宅計画を進めています。これから五回にわたる連載で、こんな住まいができるといいナと私たちが考える、ワクワクするような暮らしと環境の夢を描いてみること、また現在メンバーの数世帯の人たちがどういう思いで参加してきているのか、それぞれの動機を描くことで、コーポラティブ住宅とは何かという問いに迫ってみたいと思います。

1.戸建てを超える緑豊かな環境
 「一歳の誕生日おめでとう、乾杯!」。今日はコーポラティブ住宅「あいの里コモン(仮称)」の一周年記念日です。二十世帯五十二人、犬七匹、猫十匹の入居家族全員と、設計、工事に携わった建築家、大工さん、さらに近所の人らが集まり、祝賀パーティーが始まったところです。
 会場は、二十世帯共用の屋外広場です。まわりには二階建て、一部三階建てで、壁の一部がつながる戸建て感覚の家がならんでいます。ありきたりのものは一つもなく、ちょっとおしゃれでカッコイイ家並みです。
 広場の面積は約七百平方メートルで、これほどの大人数を収容するのにびくともしない、ちょっとした公園並みの広さがあります。たくさんの木が植えられ、中には大きいシンボルツリーも数本あります。
 「大きな木が育つ、緑豊かな環境で暮らしたい」という住み手の希望を反映し、建物の配置を考え、一戸建ての無駄を省き、土地を有効に利用できるよう工夫した上で、二十世帯の住人が少しずつ土地を出し合ってつくったのです。「共用スペースなんかがあると、将来転勤などで移転する時に財産価値が下がるのでイヤだ」という反対意見も出ましたが、道外にある先駆例を調べ、売買や相続には特に問題のないことを確かめ、みんなが納得してつくりました。
 いまでは住み手にとってひときわ愛着の深いスペースとなり、花見だ、夏祭りだと、何かと理由をつけ、年に数回はこの広場でパーティーをやっています。みんなでワイワイ楽しい暮らしができるのも、この広場があるおかげです。もう少し時間がたてば、木も育ち、従来の戸建てを超える緑豊かな環境になるはずです。

2.気心の知れた仲間のいる暮らし
 あいの里のコーポラティブ住宅計画には、現在数世帯の住み手仲間が参加しています。みんなどういう動機で参加しているのか、耳を傾けてみましょう。
 Aさん家族は夫婦二人暮らしです。ご主人は、仕事上夜勤もあったりして、どうしても生活時間が不定になりがちです。お昼頃出勤することもたびたびです。藍染めの趣味をお持ちの奥さんは、部屋を改造したアトリエで毎日創作活動をしています。こういう自分たちなりの暮らしが、どうもまわりの人から変な目でみられているようで、窮屈さを感じています。「自分たちの生活をまわりの人に理解してもらいたい」というのが参加の動機です。そうなれば、もっと気持ちよく暮らせ、自分のやりたいこともスムーズにできるはずだと考えています。
 Bさんは夫婦と子どもの四人家族です。ご主人は公務員で数年毎に転勤があります。これまでは官舎住まいでしたが、子どもの教育環境も考えて、そろそろ腰を落ち着けるところをさがしていました。「主人が単身赴任で不在でも、家族が安心して暮らせるよう、身近に気心の知れた仲間のいるところで暮らしたい」というのが動機です。
 Cさんは夫婦二人の共働き家族です。最近、老後のことをよく話題にします。今のまま年老いて、二人同時に倒れたりしたらどうなるんだろうかと不安になります。子どもがいたとしてもあてにはできません。「冬の除雪なんかも気軽に頼める世代を超えた仲間がいるところで、老後も安心して気兼ねなく暮らしたい」というのが動機です。
 この三者からは、お互いに緊張することなく、べったりと寄り添うのでもない、いろいろなライフスタイルや価値観がわかりあえる人間関係、いざというときに助け合える仲間のいる暮らしのイメージが浮かんできます。気心の知れた仲間がいると、何かと心地よく暮らせそうです。これを既成の住まいで手に入れることはとてもむずかしいことです。
 でも、みんなで話し合ってつくっていく過程で、住む前から隣の人の顔がわかる、コーポラティブ住宅ならできるかもしれないのです。

3.いろんな暮らしへの思いを受け止める
 前回に続き、もう少しいろんな方のコーポラティブ住宅への思いを紹介しましょう。
 Dさん家族は小さい子供が二人いる、子育て真っ最中の四人家族です。両親は、「自分の目の届くところで子どもが安全に遊べ、自分が子どもの頃体験したような本物の土や緑、動物や植物などの自然が身近にある環境で子育てをしたい」と願っています。できるならいろんな年齢や職業の人とも接しられる環境で、多感な子供に成長してほしいと思っています。
 Eさんは一人暮らしの女性です。もう何年もいっしょに一匹の大きな犬と暮らしていました。数年前、転勤で札幌に引っ越してくる時に、犬を飼える家をさがしましたが、みつかりませんでした。一人暮らしの女性に賃貸してくれる家をみつけるのにもひと苦労です。「ペットの犬といっしょに暮らせる家、一人暮らしでも日々を快適にすごせる環境がほしい」というのがEさんの切実な願いです。
 Fさんは牧羊家で、ニュージーランドで暮らした経験があります。その時の住まいのイメージが目に焼き付いて離れません。ゆったりとした広い芝生の庭や大きな樹木のある緑豊かな環境の中に家が埋まっている、そんな環境に暮らしたいという夢をもっています。奥さんは機織りの趣味をお持ちで、教室も開いています。できれば、自分の家の近くで作業ができて、教室も開けるアトリエがほしいと考えています。
 子育てにふさわしい環境、ペットのいる暮らし、緑豊かな環境、趣味を生かせる住まい、仲間のいる暮らし、老後の暮らし……。夢のような環境へのあこがれをもつ「ロマン派」もいれば、現状の住まいへの不満、将来の暮らしへの不安を背景とした切実な生活要求に根ざした願いをもつ「現実派」もいます。みんなそれぞれの思いをこめて、コーポラティブ住宅づくりに参加してきています。
 押し付けがましいところがなく、いろんな暮らし、環境への思いを受けとめてくれる。そんな間口の広いところがコーポラティブ住宅の一番大きな特色かもしれません。

4.家づくりの過程がおもしろい
 コーポラティブ住宅づくりは、まず住み手仲間を募集することから始まります。いま集まっている数世帯の仲間は、ほとんどがもともと知合いでもなんでもなく、初対面でした。私たちは、リラックスできて、自由に意見を出しやすいように、ゲーム感覚でできる、ワークショップを試みてきました。候補地周辺の施設や豊かな自然環境について大きな地図を用いて説明したり、カードを使って住宅、住環境の希望を出し合ったり。けっこうみんな打ち解けて、楽しみながらやっています。
 信頼できる建築家グループが、専門的な立場からいろいろと手助けしてくれるので、安心して話合いを進めることができます。
 「冬の物干し場所がないので来客の時困っている」「収納スペースが足りないために家中モノであふれかえっている」等々。現状の住まいに対する不満が出され、そんなことのないような家をつくろうと話をしている時に、同じような経験をもつ人からいろんな工夫が披露されたり、建築家が解決策をアドバイスしてくれたりします。
 ある時、「大きな木が育つゆったりとした広場があれば、そこで羊を放し飼いにすることもできるヨ。」という意見が出されました。すると「私は刈り取られた羊毛を紡いだり染めたりすることができる」「近くの中沼地区には草木染めの材料になる野草が豊富なので、みんなでとりにいこう」という声が続出。思いもかけぬアイデアがきっかけとなって、それぞれの得意技や情報がむすびつき、ワクワクするような暮らしのイメージがふくらんでいったこともあります。
 ひとしきりみんなの希望を出しおえたら、建築家グループがそれを具体的な形にしていきます。模型を作ったりイメージスケッチをかいたり、住み手グループが実感できるものをつくります。それを使ったワークショップでは、住み手グループが模型を前にして「ここはこうした方がいいんじゃない」などといっぱい注文をつけ、修正していきます。
 こういうやりとりを何回か重ね、アイデアや知恵をみんなで出し合うことで、見せかけではない、本当に暮らしやすい住まいの案を練り上げていくのです。

5.あいの里のコーポラティブ住宅計画に参加しませんか
 コーポラティブ住宅には、価格面でのよさもあります。一般の建売りやマンションでは広告宣伝費、営業費が相当含まれています。これにたいしてコーポラティブ住宅ではそういうものがほとんどなく、実費(原価と適切な経費)で建設できますし、その内訳もガラス張りになっています。同じ価格のものならば、コーポラティブ住宅の方が良いものができるはずです。
 ちなみに、私たちがあいの里で計画しているケースでは、一戸当りの土地面積が百六十五平方。、住宅面積が百十平方。の場合、二千五百万円程度からつくることができるのをひとつの目安としていますが、各戸の事情に応じて選択できるように価格の幅をかなり広げて考えています。。
 こうしてみるといいことずくめのようですが、実際にはいろいろと大変なこともあります。中でも一番大変なのが住み手仲間集めです。現にいま私たちはそれで四苦八苦しているところです。
 また、いろんな意見を出し合えば、対立することもあるでしょう。そんな時はとことん話し合って、みんなが納得するまで解決の道をさぐるしかありません。当然手間暇がかかります。でもこういう大変さは、本当に自分たちの満足する住まいをつくるために必要な、当り前のこととしてとらえなければなりません。
 私たちの計画では、あいの里の閑静な住宅地の中の、大きな公園に面した一角を候補地としています。JR学園都市線釜谷臼駅から徒歩五分のところで、約三千三百平方。の敷地です。そこに戸建て感覚のコーポラティブ住宅を来年の十二月には完成させ、入居できるようなスケジュールを考えています。
 私たちはいま住み手仲間を募集しています。目標は二十世帯程度ですが、現在数世帯しか集まっておらず、もっと多くの新しい仲間の参加を求めているところです。
 話し合いは始まったばかりです。向こう一年間、コーポラティブ住宅をみんなでいっしょにつくってみませんか。時を経ても、みんなが「ここに住んでよかった」と思えるような家づくりを。