住環境の質の生成・維持に関する研究
−あいの里コーポラティブ住宅の事例をとおして−その2.集住体の多様性と複合性

1997年日本建築学会北海道支部論文


正会員 ○柳田 良造*1  同 森下  満*2  同 石塚 雅明*1

1.はじめに
 すぐれた住環境の質のひとつのあり方は、画一性、均質性の対極である個性と、その集積としての多様性にあるといえる。しかし、多様性だけでは不十分で、二つ以上のものが合わさって一つになることという意味の複合性が同時に必要であると考える。
 本稿では、集住体としてのあいの里コープにおいて、多様性と複合性がどのようなプロセス で、どのような姿、かたちをともなってあらわれているのかをあきらかにする。

2.居住者の多様性
 あいの里コープの居住者は全部で42名であるが、その家族構成、年齢構成、世帯主の年齢・職業、世帯の収入を表1〜5に示す。これによれば、多様な階層の人々で構成されていることがわかる。
 家族構成では、夫婦+子どもが5世帯であり、夫婦のみが4世帯、女性の世帯主とその子ども、親、親戚のいずれかの組み合わせが4世帯と多いのが特徴である。(表1)
 年齢構成では、30代、40代、50代にピークがあるが、幼児から80代の高齢者まで、各世代がまんべんなくいる。(表2)
 世帯主の年齢は、20代、30代、40代、60代が2〜5世帯のほぼ同じ数値を示している。(表3)
 世帯主の職業では、民間企業勤務が全体の約半分をしめているが、公務員、自営業、リタイアの世帯が2〜3ある。(表4)
 世帯の収入も、400万円未満から1,000万円以上まで、多様である。(表5)
 また、全14世帯のうち、12世帯は専用住宅であるが、残る2世帯はパンの店舗、羊毛の紡ぎ・染め・織りのアトリエと教室を併設する、併用住宅である。コーディネーターが提示した「共同アトリエのある家」というコンセプトはここに生かされている。また、1棟を2世帯住宅とするものも2件ある。
 居住者が多様な階層の人々で構成されることが望ましいことは定説となっており、コーディネーターとしてもあるべき姿の一つとして考えていた。しかし、実際の居住者集めの段階では、なかなか人が集まらないことに苦労し、そのような余裕など全くなかった。結果として多様な階層になったことは全くの偶然にほかならない。今後、多様な階層の居住者が参加するようなプログラムの開発は大きな課題となろう。

3.地割りの決定のプロセスと多様性
 居住者階層や住宅用途の多様性は、一人一人あるいは世帯の生活や環境にたいする価値観やライフスタイルも多様であることを示すものと思われる。それは具体的にはまず、地割りの決定のプロセスへの関与と結果の多様性となってあらわれた。
 当初3270.9uuの1筆の土地を、14世帯分と共有地分の15筆に分割するにあたり、コープ住宅独特の陣取り合戦がおこなわれた。その前段階で、土地の中央部に各世帯の専有地から40〜50uuを共用地として拠出し、全体として750〜900uuの共同庭を確保することがルール化されていた。そのため、土地全体の北側に建物を配し、南側に共同庭をとり、そこに面してテラスを設け、テラスでの日照に恵まれた屋外生活をイメージする北側タイプと、あいの里地区は札幌でも雪が多く、風が強いことで定評のあるところだが、それらを避け、春先に雪解けの早いことを優先する南側タイプの2タイプに大きく分かれた。その中でもとくに、日照条件や経済条件のよい南西の角地に4名の希望者が集中した。調整には困難が予想されたが、この角地の西側道路は、JR駅から高校へ通う高校生の通学路になっているので、パンの店舗が立地するのが望ましいという全員の合意が得られて決定したのである。つまり、均質である場合よりもむしろ、個性的である場合の方が、こういう問題を解決する重要な手がかりになることもある、ということである。
 全体の土地の中での各世帯の位置関係が決定した後、敷地の規模とかたちの調整がおこなわれた。敷地規模の要求は、広い専有庭で家庭菜園を楽しむ、あるいは共同庭を活用するので専有庭は少なくともよいとするなど、各世帯のライフスタイルと、費用負担との関係で決まる。一方、全体の土地は、西側がもっとも奥行きが狭く、東にいくほど奥行きが深くなる形状をしている。したがって、日照条件に大きな影響を及ぼす敷地間口に関して、その平等化をはかるとすると、面積の小さいものほど西側に、大きいものほど東側に配するのがよいのであるが、しかし、各世帯の位置の希望を優先したために、規模の大きい敷地が西側に3つ固まり、もっとも奥行きの深い位置には狭い敷地が固まるという問題が生じた。そのため、狭い敷地に配慮して、間口を8.5m以上とすることをルール化した。
 このように、敷地割りの決定プロセスにおいて、一般的によくおこなわれる、日照条件や経済条件等のさまざまの居住条件を点数化し、それを費用に換算するという方法はとらず、居住者の要求、土地の形状や周辺状況等の与件、場所との関わりを大事にし、臨機応変の方法をとったことが特徴である。
 図1は地割りの決定案であるが、従来の一般的な宅地割りではみられない、各敷地の形状も規模もきわめて多様な姿を示している。敷地形状では、全体の土地の形状が影響して不整形のものがいくつかみられるし、間口が狭く奥行きの深いものが多いが、全く逆のケースもある。規模では、最小が152uu(約46坪)、最大が315uu(約95坪)と2倍以上の開きがあり、その間の50坪台、60坪台を中心として、70坪台、80坪台もある。(表6)こういう敷地の多様化は、もとをただせば居住者の階層の多様性に起因するものであり、逆にいえば、このような敷地の形状、規模の多様化をはかると、居住者の階層が多様になる可能性が生まれてくるかもしれない。
 先にも述べたとおり、敷地は各戸の専有地、共有地、共用地の3種類がある。(図1)14世帯の居住者全員の合意によって締結された「あいの里コーポラティブ住宅建築協定」(以下、「協定」という)の第3条で、共有地は「土地登記簿に掲載された、協定区域内の土地の所有者全員による区分所有、共有名義の敷地」、共用地は「協定区域内の土地の所有者が共同で利用するために各専有地の中から拠出された一定規模の敷地」と定義されている。さらに、第4条の協定の基本的な考えの中で、「共用地は、共有地と一体的にまとまった広さをもつコミュニティスペース(以下「共同庭」という。)として、もしくは周辺道路からの景観を形成するオープンスペースとして寄与するものとし、その範囲については土地の所有者等の全員の合意により別に定めるものとする。」「共同庭については、積極的に植栽をおこない、その植栽については建築デザインと調和し、エコロジカルで四季折々の多様な暮らしを楽しむことのできるよう創意工夫する。」「共有地に適切な規模の集会所を設け、住民の会議、パーティー、イベント、趣味の場、子供たちの遊び場、その他さまざまのコミュニティ活動に寄与するものとする。」と定められている。
 専有地だけでない、共有地と共用地の多様な種類があり、14世帯から拠出された共用地と共有地をひとつの共同庭として束ねることで、広々としたコモン・スペースを生み出し、そこでの多様な生活イメージが展開されている。
 協定には定められていないが、居住者の申し合わせにより、共同庭側の共有地、共用地、専有地には塀、柵などの立体的な境界をつくらないルールが取り決められている。したがって、各戸からの共同庭の眺めは、ひとつの大きなスペースとして視覚化されることになる。各自の生活領域が、視覚的には自分の専有地をこえて、他世帯の専有地である共用地までも含まれることが予想される。視覚のみならず、実際の生活の場としての活用も含めて、自分のものであるという感覚をともなう、ある広がりをもった各自の生活領域が重なり合うようになれば、自分のものであると同時に他者のものでもあるという、その重なり合うところに、共有の概念が生まれる可能性があると考える。この点については、全体の完成後に検証してみたい。


4.建物配置の多様性
 一般的な1戸建ての建て方だと、隣棟間に日当りも悪く、庭として利用することができないデッドスペースが生まれてしまうことがある。それを極力少なくし、広々とした共同庭を確保するために、住宅の建て方は2戸1の長屋建てを基本タイプとしている。しかし、金融公庫の融資の関係で、2戸1にできないケースがあり、そこは戸建てとすることにし、そのためもう1戸も戸建てとなった。ここでもルールは固定化されておらず、臨機応変の対応がおこなわれている。
 また、長屋建てとはいっても、従来の界壁を共有するタイプではなく、上屋のあるカーポート、外物置や灯油タンク置き場を2戸で共有し、そこに住宅本体がつながるタイプが主である。(図2)このタイプでは、カーポート上屋が各々の住宅本体とも一体的にデザインされているし、2戸分のカーポート上屋としても一体的にデザインされるという、3者間の相互作用が働いている。
 住宅と共同庭との関係性を高め、共同庭での生活をより活動的なものにするために、共同庭側には原則としてテラスやバルコニーを設置することになっている。(図2)すでに、家族単位のバーベキューや納涼、組合員全体でのバーベキューやパーティーなどに使われている事例がある。テラスやバルコニーは長屋の2戸が互いに向かい合うところや、2戸1同士が隣り合うところにも設けられ、相互のプライバシーを適度に和らげる装置となっている。


5.街なみの多様性と複合性
 街なみについては、協定の第4条で、「建築物の形態及び意匠については、画一的で単調な景観に陥らぬよう、個々の建築物はあくまでも個性的でありながら、全体としてまとまりのある、調和のとれた街なみをつくるよう創意工夫する。」「建築物の主要な棟には傾斜屋根をつけるものとする。ただし、雪処理上傾斜屋根が無理な部分では陸屋根でも良しとするが、その場合はとくに街なみとの調和を図るよう配慮する。」「各住戸への日照は、とくに居間等の主室における冬の日当りを十分確保するよう、建物の配置やデザインに配慮する。」の3点を基本理念としてあげている。それにもとづき、協定の第8条で、「傾斜屋根の勾配は10分の5とする」基準を定め、その他の「建築物の屋根及び外壁の色彩・窓枠・アプローチ部分、附属建築物、灯油タンク、門灯・外灯、塀、シンボル的工作物、電線・電話線、テレビアンテナ等については、第14条に定める協定運営委員会が別に定めるものとする。」としている。これについてはまだ明文化されていないが、実施設計の過程の中で、コーデーネーター、居住者、設計者の3者間で表7のようなデザインガイドラインが積み重ねられつつある。これらはいずれもまとまりをつくろうとする、複合化への働きであるといえる。
 これにたいし、居住者が多様であること、住戸平面が多様であること、設計チームが5社からなり、必ずといっていいほど各々のカラーがでること、2戸1同士でも設計者が異なることなど、多様化に向けての力がさまざまの方向から働いており、各住戸が個性的な形態となることは避けられない。その集合による、まとまりのある街なみをつくる上で、協定やデザインガイドラインにみられる、屋根、外壁の材料、色彩の調和をはかること、とりわけ屋根の統一は大きな効果を生んでいるように思われる1)。


6.まとめ
 あいの里コープの居住者、地割り、住宅の建て方について、その多様性をあきらかにしたが、複合性についての検討は不十分であった。ただし、可能性としては、大きな家族、一つの土地、小さな町への志向が感じられる。
また、それぞれに相互作用が働き、相互に関係づけられ、つながりが生まれていることがわかった。街なみについては、多様性と複合性の視点で論じることができ、両者のせめぎあい、相互作用の中で、街なみが形成されつつある。
 複合性というのは、まとまろうとする働きの結果としてあらわれてくるもの、あるいはその働きそのものといえるかもしれない。それがまさに「協同」であろう。
 あいの里コープの場合、これまでは、全体として力を合わさなければプロジェクトそのものが成立しなかったので、一つにまとまろうとする力が必然的に生まれてきたといえる。しかし、今秋、全体が完成した後、その力が失われた時、あらためて「協同」のあり方が問われるであろう。まとまろうとするにはシンボルが必要であり、それはある姿、形をともなうものであると筆者らは考える。共同庭とよばれるコモンスペースに可能性があるように思われるが、それがどのように育てられていくのか、今後に注目したい。

[注記]
1)足達富士夫は「北海道の住宅地では、私は屋根勾配についての協定が有効だと思う。勾配をひとつに統一することも考えられるが、雪処理のことも考えて、一定地区内で、たとえば8〜10寸勾配と水平屋根の2種類に決める。形はいろいろでよい。それだけでも町並景観はずいぶん整理されるだろう。」と指摘している。(足達富士夫:北の住まいと町並−もうひとつの生活空間、北海道大学図書刊行会、1990年2月)

 表1 居住者の家族構成
┌────────────────┐       
│夫婦+子ども…………………5世帯│
│夫婦+子ども+夫婦の親……1 │
│夫婦のみ………………………4 │
│世帯主(女性)+子ども……1 │
│世帯主(女性)+親…………2 │
│世帯主(女性)+親戚………1 │
└────────────────┘

 表2 居住者の年齢構成
┌────────────────┐
│幼児………7人 30代………7人│
│小学生……3 40代………6 │
│中学生……1 50代………9 │
│高校生……2 60代………2 │
│大学生……2 70代………1 │
│20代………2 80代………1 │
│ 不明………1 │
└────────────────┘

表3 居住者の世
    帯主の年齢
┌───────┐
│30代……3世帯│
│40代……4 │
│50代……5 │
│60代……2 │
└───────┘

表4 居住者の世帯主の職業
┌───────────┐
│民間企業勤務……7世帯│
│公務員……………3 │
│自営業……………2 │
│リタイア………………2 │
└───────────┘

表5 居住者の世帯の収入
   (税込み年収)
┌───────────┐
│ 400万円未満……1世 │
│ 400万円台………3 │
│ 500万円台………3 │
│ 600万円台………0 │
│ 700万円台………2 │
│ 800万円台………3 │
│ 900万円台………0 │
│1,000万円以上……2 │
└───────────┘

表6 各世帯の専有地の規模
┌────────────────────┐
│150uu以上〜165uu(約50坪)未満………1世帯│
│165uu  〜200uu(約60坪)  ………4 │
│200uu 〜230uu(約70坪) ………5 │
│230 〜265uu(約80坪) ………2 │
│265 〜300uu(約90坪) ………1 │
│300uu 〜330uu(約100坪) ………1 │
│ MIN:152.92uu,MAX:315.41uu │
└────────────────────┘

 表7 デザインガイドライン
┌───────────────────────┐
│●デザイン上留意すべき基本的な事柄−周辺との関係│
│ に配慮すること │
│・とくに敷地の接する隣家との関係(配置のデザイン│
│ )−日当たり、屋根雪の処理(原則、共同庭側へ│
│ 落雪させること)、プライバシー、応答する暮らしの│
│ あり方に配慮すること │
│・全体の町並みとの調和(外観のデザイン) │
│・共同庭との関係(配置、中間領域のデザイン) │
│ −共同庭側にテラスを設けること │
│●住宅デザインの申し合わせ事項 │
│・屋根の形態、勾配:建築協定第4条(1)のイのとお │
│ り、主要な棟には傾斜屋根、勾配5寸、一部陸屋 │
│ 根も可 │
│・屋根の材料、色彩:鉄板横葺き、濃い灰色 │
│・外壁の材料、色彩:@鉄板葺き−濃い灰色、一部│
│ 茶色、A防火サイディング貼り−白っぽい色、B板貼│
│ り−木そのものの色、の3種類の組合せを基本と │
│ するが、これらに調和する材料、色彩であれば他│
│ も可 │
│・窓:木製サッシュあるいはプラスチックサッシュ、枠の色彩は │
│ 外壁との関係を配慮 │
│・付属建築物:物置、カーポートなどの付属建築物は、│
│ 住宅本体と調和するデザインを考える(市販のプレハ│
│ ブのものは不可) │
│・アプローチ部分:当面は各自の予算にあわせて自由と│
│ する(砂利敷、アスファルト舗装、インターロッキング敷、レンガ│
│ 敷など)が、将来は道路側の一部をインターロッキングあ│
│ るいはレンガで統一する │
│・灯油タンク:見えないように目隠しをする │
│・門灯:町並みと調和するデザイン │
│・塀、柵:共同庭側には設けない。道路側に設ける│
│ 場合には町並みとの調和を考える │
│ │
│組合総会で設計者に報告してもらい、より良い町並│
│み、環境にするべく、みんなで知恵を出し合うよう│
│にしたい。 │
└───────────────────────┘

図1 地割りの決定案

図2 建物配置と敷地の関係