妖怪とりかえっこ

<1> <2> <3> <4> <5> <6> <7> <8> <9> <10>


[6]

ぬ〜べ〜と広の話を柱の影でこっそりと聞いていた人影は美樹だった。
美樹は有頂天になって教室に戻ってきた。自分だけが知った秘密をみんなに話すことに優越感を抱いていた。
だが、放課後の教室に残っていた生徒は数人だったので、美樹は少しガッカリした。
「ねえねえ、ビッグニュース、ビッグニュース!すっごく面白い話を聞いちゃったんだからあ!」
勝、克也、まこと、法子、郷子、秀一が一斉に振り向いた。
「あのね。法子が突然、暴れだ出したのは『とりかえっこ』っていう妖怪が憑依したからなんだって!」
「え〜?妖怪が憑依?」
「うん、ぬ〜べ〜が言ってた。なんでもね、その妖怪が赤ん坊のとき、人間の赤ん坊と魂を取り替えちゃったんだって!」
「魂を取り替える?そんなことができるのか?」
克也が疑わしげに美樹を見た。
「そ、それはよくわかんないけど〜」
美樹が困っていると、博学を自慢している秀一が言葉をはさんだ。
「多分、正確には──人間の赤ん坊が妖怪のDNAを植え付けられたと言った方が当たっていると考えるべきかもしれませんね」
「DNA?何だそれ」
勝が秀一を見た。
「DNAとはデオキシリボ核酸の意味です。生物の体系を司る重要な遺伝子と説明したらいいかもしれませんね」
「よくわかんねえや。そんなことどうでもいい。その妖怪がどうしたって?」
克也が美樹を見た。
「ようするに、『とりかえっこ』っていう妖怪がね。自分の魂を持つ人間を探すために次々と憑依して、確かめているってわけなのよ。しかもね。童守町に住む5年生の体の中に妖怪の魂を持っている子がいるらしいの」
「え〜、そんな!」
美樹の話を聞いてみんなは驚いた。
「それじゃ・・・」
「もしかしたら、この中にも・・・」
「赤ん坊のとき、『とりかえっこ』に魂を入れ替えられて・・・?」
「妖怪の魂を持ってる奴が・・・?」
「いるってわけか?」
それぞれの子たちは顔をこわばらせ、それから疑い深い眼差しで、お互いを見つめた。

「おい克也、お前じゃないだろうな?」
勝がギロッと克也をにらみ付けた。
「ふ、ふざけるな。俺じゃないよ!」
克也はムキになって反論した。
「俺はやっぱり法子に違いないと思うんだ。今日、クラスの中で妖怪に憑依されたのは法子だけだからな」
「ひどい・・・」
法子は両手で顔を覆った。
「克也、なんてこと言うのよ。そんな風に決め付けるなんて、法子が可哀想じゃない!」
郷子が怒って克也をにらみ付けた。
「可哀想とか、可哀想じゃないとかいう問題じゃないだろう。俺は事実を言っているだけだからな。この中に妖怪の魂を持っている疑いが一番濃いのは、法子だって思っただけなんだからよ」
「そういう克也だって変なところがあるわ。もしかしたらあんたが妖怪じゃないの?」
「あっ、美樹なんだよ。お前、俺のどこが変なんだよ?」
「だってえ、克也は禁じられたことを平気でやるじゃない。前にも釣りを禁じられた池で鯉を取ろうとしたし、他にも悪いことを色々やるじゃなーい」
「あ、どうしてそんなことで、俺を妖怪だなんて決め付けられるんだよ?」
「克也は普通の子より、悪いことを多くやるんだもん。もしかしたら妖怪の魂が入ってるからじゃないの?」
「バ、バカヤロー、だったら勝だって怪しいぞ。勝は乱暴者だからな。普通あんなに乱暴になれるものか?やっぱり人間じゃないからかもしれないぞ」
「あっ、克也テメー、俺のことをどうしても妖怪にする気だな。ぶっとばすぞ!」
勝が怒り狂って克也を殴ろうとした。
「や、やめろよ。俺は例えばの話をしただけだよ。おかしいのは勝だけじゃないよ。秀一だって変っていえば変だからな」
「え〜、僕が?どうして?」
「お前は小学5年生にしてはキザすぎるからな。派手なことが大好きだし、贅沢なものをすぐに欲しがる物欲主義者だし。目立ちたがり屋だし、色んなことも知ってるし。普通の5年生とは思えない。妖怪の魂を持ってるんじゃないのか?」
「ホントね。そう言われてみれば秀一って、おかしいところがたくさんあるわよね。キャハハハ・・・」
笑いながら美樹が同調した。
「あ、そういう風な論理で攻めてくるわけですか?でしたら美樹君だって変ですよ。5年生の女の子にしては異常に胸が大きすぎますからね」
「ひどーい!胸が大きいのと妖怪と、どんな関係があるのよ!」
美樹が食って掛かると、秀一が皮肉な薄笑いを浮かべながら平然と応えた。
「平均的人間の成長じゃないって言ってるんですよ!」
「だったら郷子だって異常だわ」
「え?私が?」
矛先が自分に向いてきたので、郷子は戸惑った。
「だって、5年生の女の子にしては、郷子の胸は小さすぎるんだもん。前から変だと思ってたのよ」
「どーせね。私の胸はペチャンコですよ。でもね。この頃は違うんだから!お風呂に入った時、鏡に体を映してみるとね、前よりも急激に胸は大きくなってますよ〜だ!」
「それがおかしいのよ。急激に胸が大きくなってきたってことは、妖怪『とりかえっこ』が動き出したのが原因で、体調に異常をきたした。そうとも考えられるじゃないの」
「そういうのって、へ理屈って言うのよ」
「ボクもそう思うのだ」
まことがうなずいた。
「あら、まこと、そう思うって言うのは郷子の考え方に賛成したの?それとも私の考え方に賛成したの?」
美樹がにらむと、まことはたじろいだ。
「そ、それは・・・つ、つまり・・・だから・・・ボクは・・・分からないのだ」
「あっ、妖怪はまことかもしれないぞ!」
突然克也が叫んだ。
「え?ボクが・・・?」
まことが怯えたように克也を見る。
「そうさ。まことは5年生にしては体が小さいし、口もよく回らないし、普通の5年生と比べるとやることが幼いしな。それに変に怖がりやのところもあるし。まことが本当は妖怪『とりかえっこ』かも?」
「そうだ。克也の言うとおりかもしれねえ。まことが妖怪だ!」
勝が決め付けるように言った。
「僕もそんな気がしますね」
秀一も同調する。
「そ、そんな・・・」
まことは今にも泣きそうになった。
「みんな、ひどい。弱い者いじめはやめなさいよ。こんなのってサイテーのイジメよ!」
郷子は真っ赤になって怒り、克也と秀一と勝をにらみ付けた。
図書室から戻ってきたぬ〜べ〜と広は、廊下で唖然となっていた。
それぞれの生徒達が意地の悪い顔をして、にらみあっている。
──誰もがみんな冷たい目をして、お互いを疑いの眼差しで見ている。
──このままじゃ、みんながいがみ合ってバラバラになっちゃう!
広は不安になってぬ〜べ〜の顔を見た。
「まるで何かに呪いをかけられ、罠にはめられたかのようだな。でも心配するな。俺が妖怪の姿を暴いて必ず解決してみせる。俺にまかせとけって!」
ぬ〜べ〜は安心させようと広の肩をポンと叩いた。
──それぞれの生徒達が人間不信に陥っている。疑心暗鬼になっている。
ぬ〜べ〜は教室に残っている生徒達の冷たい雰囲気を感じ取り、なんとかしなければならない、と強く心に誓った。
しかし──
成す術もなく、一日が過ぎていった。


[7]

翌日は重く陰気な雲が空を覆っていた。
低い雲が今にも雨を降らしそうに垂れ込めている。
郷子は暗い空を見上げ、小さくため息をついた。
「こんな日は憂鬱になっちゃうなあ・・・」
──数日前からなぜか、ふいにこみ上げてくる寂しさのせいなのかもしれない。
灰色になった町並みを眺めて、再びため息をついた。
それが最悪の日になる予兆だとは知らずに、郷子は家を出て学校に向かった。
昨日の放課後のみんなの態度が気になっていた。
克也や勝や秀一やまことたちが、それぞれお互いに疑いを持って、いがみあった。ましてや大の仲良しの美樹とも思わず口ゲンカをしてしまった。
──このままでは今度はクラス中で大騒ぎになるに違いないわ。みんながお互いに疑いを持って、クラスの友達がバラバラになってしまう。
郷子の気持ちは滅入った。
しかし、教室に入ると、美樹も克也も勝もまことも秀一も、昨日の話を持ち出すことがなかったので、少しホッとした。
一時間目の授業は算数だった。
「先生はちょっと用があってな。教室を出なければならない。今日の一時間目の授業はテストをやる」
ぬ〜べ〜がいきなり言い出した。
「え〜っ、急にテストだなんてえ〜」
「ひどいよぬ〜べ〜!」
「鬼!悪魔!」
生徒達から非難の声が起こった。
「いいか!カンニングなんかしたら承知しないからな」
ぬ〜べ〜はそう言ってテスト用紙を配り、教室を出て行った。
「チェッ!ぬ〜べ〜の奴、抜き打ちテストなんでひでーぜ」
文句を言いながらも生徒達は配られたテスト用紙に向かい始めた。
「ホントホント!ひどい奴だ」
郷子もふてくされながら、テスト用紙を見た。
「きょうこ・・・・きょうこ・・・・」
その時、どこからか自分を呼ぶ声が聞こえてきたように感じた。
<BACK>                                     <NEXT>