妖怪とりかえっこ

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[3]

翌朝──
童守小学校の5年3組は広が見た悪夢で話がもちきりだった。
「イヤだあ〜?広も変な夢、見たの〜?」
美樹が驚いたように広を見た。
「私もね。昨日の夜、こわい変な夢を見たんだから」
「美樹、どんな夢見たんだよ?」
金田勝が興味深そうに美樹に聞いた。
「私ね。この頃ますます巨乳になってきたでしょう。このままどんどん大きくなったらどうしよ〜って、近頃ちょっぴりだけど、悩み出しちゃったのよ。その影響なのかしら、おかしな夢を見ちゃったのよね」
「おい美樹、それは郷子に対する嫌味じゃないんだろうな?」
勝が面白そうに言って、あてつけのように郷子の胸元を見た。
「あ、この!勝、私の胸がちっちゃいからって馬鹿にすんじゃないわよ」
郷子は勝の頭をポカリと叩いた。そんな郷子を見て、美樹は真顔で答えた。
「そんなんじゃないってば!夢の中でね。私、片方の乳房がなくなっちゃったのよ。変だなって思ってたら、突然、枕もとに私たちと同じ年くらいの男の子が現れてね。なくなった片方の乳房を取り戻したければ、童守北病院に行けって耳元でささやいたの」
「え〜?ウソ!」
「イヤだあ!」
側にいた生徒達がいっせいに叫んだ。
広も驚いて美樹の顔を見た。
「美樹、お前、俺の話を聞いて、おんなじような男の子が現れたなんて、面白がっていいかげんな作り話をしてるんじゃないだろうな?」
「ジョーダンじゃないわよ。ホントに見たんだから!」
「あら、私の夢の中にも5年生くらいの男の子の影が現れたわ」
「イヤだあ、私もよ」
「俺もだ」
「ボクもなのだ」
中島法子が言うと、他の生徒達も次々と不思議そうに答えた。
「それは奇妙なことですね。ボクの夢の中でも広くんや美樹くんと同じような男の子が枕元に現れましたよ。ボクの場合は耳を探せって言いましたけどね」
話に首を突っ込んできたのは白戸秀一だ。
「耳だって?」
「そうですよ。耳は音楽家にとっては絶対に必要な体の一部ですからね。ボクは夢の中すぐれたピアニストになっていたんだ。ところが突然、片方の耳がなくなっちゃったんですよ。それで困っていると、君たちが話したのと同じような男の子が現れたって訳です」
「なんだよ?秀一もか?俺の夢の中でも同じようなガキが現れてよ。俺に無くしたものを探せって言うんだよ」
「金田、お前は何を無くしたんだ?」
「あ・・・そ、それは・・・」
いつも粋がっている勝がちょっと照れたように顔を伏せた。
「勝、何を無くしたんだよ?」
「体のどこを探せって?」
「なんだよ。はっきり言えよ」
「照れてないで言いなさいよ」
周囲の生徒達が勝に詰め寄った。
「ギャーギャーギャーギャー、うるせえな!言うよ。ちくしょう、言えばいいんだろ。俺が無くしたのはな・・・男の一番大事なモンだよ!」
勝が叫ぶと、一瞬、生徒達が呆れたように口をぽかんと開けた。
「何だって?金田、キンタ・マサルの名前にぴったりのものじゃねえかよ!」
広が茶化した。
生徒達が爆笑すると、勝は顔を真っ赤にして怒り狂った。
「テメーら、今、笑ったやつは後でギタギタにしてやっからな!」
「私のことを胸が小さいなんて馬鹿にしたくせに、怒るなんておかしいわよ」
郷子が逆に勝をにらみつけた。
「それにしても変なのだ。皆が夢の中で不思議な男の子を見たのだ。しかも、誰もが体の一部を無くしちゃうし・・・それを探しに行くところが童守北病院だなんて・・・偶然と言ってはあまりにも不思議すぎるのだ」
まことの言葉に誰もがうなずいた。
「で、まことも童守北病院に行ったのか?」
「ぼ、ぼくは怖くて行かなかったのだ・・・」
「俺も・・・」
「僕もです」
克也と秀一が同時に答えた。
「んもう,意気地がないんだからあ。私は行ったわよ。そしたら広と同じようにね、荒れ果てた病院の中が墓地になってたの」
美樹はちょっぴり得意げに言った。
「勝、あんたはどーなの?」
「あ、あたりまえだろ。オ、オレだって行ったさ。病院のドアを開けて中に入ったら、ひでえ荒れ果てた墓場があってよ。地の底からうめくような声が聞こえてよ。次々と亡霊が襲ってきたんだ。それでオレは言ってやったんだ。オレの大事なものを返せってな」
「そしたら?」
美樹が面白そうに聞いた。
「オレは襲い掛かってきた亡霊の奴らを滅茶苦茶に殴り倒してやったぜ。そしたらな、亡霊の奴らは『許してください!』って謝ってな。オレの大事なものを返してくれたってわけさ」
「なんだか、作り話みたーい」
「ホントは怖くて行かなかったんじゃないの?」
「バ、バッキャロー!オレには怖いものなんてねーんだよ」
「ねえねえ勝、童守北病院にはどうやって行ったの?」
「だ、だから、その、えーと・・」
「あ、やっぱり行ってないんだ」
「う、うるせーな。オレはどーせ夢に違いないって思ってたからな。わざわざ行くことはねえと考えたんだよ。夢を真に受けてよ、それに振り回されてオロオロするなんてアホ野郎のすることだぜ」
勝は言い訳がましく言って立ち去った。
「チェッ、自分の意気地のないことを棚に上げて、アホだなんてよく言うぜ」
広は舌打ちして、生徒達を見回した。
「すると、夢を見て童守北病院に行ったのは誰と誰なんだ?」
「私!」
美樹が手を上げた。
「私も行ったわ」
オズオズとしながら法子も答えた。
「他には・・・」
だが、二人の他は誰もが首を振った。
「郷子、お前は夢を見なかったのか?」
広はしばらくの間、黙っていた郷子の顔を見た。
「そんなくだらない夢のことなんて、どうだっていいじゃない。バッカみたい」
郷子は軽蔑気味に言って顔をそらした。
「それじゃ、郷子、お前は夢を見なかったのかよ?」
「見たわよ」
「だったら、みんなが同じような夢を見て、変だと思わないのかよ」
「そりゃあ、思うけど・・・だから、何だって言うの。やっぱりくだらないよ」
「そうかな・・・・?」
広は郷子の態度を少し不審に思った。
──郷子は確かにいつもと変わらない。男の子のような口調で接してくる。でも、なんかちょっぴり寂しそうだ。
ふいにそう思ったが、ぷいっと顔をそむけた郷子の態度を見て、自分の勘違いだと思い直した。
──それにしても変な夢だ・・・
広はクラス中の生徒たちが見た不思議な夢の偶然に不安を抱いた。

       

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