妖怪とりかえっこ

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これはノベルズジャンプ(雑誌名自信なし)に載っていた、アニメの脚本家の富田祐弘さんが書いた小説です。もう絶対に本他のメディアで出版される可能性がないものだと思うし、持ってない人も多いようなので、書き写して載せてみました(一字一句間違いなく、という訳にはいかないですけど)でも著作権はもちろん冨田さんにあるので、お間違いなく。万一公式に注意が来たり、HPスペース的に支障を覚えたら消しますので。自分のHP等でここの存在を知らせても構いませんが、公式HPの掲示板はやめてくださいね(^^;;)また私の表の掲示板で書くのも、無断転載もやめてくださいまし〜。

プロローグ

鵺野鳴介・愛称ぬ〜べ〜は今夜もあこがれの高橋律子先生のことを考えていた。
──律子先生の夢を見られるといいなあ。
そう想いながらベッドにもぐりこんだが、それは律子先生の夢などではなかった。
夢の中で激しく雪が降っている。
──おいおいおい、ゆきめが夢の中に霊気を吹き込んで、割って入ってきたのかあ?
夢うつつの中でぬ〜べ〜はあわてたが、それも違った。
まさに奇妙な夢だった。

凍てつく冬の雪国の山々は激しく降りしきる雪で白一色に覆われていた。
灰色に染まった原野には突風が吹き荒れ、白い雪が乱れ飛んで渦を巻いている。
ゴーゴーと渦巻く雪の原野は少し先も見透かすことのできない無彩色の闇と化し、近くに連なる山々が茫洋と霞んでいる。その酷寒の樹氷の原野を、一匹の異様な生き物がものすごい勢いで走っていた。
突風で煽られて走っている生き物は山猫のように見えた。全身はふさふさした毛で覆われている。
だが、激しい雪に濡れて、体を覆った毛も今ではもはや防寒の役目を果たしていない。
ヒュルルル〜ヒュルルル〜
四方八方から吹きすさぶ風が樹氷を激しく揺らし、積もった雪を巻き上げた。
ブリザードが辺り一面を多い、霧のように視界を悪くする。
生き物は周囲に視線をやり、嗅覚を働かせるかのように鼻をクンクンと鳴らした。
そして、ふいに捜し求める相手を見つけたかのように鼻をピクンと動かし、ひと吠えすると、一方に向かって走り出した。動きは俊敏でまるで妖怪のようだ。
数百メートルほど走ったところにひときわ大きな樹氷が立っていた。生き物はその樹の下で立ち止まり、前足で雪を掻き分けた。
すると、樹氷の根元の雪の下に体が半分ほど埋まった、老いた生き物が倒れていた。真っ赤な血で染まった体には鋭い斧で切られたような深い傷がついており、瀕死の状態だ。
息も絶え絶えに横たわっている老いた生き物は、死を直前に迎えた母親だった。
「わたしは・・・もうすぐ・・・しぬ・・・」
老いた生き物が弱々しい声で言った。
「誰に・・・やられたの?」
その問いかけには応えず、老いた生き物は弱い声で続けた。
「お前は・・・人間の心を・・・持っている・・・」
「にんげん?」
生き物は驚きの声を上げて母親を見た。
「お前が生まれたとき・・・お前と入れ替わった人間を・・・探して・・・力を・・・つけるのです・・・そして・・やつらを・・・消し去るのです」
そこまで言って老いた生き物はガクッと、頭をのけぞらせて息絶えた。
「やつら?やつらって誰なの?」
だが、既に答えはない。
「ウオォォォォォォ〜ッ!」
まだ温もりのある屍を抱きしめるようにして声を限りに慟哭した。その悲しみの叫びは激しく吹き荒れる雪の原野にこだました。
何時間、吠えつづけていただろうか?
やがて、諦めたかのように前足で雪を掻き、冷たくなった屍を埋めていった。
その時、猛吹雪の中、激しい風音に混じってどこからか声が聞こえてきた。それは大自然を司る神々の威厳ある声であるかのごとく、大地に響き渡った。
『お前の母親を殺したのは人間どもだ・・・恨め・・・憎め・・・人間どもに憎しみを抱き、人間どもを皆殺しにするのだ』
生き物は白く霞む天を仰ぎ見た。それから、激しく吠えた。
それは死を悲しみ、人間に対して恨みと憎しみを持った怨念の叫びであった。

ぬ〜べ〜はうなされて目が覚めた。
気づくと朝になっていた。
──不思議な夢だった・・・
──俺の霊感が何かを感じたのか?
ぬ〜べ〜は少し不安になったが、後で恐ろしい事件が起きようとは、この時、まだ予想することさえできずにいた。

[1]

「律子先生〜、お願いがあるんですが?」
放課後、職員室から出てきた律子先生にぬ〜べ〜は声をかけた。
「あら、何でしょう?」
振り向いた律子先生の笑顔にぬ〜べ〜はクラクラっとめまいを感じた。
──このつぶらな瞳に見つめられただけで、失神しちゃいそ〜だ──
「鵺野先生、お願いって何でしょう?」
「え?あっ、あ〜、おもしろい映画のチケット、手に入れたんですけど、一緒に見に行きませんか?」
「またオカルト映画かなにかでしょう?」
「はっははは・・・今度は違います。ラブストーリーですよ。ある若者がダンサーに恋をするんです。でもダンサーには恋人がいて、若者は無視されるという悲恋の物語です」
「あら、そ〜ゆ〜物語、私、好きです。それで、その悲しい若者はどうなるんです?」
「好きなダンサーを付け回してストーカーになるんです。それでも拒まれると、ついには哀しみのあまり自殺して、恨みと憎しみで、その霊魂が凶暴な妖怪になってダンサーに襲い掛かるんです」
「キャアアアア〜ッ!そんなの嫌いです!」
バキイイイィィ〜ン!
ぬ〜べ〜は顔面を叩かれてのけぞった。
──クワッ、今度はホントに失神だあ!──
ぬ〜べ〜は廊下にぶっ倒れた。
「相変わらずバッカだねえ、ぬ〜べ〜は!」
「なんでもっと甘いラブストーリーの映画を選ばないのよ〜」
「女心を分かってないんだから〜、サイテーね」
物陰でこっそり見ていた広と郷子と美樹がいっせいにはやし立てた。
「郷子、美樹、何を言っても無駄だよ。ぬ〜べ〜ったらホントに気絶しちゃってるぜ」
「あっ、ホントだ」
「でもニヤニヤ笑ってるわよ。気絶したまま楽しい夢でも見てるんじゃないの?」
「律子先生とデートする夢かなにか見てるのかしら?」
「チェッ、気楽でいいぜ。俺なんかこの頃、イヤな夢ばっかり見てるんだ」
「え?広、どんな?」
「たとえばテストが0点とか!」
「だったら夢じゃなくて現実のことじゃないの?」
「あ、ひでえ〜!」
郷子と美樹は笑った。
「こうなったら今夜は絶対100点を取る夢をみてやるからな」
広はそう思いつつ家に帰った。
しかし、その夜も試験で0点を取る悪夢を見てしまったのである。

[2]

悪夢にうなされた広は息苦しさを感じて目を覚ました。
気づくと体中が汗びっしょりになり、パジャマが湿ってベタベタしている。
──また0点か・・・いやな夢だった。
薄暗い部屋を見回すと、赤く小さな豆電球がポツンとついているだけだ。
──何時なんだろう?
ふっと枕もとの間ざま氏時計に視線を移そうとした時、どこからか低い声がした。
「2時だよ・・・」
よどんだその声は聞き覚えがない。
広はいぶかしげに布団の足元の方を見やった。すると、部屋の片隅に黒い影がうずくまっていた。それは小学5年生くらいの男の子の様に思えた。
「ゲッ?な、なんだお前は」
広は布団をはねあげて起き上がった。
黒い影は薄暗い部屋の片隅で眼だけをギラギラと光らせながらつぶやいた。
「お前はやらねばならぬことがある」
「誰?誰なんだ?」
だが、黒い影は赤い眼を鋭く光らせながら、広をじっと見つめて言った。
「お前は左の小指を無くしている」
「なんだって?」
「なくした小指を探したくはないか?」
「なくした小指?ど〜ゆ〜ことだ?」
広はふっと自分の左手を見た。すると、驚いたことに左手の小指がなくなっているではないか。
──バカな?いつこんなことが?
──指がなくなっているなんて?
──変だ。これは夢だ。夢を見ているに違いないんだ。
広は自分の頬を思いっきりつねってみた。痛みを感じた。
──これは・・・夢じゃないのか?
「さあ、小指を手に入れたければ俺の言う通りにするがいい・・・」
「お前の言うとおりにする?」
「童守北病院に行け!」
「童守北病院?童守南第一病院なら知ってるけど・・・童守北病院なんてもうないぞ・・・間違いじゃないのか?」
「ある・・・必ずあるから行くのだ。そしてそこでお前の体の一部を見つけ出すのだ。行かなければお前の小指は永遠に取り戻すことはできないだろう・・・」
黒い影はうめくように言うと、みるみるうちにその姿が薄れていった。
「あっ、待て!待ってくれ!」
広はつかもうとしたが、影はこつぜんと消えてしまった。

「いったいこれはど〜ゆ〜ことだ?」
広は布団の中で呆然と座っていた。
──こんなバカなことが?
広は自分の失われた小指を見て、しばらくの間混乱していたが、気持ちが鎮まると、このままではいけないと思った。
──とにかく、あいつが言った通り、童守北病院に行ってみるしかない!
広はまだ夜も明けぬ外に飛び出した。そして、童守町の北の外れに向かった。
ヒュルルルル〜
もうとっくに春になっているにも関わらず、薄暗い夜の童守町には冷たい北風が吹いていた。
広の記憶では、童守北病院はすでに5年ほど前に潰れて、今では廃墟になっているはずだった。
──童守北病院に行けとはどういうことなのか?
心に不安が湧きあがる。
広は息を切らしながら一目散に童守北病院に向かった。童守橋を渡り、川沿いの道を進むと、廃墟となったかつての童守北病院の建物が見えてきた。
雑草が生えた庭は荒れ果てていた。
──やっぱり、廃墟のままだ。
ヒュルルル〜!
北風にあおられて、壊れかけた建物の扉がバタンバタンと揺れている。広は病院の中に入ろうと意を決した。
壊れた扉を開ける。ギギギギ〜と、さび付いた扉のきしみ音がする。
玄関の床は朽ち果て、いたる所がひび割れていて、その間からも雑草が生えていた。
目の前には長い廊下が続いている。広は震える心にムチ打って、奥にある診察室とかかれたプレートのある部屋の扉を開けた。
「ああっ!な、なんだ、これは?」
扉を開けて、中を見た広は愕然となった。
そこは診察室などではなかった。薄気味の悪い墓地が広がっていたのだ。
「こんなことって?」
荒涼とした墓地を呆然と眺めた。多くの墓石が所狭しと並んでいる。
しかも、荒れ果てた墓地に冷たい風が吹いていた。
──異次元世界?
体の骨がピシピシと音を立てて凍りつく。恐怖を感じて、広は硬直した。
足元を見ると、幾つもの白骨が落ちて、散らばっている。
不気味に並ぶ卒塔婆を眺めながら、広は思わず身震いした。
卒塔婆がガタガタと揺れ、その地中から幾つもの手が伸びてきた。
「私の小指を返して・・・」
「私の小指を返してくれ・・・」
墓場のいたる所から甲高い女の声やうめくような男の声が聞こえてくる。まるで地獄の底から恨みを込めて訴えているようだった。

「よく、来たな。広・・・」
激しい風にゆらゆらと揺れる卒塔婆の向こうからうめくような声が聞こえてくる。
「お前は!!」
それは広の部屋にいた影の声だった。
「これは一体なんだ?なんで、俺をこんなところに誘い込んだ?」
広は勇気を奮い立たせて声のほうに向かって叫んだ。
「お前も資格のある一人となった」
「資格?なんの資格だ?」
「いずれ、お前の魂をもらいにいく時が来るかもしれない。ふふふ・・・」
くぐもった笑い声がして消えた。
「おい待て!なんの真似だ?」
広が叫んだ途端、目の前が真っ暗になり、闇の世界が広がった。そして、真っ赤な血が広の手に滲んだ。
──小指?
真っ赤な血に染まった小指が、広の手に張り付いている。
「この小指はいったい?」
そう考えたとき、暗い周囲がパーッと輝き始めた。目の前に広がっていた墓地がみるみる消えうせ、闇の地平線から太陽が昇り、広の顔を照らし出した。
「夜明け?朝なのか?」
つぶやくと同時に目が覚めた。
気づくと窓から朝の光がさんさんと輝き、広の眠るベッドを照らしていた。
──夢・・・夢の中で新たな夢を?
広は不思議な体験に驚いた。
そして、すばやく左手を見た。手には小指がしっかりとついていた。


                       

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