予  感(改訂版)


作・カレス(現・龍月)様



 白い息が宙へと舞い消えていく。冷たい外気が九峪の肌を切り裂くようだ。
「うわっ、さみぃ〜」
 情けない声を出して体を縮ませる九峪。しかしそれでもなお、寒さは襲い掛かってくる。師走の寒空の下に九峪は一人で望楼にいた。朝から妙に嫌な予感がしていたため、気分転換しようと思ったのだ。
「……今日は……大晦日か……」
 九峪に残された時間、いや耶麻台国に残された時間は、少ない。
 天魔鏡の精・キョウが言うには、あまり長い時間神殿から離れていると天魔鏡が力を失ってしまう。
「……なんとしても、勝たなくちゃならない……俺のためにも、みんなのためにも」
 まとわりついた嫌な予感を振り払うように、強い意志を宿して九峪は空を見上げた。
 空は、どんよりと暗く、曇っていた……。



「九峪様」
「ん、伊万里か?」
 九峪が振り返った先にはその言葉通り、伊万里がいた。
「九峪様、こんなところで何をなさっているのです? 風邪をひいてしまいますよ」
「いや、ちょっと考え事をしていただけさ。伊万里はどうしたの?」
「えっと、あの……そう、軍の訓練の帰りなんです」
 それはとっさに出た嘘だった。実は伊万里は九峪を探していたのだ。そう、明日に迫る大きな行事を成功させるため。
 伊万里に上乃の言葉が蘇ってくる。
(明日の初詣、九峪様他の誰かと行っちゃうかもよ〜。例えば星華様とか〜)
 九峪が自分以外の誰かと初詣に行く。それはあまり好ましくなかった。
 伊万里は勇気を出して九峪に声を掛ける。
「あの、……九峪様……」
 それでもやはり、どこか恥ずかしそうにためらっている伊万里。
「え、どうした、伊万里?」
「あ、あの九峪様。……あ、明日、初詣一緒に行きませんか?」
 奥手な伊万里が自分から誘いにくるということは、九峪にとって少々驚くべきことだった。
「伊万里の方から誘ってくれるなんて。珍しいね。……ああ、いいよ。一緒に初詣見ようぜ」
 九峪の言葉に、伊万里は本当に嬉しそうな笑顔を浮かべる。
「じゃあ、明日の夜明け前に城門前でお待ちしています」
「ああ、わかった。必ず行くよ」
「はい、私、待ってますね!」
 伊万里はそう言いながら駆けて行く。そんな伊万里の背中を見ながら九峪は呟いた。
「あのカッコ、寒くないのかな……?」



「九峪様〜!」
 城へと戻ってきた九峪を遠くから呼びかける者がいた。
 声のしたほうへと顔を向けるとそこには(もっと寒そうな衣装の)志野と珠洲がいた。九峪のもとへ、二人が駆け寄ってくる。
「九峪様!」
「どうした? 志野」
 走って来た為か、志野の息はやや上がり、肌はうっすらと桜色に染まっていた。
 そんな志野に目を奪われていた九峪に、珠洲は目ざとく気付く。
「……九峪様、すけべぇな顔してる……」
 指摘され気付く九峪。慌てて否定する。
「え、あ、いや、そんなことは無いぞ?」
「……そうだよね、もともとだもんね……」
「そうそう……って誰がだよ!」
「珠洲!」
 衝突する九峪と珠洲を志野が間に入って止める。ずっと繰り返してきた、変わらない日常の1コマ。
 しかし、出会った頃こそ本当に反発していた珠洲であるが、今ではもうどこか楽しんでいるようにも見える。九峪もなんとなく気付いているからこそ、本気では怒らないのだ。
「……ったく……。ところで志野、何か用かい?」
「あ、あのですね……明日の初詣、一緒に行けたら……って思って」
「えっ……」
 九峪の脳裏に先ほどの伊万里の顔がよぎった。
(先約は伊万里だしな……。どうやって志野を悲しませずに断ろうか……)
 逡巡している九峪の微妙な表情の変化を、聡明な志野は読み取っていた。
「あの、もしかしてご都合、悪いでしょうか……?」
 志野は悲しそうな声で上目遣いに九峪を覗きこんできた。
(ぐはぁっ……志野、それは反則だって……)
「やっぱり……無理ですよね……」
「……………………………………」
 志野の悲壮な声と珠洲の無言の圧力に、九峪は耐え切れなかった。
「ああ、わかったからそんな声出すなよ、志野」
「はい、では明日の朝、楼閣でお待ちしておりますね?」
 それまでの悲しい表情が嘘だったかのように、満面の笑みを浮かべている志野。
「では、失礼いたします」
 そそくさと去っていく志野と珠洲を九峪は呆然としながら見ていた。


「やばいな……どうしよう……」
 志野の勢いに押されてしまったとはいえ、ダブルブッキングをしてしまった。自分の部屋に戻りながら、腕を組みどうしたものかと考えている。
 そこに……、
「九峪様〜〜!」
「……まさかな……」
 嫌な予感が拭い切れない。
 しかしそれでも九峪には振り向く道しか残って無かった。



「はああああぁぁぁぁ…………」
 特大のため息が聞こえた。もちろん、声の主は九峪である。
「どうしたのさ、さっきからずっとため息なんかついちゃってさ?」
「……ああ、キョウ。……お帰り……」
「う、なんか暗いねぇ……。なんかあったの?」
「……あ、ああ……。ちょっとな……」
「ボクに話してごらんよ?もしかしたら力になれるかもよ?」
「う、ううぅぅ。やっぱりイイヤツだなぁ……お前……」
(そう思ってるんなら、なんでいつもボクを乱暴に扱うのさ……)
 それでも九峪のあまりの様子に心配になって尋ねるキョウ。
「そ、それで……?」
「ああ……明日の初詣、女王候補6人全員から誘われた・・・」
「へぇ……。やるじゃん九峪ぃ。……でも、ちゃんと断ったんだろ?」
「………………」
 何も答えない九峪。
「まさか、誰にも断ってないの?」
「……………………ああ」
 呻くように、声を絞り出す九峪だった。
「……呆れた。……なんできちんと断らなかったのさ?」
「だって皆泣きそうになったり、方術の詠唱始めたり、構えをとったりするんだぜ!? あの状況で断れるか!!」
 実に見事なキレっぷりである。
「あ、あはは……それは……。……でどうするの?全員一緒に行くの?」
「……それこそ血の雨が降るぞ……」
「それも九峪の血がね」
 恐ろしげに身を震わせる九峪に、キョウが容赦ない一言を浴びせかける。
「うわあああああああ!! どうすりゃいいんだ俺は!? 俺が何人もいればいいのに!!」
「諦めて素直に謝りに行って、殴られて来れば…………って、待てよ……?」
 なにやら思いついたらしいキョウ。ぶつぶつと独り言を言っている。
「どうした、キョウ? 何かいい案があるのか!?」
「九峪、還れるよ……ってセリフ間違った。もとい、上手くいくかもよ……?」
「何!本当か、キョウ!?」
「うん、あのね……」





 昨日の曇天の名残など全く感じさせず、夜明け前の空は雲を取り払い、美しい藍色を彼女に見せていた。初日が昇るまでには、もうしばらく時間がありそうである。
 冬の明け方は特に冷え込む。
 彼女は自分の腕でその身を抱いて、寒さを誤魔化す。
 いつも行動を共にする彼女も、今朝は別の誰かと行くと言っていた。そして、自分はここで九峪を待っている。
 好きな人と一緒に、初日の出をみて、初詣をする。それは現代人にとっても大切なイベントの一つだ。いや、クリスマスやバレンタインデーのようなものが無い分、より重要なものなのかもしれない。
(ヨシっ……)
 彼女は心の中でだけ声を出し、気合を入れた。
 その時。
「オ〜〜〜イ!!」
 遠くから声が聞こえた。聞き間違うはずもない、九峪の声だ。
「九峪様ぁ〜〜〜!!」
 腕を振り、声に含ませた嬉しさを隠そうともせず、志野は九峪へと駆けて行った。





「……九峪様、遅いな……」
 そう呟いて、九峪が来るであろう城の方へと目を移した。
(……遅い……もう来てもいい頃なのに……)
 それなのに九峪は未だ現れない。
(……もしかして、来ないのだろうか……)
 不安と孤独から、そんな疑念が湧き上がる。
(まさか、九峪様に限って約束を破るなどなさる筈が無い)
 頭をぶんぶん振って、心の疑念を振り払う。
 もう一度城へと目を向ける。目を凝らしても、九峪の姿は見えない。
 空へと目を向ければ、まだ日は昇っていないにせよ、ずいぶんと明るく白み始めている。時間にはまだ少しの余裕があるが、そんなにゆっくりもしてられない。そんな状況だ。
 先ほどの疑念が、蛇のように伊万里の心に這いよってくる。
(もしかして他の誰かと行ったんじゃ……!?)
 再び、上乃の言葉が思い起こされた疑念は疑念を呼び、やがて疑惑へと姿を変えていく。
(……そうだとしたら…………私は九峪様に選んで貰えなかったんだ……)
 不意にそんな言葉が浮かんだ。心の奥が熱く、それでいて冷たくなり、何かに締め付けられているような気がした。
 そして目の奥からは、熱い、涙が…………。
「お〜〜〜〜〜い、伊万里〜〜〜!!」
 涙が堰を切ってあふれ出る直前、城のほうから九峪の声が聞こえた。
 ハッとして、知らずのうちに伏せていた顔を上げ、声の方を見る。紛れも無く九峪だ。
 息を弾ませながら、伊万里の許へと走ってくる。
 その姿だけで、それまでの伊万里の疑念は朝露のごとく消え、笑顔があふれた。
 しかし、目の奥にたまっていた涙は安堵の涙へと形を変えて伊万里の目からこぼれ落ちてしまう。
 そのため、伊万里は走ってくる九峪に背を向け涙の跡を見せないようにしなければならなかった。


「ごめん、伊万里。遅れた」
 すぐに、そして素直に謝るのは九峪が素直な性格だからだろう。
「……あの、伊万里? ……怒ってらっしゃる?」
 恐る恐る尋ねる九峪。九峪は伊万里が背を向けていたため、怒っているものと勘違いした。
「ええ、怒ってます」
 背を向けながら九峪のほうを見もせずに言う伊万里。
「来ていただけないかと思ったんですから……」
「…………ほんとに、ごめん……」
 平身低頭の九峪。
 そんな九峪の様子を背後に察し、伊万里は思わず吹き出してしまいそうになっていた。
「……伊万里?」
「……なんてね。怒ってないですよ、九峪様。来ていただけたんですもの。さぁ、行きましょう?」
 そう言って振り向いた伊万里の顔は美しい笑顔だった。


「あけましておめでとう。きれいな初日の出だったね」
「あけましておめでとうございます、九峪様」
 本当に綺麗な夜明けだった。
(でも、伊万里のほうが綺麗だよ……って言ってみようかな?)
 新しい年の初めだというのに、九峪はいつもとなんの変化もなかった。
「伊万里は何を祈ったの?」
「え?内緒です。そういう九峪様は何を祈ったんですか?」
「え……? オレは……」
 伊万里の目が興味と期待に輝いているのが分かる。
(………冗談でも『他の女の子と仲良く』……なんて言ったら、殴られるな。絶対)
 カンのいいヤツである。
「い、いや……その。 ……ただ、伊万里が健康で無事でありますようにって、ね」
 それは嘘偽りのない、九峪の真意。
「えっ?」
 九峪の言葉に喜ぶ伊万里。
「うふふ。実は私も九峪様のご無事を祈ってました」
 相思相愛のようで、九峪は嬉しくもどことなく照れていた。
「来年も、その次の年も、九峪様と初詣に来たいな……」
「えっ? なに?」
「いいえ、なんでもないです。」
 伊万里は照れたように誤魔化す。
「……ところで、九峪様? なんで初詣に『七支刀』を持って来てるんですか?」
 伊万里は最初から気になっていた事を聞いてみた。九峪が来たときは、来てくれたことに対する嬉しさで心が一杯でその事を質問する余裕もなかったのだ。
「え、あ、あの……」
 傍目にも分かるほど動揺する九峪。
「どうかしたんですか?」
「いや、なんでもないよ、なんでも。……そう、コレは護身用に、って思って持って来たんだよ」
「護身用……ですか? でもこの辺りはもうすでに耶麻台国軍の勢力圏ですよ」
伊万里の言葉どおり、そのあたりは安全といっても過言ではなかった。
「……伊万里……」
九峪が重々しく口を開く。
「は、はい……」
「いついかなる時も気を抜いちゃいけない。もしかしたらいきなり魔人が現れる可能性だって少ないとはいえ、ないわけじゃないんだ。それに『俺の、大事な』伊万里になんかあったら大変だろ?」
「は、はい。九峪さま、嬉しいです…………」
 九峪の言葉に、頬を真っ赤に染め上げる伊万里。
(ヨシっ!!)
 そんな伊万里を見て、心の中でガッツポーズを決める九峪だった。
「さ、そろそろ帰ろうぜ」
「ええ」
 伊万里は耳まで真っ赤にしたまま、九峪はどこかしら『してやったぜ』という表情で、二人はそのまま帰路へとつこうとした。
 初詣は、ここで終わるはずだった。だが……。

 突如、辺りの景色の色が変わった。否、目に見える色はいつもと変わらない。
 しかし与える印象が全く違うのである。
 この雰囲気は二人にとって馴染み深いものである。そう、戦場で高位の魔人や複数の魔人と相対する時に感じられる雰囲気。
 しかし、魔人達と戦ったときでもこれほどまでのプレッシャーを感じた経験は九峪にも伊万里にも無かった。
「九峪様!!」
「伊万里! 逃げるぞ!!」
「はい!」
 九峪は伊万里の手を引いて走り出した。
「九峪様っ!!」
 彼女の山人としての感覚が、敵が距離を縮めてくることに気付く。
「ああ! わかってる!!」
 それは九峪も感じていた。九峪とて何度も死線を潜り抜けてきたのだ。戦場の感覚は否が応でも身についている。
 しかし、二人の感覚は揃って同じ結論をはじきだしていた。
((城に着く前に追いつかれる!!))
 山人としての経験を駆使しながら、城までの最善の経路を九峪に指示する伊万里。だが、背後に忍び寄る敵の気配は強まりぞすれ、全くの衰えを見せない。
 そんな状況の中で、伊万里の心が絶望に蝕まれないでいられるのは理由があった。九峪である。
 九峪様ならば、何か起死回生の策を考え出してくれるかもしれない。九峪様とならば、力を合わせれば勝てるかもしれない。そんな考えが伊万里の心には絶大な信頼感を伴って存在していた。
 今、九峪は伊万里にとって希望の象徴………いや、希望そのものだった。
 しかし、その九峪が発した言葉は、伊万里を愕然とさせた。
「伊万里! ヤツらと交戦し始めたら俺の後ろに隠れてろ! そして隙を見つけて城に逃げるんだ!! そして応援を!!」
「そんな!! 私も……」
「刀を持ってない剣士が戦力になると思うか!?」
「でも、九峪様が……」
「お前を守りながら戦って勝てるほど、易しい相手じゃない!!」
 走りながらのためどうしても怒鳴るような口調になってしまう。
「……はい……」
 『私も戦います』そう言えればどんなによかったか。
 今は戦争中だ。なのに、初詣に浮かれてこんなことになるなんて……。
(……こんな、ただ守られているだけの女にはなりたくなかったのに……)
 今、暗い後悔の海にいる伊万里。
(でも……)
 自分の手を引いて前を走る九峪の背中を見て、少し考える伊万里だった。


 一方九峪は目まぐるしく思考を回転させていた。
(感じられる敵の数は……4)
 それもどれもが高位の魔人、もしくはそれに匹敵する使い手のようだ。
 ビリビリとした空気が九峪に押し寄せてくる。
(嘘から出た真、ってか。シャレにならねっての!!)
 そう心中で吐き捨てる。
 いかにすれば勝てるか……。いや、勝つことより無事に逃げなければならない。
(くそ……『北斗の煌き』を使えば何とかなるのかもしれない。だが……)
 そう、『とある』事情により『北斗の煌き』をはじめとする『七支刀』を用いた方術は封印されていた。
(『アレ』を止めれば使えるけど………その後俺はきっと死ぬ……。間違いなく)
 こうしている間にも魔人と思われる敵はどんどん九峪達との距離を縮めてくる。
 ふと、手に感じる体温を感じた。
(そうだ……俺はこの女(ひと)を、伊万里を守らなくちゃいけない……!!)
 そう決意した次の瞬間。
 前方から圧倒的プレッシャーが襲ってきた。
 どうやらもう1匹いたらしい。
 敵の統制は完璧に取れている。
「くそっ!!」
 自分が罠にはめられたことに気付き苛立ちながらそんな言葉を吐く。
 足を止めたことで後から迫っていた敵が散らばる。四方を固められ、逃げ道を塞がれた。
 どうやら相手には二人を見逃すつもりはないらしい。
「ちくしょぉっ! かかってこいやぁ!!」
 伊万里を背に庇いながら、九峪は半ば自棄になってそう叫んだ。
 そして、魔人達が……現れた……。



 現れた魔人は、美しかった。
 それも自分のよく知っている人たちによく似ている。
「っていうか、星華?……藤那!……香蘭に只深まで!?」
「ずいぶんと、伊万里様と仲がよろしいんですね、九峪様?手なんか取り合っちゃって……」
 あわてて手を離す二人。初々しくも微笑ましい光景ではあるが、そこにいる二人以外からは冷たい視線しか集めることは出来なかった。
 九峪が投げかけられた声の方向へ顔を向けると……。
「……!! 志野まで……!!」
 女王候補勢ぞろいである。
 志野に限らず、伊万里以外の全ての女王候補が冷たい微笑みを浮かべていた。
「……どういうことです、皆さん?」
 ただ一人、その場で状況を飲み込めていないもう一人の女王候補、伊万里が尋ねる。
 九峪のほうは………候補たちの視線に釘付けにされて指一本動かせない。ただ、大量の冷や汗を滝の如く流しているだけだった。
「……九峪様は、何故か、お喋りになることが出来ないようなので、私達がご説明しますね、伊万里様」
 『何故か』に強いアクセントを置いて話すのは志野だ。
「私たちは今日、初詣に行きました。それぞれが、別の場所で、九峪様と」
「ええっ……?それは……」
 伊万里が疑問の声を上げるが、藤那がそれを遮って話を続ける。
「同時に別の場所に存在することは、例え神の遣いであっても出来ることではない。しかし我等の仲間に一人だけ、それが可能な人物がいる。……コレがそうだ」
 そう言って藤那はどこからともなく二つの黒い焦げた物体を中央へ放り投げた。
「こ、これは……」
「夢狐さんとキョウ様ですわ」
「あああっ。寝太郎……っ。キョウまで……」
 九峪は体をガタガタと震わせている。
「何故、何故にキョウまで……」
「それはな、九峪はん。キョウはんが諸悪の根源やからや」
 只深が罪人の罪を裁くか如き口調で言い放った。
「あ、あああぁぁ……」
 九峪の顔面は蒼白だ。
「……どういうことです? 全然状況が分からないのですが……?」
「九峪は、『加減軍神』を使たあるよ、伊万里様」
「違います香蘭様。『華幻分身』です」
 星華が冷静に訂正してあげる。
「つまりこういうことです。九峪様は昨日、ここにいる全員から初詣に誘われました。そしてその皆の誘いを受けました」
「ええっ!!」
 表情に驚愕の色が出る伊万里。
「そこで九峪は天魔鏡の精殿に相談した。どうすればいいのか? と」
「そこでキョウ様はこう答えられたそうです……」
『七支刀と分身の札を使えば、九峪にも華幻分身が使えるかもしれない……』
「そしてそれを試すべく、昨日の夜のうちに夢狐さんのところへ行って、方術を学んだそうですわ」
「貴重な分身の札を、一枚だけで複数の分身を創る……。本来ならば不可能なことだが、七支刀の霊力で札の効果を増幅させて、不可能を実現させた……。流石は九峪だ。その智謀は大したものだと知っていたが、こんな小賢しいことまで思いつくとはなぁ。いやぁ、これなら耶麻台国復興も間近だな? ん? どうした、九峪? 今から酒でも飲んで景気付けでもしとくか?」
 藤那が笑みを浮かべて九峪に話しかける。しかしその目は全く笑っていない。九峪はただ身を縮ませていた。
   星華が説明を続ける。
「分身は本来なら倒されるか、術者が術を解けば消えるのですが、一夜漬けの術は本来の効果を示さず、時間の経過によって消えてしまいました。うふふ。だめですねぇ、九峪様ったら。もしかしたら九峪様には方術の才能がおありなのかも知れませんが、方術とは一朝一夕で完璧になるものではないのです。詰めが甘いですよ?」
 星華も笑っていながら、笑っていない。
 九峪にとってそれは全くの誤算だった。
 昨晩は思いがけず一発で分身が出来たことに喜んでしまい、効果時間など気にも留めなかったのである。
 黒く焼け焦げた物体(キョウと寝太郎)を見る。
(ああ、これから俺もアレになるんだ……あはは……アハハハハハ…………)
 九峪の精神はいまや崩壊の兆しを迎えていた。
 そこへ…………。
「九峪様」
 九峪にとってその声はまるで天使のそれに聞こえた。
 暗闇で見つけた、唯一の光。地獄で見つけた、蜘蛛の糸。砂漠で見つけた、オアシスの水。なんにせよ、それは救い。
「ああ! 伊万里ぃ……!」
 助けを求める咎人は救いの女神に助けを求めようと振り返り、凍りついた。
「…………………………」
 スラリ………。
 無言で刀を構える剣鬼が、そこにはいた。
 言うまでも無く、愛刀「虞美刃」を構えた伊万里である。
「え、あ、伊万里……さん? その刀はドコから……?」
「………………………………………………………………」
 やはり、無言。
「あ、あの…………………………」
「…………………知りたいですか」
 地獄の火炎でさえも氷結させてしまうような声。
「いや、結構です。はい。」
 壊れたおもちゃのように首をぶんぶんふる九峪。
「……そう……それは残念ですね……」
 いつの間にか包囲網は完璧になっていた。
 『見つけた光は、死の炎。糸の先には、女郎蜘蛛。飲もうとしても、蜃気楼。』
 もう、逃げられない。


 その日九峪は、初日(はつひ)よりも紅く、朱くなったという………………。




 あとがき

 作者「どうも〜。こんにちは〜。」
 九峪「……ぉぃ」
 作者「おや、そこにいるのは『ジゴロの兄ちゃん』こと九峪君じゃないか(笑)」
 九峪「て、てめ〜」
 作者「ふふふ、七支刀構えたって無駄だよ?誰がコレ書いたと思ってんのさ?」
 九峪「ぐ、ぐぐぅ……」
 作者「そんな目で見るなって。伊万里とイイ感じにもしたし、かっこいい場面も作ったじゃないか」
 九峪「ま、まぁな。それは、ありがとな……」
 作者「素直でよろしい」
 九峪「……ところで、どうしてコレを書こうと思ったんだ?」
 作者「ああ、きっかけは某火魅子チャットで会話中に思いついた」
 九峪「またか?お前の非・火魅子のSSもきっかけはチャットだったよな」
 作者「うむ。会話中、全く話しに関係ないネタが産まれるんだ」
 九峪「……おかしなやつ」
 作者「うるさい」
 九峪「じゃあ、話を換えて……どうしてメインが伊万里なんだ」
 作者「ん? 俺が好きだから(きっぱり)」
 九峪「……なるほど」
 作者「最初は誰でも良かったんだけど、やっぱ贔屓したいじゃん?」
 九峪「まぁな……」
 作者「でも、書いてる途中でどんどん変わってきて、結局伊万里用にってなっていったんだ」
 九峪「伊万里以外だと、志野が目立ってるよな」
 作者「ああ、それはある方面から強い要望があってな(笑)」
 九峪「どこだよ……?」
 作者「まぁ、それはね、口にせぬが華ってやつだよ」
 九峪「じゃあ、秘密ってことで(笑)」
 作者「それに志野も好きだしね。一番は伊万里だけど」
 九峪「この浮気性が」
 作者「貴様が言うなぁ!! ボケェ!!」
 九峪「ぐがっはぁっ……」
 作者「……うん、やはり俺は喧騒よりも静寂を好む質らしいな(しみじみ)」


 くだらないあとがきまで読んでくださって本当にありがとうございます。
 一度でいいからこの形式のあとがきを書いてみたかったんですよ(苦笑)
 それでは、「火魅子伝」という作品を創ってくださった舞阪先生、こんな私のSSを欲しがっていただいたこのHPの管理人であるけい様、そして読んでくださった皆様にお礼を申し上げつつ、今日のところはこの辺で…………。
 では、また。





 改訂版あとがき

 どうもこんにちは。改名しまして「龍月(たつき)」となりました。
 文法、表現方法、各キャラのセリフの、寄稿後気付いてしまった矛盾点(爆)などをちょこちょこ修正しました。
 違いに気付かれた方、その方はきっと何度も読んでいただいたのでしょう。作者冥利に尽きます。ありがとうございました。(感涙)

 では、また………。





最初、「予感」という題を見たときは、「(恋の)予感」かと思ったんですが・・・「(惨劇の)予感」だったんですね(笑)
そういえばゲームの初詣イベントって、同時に複数誘われても九峪はきっちりこなしてたから、どうやったんだろ〜と疑問だったんですが・・・そこをこんな面白いSSにするとは、カレスさんさすがです\(o⌒∇⌒o)/

今回の九峪君の教訓は「八方美人も度を越えると身を滅ぼす」ってやつですね。自業自得だから誰も同情してくれないし(笑)被害者は「魔人と化した人たち」の方ですからね〜。
・・・・でも、今回の一番の被害者は寝太郎かもしれない(大笑)

カレスさん、本当にありがとうございました^^(現在のHNは龍月さんです)

で、今回改訂版を頂きました。話の流れは全く同じなので、改訂前を読んでない〜!って方もご安心を。
主に後半を少し変えておられるみたいですね。女王候補達の九峪いびりとか。
九峪の某所のセリフの変化に、思わずニヤリとしましたよ(笑)そっか、「大事」なんですね、うんうん。

龍月さん、改訂お疲れ様でした(^-^)
感想は火魅子伝掲示板か、龍月さんへ直接メール
で♪