〜約束のために〜



作・葵様


十話 再会の約束


「ハァ・・ここはどこだ?」
 思わずそんな言葉が出た、俺は今一人で山道を走っている。
 後ろを振り返ると遠くのほうに狗根国兵が追いかけているのが見える。
「しつこいなぁ・・・まっ、これだけ引きつけりゃあ大丈夫かな」
 顔を前に向けた俺は走るペースをあげた。
 背中ではバックが揺れているのが分かる。左手には訳の判んない剣があり腰には小刀が挿してある。
 その小刀を見て俺は少し前の出来事を思い出した。

「また囮をやる!?何言ってるんですか九峪さん!」
 俺の話を最後まで聞かないで伊万里さんが怒鳴ってきた。
「まぁまぁ、伊万里殿落ち着きなされ」
「だって伊雅様!せっかく安全な場所に来たのにまた狗根国兵の所に行くって言うんですよ!?」
 伊雅さんの説得も聞きそうに無い。
 どうしたものかと考えている俺の前に誰かが立った。
「私も伊万里殿と同意見ですね、この状態で狗根国兵に接触して有益なことがあるとは思えません!理由をお聞きしたいものです」
 とげとげしい口調で言うのは亜衣さんだ、どうやらさっきの星華さんとの口論を目撃されたらしく、清瑞ほどでないにしろ敵意の溢れた口調でいらっしゃる。
「さっき伊雅さん、すぐにでも挙兵するって言ってたよな?」
「う・うむ、狗根国兵に我らの存在を知られたからにはそれしかあるまい」
 伊万里さんを説得しながら伊雅さんが俺の質問に答える。
「伊雅様の言うとおりです、何か問題がありますか?」
 一応命の恩人ということで言葉遣いは丁寧だけど口調までそうとは限らない。
 そんな態度に思わずため息が出た。
「何の準備もなしに?」
「「っ!」」
「兵もいない、武器も無い、ましてや拠点すらないこの状況で?」
「・・・・」 
 はっきりとした指摘に二人とも黙り込んでしまった。
 おそらく二人ともそのことを考えていたんだろう。
「その上この辺りにいることを連中に知られたまま?そんなの挙兵した瞬間に大軍送られて終わりだよ」
「しかしほかに手はない!」
 俺の当然の指摘に耐えられなくなったのか亜衣さんが怒鳴ってきた。
「だから俺が囮になるって言ってんだよ」
「囮?・・・・・そうか、なるほど」
 納得したように頷く亜衣さん、うん、なかなか頭が切れるじゃないか。
「そう言うこと・・・んじゃ俺は行くから」
「だからどういう事なんですか!?」
 走り出そうとしていた俺はつんのめりそうになるのを堪えながら振り向いた。
 どうやら伊万里さんは納得してくれてないらしい。
「わしもいまいち要領を得れんのだが・・亜衣よ、どういう事だ?」
 どうやら伊雅さんも分かってくれなかったらしい。
「俺が説明するよ」
 亜衣さんに任せても良かったが、自分の考えは自分で言うべきだと思い二人に声をかけた。
「まず今いる中で連中に顔を知られているのはさっき捕まってた人と俺だよな?星華さんたちにやらせるわけにいかないから囮をやるとしたら俺しかいない」
 確認するように二人を見ると二人とも頷いてくれた、それに満足した俺は話を続けた。
「囮をやる目的は連中の目をこの辺りから遠ざけること、そうすれば動きやすくなるだろ?」
「ふむ・・・確かに」
 伊雅さんが頷きながらそう言った、伊万里さんも少しは納得してくれたようだ。
「さらに言うと、連中の目をここから遠ざけることが出来れば、それだけ準備に時間をかけることが出来る。時間があれば徴兵に錬兵、資金や物資の調達が出来るだろ?」
 俺がそう言うと感嘆の息がこぼれた、いや大した事言ってないんだけどな。
「と言う訳です、伊雅様、伊万里殿お分かりになりましたか?」
 俺の言葉を引き継ぎ亜衣さんがそう締めくくった、俺に対する態度と全然違う・・・まぁ仕方ないか。
「でも・・・それだったら九峪さんがやる必要は無いんじゃないですか?」
 伊万里さんはまだ‘本当の’理由に気付いていないらしい。
「むしろ清瑞さんがやったほうが良いんじゃないですか?」
「・・・そうでもないのですよ伊万里殿」
 どうやら亜衣さんは気付いているらしい。
「我々には清瑞殿以外にまともな乱波がいないのです、もし彼女に何かあったら我々の損失は計り知れません」
「それじゃあ九峪さんはどうなってもいいって言うんですか!?」
 凄い剣幕だ、ここまで心配してくれるのは嬉しいけどここは亜衣さんが正しい。
「仕方ないんだって伊万里さん」
「九峪さん?」
 どんなリアクションをするかは予想が付いたけどここは言うしかない。
「俺は耶麻台国とは関係ないからな。俺が捕まっても情報が漏れることはないし、死んでも大した損失は無いから」
「な・何を言ってるんですか!?」
 これが俺の囮に適している‘本当の’理由、亜衣さんが申し訳なさそうに目を伏せてるけど俺は別になんとも思わなかった。
 亜衣さんの対応は正しい、貴重な諜報員とどこの馬の骨とも知れない旅人じゃあ、軍にとっての重みが違う、だから俺は笑って言った。
「大丈夫、俺だってまだ死ぬわけにはいかないから」
「でも、もし九峪さんの身に何かあったとしたら・・・」
 本当に俺の身を心配してくれてるらしい。でも彼女は自分の言ってる矛盾に気付いていない、その事ははっきり教えないといけないな。
「じゃあ清瑞だったらどうなっても良いのかい?」
「そ・それは・・・」
 危険であるといった点では俺も清瑞も変わらない。
 彼女は戦いが始まっていることが解っていないのだろう。
「伊万里さん・・・もう戦争は始まっているんだ、誰かを守るためには誰かが命を賭けるしかないんだよ」
 伊万里さんはうつむいて何も言わない、だから俺は続けて言った。
「自分にとって近しいものが死ぬ事が嫌なら戦場に立つことは無い、今ならまだ引き返せるよ?」
 少し話しただけだが、彼女が優しく真っ直ぐな心を持っているのは分っていた。だから俺は彼女に戦って欲しくなかった。
 戦争は人を変えてしまうから。
 戦い続ければいずれ火魅子の資質という重荷を背負うことを知っていたから。
 俺は彼女に戦うことを止めて欲しかった。
 でも、俺の望みは叶わなかった。
「そうでしたね、私達はこれから戦争を起こすんですよね?こんなことで躓いてたら駄目ですね、私ったらかっこ悪い」
 はっきりとそう言った伊万里に迷いは無かった。
 この時俺は悟った、この強さこそ彼女の本質だと。
「ふぅ」
 思わずため息がこぼれた、どうやら彼女を止めることは出来ないみたいだな。 
「解りました、もう止めたりしません・・・でも一つだけ約束してください」
「ん?」
「絶対に死なないと、上乃たちに会って貰う約束守って下さいね!」
 思わず笑ってしまった、ここまで言われたらこっちからも言わなきゃな。
「約束する、じゃあさ伊万里さんそれ貸してくんない?」
「これですか?」
 俺が指差したのは伊万里さんが腰に挿していた短刀だ。
「ん・ありがと」
「いえ、それがどうかしたんですか?」
 不思議そうにする伊万里さんに俺は笑いかけた。
「後で必ず返すから、直接、手渡しでね!」
「えっ?・・・あっ・はい!約束ですよ!?」
 俺が言いたいことが分からなかったのは一瞬だ、すぐに満面の笑みを浮かべてくれた。
「それじゃ・・行ってきます、伊雅さんみんなをよろしくお願いします」
「うむ、言われずとも」
 堂々とする伊雅さんは凄い覇気に満ち溢れていた、頼りがいあるなぁ。
 思わず感心してしまった。
「それと亜衣さん!」
「何でしょうか?」
 亜衣さんの態度が少し柔らかくなったのは気のせいだろうか、口調と態度が近づいたような・・・
「星華さんに伝言をお願いします。『きつい言い方して本当に悪かった、俺の言ったことは気にしなくても良い、でも気が向いたら考えてみて欲しい』そう伝えてください」
「・・・・ふむ・分かりました、確かに伝えましょう」
「ありがとう」
 口の中で何回か呟いて確認した亜衣さん、ちゃんと伝わるか少し不安だけど大丈夫だろう。
「それじゃ、挙兵を聞いたらすぐ行くから!約束忘れないように」
「九峪さんこそ忘れないでくださいよ!」
 

 そう言って伊万里さんたちと分かれたのが大体二時間前で。
 狗根国兵との追いかけっこが始まったのがそれから約三十分後だから。
 かれこれ一時間以上は走ってるな。
 もともと、重い鎧を着た狗根国兵と女性で術者の深川では大した距離は走れないだろう、そう思っていたが思ったより粘ったほうだ。
 しかし既に振り向いても人影は無い、ふと短刀を見つめた。
「約束がまた増えちまったな」
 二つは日魅子と伊万里さん、もう一つは・・・
 バックから細長い袋を取り出す。
「お前との約束を果たすのが、また遅くなりそうだよ」
 俺はそれを握り締めながら空に向かって呟いた。
 空には数え切れないほどの星が輝き、その中の一つが俺に答えるかのように瞬いた。
<ところで九峪、遭難したのではあるまいな?食料はほとんど無いのだぞ!おい!聴いているのか九峪!?>
 街がどの方向にあるのかすら聞き忘れた俺は一体どうすれば良いんだろう。
 伊万里との約束はどうしよう。
 あ〜それにしても星が綺麗だ、頭の中の声なんか気にしちゃいけないな、うん。
<おい九峪!?現実逃避は止めろ!帰ってくるんだ!九峪〜!>

十話 完

 

 十話どうでした?書き方を変えた実験作です、今回は九峪の一人称でした
 上手く書けた自信はありません、というか最近面白い作品を書く方が多くいらしゃって作品を送るのが少し恥ずかしかったりします
 閑話休題
 キャラクターは小説ベースでいくんですが他にも(と言っても私はゲームしか知らないんですが)『このキャラ出しても良いんじゃないかな?』というのが有りましたらアンケートの方へどうぞ
 後このキャラはこッちの設定のがいいというのもありましたら同じくアンケートの方へ
 善処します(ああ、便利な言葉ですね)
 ・・・冗談です、ご希望がございましたら出来る限りやっていくつもりなのでどうぞ
 では また次回のお話で 
  



 年が明けてから創作の更新しかしてないな〜とふと気づいた管理人です(爆)。
 出してほしいキャラですか・・・遠州なんかいいな〜と思いますが、ただでさえ火魅子伝は登場人物が多いですからね^^;
 ナナシさん、九峪の本来の性格に感化されたのか、冷静知的な雰囲気からどんどんギャグへ(笑)
また囮になった九峪ですが・・・次また誰か登場するのかな。楽しみにしてます〜。

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