〜約束のために〜



作・葵様


六話 始まり


 空には日が昇り夜の闇はほとんど無い。
「んっ・・・あっ!朝じゃないですか!?」
「え?」
 九峪が出発の準備をしていると、目を覚ました伊万里がそんなことを叫んだ。
「それがどうかした?」
「なんで起こしてくれなかったんですか!?」
「今起こそうとしてたんだけど・・・」
 伊万里が何に対して怒っているのかわからず口ごもる。
「見張りは交代でやるって言ったじゃないですか!」
「・・・そういえばそんな事言ってた気が・・・」
 昨夜のことを思い出す、確かに寝る前に伊万里はそんな事を言っていた。
「そういえばじゃありません!怪我の治療までして頂いたのに、夜通し見張りまでやらせてしまっては私の気が済みません!」
 真顔で言い切る伊万里に苦笑を浮かべる。
「そんな事か・・・気にしなくていいよ、俺が勝手にやったんだし」
「そんな問題じゃありません!初対面の方にそこまで面倒見ていただいてしまったら山人の名折れです!」
 伊万里はどうしても見張りを任せてしまったことが気に入らないらしい。
(・・・伊万里は自分が王家の血筋だ、って知ったらどうするんだろう?)
 手をとって喜ぶのか、そんなことは無いと信じないのか、それとも真っ向から否定するのか。
 今の言葉から考えると、彼女は山人として誇りを持っている、そんな彼女がそのことを知って喜ぶとは九峪には思えなかった。
(当分教えない方が良いな・・・きっとこの事は彼女を苦しめる)
「どうかしました?私の顔に何か付いてるんですか?」
「あっ!い・いや何でもないよ!少しぼぅっとしただけだから」
 考え事をしているなか、伊万里のことを見つめていたことに気付く。
「・・・そうですか?じゃあ、何で私のことを起こしてくれなかったのか教えてください」
「いや別に深い理由があった訳じゃないんだけど・・・怪我人を起こすのが嫌だった、てのが一つ」
「そんな事・・・!」
反論しようとした伊万里を手で制す。
「怪我ってのはするだけで体力を消費するんだ、山歩きをするのに体力が無いんじゃ話にならないだろ?」
「・・・・・」
 九峪の正論に反論できず黙り込む。
「もう一つ理由があるんだけど・・・言わなきゃ駄目かな?」
「・・・理由があるなら聞かせてください」
 抑えた声で聞く伊万里、それに対し九峪ははっきりとした口調で
「かわいかったから」
「何がですか!?」
「伊万里さんの寝顔が」
 あっさりとそんな事を言う九峪。
「っ!?な・何言ってるんですか!九峪さん!」
 九峪の言葉に顔を真っ赤にして怒鳴る伊万里。
「あれ?伊万里さんは自分が美人だっていう自覚無いの!?」
 不思議そうに尋ねる九峪に伊万里の顔はさらに赤くなる。
「だ・だからといって起こさない理由にはならないじゃないですか!?」
「そうかなぁ?十分理由になると思うけど」
 あからさまにうろたえる伊万里、それに対し九峪は落ち着いている、というか内心(伊万里さん・・・からかうと面白いな)などと考えてたりする。
「ああもう!分りました!この話は終わりにしましょう!」
「・・・別に良いけど・・それじゃあ、どうする?」
 出発の準備はしていたものの、ここがどこなのか分らない九峪はどうすれば良いか全く見当つかなかった。
 そんな九峪に何とか落ち着きを取り戻した伊万里が言った。
「昨日話した私の仲間と合流場所は決めてあるので、そこに向かいましょう」
「ん・解ったそれじゃあ、伊万里さん・・・」
 そう言って伊万里に背を向けると姿勢を低くする。
「・・・え?」
「まだろくに歩けないだろ?見た感じ伊万里さんは軽そうだから大丈夫だよ」
 伊万里を背負うと言っているのだと理解するのに少し時間がかかった。
「な・な・な・何考えてるんですか!?」
「いや、怪我人と一緒に歩くよりこっちの方が速いし・・」
 何の含みも無く言う九峪に少し冷静さを取り戻す。
「つーか・何をそんなに慌てんのかが判らないんだけど・・・?」
「え?だって・・・九峪さんが背負うとか・・・そんなの・・・ですし・・・」
 顔を俯かせてぶつぶつ呟いている伊万里。
「あー・・・そっか、そりゃそうだな」
 自分と同年代の異性に背負われるという事は、真面目そうな彼女にとってはとてつもなく恥ずかしい事だ、ということに気付く九峪。
「んー・・・それじゃあ伊万里さん、歩けるんだよね?」
「・・私としては・・!えっ!?あ・はい、大丈夫です」
 まだ何か言っていた伊万里だったが、九峪に話しかけられ頷く。
「それじゃあ、道案内してくれるかな?それと辛くなったら言ってくれよ?肩貸すから」
「あ・はい!それじゃ・・・こっちです」
 周囲を見渡して、位置関係を確認し歩き出す伊万里。
(うん・大丈夫そうだな!それにしても・・・)
 先ほどの態度は嘘の様にきりっとした表情で歩く伊万里、その足取りはしっかりしており、迷いも無い。
(たったあれだけ周りを見ただけで、目的地の方角が分るなんてすごいな)
<この世界の山人なら当たり前の事だ>
「うわぁ!」
「っ!!どうしました!?」
 突如上がった九峪の奇声に、思わず腰の刀に手を当てながら振り向く伊万里。
「な・なんでもない!気にしなくていいよ!伊万里さん」
 自分の中にいるもう一つの意識の存在を完全に忘れていたせいで、思わず叫んでしまったのだと言える筈も無く、そう言うしかなかった九峪。
「?・なんでもないのにあんな悲鳴あげるんですか?」
「ほんとに大した事じゃないから、そうだ!後どれ位で目的地に着くんだい?」
 あからさまな九峪の話のそらし方、しかし根の真面目な伊万里はあっさりかかってしまう。
「そうですね・・・四半刻も歩けば着くと思いますよ」
「そ・そうか、それじゃ急ごうか」
 九峪の言葉に頷くと前を向いて歩き出す伊万里。
(ふ〜・・・っておい!いきなり声かけんなって何回教えれば覚えんだ!)
<ふむ・・・しかし、どう切り出せば良いのか全く分らん>
(昨日教えたろうが!いきなり話初めんじゃなくて、名前を呼ぶなり、おい、とか声をかけるなりあんだろうが!)
<・・・了承した> 
(んで・・・?何が当たり前なんだって?) 
 文句を言って落ち着いたのか、今度は幾分抑えた声で言う。
<いや・・・なんでもない・・・>
 九峪の説教がかなり効いたのか、どこか落ち込んだ感じの口調だ。
(・・・言い過ぎたかな?)
 九峪も少し反省する。
<いや・・・九峪は悪くない、私はお前の判断に従う>
(そ・そうか?)
<そうだ!>
 さきほどより幾分力の入った口調だ。
(でも・・・少しは自分で考えてくれてもいいぞ)
<・・・了承した>
 どこか嬉しそうな気がするのは九峪の思い違いではないだろう。
 しかし結局話は出なかった。
 
 それから三十分ほど歩いた、伊万里の言っていた集合場所がそろそろ見えてくるはずだ。
「集合場所は特別大きな木が立っているんです」
 どこか自慢するような伊万里、その木に何か思い入れでもあるのだろう。
「そうなんだ・・・それじゃここから見えるかな?」
 おどけながら遠くを見るような仕草をする。
「いくら大きいと言ってもここからじゃ見えませんよ」
「・・・・・・」
「九峪さん?」
 呼びかけても返事が無い、気になって九峪の見ている方に目をやる伊万里。
「あ・あれは?」
 見るとそこには大きな鳥のような影が飛んでいた。
「一、二、三、四つか、伊万里さん、あんな大きな鳥っているかい?」
「いません、少なくとも私は見たことも聞いたことも無いです」
そうか、頷くと心の中の意思に語りかける。
(あれが何だか判るか?)
<情報が少なくて断定は出来ない>
(構わない、聞かせてくれ)
 一瞬の間。
<おそらくは、飛空挺>
(ひくうてい?そんなものまで在るのか・・・)
<私の知っている限り、現在は四つ存在する> 
 自分の知っている三世紀とのあまりのギャップに驚く、改めてここが九州ではないと思い知らされる。
(あれには誰が乗っているんだ?)
<火魅子の資質を持つ星華、その後見人宗像神社の亜衣、次女衣緒、三女羽江、の四人と思われる>
(宗像神社ってのは何だ?)
<耶麻台国の祭祀を取り仕切っていた。耶麻台王家との関りは深く縁戚関係に当たるものも多い。狗根国によって数多くの末社が廃棄されている>
(・・・分かった、ありがとよ)
<別に礼を言われることなどしていないが>
 本当に不思議がっているのが九峪にはよく分かった。
(俺が言いたかったから言ったんだよ)
<了承した>
 もう一つの意識が心の奥底に沈んでいくのを感じてから、意識を戻すと伊万里が心配そうな視線を送ってきた。
「なんだい?心配そうな顔をして?」
「心配もします!いきなり遠いところを見たまま動かなくなったんですから!」
 心底心配してくれたのだろう、どこか怒ったような口調だ。
「ごめんごめん、少し考え事をしてたんだ」
 ごまかすように手を振りながら笑う。
「そうですか・・・それで結局どうするんですか?集合場所に行くかさっきのを追いかけるか」
「・・・伊万里さんはどうしたいんだい?伊万里さんに任せるよ」
 少し考え込んでから言う、道案内をしているのは伊万里なのだから任せたほうがいいと思ったのだ。
(気にならないといえば嘘になるけどな・・・)
「私としては速く集合場所に行きたいんですけど・・・いいんですか?」
「任せるって言ったろ!第一そんな顔して言われたら断れないよ」
 はっとして顔を覆う伊万里、そんな様子を見て九峪はニヤニヤしている。
「・・・そんな顔って、どんな顔ですか」
「仲間が心配で心配で堪りませんって顔」
 伊万里の顔を指差して言う。
「私そんな顔してました?」
「うん、してた」
「そうですか・・・」
 俯く伊万里、そんな伊万里に九峪はことさら明るい声で
「伊万里さんはホントにその仲間が大切なんだな」
 その言葉に伊万里は顔を上げ力強く頷く。
「・・・上乃と仁清っていうんです」
 歩き出しながら伊万里はそう切り出した。
「上乃とは乳姉妹なんです、私が上乃の両親に拾われてそれからずっと一緒に、狩の時もいつも一緒にいたんです・・・」
「・・・伊万里さんにとってその上乃っていう人は本物の姉妹と変わらないみたいだね、話を聞いてるだけでも解るよ」
 小さくうなずくと話を続ける。
「仁清は今年で十四になるんです。里でも一目置かれるほど弓の腕が立つんです。無口でとっつきにくいん性格をしてるんですけど、ホントは真面目でいい子なんですよ」
「俺も会ってみた」
 そこで九峪の言葉は断ち切られた、何故かというと突如として大きな爆発音がしたのだ、しかも一回だけでなく続けて複数、爆撃のような感じだ。
「あっちは・・・!」
 見ると先ほど飛空挺が飛んでいった方向からいくつもの黒煙が上がっている。
「九峪さん!」
 呼ばれて始めて自分が駆け出していることに気付いた、振り返り叫ぶ。
「ごめん伊万里さん、仲間と会うのはまた今度になりそうだ」
「待ってください、私も行きます!」
 そんな声が聞こえたが九峪は止まらない、なぜこんなにも焦っているのかは解らなかったが九峪は走り続けた。
 走りながらもバックのポケットからグローブを取り出して手にはめる。
(俺は戦いの気配に喜んでるのか?)
 自問するが答えは当然返ってこない、しかし九峪は自分の身体と心が切り替わっていくのを感じていた、心拍数は上がり体温も上がってくる中、心の奥底が冷え切っていく。
 すでに爆発音は収まっている、それでも九峪の脚は止まらない、ただひたすらに音のした方に向かって走り続ける。
(この感覚・・・大丈夫、俺は二度とあんな事はしない、大丈夫、大丈夫・・・)
 心の中で何度もそう唱えながら走り続ける。
 戦いの渦に向かって。

       六話 完


                 

七話 合流


「はっ・はっ・はっ・・・九峪さんは何処へ行ったんだ?」
 立ち止まり大声で呼んでみようかと思ったとき、人影が見えた。
「あっ!九峪さん?・・・・っ!?」
 次の瞬間伊万里は木の影に隠れていた、隠れながらも顔を出して様子を見る。
「く・狗根国兵、どうしてこんなところに?」
 そこには狗根国の軍人が何かを探しているかのように周囲を見渡していた。
「一人か・・・みんなの仇!」
 鞘から剣を抜き、いつでも飛び出せるように身構え様子を見る。
 すると少し経って仲間に呼ばれたのか不意に狗根国兵が向こうを向いた。
(今だ!!)
「――――っぐ!?」
 飛び出そうとした瞬間口を塞がれた、抵抗しようとしたがそのまま草むらに引きずりこまれた。
「っぷはぁ!」
 手を離された途端大きく息を吸い込む。
「・・・気づかれていないな」
 声のほうを見ると九峪が真剣なまなざしで外の様子を窺っている。
「九峪さん・・・?」
「しっ!静かに・・・まだ周りにいる」
 伊万里が何か言う前に、九峪はそう言って様子を見続ける。
「・・・・・」
 五分ほど経ってようやく九峪の顔が緩んだ。
「・・・むちゃするなぁ伊万里さん、死にたいの?」
 軽口の様に言う。
「・・・みんなの仇が討てるなら死んでも構いません」
 真面目な顔で言うと九峪は表情を引き締めた。
「死ぬなんて簡単に言うなよ・・・仇を討ったって自分が死んじゃったら意味無いだろ?」
 息継ぎのために一度そこで切る。
「第一、仇はあいつ一人じゃないだろ?それに伊万里は仲間を待たせてるんだからこんな所で死んでどうするんだよ?」
 優しく語り掛ける。
「・・・・そうですね、仇をとるためにもこんな所で死ねませんよね」
「・・・だろ!」
 冷静になってみると、先ほどの疑問が思い浮かぶ。
「ところで、どうしてこんな所に狗根国兵がいるんでしょうか?」
「ああ、それね・・・見たほうが早いかな・・・?」
 草むらからか顔を出し様子を見ると、伊万里に出てくるように合図する。
「こっちに来て・・・ほら、あれだよ」
 木の陰から様子を窺うと狗根国兵の部隊が見えた。
「どうしてあんなに狗根国兵が?・・・ん?九峪さん誰か囲まれていませんか?」
「ああ・・・多分だけど反狗根国組織かなんかの人だと思うよ」
 はっきりそう言う九峪に不思議そうな顔をする伊万里。
「なぜそう思うんですか?」
「まずね・・・ほらあそこの辺りにいる兵、他の兵と格好がぜんぜん違うだろ?」
「確かに・・・捕虜みたいな格好してますね」
 見るとぼろぼろの服を着た一団が一箇所に集まっている。
「多分だけど・・あいつ等は囮だよ、反狗根国組織の人間を誘う為の」
「おとり・・・ですか?」
 頷く。
「例えば、伊万里が仲間といるときに自分達の目の前で別の仲間が連れさられそうになっていたらどうする?ちなみに敵は簡単に撃退できる人数で」
 少し考え込む伊万里。
「・・・そうですね、まず仲間と相談しますけど、間違いなく助けますね」
「だろ?目の前で狗根国の連中が捕虜を連れ去っていた、しかも兵の数は少ない。当然助けようとする、そして狗根国兵を倒して油断したところに捕虜の振りをしていた兵が襲い掛かる。こんなところかな?これならさっきの爆発音も何だか判るし」
 すらすらと説明する九峪を見て目を丸くする伊万里。
「・・・凄いですね」
「そう?大した作戦じゃないよ、経験のある人なら多分引っかからないしね」
「いえ・作戦じゃなくて九峪さんがですよ」
 真剣なまなざしで見つめる伊万里に、思わず目をそらしてしまう九峪。
「そうかなぁ?それよりもあの囲まれている人たちを助けようか?」
「か・簡単に言いますね、さっき私に言った言葉は何なんですか?」
 あっさりとそんな事を言う九峪。
「見たところざっと二十人くらいかな?大丈夫、あれくらいなら作戦しだいでどうにでもなるよ!さっきの伊万里さん見たく何の考えも無いんじゃ死ににいくようなものだけどね」
「・・・酷い言い様ですね、考えが無かったのは認めますけど・・・あんな惨い殺し方した連中を間近で見たら許せなかったんです」
 思い出すたびに吐き捨てるような口調になる、それだけ伊万里には許せない行動だったのであろう。
「・・・それじゃ作戦を説明するからよく聞いてくれ」
 そう切り出したとき。
「ほぉ、面白い話をしておりますな」
「「えっ!?」」
 周囲を見渡すが誰もいない。
「上か!?」
 九峪が見上げるとそこには一人の中年男性が木の枝に立っていた。
「お二人は今から狗根国兵を襲う算段をしておったように見えたが、どうかね?」
「何のことかな?おじさん」
 唐突な現れ方をした人物に対して九峪ははぐらかそうとした。
「はっはっはっ・・・そう警戒しなくてもよい、むしろ儂はお主等の味方だ」
 豪快に笑う男性に対して、九峪は不敵な笑みを浮かべた。
「味方だって言うならさ、隠れてる奴が居るのはおかしいんじゃないか?」
 その言葉に男性の顔に一瞬動きがあったのを九峪は見逃さなかった。
「九峪さん誰の気配も無いですよ?」
 伊万里が周囲の様子を窺ったのだろう、しかしそんな様子は無いという。
 それでも九峪は頭上の人物を見つめる。
「驚いた・・・もう気付いたのか!?」
 観念したのかそんな事を言う、その言葉に九峪はにやりと笑う。
「かまかけたんだよ、こんなところに一人で居るとは思えなかったからな」
「なんと・・・ふふ、この年になってそんなことに騙されるとは・・・」
<九峪>
(なんだ?今忙しいんだけど)
<この男は元耶麻台国王弟伊雅だ>
(なっ!?マジか?)
<肯定>
(分かった、ありがとよ)
<それと伊雅の護衛には乱波の清瑞というものが就いている、乱波とは情報工作や破壊活動などを旨とする諜報員だ>
 忍者みたいなものか、そう納得する。
(詳しいことまでありがとよ)
「九峪さん!九峪さん!どうしたんですか!?」
「あっ!大丈夫・なんでも無いから心配しないでいいよ」
 心配する伊万里から頭上に向かって、
「それで?耶麻台国王弟伊雅さんがこんな所で何してるんだ?」
「「なっ!」」
 伊万里と伊雅の二人が驚きの声を上げた、ほぼそれと同時に九峪の首筋にひんやりとした感触があった。
「・・・・・」
 いつの間にか九峪の背後に一人の女性が立っており、その手にある短刀が九峪の首筋に当てられていた。
「んで・・・あんたが清瑞さん?」
「・・・貴様何者だ?」
 命を握られてるのにもかかわらず九峪の口調は明るい。しかし九峪の軽口に女性はハスキーな声で恫喝する。その声は冷たく質問も端的だ。
 それを見た伊万里が慌てて剣を抜く。
「いつのまに!」
「しっ!狗根国兵に気付かれる」
「しかし・・・」
「大丈夫だから剣を収めて」
 しぶしぶ剣を収める、しかし視線は清瑞という乱波をにらんだままだ。
「質問に答えろ」
 周りの状況を気にしていないのか淡々と続ける。
「そのまえに、コレどかしてくんない?」
「殺すぞ?」
「殺したら質問の答えは解らないままだよ?第一俺はあんたらの敵じゃないし、それにあんまり騒ぐと狗根国兵に気付かれるよ?」
 清瑞の脅迫をものともせず九峪の口調は軽い。
「・・・清瑞、退け」
「伊雅様!しかしこの者は・・・」
「構わん」
 反論は許さないと言った口調の伊雅に、しぶしぶ九峪から離れる清瑞。
「・・・別に隠すようなことじゃないから良いけど・・・その前に伊雅さん?」
「何かね?」
 九峪の口調に清瑞が眉をひそめる。
「耶麻台国を復興させる気はあるかい?」
「・・・無論だ」
 九峪の問いにはっきりと頷く伊雅。
「そっか・・・じゃああの子達を助けないといけないな・・・」
「囚われている者が誰なのか判るのか?」
「ああ、解るよ」
 親指を使い向こう側を指し示す。
「あそこにいるのは、星華と宗像神社の娘達だよ・・・知ってる?」
「星華様だと!?あの星華様が居られるのか」
「そ、多分間違いないよ」
「あ・あの九峪さん?」 
 二人が誰の話をしているのか解らない伊万里が尋ねる。
「星華って一体?どういった人なんですか?」
「星華様は、火魅子の資質を持っていらっしゃるのだ」
 九峪が言う前に伊雅が答えた。
「な・火魅子!?」
「・・・・」
 火魅子と聞き驚く伊万里、清瑞は少し眉を上げる程度だったが。
「な・ならば急いでお助けせねば!星華様の身に何かあっては・・・!」
「だから落ち着いたほうが良い!人質にでもされたら手も足も出ないだろ」
 木から飛び降りると今にも飛び出しそうな勢いの伊雅を、押し留めようとする九峪。
「し・しかし手遅れになったら・・・」
「大丈夫!連中彼女達の正体までは分かっていないみたいだから・・・」
 落ち着かせようとする九峪、そんな所に清瑞が近寄ってくる。
「だから落ち着けって・・・あっ・丁度いい清瑞さんもてつ」
「断る」
 無表情のまま即答する。
「・・・なんで?」
「まずは質問に答えろ」
「あんたもしつこいなぁ・・・」
 落ち着いた会話のようだが、九峪方は大暴れする伊雅を抑えるのでいっぱいいっぱいだ。
「星華様今お助けしますぞ!」
「だから落ち着けって、そんな騒いだらばれちまうよ!」
 そんな九峪を清瑞はじっと見つめる。
「・・・貴様、九洲の人間ではないな?」
「ああ!そうだよ俺が九洲人に見えるか?」
「見えん」
「じゃあ聞くな」
「まずその態度・・・」
 九峪の言葉をまるっきり無視している。
「王族である伊雅様に対してもその態度、許せん」
 その言葉に九峪の表情が変わる。
「王族だからどうした?」
「「なっ!?」」
 九峪の言葉には伊万里も絶句した。
「臣下のいない王族なんか張子の虎も同然だろう?」
 伊雅も騒ぐのをやめ九峪を見つめている。
「貴様・・・言うに事欠いてそれか!」
 静かな口調の中にも、凍りつくような怒気を感じる。
「命は要らんと見えるな」
 すっと、音も無く清瑞が刀を抜く、だが九峪は清瑞の事を気にすることも無く続ける。
「王も無く、臣下も無く、城すらも無い」
 清瑞の身体から一切の気配が消える。
「だけど、国を求める民はいる」
 ピタッと清瑞の動きが止まる。
「そしてその民のために戦おうとしてる人がいる、だからその人たちを俺は助けたい・・・それからで良いだろう?俺の素性なんて」
「・・・・・」
 伊雅が清瑞の肩に手を置く。
「納めろ・・・清瑞」
「はい・・・」 
 それを見て九峪は笑みを浮かべる。
「ありがとう・・・」
「・・・九峪さん」
 それまで様子を見ていた伊万里が九峪に声をかける。
「やっぱり、九峪さんって凄いですね」
「えっ?何で?」
 伊万里は答えない、ただ不思議そうにする九峪を見て微笑みを見せるだけだ。
「それで確か・・・九峪殿、でしたな」
「なんだい、伊雅さん?」
 伊雅に向き直る。
「それで・・・星華様を助ける作戦というのは?」
「ああそれね・・・それじゃあ、まずは・・・」
 振り返る、見ると先ほどまでいた狗根国兵の影も形も無い。
「まずは追いかけよう、話はそれからだ!」
 その場にいた三人にそう言うと、不敵な笑みを浮かべた。

七話 完

 こんにちは、また二つになってしまいました。
 それというのも、私の至らなさなんですが・・・面目ないです
 出来るだけ面白いものを書こうと思っているので、もう少しお付き合い下さい、ホント頑張りますんで・・・・
 伊万里の性格どうでしょうか?私としてはこんなイメージなんですが・・・
 次回は九峪が戦います、上手くいくか自信ないですが出来たら応援してください。
 それでは・・・・
 PS 
 けいさん、励まし有難うございます、これからも精進しますのでお付き合いお願いします
 
 



 この九峪君はかなりしっかりした強い意志と信念があって、カッコいいですね。小説版の、段々とリーサーシップを発揮してきている、成長途中の九峪が好きなんですが、葵さんの九峪君は貫禄十分というか、大人っぽいというか(笑)こういう九峪もいいですねえ。伊雅&清瑞とのやりとりには感心しました。
 そして九峪分身の名無しさん・・・結構好きかも♪です。
 私の更新ペースがちょい不定期なので申し訳ないんですが、どんどん続きお願いします、葵さん^^

質問 〜約束のために〜第六話・第七話の感想をお願いします

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