〜約束のために〜



作・葵様


五話 資質


「ん・・・?ここは?」
 身体を起こしてみる、空を見上げると美しい星空が見えた。
「三世紀の九洲か・・・」
 満点の空にある星の数はそれだけで二十世紀ではない証明になるほどであった。
 しばらくの間見惚れていたが、自分の手を見る。
「これは・・・?」
 見ると、先ほどは無かった黒塗りの鞘に納まった刀が見えた。
 さらに見渡すと少しはなれたところに自分の荷物も見える。
「武器はこれだけか、しかも抜けないんだよな」
 自嘲気味に良いながら軽く引いてみると、あっさりと抜けた、刀身を見ると驚くことに透き通って向こう側が見えた。
「何・・だ、これ・・・」
<その刀身は魔を裂き、形無きものを断つ>
「なっ!?」
 自分の独り言に答えるかのように頭の中に声が響いた、思わず辺りを見渡す。
しかし、当然ながら周りにはだれも居ない。
「誰だお前!?」
<お前、という表現は相応しくない>
またも頭に声が響く。
<先ほど送られてきた情報に耐えきれなかった九峪雅彦が、自身を守るためにその情報を処理する為に創り出した存在> 
 その言葉に軽く衝撃を受ける九峪、が直ぐに気を取り直す。
(あれだけの事なんだ・・・何が起きたって不思議じゃないさ)
 そんな気分になって自分の中に起きた異変を受け入れた。
「・・・それじゃあ、今の状況は分るか?」
<肯定・・現在九洲は狗根国の占領下にある、中心は耶麻台国の耶牟原城を水に沈めその上に造った征西都督府、長官は紫香楽>
頭の中に語られる知識が、本来自分のものだという実感は全く湧かなかった。
<現在も散発的に狗根国に対し耶麻台国再興を掲げる反乱が起きるが、全て早々と鎮圧されている>
(反乱が起きてるって事は、まだ耶麻台国は忘れられてないって事か・・・)
そんなことを考えていると、ある事が気になった。
「日魅子は!?日魅子はどこにいるんだ!?」
<彼女はまだこの時代に存在しない、予定では一月後当麻の街を東に一日歩いた地点に現れる>
「当麻の町っていうのはどこにあるんだ?」
 言った瞬間、頭の中に地図が浮かんだ。
「・・・へぇ、便利なもんだな・・・それじゃあ・・・今いる場所は?」
<不明>
即答だった。
<現在地点は知識として送られていない、ゆえに答えることは出来ない>
「・・・そっか」
 大してショックは受けなかった。
(ここまで分かれば十分だな)
 立ち上がり歩き出す、まずは今いる場所を知る必要がある、その為にはじっとしていても仕方が無い。
「まずは、人を探すか・・・」
 
一時間ほど山道を歩いたところで違和感があった。
(見られてる・・・?複数じゃないな、一人か二人・・・どこだ?)
 怪しまれないように立ち止まり一息つく、さり気なく空を見上げ、ぼうっとする。
(誘いに乗ってこないな・・・襲うつもりがないのか、はたまた襲えないのか)
 直感的に後者だと思った、だとしたら何の問題も無い、そう思った。
「おい!どこにいるか知らないけど、襲うつもりが無いなら出てきてくれ! 見られてるっていうのはあんまり気分が好くないんだ」
 出来る限り相手に不信感が湧かないようにゆったりとした口調。
「そっちが何もしないんなら、俺は何もしない」
 見えない相手にゆっくりと語りかける。
「・・・・」
 数秒の沈黙、何の反応も無いことに首を振る、どうやら出てくるつもりは無いらしい、
「わかった、それじゃあ俺はもう行くぞ!」
 宣言して歩き出す、すると背後から安堵の吐息が聞こえた。
「そこか!?」
 次の瞬間気配に向かって走り出す、暗くてよく分らないが向かう先から何者かの影が見えた。
「・・・・・っ!?」
 慌てて逃げようとするが、足を怪我しているのかその動きはぎこちない。
「遅いっ」
 影に向かって飛び掛る、思っていたより細身であった。
「きゃあ!?」
 影が悲鳴をあげた、やけに高い声だ。
「は・離せ!私に触るな!」
「お・女?」
 思わず、押さえていた手を離してしまった、直後その手が九峪の頬に軽い音を立てる。
「っ痛ぅ」
 頬を押さえた瞬間、影が九峪を押しのけそのまま走り出す。
「あっ!?ちょっと待て・・いや、待ってくれ!」
 待つはずが無い、そう思いながらも叫ぶ、すると影が何かに足を取られたのか、いきなり転んだ、慌てて立ち上がり走り寄る。
「おい!大丈夫か?」
「来るな!来るんじゃない!」
 心配する九峪に、襲われるのを恐れるかのように叫ぶ。
「落ち着いてくれ!さっきは悪かった、・・・っておい!あんた怪我してるじゃないか!」
 近寄ると右足の太腿に折れた矢が刺さっていた、先ほど転んだ原因はこれらしい。
「おい!応急処置するからこっちに来てくれ」
 荷物を降ろし準備をする九峪、しかし警戒しているのか女性はこちらに来ようとしない。
「速く治療しないと駄目になるかもしれないんだぞっ!」
 焦れて叫ぶが動こうとしない女性、我慢できず近づき腕を取り引き寄せる。
「あっ!?離せ!」
 女性が叫ぶが今度は離したりしない、強引に寝かせると矢を握り締める。
「矢を抜くから身体の力を抜いてくれ」
「・・・・・・」
 女性は答えない、しかし体の力は抜いたらしい、九峪はその様子に満足すると矢の方を向き一気に抜く。
「うっ」
 痛みに呻く女性、傷口から出る血液を準備していた布巾で抑えながら片手で消毒液を取り出す。
「少し沁みるけど我慢してくれ」
 抑えていた布巾をずらして消毒液を噴きかける、沁みるのか歯をかみ締めて声を出さないように呻く、血が止まったのを確認すると包帯を取り出し、慣れた手付きで傷口に巻いていく。
「・・・よし!終わった」
 包帯を縛って留めるとそう言った。
 その声に身体を起こす女性、包帯を不思議そうに見た後、九峪をじっと見つめる。
「・・さっきはすまなかった」
 その言葉に意外そうに眉を上げる女性。
「女性にいきなり飛び掛ったりして本当に申し訳なかった」
 こちらを見つめる女性が責めているのだと思った九峪はそう言って頭を下げた、何か言われると思いそのままにしていると、女性が肩に手を置いてきた。
「気にしないで下さい、私も出て行かなかったり、逃げようとしたりしたんですから」
 すまなそうにそう言う、その言葉に九峪は顔を上げると今度は両手を合わせた。
「もう一つ謝ることがあった」
「?」
「さっきは無理やりひっぱったりしてごめん!怪我を見たらほっとけなくて・・・」
 悪いことをした子供のような九峪。
「フフフ・・・」
 それを見て少しだけ笑う女性、九峪は少しムッとして女性を見る。
「あっ!ごめんなさい、笑ったりして」
 九峪の顔を見て慌てたように謝る。
「だってさっきのは私を心配しての事なんですよね?だったら感謝することはあっても怒ったりしていませんよ」
「そう言ってもらえると助かるよ・・・そう言えば自己紹介がまだだったね、俺は九峪っていうんだ・君は?」
「私は、山人の伊万里です」
「伊万里さんか、よろしくね」
「こちらこそよろしくお願いします」
 自然とお互いの顔に笑みが浮かんだ。
「伊万里さん」  
 少し笑いあった後に、真顔に戻った九峪が口を開いた。
「なんです?」
「何があったんだい?・・・答えたくないなら無理に言わなくてもいいけど」
 質問に伊万里の顔が強張った、それに気付いた九峪は慌てて付け加えたがあまりフォローになっていない。
「・・・狗根国の連中に襲われたんです」
 数秒の沈黙の後に、絞り出すかのような声で言った。
「私の住んでいた里はもともと耶麻台国関係者の隠れ里でした、それをどこからか嗅ぎ付けた狗根国の連中が襲撃をかけてきたんです、連中は容赦が無かった、男達は殺され、女は襲われ、子供ですら嬲り者にされた・・・」
 その時の記憶が蘇ったのか伊万里の瞳には涙が溢れていた。
「私は二人の仲間と逃げていたんですけど、追いつかれそうになったんで集合場所を決めてバラバラに逃げたんです、ところが逃げてる途中で・・・・」
 流れ弾に当たり、治療も出来ず息を潜めているところに九峪が現れた。
「・・・そういう事か・・・」
 いつ、どんな場所でも人死にはなくならない、そんな思いが九峪の胸をよぎった。
「・・・まぁここまで来れば大丈夫さ!この辺は静かだし連中も諦めたんだろ!」
「・・・そうでしょうか?」
 励ます様に明るい態度になる九峪、しかし伊万里の顔は晴れない。
「そうそう、大丈夫だって!伊万里さんは寝たほうがいい、なんなら俺が起きて見張りしてるから」
「・・・そうですね、それじゃお言葉に甘えて休ませてもらいます」
 起こしていた身体を倒し、横になる伊万里。
「でも見張りは私もやります、後で起こしてくださいね?交代しますから」
 頑として言い張る伊万里に頷く九峪、少し経つとゆったりとした寝息が聞こえてきた、九峪はバックの中から大き目のタオルケットを取り出し伊万里にかけた。
「・・・・・・」
<彼女を見て気がつかないのか?>
「うわぁ!?」
 伊万里の寝顔に見入っていたところに突如声をかけられ慌てて自分の口を塞ぐ。
(いきなり声をかけるんじゃない、驚いただろうが!)
 声には出さず怒鳴るかのように言う。
<しかし、なんと言って声をかければよいか分らなかった>
(普通に名前を呼べばいいだろうが!?)
<前にも言ったように今話している存在はお前だ、名前で呼ぶのはおかしい>
(そんな事はどうでも良い!今後は俺とお前は別人だ!良いな!?)
<・・・了承した>
(・・・で?最初の用はなんだったんだ?)
 異様に疲れてしまい、力なく尋ねる。
<彼女を見たことがないか?>
(ある訳ないだろ!)
 即答する、伊万里はこの世界の人間、九峪は九峪の世界の人間、面識があるはずが無い。
<・・・山人の伊万里、耶麻台国縁者の隠れ里、県居の里に育つ>
(!?なんで知ってんだよ?)
<影が送ってきた中にあった>
 言われて気付く、影からの情報から身を守るために作られた人格なのだから知っているとしたら、それしか理由が無い。
(なんであいつが彼女のことを教えるんだよ!?)
<話しは最後まで聞け、それは彼女が王族でしかも火魅子の資質を持っていると思われるからだ>
(火魅子の資質?)
 聴いたことの無い単語に眉をひそめる。
<耶麻台国は元々天空人姫神子がつくったもの、そして代々姫神子の血を継ぐ女性が女王火魅子として国を統治していた>
 いちいち頷きながら話を聞く九峪。
<そして火魅子になるにはある程度の資質が必要、そして彼女はその資質を持っている、そういう事だ>
(・・・ちょっと待て、なんでそんな事教えたんだあいつは?俺に何をさせようとしてるんだ)
<不明、その様な事は教えられていない>
 淡々とした口調、呆れたように九峪が言う。
(少しは考えてみろよ!それぐらい出来るだろう?)
<・・・・・憶測になるが良いか?>
 少し考え込んだのか、間を開けてから答える。
(構わないぜ)
<・・・・もしかしたらあの影は耶麻台国を復興させようとしているのかもしれない>
「なんだよそりゃあ!?」
 思わず叫んでしまう、またも慌てて伊万里を見るがどうやら起きる様子は無い、相当疲れていたのだろう。
(どうしてそうなるんだよ?)
<九峪の言う日魅子という人物が直系の火魅子の血を受け継いでいるからだ>
「!?」
<影が送ってきた情報によると、姫島日魅子は直系の火魅子だ>
 影の言葉が思い出される。
『彼女はあるべき世界に帰っただけ・・・』
(あるべき世界ってそういうことかよ)
 そして同時にあることに気付いた。
(日魅子はこの九洲の民の希望ってところか・・・)
 そんな人物を支配している狗根国が歓迎するわけが無い、間違いなく命を狙われるだろう、日魅子を助けるということは同時に狗根国に喧嘩を仕掛けることになる。
(確かにそうなれば耶麻台国を復興させるしかないだろうな・・・)
 自嘲気味に笑う。
(結局俺は、人殺しから逃れられないんだな・・・)
 夜空を見上げながらそんなことを思う、何を思ったのか突然荷物に歩み寄る。
(そうとなれば準備しないと、悲しむのはいつでも出来る)
 気分を切り替え荷物の点検をする、まずは伊万里の治療に使った救急セット、世界地図、水筒、少し大きめのジャケット、腕時計、非常食(カロリーメイト)、
登山用のロープ、愛用の皮製のグローブ、財布、そして黒塗りの鞘に入った刀と細長い黒の布袋、
(財布は意味が無いな、地図はいつでも出せるようにしといて・・・・)
 九峪の目が細長い袋に留まる。お人好しだった親友の顔が浮かんだ。
(お前との約束を守るにはまた人を殺さなきゃいけないらしい)
 中身を出そうとして、やめた、今は見たくなかった。
(なぁ・・・俺はまたあの時みたくなっちまうのかな?)
 目を逸らし袋をバックに詰める、次に刀を手に取り抜いてみる。
(武器はこれだけか・・・しかも、これ・・使えるのか?)
 相変わらずその刀身は透き通り実体があるように見えない。
(おい!・・・え〜と)
<なんだ?>
なんと呼べばいいか解らず詰まっていると返事が聞こえた。
(こいつだ!この刀はいったい何なんだ?)
<前にも説明したはずだが?>
(いまいち分らないんだよ!?これ)
<その刀は魔といわれる存在を滅するために鍛えられた。人外を切るために創られた為か形無きものを切る力を持っている>
(人外!?妖怪とか悪魔とかの事か?)
<否定・・・この世界では魔人や魔獣と呼ばれる存在が居りそれを倒すために作られた物だ>
(ちょっと待て!それじゃあこの刀はこの世界で創られた物なのか?)
<肯定>
(どうやって親父はこいつを手に入れたんだ!?)
 様々な考えが頭をよぎる、しかしどんな考えであっても確認の仕様が無い。
<聞きたい事はもう無いか?>
 九峪が考え込んでいることを知りながら、そんなことを言ってくる。
(・・・・待て!もう一つあった!)
<何だ?>
(名前を付けよう)
<名前?何にだ?> 
(もちろんお前に)
<何を言っている、そんなものは必要ない>
(名前が無いんじゃ不便なんだよ!)
<・・・・・・・・>
(どんなのがいいかな・・・)
 黙ったのをいいことに勝手に考え始める九峪。
(よし!ゴンザレスって言うのはどうだ?)
<却下>
(な・何で!?)
 即答され驚く九峪。
 <悪趣味だ、なによりごつ過ぎる、その上センスが無い、どこから出てきたんだそんな名前?>
 (むぅ〜・・意外と我が侭な奴だな、それじゃあ・・・)
 <私は要らないと言っているのだが・・・>
 全く聞いていない九峪。
 (フランソワンヌ!)
 <お前は自分の分身をそんなふうに呼びたいのか?>
 (い・いや呼びたくない)
 <だったら言うな>
 そんなやり取りをしながらも九峪はどんどん考えていった。
 (サトシ)<聞いた事が有る気がするのは気のせいか?>
 (ジュビロ)<サッカーチームだろうが>
 (雅彦)<いや、お前の名前だろが>
 (洸)<さすがにそれはまずいと思うが>
 (ポチ)<犬じゃない>
 (あああああ)<段々面倒になってきてるだろ、お前>
 (じゃあどんなのが良いって言うんだよ!)
 <私は要らないと言っている>
  逆上して叫ぶ九峪に冷たく返す。
 (もういい!勝手にしろ)
  そう言って見張りに意識を向ける九峪、そんな中。
 <名前か・・・少し考えてみても良いか>
  そう考えていた事に気付かなかった九峪であった

 五話 完


 ええっと・・・何も言えません。
 どうしても上手く書け(打て)ないんです。才能無いんですかね?
 まぁこれからも諦めずに頑張ろうと思うんでお付き合い下さい
 それでは読んで下さった方有難うございます。管理人のけいさんもありがとうございます。
 また次のお話で・・・


 伊万里登場ですね♪
 九峪君、結構好印象を持ってもらえたようで一安心。そしてこの物語では、キョウではなく、今のところ名無しさんの九峪の分身が案内役なんですね。最後のやり取りが面白い(笑)笑わさせていただきました。
 葵さん、文才あると思いますよ^^本当に。
 続き楽しみにしています。

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