戦慄の○○神?


作・HAL93様


「あらあらぁ〜、おはよぉ〜ございますぅ〜」
 その日いつものように会議を終えたオレが通称「提案の廊下」を通りかかった時、彼女はそこにいた。
「よぉ、お掃除ご苦労さん」
 せっせと床磨きをしているその女性に気安く声をかけるオレ。
 「神の遣い」の権威に驕らず、誰にでも気安く振る舞うのがオレのチャームポイントだ。
「いえいえぇ〜、どういたしましてぇ〜」
 いかにも呑気そうな間延びした返事が返ってくる。
 なんとなく聞き覚えがある声のような気もするが・・・気のせいだろう、きっと。
 少なくとも金髪に褐色の肌の女性に知り合いはいない・・・どちらか一方の特徴だけならまだしもだが・・・。
 まぁ、強いて言えば伊万里の声に似ていないでもないかな?
 もっとも生真面目で男勝りなあいつがこんな風にほんわか気抜けする様な受け答えしてるとこってのも、ちょっと想像できないけどなぁ・・・。
「(最近雇ったお掃除お姉さんだろうか?)」
 いくら慣用句とはいえ「お掃除おばちゃん」呼ばわりはあまりにも失礼な、それは可愛い感じの美人さんだ。
「(ちぇっ、嵩虎も紹介してくれればいいのに、気の利かない・・・)」
 まあ、ここで出会ったのも運命のお導きってことで、さっそくお近づきになるってのもこれまた一興かな?
「そういえばお姉さ「九峪様! ちょっとお話があるんですけど」ん、お名前は・・・って誰だよ、邪魔すんのは・・・」
 ものの見事に話の腰を折ってくれたのは・・・先日復興軍の一員となった魔兎族の兎華乃であった。
 しかし恋人候補でもないくせに何でここで話しかけてくる?
 いや、それ以前に狙い澄ましたようなタイミングで話しかけてくるのは何故だ?
 もしかして新しく恋人候補に立候補しようとでもいうのかな?
 最初の出会いの時に「さすがはあたしが認めた男」とか言われちゃってるしなぁ。
 んで、早速ライバルになりそうな彼女との出会い(フラグ)を潰しておこうとか思ったりして・・・。
 いやいや、それとも誰かのさしがねか?
 復興軍総大将の権威失墜を危惧してオレの行動を見張ってでもいたのか?
 まさか復興軍のメンバーが一丸となってオレのお楽しみの邪魔をしようとしてるんじゃあるまいな?
 一瞬いろんな想像(妄想?)が頭を駆け巡り、そんな疑心暗鬼に囚われるオレだった・・・自意識過剰だろうか?
「・・・そんな睨まないでよ。ほんとに用事があったんだからしょうがないでしょ。
 それがすんだら遠慮なくナンパでもなんでも好きなだけやっててくれていいんだからさ」
「いやオレは別にそんなつもりでは・・・」
 ここでオレがナンパしてたなんて噂をたてられたら後々やっかいだ、根も葉もない・・・って訳じゃないだけに。
「いいって、いいって言い訳なんかしなくったって」
 必死でこの場を取り繕おうとしるオレを軽くいなす兎華乃であったが・・・。
「それより用ってのはね・・・って貴様は!?」
 何故か突然血相を変えて跳ね飛び、次の瞬間には間合いを取り武器を構え戦闘態勢をとっていた。



「なっ、なんだなんだ? どうした「あらあらあららぁ〜、んまぁ〜兎華乃ちゃんじゃないの〜」んだ?・・・って」
 またも台詞を遮られてしまった・・・オレが主人公なのに・・・。
「お久しぶりねぇ〜。元気してたぁ〜? ずぅいぶんおっきくなったわねぇ〜!」
「・・・へ? ・・・もしかしてお知り合い?」
 っていうか、魔人である兎華乃のさらに小さい頃を知ってるこの人って・・・何者?
 思わず訊ねようと振り返ったオレの目に映ったのは脂汗を流しながら後ずさる兎華乃の姿であった。
 こと戦闘に関しては無敵の能力を持つと言ってもいい「空」の兎華乃の腰が引けている?
「きっ貴様は・・・ミトト!! 何故ここにいる!?」
 ミトト?・・・みとと?・・・ふぅーむ・・・MITOTOねぇ・・・どういう意味だ?
<「美しい兎が跳ねる」と書いて美兎跳である>
 へぇ〜美兎跳さんかぁ・・・でも美兎跳ってことは・・・名前からしてやっぱり・・・魔兎族の関係者?
 するってーと、この人もやっぱり魔人なわけ? そうは見えないんだけどなぁ・・・。

<説明しよう!
 彼女「九羅密 美兎跳」はもちろん魔人などではなく、生物学的には確かに人間である。
 しかし同時にだからといって只の人間という訳でもなく、彼女は別世界「天地無用!魎皇鬼」の住人なのである。
 更にそれに加えて「天地無用」世界において最強(凶?)の幸運を持つ「九羅密 美星」の実母でもある。
 しかもこの母娘はその容姿・性格・立ち居振る舞い・声質や口調に至るまでそっくりで、素人ではまず見分けがつかない。
 知らなければ母娘と言われてもまず信じることが出来ず、双子の姉妹かクローンであると言われた方が信憑性があると言われるくらいである。
 いや同一人物であると言われても疑う者はまず居るまいとさえ言える。
 なにせこの母が娘と違う処といえば、髪型微妙な違いと掃除中にドジ踏んで物を壊したりしないことくらいであったりするのだ。
 当然、彼女も娘である美星同様に偶然が必然を凌駕する強運の持ち主であり、只の掃除好きな大呆けお姉さんではないのである>

 なんでその別世界の住人である彼女が魔界やここに現れたりするんだ?
<人のことは言えない>
 いや、オレの場合はキョウに無理矢理連れてこられた訳だし・・・。

<それではそれも説明しよう。
 彼女「九羅密 美兎跳」のその行動によっては(その強運に伴って)特殊な効果が発生する場合があるのである。
 即ち彼女がお掃除する時、そこに全ての境界線はその意味を失う。
 超合金の壁も、幾重にも厳重に鍵を架けられた扉も、武装した宇宙海賊の軍団の包囲網も、無限に広がる大宇宙ですらも彼女を阻むことはできない。
 彼女の無敵の方向音痴?とお掃除への情熱にもれなくついてくるその空間移動能力は「シュレディンガーの猫」理論に基づくものではないかとの研究論文も提出されている(学会未公認)>

 ほっほぉ〜そうだったのか〜まぁ、理屈は兎も角「無敵の方向音痴」で現れたって点に妙な説得力があるっちゅーか・・・。

<因みに彼女は「プリン」が大好物である。
 「プリン」はその匂いを嗅ぎつけた美兎跳に「わ〜い、プリンプリン〜!」とお掃除を中断・誘き寄せることを可能としたアイテムなのである。
 彼女が所属するギャラクシーポリス(GP)では予測不可能な彼女の行動(お掃除)を少しでも制御・誘導するため、あらゆる関連施設の食堂には大量の「プリン」が常備されているといわれている>

 おおっ! そんじゃプレゼントアイテムには「プリン」が好感度(親しさ・愛しさ)アップ率が大ってか?(メモメモ)
<この時代の九洲に「プリン」があればの話ではあるのだが・・・>
 まぁ、あれは材料に卵と牛乳と砂糖さえあれば後はなんとかなるだろうから、夷緒にでも頼んで・・・・・・ん?
 ・・・って、ちょっと待てやぁぁぁ! オレの声に出さない心の独白に突っ込みを入れる貴様はだれだ〜!
<ナレーターである>
 そーじゃなくって、なんでナレーターなんぞがオレに話し掛ける?
 ここは某解説おばさんとかテリーマンとか出して説明させるってのが筋ってもんだろうが!
<それはさすがに無理である>
 いやまあ、テリーマンってのは冗談だが忌瀬あたりに解説お姉さんさせるって選択肢はなかったのかよ。
<確かに当初はその予定であったのだが、そこで一つの問題が浮上したのである>
 はぁ? なんだよ、いったい。
<即ち筆者が「ナデシコ」をろくに見たことがなかった事が判明したのである>
 なんじゃ、そりゃ〜!
<情報としては「なぜなにナデシコ」や「解説おばさ・・・」もとい「解説お姉さん」といったネタは知ってはいたのだが、流石にパロるには知識(体験)不足を自覚したらしいのである。
 その実態を知らずにはパロディーとして成り立たないと漸く気がついた筆者はそのネタを断念した・・・という経緯があるのだ>
 いやオレが言いたいのはそういう事じゃなくってだな・・・。
<第一、忌瀬が「天地無用GXP」を知っていたらそれこそ不自然である>
 それはまあそうだけど・・・その辺はお約束ってことでだなぁ・・・。
<そんな「お約束」をした覚えはない>
 ええぃ! 聞く耳もたんわぁ!! オレは野太い男の声でツッコミ入れられたくないんじゃぁぁぁ!!! 女を出さんかい、美人のお姉さんをよーっ!!!!
<・・・まぁ、そうまで言うのなら>


「あれってば、まさか伝説の疫病神「ミトト」ぉ!?」
「おわっと、兎音いつの間に・・・」
 気がつくと兎音がオレの右隣で驚きを露わにしてたりする。
<それこそお約束である>
「そうそう、今更そんなこと気にしてたら身が保ちませんよぉ」
「兎奈美まで平然とナレーターと会話してんじゃねぇ!」
 そして左隣には兎奈美までもが・・・ホントにいつの間に?
<お約束の解説役の唐突な登場シーンである。しかもご要望どうり美人のお姉さんであるのだが?>
「・・・ちょっと九峪様ぁ?」「まさか、わたしたちじゃご不満・・・だとでも?」
 頬を膨らませて詰め寄る兎音と兎奈美。
 口調こそ穏やかであるものの・・・いや、だからこそ迫ってくる兎音と兎奈美の気迫が恐ろしい。
 笑顔をつくってはいるが眼が笑ってないし、額に青筋が浮いてピクピク引きつっている。
「いや、そう云う訳じゃなくってだな・・・そっそれより知ってんのか、この人?」
 鬼気迫る二人の静かなる怒気に気圧されて、慌てて話題を変えようと焦るオレであった。
「あぁ〜ごまかしたぁ〜」
「まっ、いいですけどぉ・・・」
「(ほっ・・・)そっそれでどうなんだ?」
「直接知ってるって訳じゃないんですけどぉ・・・」
「魔兎族の伝説に残っている女王様の天敵にそっくりなんですの」
「天敵ぃ? あの女の人がかぁ?」
 しっ信じられん。「のほほ〜ん」として「ぽやや〜ん」って感じで「小春日和の日溜まりでひなたぼっこ」ってイメージのこの女性がかよ?
「あたしたちの伝説では歴代の「空」の女王が野望を抱くとき、どこからともなく現れるといわれてるんですぅ。
 そして彼女と相対した「空」の女王は必ず自滅していったそうなんですわ」
 どこからともなく、ねぇ。
 いやしかし、相手の力に対応して戦闘力を上げる「空」の兎華乃じゃあの殺気も邪気の欠片もない美兎跳さんとは勝負にならないか・・・。
 どう見ても戦闘力とかあるようにはみえないもんな・・・いいとこ非戦闘員の一般市民並だ。
<実はGP職員である彼女は生体強化処置を施されているはずである>
 ・・・へ? そうなの?

<GPの生体強化は樹雷の王族が受けるそれとは異なり、不老・延命・生体バリア等の「王家の樹」から受けるバックアップに基づく特殊能力得られないし、その生体強化のレベル自体にも雲泥の差がある。
 しかしそれでも筋力・瞬発力といった体力全般が超人的な域にまで高められている。
 ああ見えてその腕力は魔界の黒き泉の力を得た天目にだって引けを足らないはずなのである>

 ・・・・・・ほんとに?
<残念ながら未確認情報ではある>
 ・・・なんだよ、そりゃ?
 でもまあ、どちらにせよ相手に敵意がなければ「空」である兎華乃にとっちゃその戦闘力評価は実質ゼロってことだよな。
 どう見たって美兎跳さんが兎華乃にそんなもの意識があるようには思えない、となれば当然兎華乃の戦闘力も上がらない。
 それを無理に敵対して、挙げ句の果てが返り討ち・・・いや自滅かよ? 笑い話だな、こりゃあ。
 ため息と共に再び美兎跳さんに目を向ける・・・ニコニコと掃除を続ける彼女には兎華乃を怖れさせる疫病神の雰囲気なんぞ毛ほども感じられない。
「それにしても・・・子持ちとはみえないよな。いったいいくつなんだ?
 オレと同じか、いいとこ二つ三つ上くらいにしか見えないぜ?(年下って言われても納得できるくらいだし・・・)」
 脳天気に兎華乃に迫る美兎跳さんを眺めながら、そのときのオレはちょっとニヤついていたかもしれない。
 まぁ魔人じゃないにせよ別世界の人間じゃ堕とそうにもフラグがたたないだろうけど・・・。


  「「「 り ぃ ぃ ぃ ん 」」」

 その時、鈴がなった。
 オレのポケットの中で「日魅子の鈴」が小さく振動している。
「これって、まさか・・・」
 ・・・などと思う間もなくオレの体の奥底から、何か物凄く熱いモノがこみ上げてきた。
「うっ・・・・・・うぅぅぅっ」
 ソレはオレの中で爆発し、その暴発するエネルギーはさながら連鎖反応を起こすが如く増殖し体中を駆け巡った。
「ぐっ・・・・・・うおぉぉぉぉっ!」
 身体を内側から灼くような灼熱の奔流がオレを責め苛んだ。
「なっ・・・・・・なんのぉぉぉぉっ!!」
 しかしオレは耐えた・・・嘗て体験したことのない激しく吹き荒れる謎の力の暴風に曝されながら、しかしオレは堪え続けた。
「・・・?・・・九峪様ぁ?」
「えっ? なになに?」
「なんだっていうのよ!?」
「あらあら、どーしたんですかぁ?」
 オレの異変に気付いた一同の反応にも、しかし流石にツッコミを入れている余裕は今のオレにはなかった。
 汲もども尽きぬ黒き泉の如く・・・もとい、噴火する火山から流れ出るマグマの如くわき上がる謎の力はオレの身体に満ちあふれ、ついには堰を切った濁流の如く外界に流れ出した。
 そしてオレの身体から飛び出したエネルギーは兎華乃に向かって殺到する。
「よっしゃあ、いっけーい!」
「えっ? きゃぁぁぁっ!」
 まるで映画のワンシーンの如く吹き飛ばされ宙を舞う兎華乃。
 地面に叩き付けられ、しかしそれ自体は大したダメージではなかったらしく慌てて起きあがり警戒するように辺りを見回す兎華乃。
「・・・いっいよいよ・・・か?」
「いったい何が起こったって・・・ひっ!?」
 オレの中で兎華乃を吹っ飛ばしたエネルギーの奔流は少しづつ治まりつつあったが、代わりに新たなる変化が今度は兎華乃の方に起こっていた。
「あうぅぅぅっ・・・こっこれはぁぁぁっ・・・いっいっいったいぃぃぃっ!?」
 絶叫をあげる兎華乃の身体は著しい変化を起こしていた。
 それはまるでメキメキと音を立てているのが聞こえてくるかの如き肉体の成長であった・・・幼女のような身体から魔兎族の名に相応しい成熟した女性のそれへと・・・。
 そう、オレがあの苦行に耐えられた理由はただ一つ。
 それは死への恐怖でも、ゾンビへの嫌悪感でも、仲間や人民を守りたいといった心情でもなく・・・。
「(ラッキー! これでオレもあの感動的な変身シーンを拝めるぜ!!)」
 まさにこの一念につきたのである。
 そして子供向けワンピース水着のような戦闘服からはみ出しこぼれ出そうな胸やらお尻やらを眺めながら、言い知れぬ満足感に浸っているオレであった。
「・・・まさかオレも「天上天下」の棗真夜の変身に匹敵するモノをここで拝めようとは・・・ありがとう、兎華乃!」
<後先考えない見上げたスケベ根性である。まさに外道の名に相応しいバカ大将と言えよう>
 なんだとぉ!!
<怒鳴る前にまずその涎を何とかするべきである>
 おっといけね(じゅりゅっ)・・・じゃなっくって「後先考えない」ってどういう意味だよ?
<ここで兎華乃が戦闘力を持ってしまったらどうなるか、考えつかないのであろうか、この大バカ者は?>
 ・・・どっどういう意味だよ?
<美兎跳の方にその気がなくとも兎華乃にとっては恨み重なる「伝説の疫病神」である。
 それに対抗する力が手に入った今、する事はただ一つ。
 後は修羅場へ向かって「兎華乃まっぐら」である>
 ・・・おっ、おどかすなよ。まさかそんな・・・。
「・・・ふっ・・・くすくすっ・・・うふっうふふふふっ・・・・・・あーっはっはっはっはーっ!」
「・・・とっ・・・兎華乃・・・さん?」
「・・・この身体に満ち溢れんばかりのこの力・・・素晴らしい!・・・勝てる!・・・これなら勝てるぞ!!」
 まるで本性を現したが如く高笑いを続ける兎華乃・・・悪役笑いがすっかり身に付いている。
 いまや音羽さんに匹敵する長身と筋肉質のしかし兎音達すら凌駕するグラマラスなワガママバディー。
 またこの変身・・・いや成長に伴って可愛らしかった目鼻立ちも大人びた美貌のそれとなり、いまや悪の女王と言うに相応しい風格さえ醸し出している。
「まずいってそりゃ・・・これじゃどちらが悪者か分かりゃしないじゃ・・・ん? いや、美兎跳さんが悪役って訳はないけど・・・」
<元々、魔界の住人に善玉やらせようってのが間違いだったのである>
 そうは言っても兎華乃は一応仲間だし・・・「疫病神」って言ってたし・・・。
<魔界にとっての「疫病神」なら人間界や天界から見れば「英雄」「救世主」と呼ばれる者ではないのだろうか?>
 そっそうなのか?・・・いや・・・でもしかし・・・。

  「「「 ビリッ! ベリベリベリベリッ! 」」」
「おおぉーっ!!!」
「きゃっ!」
「あっちゃーっ」
「あらあらまあまぁ〜元気がいいわねぇ〜」
 さしもの魔界の戦闘服も兎華乃の急激な成長に耐えきれず、一気に引き裂け弾け飛んでしまったのだ・・・それも胸と腰を中心に!
 いまや兎華乃の身体を覆っているのは申し訳程度の布きれの残骸でしかなく、しかも肝心な場所は全然隠せてはいない。
「オレはいま、モーレツに感動している! 大暮先生、挿し絵描いてくれ!!」
<万が一に実現したとしてもその場で発売禁止である>
 そこはそれ、あの先生もエロ漫画出身は訳だし、その辺は蛇の道はヘビってつーか色々と抜け道とか・・・。
<そんなことよりである。あれを止めた方がいいのではないだろうか>
 いやそんなことってオレ的には結構重要な・・・って、なにぃ!
<九峪がナレーターと掛け合い漫才に興じている間に、美兎跳はまるで恐れ気もなく高笑いする兎華乃に歩み寄っていたのである>
「でもねぇ〜年頃の女の子が〜お外で裸ん坊っていうのは〜ちょ〜っとはしたないかな〜っておばさん思うのよ〜」
 この「おばさん」の一言で腰が砕けたオレは彼女を引き戻すタイミングを失った。
「くっくっくっくっくっ・・・みぃ〜とぉ〜とぉ〜・・・今日こそ貴様の・・・」
「よせっ、兎華乃! オレの美兎跳さんが〜新しい恋人候補が〜オレのウハウハなハーレムライフの新メンバーがぁ〜!」
「命日だぁ!!!」

「もぅ〜このおちゃ〜めさんっ」

  「「ペチっ」」(美兎跳が兎華乃にデコピンをかました音)

 この美兎跳さんのデコピンにはさすがの兎華乃も一瞬毒気を抜かれて、凍り付いたように呆然と立ちつくした。

  「「「 ち り ぃ ぃ ぃ ん 」」」 

 そしてその瞬間「日魅子の鈴」が再びしかも一際高く鳴り響いた。
「・・・なっ、美兎跳! 貴様ぁ、人を馬鹿にし・・・なっなんだ、これは・・・ううっぐわあぁぁぁぁぁぁ!!!!!」 
 そして兎華乃は雄叫びを・・・いや悲鳴を上げた。
 今、兎華乃の全身は光に包まれている。
 その中で兎華乃の身体は血管がまるで蚯蚓腫れの様に全身いたるところにに浮き出し、筋肉が痙攣を起こした様に不規則に脈動を繰り返すといった状態で藻掻き苦しんでいた。
「・・・ちっくしょう・・・まっ、また・・・かよ」
 しかしオレの方にも兎華乃の心配をしている余裕は、実はなかったりする。
 鈴が鳴り響くと一時収まっていた焦熱感が同時に再びオレの身体を舐め尽くした。
 しかも今度は同時にまるで体中の血液を抜き取られる様な脱力感を伴って、である。
 その時オレは何が起こっているのか直感的に悟った。
 最初の兎華乃の変身はオレの内側に浮き上がった謎のエネルギーがいわば擬似的な敵対者として兎華乃を攻撃した結果、兎華乃の本能がその攻撃力に反応してそれに見合った戦闘力を得るための起こったものであったのだ。
 しかし今回のこれはその謎のエネルギーが直接兎華乃に流れ込んでいる・・・。
 無論、何故そんなことが起こったのかはわからないが・・・つまり・・・今、オレは兎華乃に力を吸い取られているんだ。
 しかも兎華乃の様子から察するに・・・吸収を制御できずに暴走している?
「まずいぞ、兎華乃。これはバンパイアタイプの悪役が自滅する典型的なパターンだぞ。
 このままじゃお前、成長が止まらず老衰して婆さんになっちまうか、力を得た代償に肥大した醜いバケモノになり果てるか・・・いや最悪これは細胞が力に耐えきれず崩壊・消滅って末路のパターンだ。
 いますぐ力を吸い出すのを止めるんだ。でないと取り返しがつかないことになるぞ!」
 涙を流し激しく首を振り絶叫を上げながら、しかし兎華乃にはその現象をおさめる事は出来なかった。
<ある意味当たり前である。
 元々この変身は彼女の意志で行っているのではなく(望んだ事とは言え)半ば強制されてのそれなのである。
 本来なんとかすべきであり同時にできる可能性があるのはむしろ力を提供している(と言えなくもない)九峪の方であるのだが・・・>
 え? おっオレか?・・・まさかとは思ったけどこれってやっぱりオレのせいだったのか?
<しかしまぁ、それが出来れば苦労しない。
 キョウですら正体不明の九峪の不思議な力は、しかしそれを行使している最中の記憶が九峪自身にはないのである。
 九峪が意識がない状態でまるで何者かに操られるかの様にその力を行使したにすぎない>
 何者かって・・・いったい誰がそんな事をしてるっていうんだよ?
<それは九峪を九洲に遣わしたという神の意志であるのかもしれない>
 そんな馬鹿なっ! あれはキョウが考えた方便であってだな・・・。
<大切にされた品物には魂が宿るともいう。
 あるいはそれはその鈴の持ち主の意志であったのかもしれない>
 日魅子の?
<そう。彼女の想いは時空を越え九峪の危機を救おうとしたのかもしれない>
 まさか・・・第一(これまではともかく)今は別に危険なんかなかったぞ?
<あるいはそれは嫉妬の為せる業か?
 九峪の浮気心を鋭く察知した日魅子の本能の発露であるのかもしれない>
 ・・・いや、しかしじゃあなんで兎華乃の変身が暴走してんだ?
<人を想う心とは時として歯止めが効かぬものである、ましてや嫉妬にかられたそれは言うに及ばず>
 ・・・まっ・・・まさか・・・でも確かに日魅子には過激で嫉妬深いところがあったし・・・。
<無論それが彼女自身の意志とは限らない>
 そっそうだよな。まさか日魅子にそんなこと出来る訳が・・・。
<しかし無意識の行動であるからこそより恐ろしいってこともある。
 確か嫉妬にかられて恋敵を呪い殺した女性が「源氏物語」に出てきたが、その時も睡眠時に解き放たれた生き霊となった彼女が行ったことであって、普段の彼女はそんなことを意識してはいなかったのである。
 いや、意識して嫉妬心を封じ込めていたからこその生き霊の発現であり呪いであったとも言えるのである>
 いっいや・・・しかし今までこんな事なかったし・・・なぁ。
<堪忍袋の緒が切れたのか、はたまた別世界からの来訪者「美兎跳」の影響であったのかもしれない>
 ・・・・・・ゾクリッ。
 脂汗を流すオレの背筋を得体の知れない寒気が走り抜けた・・・。
<得体が知れない? 本当に?>
 ・・・思い当たる事が無い・・・ってわけではない・・・っつーか心当たりありまくりである、正直言って。
 火魅子候補のあの娘とか・・・直属武将のあの娘とか・・・ここんとこ戦況が安定してることもあって粉かけまくりだったし・・・。
 嫉妬?・・・日魅子がオレに?・・・んで恋敵が呪われるって?
 寒気の正体は日魅子の嫉妬と怒りに対する恐れであり、それに同時にオレのウハウハなハーレムライフに対する危惧でもある。
<何処まで行ってもそこから離れられないのであろうか>
 いっいや、そうだ。日魅子の嫉妬対策より今はこの事態をどうすればいいか、だったよな。
 ぶるっと頭を振るとオレは日魅子の事を頭から追い出した。
<原因が何処にあるにせよこの場合、九峪は触媒として力を行使する窓口として存在したにすぎない以上彼の意志でどうこう出来る訳ではない。
 もし九峪に自在にその力を行使することが出来たなら、狗根国との戦闘(特に魔人とのそれ)でももっと楽が出来たはずである>
 ・・・つまりどちらにせよオレには出来ることはないんだな・・・打つ手なしで見てるしかないってわけかよ?
 脱力感に加えて無力感に打ちのめされながら、再び兎華乃を顧みれば彼女を包む光は一際強さを増していた。
 そして今やその光の中に兎華乃の姿を判別するとこもすらも難しくなってきていたのだ。
 既に兎華乃の苦悶の呻き声すら聞こえてこない。

  「「「 り ぃ ぃ ぃ ぃ ぃ ぃ ん ! 」」」
 「日魅子の鈴」が一際高く鳴り響いた。
 同時に爆発的に一際激しく輝いたその光は、しかし次の瞬間には消え失せていた。
「兎華乃!」
「「女王さまぁ!!」」
「あらまあ〜」
 そしてそこに現れたモノは・・・。



「・・・これが・・・兎華乃?」
「・・・女王様の力が限界を越えたのって・・・初めてですぅ」
「・・・伝説に伝わる女王の自滅って・・・こういうことだったんですのね」「まぁ〜かわいぃ〜」

「ぱぷぅ?」

 そこには・・・何故かおしゃぶりをくわえ、ウサギの着ぐるみに似た産着を着込んだ小さな赤ん坊の姿があった。
「ぅぷっ?・・・ぷっぎゃぁぁぁぁぁ!(なっ・・・なんじゃ、こりゃぁぁぁぁ!)」
 変わり果てた姿となった兎華乃が叫び・・・いや泣き声をあげる・・・自分に何が起こったのかやっと認識できたらしい。
 ・・・兎華乃・・・お前はある意味「棗 真夜」を越えたんだな・・・。

 驚きで(呆れて)硬直するオレたちを尻目に美兎跳さんが兎華乃を抱き上げた。
「ぱう? ばぶぶぅ!(な、なんだ? ええい、私にさわるな!)」
「よちよち、いいこでちゅねぇ〜」
 美兎跳さんに抱き締められ、それを逃れようとジタバタとむずがり暴れる兎華乃(赤ん坊バージョン)
「ぴぃ〜っ! ぷきゃ〜っ!(はなせ! はなさんか、美兎跳!)」
「あらららぁ〜どちたのぉ〜おっぱいほちいのかなぁ〜?
 う〜ん、ごめんねぇ〜わたしも今オッパイでないのよねぇ〜ちょっと前だったらでたんだけどぉ〜。
 あっ・・・でもぉ、ふくませたげれば案外またでてくるかしらぁ〜?」
 なに!?
 そのときオレの瞳に映ったのは兎華乃にオッパイをやろうと胸元を露わにした美兎跳さんの姿だった。
<それはまるで一枚の宗教画。
 御子に授乳する聖母のような神々しいまでの姿であった>
 うっ羨ましい・・・っつーかオレと代わってくれ兎華乃!
<・・・しかし、この男には美兎跳の胸しか目に入っていないようである。
 まったくもってどうしようもないスケベィである>

  「「 ち り り ん 」」
 ぎっくーん・・・今、また微かに「鈴」が鳴らなかったか?
<・・・・・・>
 ・・・・・・こっ今度は・・・なんにも起こらない・・・みたい・・・だ・・・な。
 ふうぅぅぅ・・・・・・きっ・・・気のせいだったのか?
(・・・でも、なんかナレーターの台詞に反応するみたいなタイミングだったよなぁ・・・まるで相槌を打つみたいに・・・まさか・・・ねぇ?)
「ふぎゃっ! ぴぎゃっ!(ええい! やめんかっ!)ガブリッ!」
「いったぁ〜い」
 あっ、兎華乃のやつ、無理矢理ふくまされた乳首に噛みつきやがった。
 なっなんてことを・・・血が出てるじゃないか。
 美兎跳さんは涙目で噛み痕にふぅふぅと息を吹き付けている。
 更にそこを舐めようとしているようだが・・・流石にちょっと無理がある。
 兎音たちのような魔兎族の標準サイズなら兎も角、並の人間のオッパイじゃ自分でふくむのは難しい。
 ああっ、言ってくれればオレが舐めてあげるのに・・・。
<ほんと〜に何処までも懲りないスケベイである> 「「 ち り ん 」」
 うっせぇ!
「んもぅ、おっぱいじゃないのぉ?」
 ちぃっ! みろ、しまっちまったじゃねーか。
<人のせいにしてはいけない。誰かのイヤらしい視線に気付いたのではないのだろうか?> 「「 ち り り ん 」」
 そっそんなことはない・・・と思うんだけど・・・。
「うぅ〜ん・・・あっ、それじゃ〜おしめかしらねぇ?」
 赤ん坊をあやし頬ずりし、あまつさえ今度はオムツを替えようとする美兎跳さん。
 その様子は(何にも知らずに)端から見てる分には微笑ましくすらある光景ではあるのだが・・・。
<このケダモノもさすがに乳児には欲情しないようである。そこまで道を踏み外していないと知る事が出来ていくらかほっとする思いである> 「「 ち り ん 」」
(ええぃ、無視だ無視!)しかしそれは兎華乃にとっては悪夢以外のなにものでもないんだろうなぁ。
 でもまっ、どうせその姿のままじゃどうしようもないんだし、元に戻るまで世話してもらえや。
<この外道はまだ諦めていないらしい> 「「 ち り り り 」」
 いやだって兎音や兎奈美に育児が出来るとも思えないしなぁ・・・。
<経験者の紅玉や子供好きの音羽なら喜んで引き受けてくれるのではないだろうか> 「「 ち り ん 」」
 ・・・・・・。
「よちよち、いま気持ちよくなりまちゅからねぇ〜」
「ぅぶっ・・・びえぇぇぇぇぇ〜っ!!!(おっ覚えてろよ、美兎跳!!!)」
 そして今ここには兎華乃の泣き声(絶叫?)が響き渡るのみであった。

<諸行無常の響きあり>

(合掌)南ぁ〜無ぅ〜!

 「「 ち ー ん 」」

     「 戦 慄 の 疫 病 神 ? 」  完 了


 HAL93さんから頂いた、「火魅子伝」と「天地無用!GXP」のキャラ合作SSです^^

私は「天地無用!GXP」はまだほとんど見てないんですが・・・ネット局少なかったし、レンタルは高いし(^^;
「天地無用!」本編を知っていれば、美星の母親ってだけで美兎跳さんの性格は分かりますね。兎つながりで彼女が登場してくるとは思いませんでした。確かに何を起こしてもおかしくない人だ(笑)

 最後のオチ、笑わせていただきました。自滅後の兎華乃ちゃんの今後が知りたいような(笑)

 HAL93さん、ゲームの情報提供に加え、SSまで、本当にありがとうございました♪