火魅子伝サスペンス劇場

<決して愛される事の無かった私達>


作・BARD様



第九話:屋上へ………、嵐の前の静けさ




九月六日、転校六日目にして、一週間の始まりを告げる日。


この日の登校中、私は、ちょっと変わった出来事に遭遇した。
校門にて登校して来る生徒に挨拶をする、ダンディーなおじ様を見掛けたのだ。

「おはよう。」

「おはよう。」

「おはよう。」

ダンディーなおじ様が声を掛けると、皆、丁寧に挨拶を返している。

(さわやかだ………。 やるな、ダンディー。)

既に、私の中では、そのおじ様のあだ名はダンディーだった。

「おはよう。」

やがて、そのダンディーが私に声を掛けて来たので、
私も、負けてなるものかと、精一杯の笑顔で挨拶を返してやった。

「おはようございます。」

すると、ダンディーは、さわやかに言葉を続けた。

「うむ。 君は転校生の慧くんだったね。 どうかな、学園生活は?」

「えっ?」

「少しは、我が学園にも慣れてくれたかな?」

「あ、はい。 あの、我が学園って………。」

「おお。 これは、申し訳ない。 挨拶が遅れてしまったね。」

私が戸惑っていると、ダンディーは姿勢を正して歩み寄って来た。

「私は耶麻台(やまと)学園の理事長を務める、伊雅だ。 よろしく。」

「はいぃぃぃ〜〜〜っ!!?」

物理的衝撃を受けたみたいに、私は盛大に仰け反ってしまった。

理事長自らが校門に立つなんて、そんな話は聞いた事も無かったからだ。
おまけに、私みたいな一生徒の事まで、しっかり覚えているときた。

「あ、あああ、あの。 どうぞ、よろしくお願いします。」

何とか、平静を装って、私は挨拶を返す。

「うむ。 こちらこそ。」

「………とは言っても、理事長の肩書きなど、名ばかりのもの。」

「実質的な業務は、ほぼ、校長の音羽に任せている。」

言われて、私は思い出した。

私が転入手続きを出したのも、確かに、目の前の男性では無かった。
校長の肩書きを持つ、大人びた雰囲気の女性だった筈だ。

「私が日常的にやる事と言えば、こうして校門に立って挨拶をする事くらいだ。」

「だが、困った事があれば、何でも相談してくれたまえ。出来る限り、力になろう。」

力一杯に言い切る理事長先生。

「あ、あははは。 ど、どうも、ありがとうございます。」

私は苦笑を浮かべるしか無かった。



三年一組のクラスにて。

「ああ、校門前の理事長先生ね。 うん、毎朝、居るよ。 知らなかった?」

今朝の出来事を話すと、忌瀬さんはあっさりと頷いて見せた。

「知らなかったよ。 私が転入してから、今日が初めてだもん、見たの。」

「そうだっけ? ………そう言えば、ここのところ、見なかった様な気もするな〜。」

「本当にびっくりしたよ。 いきなり、声を掛けられちゃうし。」

私の疲労感一杯の呟きに、忌瀬さんは苦笑を浮かべて答えた。

「あはは。 まあ、犬にでも噛まれたと思って諦めなさいな。」

「ウチの理事長って変わり者だけど、根は良い人だよ。一部の生徒からは、結構、慕われてるんだから。」

「この辺りじゃ、生徒思いって事で有名だし。」

そう言って、私の肩を叩く。

(生徒思いな訳無いと思うな。 現に、学園で自殺者を出してるってのに、さ。)

忌瀬さんの言葉に頷くなんて、到底、私には出来そうも無かった。



その日の放課後。

清瑞からのメールの事だけは話さずに、
私は、忌瀬さんに、今の私の推理を上手く説明した。


清瑞から貰ったメールを見ていると、到底、自殺をする様には思えない。


何か、別の理由がある筈だ。


そして、一番、考えられるのは、やっぱり恋愛関係じゃないか。


志野さんに聞いた話だと、清瑞は九峪先生の事が好きだったと言う。


だから、誰も来ないところで、九峪先生と話をしたい。


そんな私の説明に、忌瀬さんは、私の話に意外そうな顔をしたけど、すぐに笑って頷いてくれた。

「ふぅん、慧ちゃんは、九峪先生を疑ってるんだ。
それで、私は何をすれば良いの? 何かして欲しいから、私に話したんでしょ?」

快く、協力を申し出てくれる忌瀬さん。

「………ありがとう。」

唯、その一言に、私はありったけの感謝の気持ちを篭めた。

「あはは♪ 良いって事。」

そう言って、忌瀬さんはおどけた風に胸を叩いて見せる。

「ンで、話って言っても、どうするの?」

「九峪先生に、直接、聞いてみる。」

「えっ!? ………何か、もの凄い急な話だね?」

「私も思う。 でも、急ぐ必要があるの。 だから………。」

「一か八か、賭けに出るって訳ね。 今から?」

いつに無く、真剣な表情をする忌瀬さん。

「うん。」

私も真剣な表情をして頷く。

「………オッケー。 分かった、付き合う。」

やがて、溜息混じりに、忌瀬さんは呟いた。

「ありがとう。」

「まさか、今日これから、なんてね。 無茶も良いとこだよ。」

「あはは。 そう言わないで、ね?」

忌瀬さんの手を強引に掴んで、私達は職員室へと向かった。




下校時刻も間近に迫った、夕方の職員室。

以前、私が九峪先生を訪ねたと同じ光景が、そこに在った。
そこには、あの時と同じ様に、九峪先生しか居なかったのだ。

「失礼しまっす♪」

「九峪先生………。」

挨拶もそこそこに、私と忌瀬さんは、九峪先生の居る場所へと向かう。

「うん? 何だ、二人揃って。」

九峪先生は普段と何ら変わり無い微笑を浮かべて出迎えてくれた。

「すみません。 ちょっと、お話があるんです。」

まず、私が口を開く。

「また? 分かった。 それじゃあ、前と同じ様に………。」

少しだけ驚いた風だったけど、すぐに笑顔を浮かべて、九峪先生は私達に向き直ってくれる。

だけど、私が望んでいるのは、そんな事じゃ無い。

「ここでは話せない、大切な話なんです。」

「………えっ?」

「屋上へ行きませんか?」

「屋上ってお前、あそこは………。」

「お願いしますっ! どうしても、あそこで話したいんですっ!!!」

「………分かった。」

私の雰囲気にただならぬものを感じ取ったのか、意外な程にあっさりと、九峪先生は頷いてくれた。

「ちょっと待ってろ。 音羽校長に鍵を貰ってくる。」

「鍵って………。 今は、封鎖されているんですか?」

「ああ。 この間、あんな事があったから、な。」

そう呟いた瞬間、九峪先生は、痛い程に悲しそうな顔をしていた。
まるで、次の瞬間には泣き出してしまいそうにも思えた。

「………。」

何も言う事が出来ず、私は、その場に立ち尽くしていた。

(でも、私は、どうしても、屋上で九峪先生と話がしたかった。
だって、あそこは、清瑞が飛び降りた場所だから。)

私がそんな事を考えている間に、九峪先生は校長室へと向かった。
しばらくして、屋上の鍵を手で弄びながらに、私達の元へ戻って来る。

「さあ、行こうか。」

「はい。」

私と九峪先生は頷き合い、ゆっくりと屋上へ向けて歩き出す。
忌瀬さんが一歩遅れてついてくるけど、その時の私は、それすらも気付く余裕が無かった。

唯、無意識に足を動かしていたのだ、清瑞が命を絶った場所へ向けて。



>>NEXT




<あとがき>

お久しぶりです、Jで御座います。

お待たせ致しました。

<火魅子伝サスペンス劇場 〜決して愛される事の無かった私達〜>、

無事に第九話を投稿する事が出来ました。

嵐の前の静けさ、そんな感じがピッタリな今回。

いよいよ、九峪雅比古との対峙。

次回、緊迫の一瞬を見逃すなっ!!!

では、次回、『第十話:語られる言葉』をお楽しみに!!!