火魅子伝サスペンス劇場

<決して愛される事の無かった私達>


作・BARD様



第八話:見え隠れする誰か、夕暮れ時の追走劇



九月四日、転校四日目。
そして、伊万里さんと志野さん、二人と初めて会った翌日でもある。
ちなみに、土曜日なので、半日授業だと言う事も追記しておく。

この日の授業中、私はずっと推理に明け暮れていた。

既に、時刻は放課後。
忌瀬さんは今日も部活があるみたいで、随分前に教室から出て行った。
今頃は、理科準備室で部活の真っ最中だろう。

唯一人、教室に残された私は、窓際の席に座って校庭を眺める。

(やっぱり、清瑞は、九峪先生が好きだったんだ。)

志野さんの言葉で、ようやく、私は自分の推理に自信を持てた。

酷く冷静に、私はその事実を受け止める。
一度は考えた可能性が、今、現実のものへと変わっただけだから。

(清瑞のメールにあった『あの人』は、やっぱり、九峪先生の事だったんだ。)

そう確信する一方で、まだ、納得出来ていない自分も居る。

(でも、やっぱり、まだ辻褄の合わない部分がある。)

ゆっくりと、私は清瑞のメールをプリントアウトした紙を取り出した。


『あの人を遠くから見ているだけで満足していた自分の事とか、
一度で良いから、あの人の胸に飛び込んで抱き締められたかったと思っていた事とか、
今では、あの人と居るだけで物凄く安らぎを覚えてしまう事とか。』


志野さんの話では、清瑞は、九峪先生には告白していないと言う。

そうだとしたら、何故、過去形で書いてるんだろう。
読んでると、まるで、もう恋人同士になっちゃったみたいにも思えちゃう。

(………もしかして、脳内妄想?)

そんな馬鹿な事を考えて、私は雑念を振り払った。


『ずっと悩んでいましたが、ようやく決心しました。
明日にでも、あの人に会って問い質してみるつもりです。
自分の大切な人が罪を犯した、その事は、どうしても許せそうにありませんから。』


九峪先生の犯した罪。
それって、一体、何なのだろう。


『多分、明日、あの人と話してしまったら、
もう、あの人とは今まで通りの関係では居られないでしょう。

きっと、いえ、絶対に、あの人は学園を辞めてしまう。』


清瑞は、九峪先生を問い質せば、今まで通りの関係じゃ居られないと言った。
その関係って、教師と生徒と言う意味なんだろうか。
まさか本当に、教師と生徒、禁断の恋とでも言うつもりなのか。

やっぱり、それは違うと思う。

志野さんは、清瑞が九峪先生の事が好きって言っただけで、
二人が付き合ってるとは、別に一言も言って無い。

それにそれだと、清瑞と九峪先生が付き合っている事が前提になってしまう。




やっぱり、幾ら考えても、九峪先生の犯した罪が何なのか、今の私には予想すら出来なかった。

考えれば考える程に、混乱してしまう。

「あ〜っ! 分からんっ!! さっぱりだぁ〜〜〜っ!!!」

もどかしさに、私は頭を抱え込んでしまった。

「………これから、直接、九峪先生を問い質してみようか?」

「でも、もし、清瑞が九峪先生の手によって殺されたんだとしたら?」

「口封じの為に、私も殺されちゃう可能性が出て来るな………。」

そう考えて、私は身震いをしてしまった。

「駄目だ。 これからは駄目だ。 来週の月曜日、忌瀬さんに一緒に来て貰おう。」

二人掛かりなら、九峪先生も変な事は出来ないと思う、多分。

「でも、そうすると、まずは謝らなきゃ。」

「そんでもって、話さなきゃならなくなるな。」

「清瑞の秘密が書かれた、この手紙の事。」

そう呟いた瞬間。



ガタンッ!!!



教室のドアの向こう側で物音がした。

「っ!?」

弾かれた様に、私は音のした方を向く。

「誰っ!!?」

咄嗟に、私は走り出していた。

(今、言った事、誰かに聞かれたっ!!!)

自分の迂闊さに腹が立つ。
放課後の教室に独りきり、周囲には誰も居ない、そう思って油断していた。



タタタタタ………ッ!!!



扉の向こうでは、誰かが走り去って行く音が木霊している。

「待てっ!!!」

慌てて、私は教室を飛び出した。


タタタタタ………ッ!!!


既に、かなり足音は遠ざかっている。

「何で逃げるかは分からないけど、これ、滅茶苦茶に怪しいよねっ!!!」

逃げ出した誰かを一目でも良いから見ようと、私は音のする方へと向けて走り出す。


タタタタタ………ッ!!!


タタタタタ………ッ!


タタタタタ………ッ!!!


放課後の大追跡。

(これだけ、向こうの音が聞こえて来るって事は、こっちの足音も向こうに聞こえてる筈。)

(つまり、私が追い掛けてる事は、バレバレ。)

(追い付けるかどうかは、私の足の速さ次第って事。ちなみに私、かけっこ得意なのよねっ!!!)

そんな事を考えて、私は舌なめずりをする。


タタタタタ………ッ!!!


タタタタタ………ッ!!!


タタタタタ………ッ!!!


そんな私の自信を嘲笑うかの様に、段々と、足音が小さくなって行く。

「う、嘘ぉぉぉん!?」

信じられない。

これでも、前の学校じゃ、陸上部に所属してたってのに。
………そりゃあ、私はレギュラーじゃ無かったけど。

とうとう諦めて、私はその場に立ち止まってしまった。

「はあっ、はあっ、はあっ。」

大きく深呼吸をして、息を整える。

「………し、しまった。」

「夢中で走ってたから気付かなかった。 何て馬鹿な事をしたんだ、私は。」

「ここ、何処でしょう?」

痛恨のミスだった。

まだ耶麻台(やまと)学園の地理に疎い私は、忌瀬さんの案内無しじゃ、ろくに歩き回る事が出来ないのだ。

「私の教室、一体、何処よぉ〜っ!!!」

途方に暮れて、頭を抱えたままに蹲る私。
でも、そんなかわいそうな私を、神様は見捨てては居なかったみたい。

「あれ? 慧ちゃん?」

「ほへ?」

「どしたのさ、こんな所で。」

廊下の向こう側からやって来たのは、驚いた事に、私の学園内案内人の忌瀬さんだった。

「きっ! 忌瀬さぁ〜〜〜んっ!!!」

思わず、抱き付いちゃう。

「どわわわっ! ちょ、ちょちょちょ、ちょっとぉぉぉ〜〜〜っ!!?」

次の瞬間、忌瀬さんの悲鳴が校舎内に響き渡った。

ちなみに私が居たのは、偶然にも理科準備室のある階だったそうです。
この後私は無事に、忌瀬さんに連れられて帰る事が出来ました。


本当、忌瀬さんに感謝!!!


でも、今日、私は手痛いミスをしてしまったと思う。
これで、誰かに知られてしまった事になる。
私が、清瑞が自殺した事件、その裏に隠された真相を探っている事を。




(さっきの人………。 一体、誰だったんだろう?)



(逃げ出したところから見ても、偶然、教室の前を通り掛かった訳じゃ無いよね。)



(事件の真相を暴こうとしている私の存在に気付き、監視していた。
 そう、考えちゃうのは、意識し過ぎてるだろうか。)



(でも、やっぱり、最悪の事態を想定しとくべきだと思う。)



(どうしても分からない、『あの人』が犯したと言う罪。
それならば、『あの人』かも知れない九峪先生に聞くまでだ。)



来週の月曜日、直接、私は九峪先生と対峙する事にした。


果たして、私は、真相を知る事が出来るのだろうか。



それは、今の私に分かる筈が無かった。


>>NEXT


<あとがき>

お久しぶりです、Jで御座います。

お待たせ致しました。

<火魅子伝サスペンス劇場 〜決して愛される事の無かった私達〜>、

無事に第八話を投稿する事が出来ました。

始終、謎解きに終わった今回。

果たして、『あの人』は誰なのか?

近付いている様な、近付いていない様な。

そんなサスペンス調を楽しんで頂ければ幸いです。

では、次回、『第九話:屋上へ………、嵐の前の静けさ』をお楽しみに!!!