火魅子伝サスペンス劇場

<決して愛される事の無かった私達>


作・BARD様



第六話:友達から仲間へ



九月三日、転校三日目、午前の授業中。
私は、これまでに得た情報を元に状況を整理してみた。


清瑞さんが自殺した(殺された?)のは、八月十六日の午前中。


前日に送られて来たメールを見る限り、私には、彼女が自殺をするとは思えない。


事故か、他殺か。



その真相を知りたくなった為、私は転校したばかりの耶麻台(やまと)学園にて調査を開始する。


今のところ、清瑞さんと親しかったと思われる人物は、三人。


私の担任、九峪先生。

女子剣道部主将、伊万里さん。

女子新体操部、志野さん。


特に、清瑞は、九峪先生とは相当に仲が良かったんだと思う。
昨日の様子を見る限り、しょっちゅう、相談に乗って貰っていたみたいだから。


「………。」


私はカバンの中から一枚の紙切れを取り出した。
これは、清瑞から貰った最後のメールをプリントアウトしたものだ。


『学校中から無視され続けた中で、私が今日までやって来られたのは、
あの人が味方をしてくれたおかげだと思う。』


この一文から見ても、『あの人』は、清瑞からは物凄く信頼されていると思う。

もし、『あの人』と言うのが九峪先生だった場合、九峪先生の事を、清瑞はそれほどまでに信頼出来たのだろうか。

多分、信頼は出来ただろう、私から見ても、九峪先生は良い人だと思えるから。


『あの人を遠くから見ているだけで満足していた自分の事とか、
一度で良いから、あの人の胸に飛び込んで抱き締められたかったと思っていた事とか、
今では、あの人と居るだけで物凄く安らぎを覚えてしまう事とか。』


この部分は、非常に判断が難しい。

そもそも、清瑞と『あの人』は付き合っていたんだろうか。
『あの人』と居るだけで安らぎを覚えると書いてたし、付き合っていないにしても、かなり仲が良かったのは間違い無いと思う。

そうだとしたら………。



『ずっと悩んでいましたが、ようやく決心しました。
明日にでも、あの人に会って問い質してみるつもりです。
自分の大切な人が罪を犯した、その事は、どうしても許せそうにありませんから。』



『あの人』が犯した罪と言うのは、もしかして、浮気っ!!?

(………何か、可能性としては、かなり、ありそうな気がする。)

日魅子さんと言う恋人が居るのに、清瑞と付き合い始めた。
でも、清瑞は、日魅子さんの存在に気付いてしまう。

(愛情の裏返しは憎悪。)

(恋愛感情が、何かの切っ掛けに殺意へと………。)

(………って、そうしたら、九峪先生が刺されなきゃっ!!?)

考えが変な方へと向かってしまったので、慌てて、軌道修正をする。

やはり、清瑞と九峪先生は付き合っていなかったんじゃ無いか。
ここに来て、私はそう思い直した。

そう思う理由は、二つ。



『でも、あの人が罪を犯したのは、どうやら、私達のせいみたいです。だから、私には、それを止める義務があると思います。』



一つ目の理由は、この部分。

『あの人』が九峪さん、犯した罪が浮気。
仮にそうだと仮定するなら、私達と言うのは、清瑞と日魅子さんだと考えられる。

でも、それはどう考えても不自然だ。

その流れだと、九峪先生が罪を犯すのを止める義務は、清瑞には無いし。
それに、九峪先生が罪を犯したのは、日魅子さんのせいにはならない。

(浮気をするのは、絶対、九峪先生の罪だよね。 うんっ!!!)

………と言う事で、清瑞には罪が発生しないので、
『あの人』が犯した罪と言うのは、浮気じゃ無いと思う。

それに、二人が付き合っていたなら、その時点で罪を犯している事になる。

だって、二人の関係は、教師と生徒。
つまり、二人が付き合うってのは、一般常識じゃ許されない恋愛だもの。

(その罪に関して、メールには何も書いていなかった。)

単に隠し続けていた可能性も考えられるけど、
私は清瑞を信じて、二人は付き合っていなかったとする。



『でも、こんなにも、あの人の事を話したのは、慧が初めてです。
今までは、あの人の事だけは、誰にも秘密にして来たんですけど、
明日、全てが終わったなら、あの人の事を話そうと思います、慧にだけは。』



二つ目の理由は、この部分。

メールには、私達だけの秘密じゃ無く、誰にも秘密にして来たと書いてあった。
これは、『あの人』に対する気持ちを、清瑞が誰にも話さなかったと言う事なんじゃないかと思う。

(わざわざ、私にだけ話すと言ってくれた、清瑞。)

(もしかして、清瑞は、『あの人』に対する想いを、誰にも言ってないんじゃ………。)

(ずっと、自分だけの秘密にするつもりだった気がする。)

そう、きっと、『あの人』にも明かしてない、そんな、清瑞の想い。



「情報が足りないかも………。」


ふと、私はぽつりと呟いた。

(そう、決定的な情報が足りない。)

(『あの人』が、九峪先生なのか、そうじゃないのか。
 それを判断する為の材料が、どう考えても足りない気がする。)

(清瑞と『あの人』が付き合ってたって言う考えにしたって、メールを読んで、私が勝手にそう思っていただけなんだし。)

決定的な情報を欲しいと思う反面、私は、今の状況で新しい情報を手に入れる事が怖くもあった。

(もし、九峪先生が『あの人』じゃ無かったら、どうしたら良いんだろう。
 捜査は振り出しだ、完全に八方塞がりになってしまう。)

ふと、私は顔を上げた。
見えるのは、授業中だと言うにも関わらず、豪快に突っ伏して眠る忌瀬さんの姿。

(忌瀬さんは学園内の事情に詳しいって話だったけど・・・。)

独りで捜査するのには、限界がある。

(協力してくれる人は欲しい。 でも、気軽に頼む訳にはいかないよね。)

話しても良いのだろうか、信用しても良いのだろうか。

(そう。 その人が信用出来る人間か、まだ、私には分からないから。)

耶麻台(やまと)学園に転校して間も無い私には、忌瀬さんの事を信用しても良いか、その判断は出来なかった。




結局、試行錯誤を繰り返して行く内に、その日の授業は終わってしまう。

放課後になり、私は忌瀬さんに声を掛けた。

女子新体操部の志野さんに会う為、体育館まで行く必要があって、その道案内を頼もうと思ったからだ。

「忌瀬さん。」

「はいよ?」

「良かったら、体育館まで案内してくれないかな?」

「体育館? 何で、また?」

「新体操部の見学をしたくて・・・。」

予め、用意していた答えだ。
この間みたいな失敗をしない様に、授業中、色々と理由を考えておいたのだ。

「ふむ。」

少し、忌瀬さんは考え込んだみたいだったけど、すぐに顔を上げた。

「案内するのは良いけど、今日は、新体操部の練習はやってないよ?」

「えっ? 本当?」

「うん。 やってたら、もっと、男子連中が騒いでるって。」

言いながら、忌瀬さんが苦笑混じりに教室を見渡す。

「何しろ、女子新体操部には、有名な舞姫が居るからね♪」

「舞姫?」

「そう、志野殿の事だよ。」

「………ふうん。 そうなんだ。」

その名前に、少しだけ反応してしまう。

「ふぅん。 やっぱり、ね。」

してやったり、と言わんばかりに頷く忌瀬さん。

「え? 何が?」

その言葉の意味が分からず、私は首を傾げる。

「慧ちゃん、さ。 もしかして、清瑞が自殺した事件、調べてる?」

突然の爆弾発言。

「っ!!?」

忌瀬さんの言葉に、私は全身が強張ったのが分かった。

「な、何で?」

かろうじて、それだけが言えた。
もっとも、声が震えていたので、忌瀬さんには図星だったって分かっただろうけど。

(我ながら、分かり易い性格しちゃってるな、もうっ!)

思わず、舌打ちしてしまう。

「いや、なに。 単純な推理さ。」

得意げに胸を張って見せる忌瀬さん。

「昨日は、九峪先生。 今朝は、伊万里さん。 そして、今は、志野殿。」

「考えてみたら、これって全員が関係者なんだよね、清瑞の。」

「清瑞って交友関係の幅が狭い奴だったからね。 それで、気付けたんだけど。」

続いて、ちょっとだけ怒った様な顔になる。

「自殺って言っても、事件としては大きいし?
 まあ、転入生が興味を持つのも無理ないかな〜って思うけど、ね。」

「駄目だよ、仮にも、人が一人、死んでるんだから。
 それに、今も罪の意識に駆られてる人だって居るんだし。」

「興味本位で首を突っ込むのって、そういう人達に失礼だとは思わない?」

忌瀬さんが言っている事は正論だ。
それに、一通のメールだけを根拠に動いているだけで、私は基本的に部外者なのだ。
反論しようにも、言い返す事が出来ない。

「ごめんなさい。」

だから、謝る。

忌瀬さんに、じゃ無い。
清瑞、九峪先生、伊万里さん、志野さん、そして、この事件の関係者に対して。

「いや、別に、謝らなくても………。 私もごめんね、偉そうな事を言っちゃって。」

忌瀬さんが気まずそうにそう言った。

「でも………。」

私は、そんな忌瀬さんの顔を、真正面から見つめる。

「それでも、私は、止める訳にはいかない。 どうしても知りたいの、真実を。」

そして、はっきりと口に出す、私の決意を。

私の言葉に、忌瀬さんは驚いた風な顔をする。
続いて、考え込む様な仕草をした後、躊躇いがちに尋ねて来た。

「真実って、どういう事?」

当然、抱くだろう、忌瀬さんの疑問。

「それは………。」

全てを話すのは嫌だった。

(清瑞がくれたメール。
 そこに書かれている事は、きっと、私だけに知って欲しかった事なんだと思う。)

唯、純粋に、そう思った。

(だから、そう簡単に、誰かに見せるなんて、したくない。)

忌瀬さんは友達だと思っているけど、それとこれとは、話が別だった。
だから、私は、清瑞から貰ったメールを見せる事はしなかった。

「自殺した清瑞と私は、メール友達だったの。」

「メールを読んだけど、自殺を考えていたなんて、一言も書いていなかった。」

「だから、あの子が自殺をしただなんて、どうしても思えなくて。」

メールの内容を隠して、それ以外は本当の事を話す。

誰が言い出したかは知らないけど、人間、嘘を吐く時は、半分くらいは真実を混ぜた方が良いらしい。
もしかしたら、私は嘘吐き名人になれるかも知れない。

いや、なりたくは無いんだけど、さ。

「そうだったんだ………。」

どうやら、忌瀬さんは、私の説明を信じてくれたみたいだ。

「今なら、まだ、教室に居ると思うけど。」

「えっ?」

「志野殿の事だよ。 会って、話してみたいんでしょ?」

「本当?」

「会わせるくらいなら、どうって事無いよ。変な風に誤解して、悪い事を言っちゃったからね、罪滅ぼし。」

そう言って、忌瀬さんは照れ臭そうに笑った。

(別に、気にして無いのに。)

そうは思ったけど、口には出さない。

志野さんに会えるのは助かるし、何よりも、忌瀬さんの心遣いがありがたかったから。

「私に出来る事があったら、何でも言って。慧ちゃんの気が済むまで、お手伝いしたげるから、さ♪」

忌瀬さんの言葉が、唯、ありがたかった。


>>NEXT


<あとがき>

お久しぶりです、Jで御座います。
お待たせ致しました。
<火魅子伝サスペンス劇場 〜決して愛される事の無かった私達〜>、
無事に第六話を投稿する事が出来ました。
忌瀬が仲間に加わった。
そんな感じの今回。
志野の登場を期待していた方も多かったのでは?
残念ながら、今回は幕間です、すみません。
彼女の登場は次回と言う事で、ご勘弁を。

では、次回、『第七話:舞姫と騎士』をお楽しみに!!!