火魅子伝サスペンス劇場

<決して愛される事の無かった私達>


作・BARD様



第五話:早朝の剣術小町



九月三日、転校三日目。

「女子剣道部の伊万里さんと、女子新体操部の志野さん、か。」

清瑞の友達だったと言う二人の人物に会う為、私は早朝から学園へと登校した。

「まずは剣道場から回って見ようかな。」

校舎の中を歩きながら、それらしい場所を探してみる。

でも、窓の外を見ていても、校舎内を歩き回ってみても、剣道場みたいな場所は、全然、見当たらなかった。

それから、十数分後。

「………。」

「………。」

「………。」

私は無言で立ち尽くす。

「ま、迷っちゃった。」

どうやら、耶麻台(やまと)学園は、私が考えている以上に広かったみたいで………。

「………って言うか、ここ、何処ぉ〜〜〜っ!!?」

早朝から女子剣道部の朝練を目当てに登校したせいだろう。
まだ、校舎の中には、生徒の姿は見当たらない。

つまり、誰かに助けて貰う事も出来ないって訳で………。

「ううっ。 こんな事なら、放課後にすれば良かった。」

後悔、先に立たず。

泣き言ばかりも言ってられないので、私は、誰かに道を尋ねる事にした。
とにかく、その誰かを捜して歩き出す。

幸運にも、その誰かはすぐに見付かった。

「あれ? 慧ちゃんじゃん。」

「あっ! 忌瀬さぁ〜んっ!!!」

助かったとばかりに、私は忌瀬さんに抱き付いた。

「わわっ!?」

当然、忌瀬さんは驚いて慌てふためく。

「一体、どしたの? こんな朝っぱらから。」

普段通りの口調とは裏腹に、私を必死に引き剥がしに掛かる忌瀬さん。

「あはは。 ごめん、ごめん。」

おとなしく忌瀬さんから離れると、私は苦笑混じりに謝った。

「え〜と、ちょっと、学園内を探検してたんだ。そうしたら、間抜けな事に、道に迷っちゃって………。」

そう言うと、忌瀬さんは呆気に取られた様な顔をした。
続いて、僅かに吹き出したかと思うと、お腹を抱えて笑い出した。

「あはははははっ! 慧ちゃんったら、何て、お間抜けっ!!!」

目元には涙すら浮かんでいる。

「むぅ〜っ! そんなに笑う事無いじゃん。」

私は頬を膨らませてみせる。

「あはっ! あはっ! ご、ごめん、ごめん。」

ようやく笑いが納まったのか、忌瀬さんは涙を拭いながら頭を下げた。

「それじゃ、笑ったお詫びに、忌瀬さんが学園内を案内したげようか?」

「えっ? 良いの?」

「勿論♪」

「でも、何か、用事があったんじゃ? だから、こんな早くに登校したんでしょ?」

「うん。 でも、もう、終わったから。」

私が心配そうに尋ねると、忌瀬さんはあっさりとそう言った。

気を遣ってくれたのだろうか。
それは分からないけれども、とにかく、私が助かったのは事実だ。

深々と頭を下げる。

「それで? 何処か、見たい所はある?」

「剣道場があるって聞いたから、そこ。」

忌瀬さんの質問に、躊躇う事無く、私はそう答えた。



剣道場が在ったのは、私が居た校舎とは校庭を挟んで正反対に位置する場所だった。
ちょっとだけ、自分の方向音痴が恨めしい。

「道理で、見付からない筈だわ。」

私が溜息混じりに呟いた、その時。

「いやあああぁぁぁぁぁっ!」

パァァァンッ!!!

「面〜〜〜っ!」

小気味良い音と共に、力強い掛け声が聞こえて来た。

「お〜っ! やってる、やってる。」

何処か、嬉しそうに呟いて、忌瀬さんは剣道場に入る。

「こんちゃ〜っす。」

「し、失礼します。」

私も忌瀬さんに倣って入ると、剣道場に居た何人かが私達に気付いた。

「あ、忌瀬さんっ! やっほ〜〜〜っ♪」

進み出たのは、明るい雰囲気の女の子。

「上乃ちゃん、やっほ♪ 主将さん、居る?」

「うん、居るよ。 今、試合中だけど、呼ぶ?」

「いやいや。 お邪魔しちゃ悪いから、ここで待ってるよ。」

「そう? んじゃ、来てる事は伝えとくね。」

そう言って、上乃さんは私の方を向く。

「貴方、入部希望者?」

「あ、いえ、えっと・・・。」

いきなり尋ねられ、私は大いに戸惑ってしまう。

どう答えたら良いのかが分からずに困っていると、すかさず、忌瀬さんが助け舟を出してくれた。

「ううん、一昨日、ウチのクラスに転入して来ただけ。それで、只今、校内を探検中なのよ。」

変わって説明をしてくれる。

「そうなんですよ。それで、女子剣道部に、伊万里さんって凄い人が居るって聞いて………。」

「へぇ〜っ! 伊万里ってば、有名人なんだ?」

「えっ? 知ってるんですか?」

「当然だよ。 伊万里は、女子剣道部の主将にして、幼馴染だもん。」

何故か、上乃さんが威張って答える。

(なるほど。 伊万里さんって、主将なんだ。)

そんな事を考えながら、剣道場を見渡す。
すると、誰か、こちらに向かって歩いて来るのが見えた。

「こらっ、上乃っ! 何をサボってるんだ!!!」

いきなり、その人が上乃さんに拳骨を落とす。

ゴンッ!

鈍い音がして、上乃さんがしゃがみ込んだ。

「いった〜いっ! 伊万里、酷いよぉ〜っ!!!」

「五月蝿い。 朝練をさぼってるからだ。」

「もうっ! 折角、伊万里の代わりにお客さんの相手をしてたのに………。」

「えっ?」

上乃さんの言葉を聞いて、ようやく、その人は私達の事に気付いたらしい。

「あっ! す、すみませんっ!!! 私、稽古に熱中してて………。」

どうやら、集中してると周りの事が見えなくなるタイプらしい。

「あ、いえ。 どうも。」

とりあえず、私は曖昧に返事しておいた。

「あははっ♪ 伊万里さん、相変わらずだね〜。 上乃ちゃんがかわいそうっ!」

忌瀬さんの言葉を聞く限り、今の様なやり取りは日常茶飯事みたい。
少しだけ、上乃さんに同情しちゃうね。

「忌瀬さん………。」

何処か、疲れた口調で呟く伊万里さん。

(この人が………、伊万里さん。)

改めて、私は伊万里さんの事を観察した。

髪は驚くくらいに綺麗で長いし、外見は男勝りと言うよりは凛々しいって感じかな。
防具を着込んでいるけど、それでも見ただけで分かるくらい、プロポーションは抜群。

正直に言って、超が幾つも付く、美人だ。

(な、何だろ。 本当に、同じ学園の生徒なの?)

思わず、世の不公平さを呪っちゃったのは、私だけの秘密。

「それで、こちらの方は?」

美しい人が美しい仕草で美しい声色を使い美しく尋ねた。
………いけない、少しだけ、壊れてるかも。

「あ。 私、転校生なんです。 女子剣道部の事を聞いたんで、見学したいなって。」

「見学希望? それは大歓迎。」

伊万里さんは嬉しそうな顔をする。
そこには、純粋に剣道が好きなんだと言わんばかりの微笑みが在った。

(本当に綺麗。 私が男だったら、ほっとかないだろうな。)

そんな事を思いながら、ふと、自己紹介をしていなかった事に気付く。

「あ、私、炎輪 慧って言います。 忌瀬さんとは同じクラスで………。」

私が自己紹介をしていると、突然、横から上乃さんが身を乗り出した。

「えっ!? 忌瀬さんと一緒って事は、九峪先生のクラスじゃん!!!」

「あ、はい。 そうですけど………?」

「もしかして、慧ちゃんに伊万里の事を教えた人って、九峪先生っ!?」

今にも噛み付いて来そうな上乃さんに、私は驚きながらも必死に頷いた。

「わ〜っ! やったじゃん、伊万里っ!!」

「なっ!?」

「九峪先生。 ちゃんと、伊万里の事を見ててくれたんだよ!?」

「ば、馬鹿っ! お前、何を言って………。」

途端に、私の事を忘れたみたいに、上乃さんがはしゃぎ出す。
伊万里さんを巻き込んで飛び跳ねてる。

すると、隣に居た忌瀬さんが、苦笑混じりに説明をしてくれた。

「あはは、ごめんね、慧ちゃん。伊万里さんってば、実は、密かに九峪先生の事を………、ね。」

「そうなんですか?」

「うん、上乃ちゃんも、その事を知ってるからね。九峪先生の事となると、こうなっちゃうんだな、これが。」

「は、はあ………。」

目の前で騒ぐ二人を見つめながら、ふと、私は思い出していた。
昨日、忌瀬さんから聞いた情報を。



「そう。 言ったでしょう、九峪先生は人気があるって。」

「中には、九峪先生の事、日魅子さんから奪っちゃおうってくらい、過激な事を考えてる人もいるみたいよ。」

「下手すると、慧ちゃんも、そういう連中から喧嘩を売られちゃうかもね?」



その事は、事件とは無関係だと思ったから、気にも留めていなかった。

だけど、それは、大きな間違いだった。
ようやく出来たって言う清瑞の友達、そんな身近なところに居たんだ。

(伊万里さん。 貴方は、今回の事件とは関係があるんですか?)

決して、表立っては出来ない質問を、私は内心でこっそりと投げ掛けた。



>>NEXT



<あとがき>

お久しぶりです、Jで御座います。
お待たせ致しました。
<火魅子伝サスペンス劇場 〜決して愛される事の無かった私達〜>、
無事に第五話を投稿する事が出来ました。
伊万里、犯人説、浮上っ!?
いえいえ、そんな事はありません。
私の大好きな伊万里嬢がそんな酷い事をする訳無いじゃないですか♪
彼女には、こっそり、善良な脇役になって貰うとしましょう。

ああっ!
そうしたら、伊万里嬢の出番が無くなるじゃんか!!!

………失敗したかも?(笑)

では、次回、『第六話:友達から仲間へ』をお楽しみに!!!