火魅子伝サスペンス劇場

<決して愛される事の無かった私達>


作・BARD様



第三話:担任の先生に関する情報



九月二日、転校二日目の午後。

私は授業そっちのけで考え事をしていた。
ずっと、昼休みに聞いたクラスメイトの言葉が頭から離れなかったのだ。



「そうそう。 九峪先生って、あの子と仲が良かったみたいよ。」

「ほら、自殺した例の………。」

「九峪先生って、生活指導も受け持ってたりするじゃない?
それで、自殺した子なんかにも、色々と相談に乗って上げてたみたいなのよ。」



清瑞がいじめられていた事は、私も知っている。
以前に一度、その事はメールで話題になった事があったからだ。

その内容は、清瑞が周囲から無視され続けているって事。

名前は言わなかったけれども、入学早々、ある女生徒と口論になったのが原因らしい。
その事で激しく恨まれ、その子は清瑞の事を徹底的に無視する様になったそうだ。
唯、運が悪かったのは、その子が周囲を巻き込んだ事だった。

入学して一ヶ月も経つ頃には、誰も、清瑞とは口を聞かなくなったと言ってた。



(そんな清瑞にも相談相手が居た。)

(九峪先生………。)

(生活指導の先生と言う立場なら、公然と、彼女に近付く事は出来るよね。)

(もし、清瑞の言う『あの人』が九峪先生だったとしたら………。)

(清瑞の死に、九峪先生は何か関係があるかも知れない。)



我ながら、突拍子も無い推理だと思う。

でも、可能性が無いとは言い切れないし、今の私にとっては確かめてみる価値はある気がした。



放課後になって、早速、私は調査を始めた。

「忌瀬さんっ!」

廊下を歩いていた忌瀬さんを呼び止める。

「はい? ああ、慧ちゃん。 どうかした?」

「うん。 良かったら、一緒に帰ろうと思って。」

九峪先生の事を色々と聞きたかったのだ。

「あ〜。 ごめん。 私、これから部活なんだ。」

すると、忌瀬さんは申し訳無さそうに謝って来る。

「部活?」

「うん、科学部に入ってるんだ。 これから、理科準備室に行くところなんだけど。」

「そっか………。」

残念だけど、それじゃ仕方が無いよね。

(まあ、良いや。 方針変更っ!)

一緒に帰る事は出来なくても、色々と質問する事は出来る。

「理科準備室まで、一緒に行っても良い?」

「ん? 良いけど、どうしたの? 何か、聞きたい事でも?」

忌瀬さんが不思議そうに聞いて来るので、私は頷いて見せた。

「うん。 実は、ちょっと、ね。」

そう言って、忌瀬さんの隣に並んで歩き出す。

「それで、何を聞きたいの?」

興味津々と言った風に聞いて来るので、私は素直に答えた。

「九峪先生の事。」

「えっ!!?」

酷く驚いた風に見えたのは、決して、私の気のせいじゃ無いと思う。

「な、何で?」

「え? 何でって?」

「その。 九峪先生の事、知りたがるのかな〜って。」

「それは、その………。」

先に理由を聞かれるとは思ってなかったので、困ってしまった。

正直に理由を話す事もしたくないし、かと言って、上手く誤魔化せる自信も無い。
う〜ん、我ながら、無計画に動き過ぎたと後悔しちゃう。

すると………。

「まあ、良いや。 九峪先生は人気あるしねぇ〜?」

忌瀬さんは、勝手に納得してくれた。

「うん、うん。 出会ったその日に咲く恋の花もあるさっ!!!」

何か、凄く違う方向で納得されている気がするのは、気のせいだろうか。

(まあ、良いか。 誤解されてた方が好都合だし。)

そう考えて、私は否定せずに話を進める事にする。

「九峪先生の事ね、任せて。」

忌瀬さんはやけに自信たっぷりと言った感じで喋り出した。

「九峪先生は、二年前に赴任して来たんだ。 今のところ、生徒からの評判は上々♪」

「私達、二年一組の担任をやってて、ついでに生活指導も受け持ってる。
 ここら辺の事は、多分、慧ちゃんも知ってるんじゃないかな?」

「歳は二十四、今がお買い得って感じだね。これから、渋みが増して来る事、間違い無し!!!」

「まあ、ルックスは悪くないし、授業は分かりやすいし、運動神経も良いみたいだし。
 何より、威張り散らさないのが良いね、先生やってる癖に。」

「おかげで、耶麻台(やまと)学園の女生徒の内、三割は惚れてるって噂だよ。」

忌瀬さんは呆れた風に肩を竦める。

(そんな人が親身になって相談に乗ってくれたら………、いちころかも。
 うん、清瑞が九峪先生の事を好きになってもおかしくは無いわね。)

次第に、私は『あの人』は九峪先生かも知れないと思い始めた。

「それじゃあ、付き合ってる人とか、居るんじゃ………?」

さりげなく、話を誘導してみる。

(『あの人』が九峪先生なら、清瑞と付き合ってる可能性は高い。)

(例え、周囲には隠していたとしても、噂にはなっている筈。
だって、あれだけ、メールに色々と書いていたんだから。)

(もし、今、忌瀬さんの口から、清瑞の名前が出たら………。 私は………。)

けれど、忌瀬さんの口からは、清瑞の名前は出なかった。

「うん、当然だね。 高校時代から付き合ってる人が居るみたい。」

あっさりと、忌瀬さんは予想とは違う答えを口にする。

「あれっ?」

その答えに、ちょっとだけ、私は戸惑ってしまった。

「あ、慧ちゃん。 今、残念とか、思ってる?」

「う、うん。 ちょっとだけ………。」

咄嗟に誤魔化すと、もう一度、私は考え直す。

(居ないと言うんじゃ無く、恋人が居る、それも当たり前みたいに。
 おまけに、高校時代から付き合ってるって。)

(清瑞、恋人が居る人の事を好きになったりするかな?)

(………ううん。 しないよね、幾ら、何でも。)

(じゃあ、九峪先生は、清瑞の言う『あの人』じゃ無い?)

(まだ、そうと決めるのは早いかな。
 九峪先生に恋人が居るって知らなかっただけの可能性も………。)

そう考えて、私は忌瀬さんに質問する。

「それって、有名な話なの?」

「ん? それって?」

「九峪先生に恋人が居るって。」

「うん、結構、ね。」

忌瀬さんははっきりと頷いた。

「………って言うか、クラスじゃ、皆が知ってるよ。 写真とか見せびらかしてるし。」

「日魅子さんって言うみたい、彼女の名前。」

「あれさえ無けりゃ、本当、九峪先生も完璧なんだけど、ねぇ〜。」

「まあ、あんだけの美人な彼女が居たら、自慢したくなる気持ちも分かるけど。」

「私も写真を見せて貰ったけど、かなりの美人だったよ。 慧ちゃんも気合入れて掛かる必要があるね。」

その話を聞いている内に、私は混乱してしまう。

(そんな、彼女が居るって宣言してるんなら、清瑞もすぐに諦めちゃうだろうな。
 ………だとしたら、あんな風にメールに書いたりはしないよね、普通。)

(『あの人』が九峪先生だったとしても、単なる相談相手って関係になっちゃう。そんな筈は無いと思うけど。)

(こうなってくると、『あの人』が九峪先生だって言う推理、何だか自信が無くなっちゃうなあ・・・。)

いっその事、九峪先生は無関係だと決めようとも思ったのだけれど、そうしようにも決め手に欠けている気がした。

(別に、清瑞はあの人と恋人同士だって言った訳じゃ無いんだし。)

(本当に、『あの人』とは何でも無かった可能性だってあるかも知れない。)

(う〜ん。 私の勘じゃ、絶対、清瑞と『あの人』は付き合ってるって思うんだけど。)

どうにも、判断するには材料が足りなさ過ぎるみたい。

「はあ………っ。」

思わず、私は溜息を吐いてしまう。

「あらら、そんなに落ち込まないの。」

溜息を吐いた理由を勘違いしたみたいだった。
忌瀬さんは、まるで恋人に振られた友達を慰める様な感じで、私の肩を叩いてくれる。
いや、全然、嬉しくは無いんだけど、さ。

「まあ、九峪先生の事は諦めるんだね。中には、諦め切れない人も居るみたいだけど、さ。」

「諦め切れない人?」

私が首を傾げて見せると、忌瀬さんは苦笑混じりに教えてくれた。

「そう。 言ったでしょう、九峪先生は人気があるって。」

「中には、九峪先生の事、日魅子さんから奪っちゃおうってくらい、過激な事を考えてる人もいるみたいよ。」

「下手すると、慧ちゃんも、そういう連中から喧嘩を売られちゃうかもね?」

悪戯っぽい感じで言ってくる。

(もう、そんなんじゃ無いのに………。)

どう答えて良いかが分からず、私は内心で溜息を吐いた。

「さて。 んじゃ、私はここで。」

忌瀬さんが立ち止まって挨拶をする。
上を見れば、理科準備室と書かれたプレートが目に入った。

「うん。 アドバイス、ありがとうね。」

「いえいえ、どういたしまして♪ ま、狙うなら、やれるだけやって見れば?」

忌瀬さんは冗談交じりに言って来た。

「九峪先生って、面倒見は良いからね。」

「頼りないところを見せてやれば、案外、イチコロかもよ。」

「上手く行けば、プライベートの事なんかも聞き出せるかもね。」

その言葉に、私は弾かれた様に顔を上げた。

(清瑞は九峪先生に相談をしてた。)

(もしかしたら、事件と関係のある出来事なんかも、相談していたかも知れない。)

(そうだ。 上手くすれば、何か、情報を聞き出せるか。)

(九峪先生が『あの人』では無いにしても、やっぱり、無関係とは思えないし。)

(情報が足りないなら、集めれば良いんだ。 自分の手で!!!)

瞬時に考えをまとめる。

「何か、分かったら、私にも教えて………。」

まだ、忌瀬さんが何かを言っていたが、私は全く聞いていなかった。

「ありがとっ! 早速、行って来るっ!!!」

そう言って、私は一目散に職員室へと駆け出した。

「えっ?」

「あっ!?」

「ちょっとぉっっっ!!?」

背後で、忌瀬さんが素っ頓狂な声を上げていたが、それすらも無視して。


タタタタタッ!!!


一目散に廊下を駆け抜ける。


タンッ、タンッ、タタンッ!!!


階段を二段飛ばしで飛び降りる。


タタタタタッ!!!


渡り廊下を抜けた先、職員室の扉が見えた。


(さて。 吉と出るかな、凶と出るかな。)


逸る気持ちを押さえ込んで、私は職員室の扉を叩いた。



>>NEXT