火魅子伝サスペンス劇場

<決して愛される事の無かった私達>


作・BARD様



第十三話:事態急転、そして、最後の賭け



闇の中、唯、声が聞こえていた。

「………無事………は無い………。」

「………で………か。 ………で良か………。」

「………ても………で、窓ガ………ス………に危な………。」

耳元で騒がれている様にも聞こえるし、何処かしら、遠くの方から聞こえて来る様にも感じる。

そんな、不思議な感覚。

「う………。」

その声に導かれるかの様に、私は、ゆっくりと目を開けた。

「ここは………。」

「気が付いたか?」

「えっ? ………伊雅理事長?」

声を掛けられ、何とは無しに声のした方を見やる。
すると、そこには、伊雅理事長が椅子に腰掛けていた。

「まだ、起き上がらない方が良い。」

そう言って、私を労わるかの様に寝かせようとする。

ここに来て、ようやく、私は自分がベッドに寝かされていた事に気が付いた。
伊雅理事長が居るところを見ると、ここは保健室だろうか。

「私、どうして………?」

「後頭部を強打したせいで、意識を失ったんだ。」

「思い出した。 昼休みに………。」

「すまない、私が不注意だったばっかりに。」

そう言って、伊雅理事長は深々と頭を下げた。

「あ、いえ。 平気ですから。 それより、あの時に一体、何が………?」

精一杯の笑顔を浮かべて、私は首を横に振った。
続いて、意識を失う直前の事を尋ねてみる。

「………。」

すると、何故か、伊雅理事長は辛そうな顔をした。

「慧くんがあの場を去ろうとした時、丁度、校舎の窓ガラスが割れたんだ。
 まるで、誰かが慧くんを葬り去ろうとしているかの様に。」

搾り出す様に言う。

「っ!!?」

その瞬間、私は硬直してしまった。

(誰かが………、私を?)

(冗談。 そんな、ガラスって、下手すれば死んじゃうじゃないの。)

(幾ら何でも、そこまで………。)

急速に、私の心を恐怖が支配した。

「じょ、冗談でしょう? きっと、何かの偶然ですよ。」

自分でも声が震えているのが分かる。
それでも、必死に、私はその事実を笑い飛ばそうとした。

だが、無常にも、伊雅さんは首を横に振って否定した。

「残念だが、偶然と言う可能性は低い。」

「窓ガラスが割れた校舎は、特別教室も多く、普段は、ほぼ、無人状態に在る。」

「つまり、何らかの目的が無ければ、あの場所に居る訳が無いんだ。」

真っ直ぐに、私を見つめながら、伊雅理事長は話を続けた。

「おそらく、その誰かは、あの場に慧くんが居る事を知っていたのだろう。」

「そして、慧くんの周囲に人が居なくなった瞬間を狙い、窓ガラスを割った。」

「おそらくは、慧くんに警告をする為に。」

そう言われて、私はゆっくりと口を開いた。

「じゃ、じゃあ………。 伊雅理事長は、私を庇ってくれたんですか?」

「………。」

「それも、命懸けで?」

「………。」

「どうして、ですか? どうして、私の為に、そこまで………。」

私がそう言った瞬間、伊雅理事長は首を横に振った。

「慧くんの為じゃ無いよ。」

「あの子の………。 自殺してしまった、清瑞の為だ。」

「私は、ね。 後悔しているんだよ。」

「我が学園において、そんないじめがあった事。そして、その事に気付けず、相談さえして貰えなかった、情けない自分。」

「もう、二度と………。
 この学園で、あの様な出来事を繰り返させたりはしない、絶対に。」

力強い口調、そこには、はっきりとした意志の強さが感じられる。

(………あれ?)

ふと、私は違和感を覚えた。

「清瑞から相談されなかった? それ、本当ですか?」

「うん? ああ、本当だ。」

「それじゃあ、清瑞が相談をしていたら………。」

「無論、力になるつもりだったわっ!
 そして、この身に代えても、あんな事はさせなかったっ!!!」

力強く言い張る伊雅さん。

(嘘を言ってる様には見えない………。)

(どういう事?)


(何で、清瑞は、伊雅理事長にいじめの事を相談しなかったんだろう。)

(出来なかった?)

(それとも、相談したくなかった?)

清瑞の取った行動の意味が分からず、私は考え込む。

「オホン。」

興奮してしまった事を恥じたのだろう、伊雅理事長が咳払いをした。

「まあ、その事はもう良いだろう。」

「今更、何を言おうが手遅れた。」

「それよりも、慧くん、今は君の事だよ。」

そう言って、私の顔を覗き込んで来る。

「慧くんが何を調べようとしているのか、その事には興味無い。」

「だが、これ以上、この学園の裏を探ろうとはするな。」

「深入りすれば、きっと、大怪我をする。」

「いずれ、時が来れば、全てが明らかになるだろう。 きっと、いや、必ずだ。」

「だから、それまで、おとなしくしているんだ。」

伊雅理事長が重苦しい口調でそう言った。

「………どういう? それは、一体、どういう事です?」

あまりの重苦しさに、私は耐え切れずに聞き返す。
けれども、伊雅理事長は、何も答えてはくれなかった。

「………もう、これ以上の悲劇は、たくさんだ。」

本当に哀しそうに呟いて、そのまま、伊雅理事長は席を立った。

「今は、何も語れん。 唯、もう、これ以上は関わるな。」

「待って………。 待って下さいっ!!!」

慌てて、私は、伊雅理事長の後を追おうとする。
だが、そんな私を振り返る事無く、伊雅理事長は部屋から出て行った。

(………どういう事なの、一体。)

部屋に独りとなった私は、唯、途方に暮れていた。



結局、午後の間、私はずっと保健室に寝かされていた。
怪我は無く、血も出ていないのだが、強打した場所が頭なので安静にして様子を見ると言う事らしい。
おそらく、その裏には理事長の配慮があったかも知れない。

その配慮は、今の私にはありがたかった。

私の周囲を取り巻く状況を整理する時間が欲しかった。
今日一日、いや、半日だけで、驚く程に多くの出来事が起きたから。

(まずは、生徒会長からの脅し。)

(どうして、私の事を知っていたかは知らないけど、ね。)

(まさか………。もしかして、あの日、教室で立ち聞きしていたのは、星華さんだったんじゃ?)

(う〜ん、違うかも。そうだとしたら、その場で私に喧嘩を吹っ掛けて来る気がする、あの性格だし。)

(今のところ、先週の土曜日、あの場に居た犯人の仕業と見て間違い無いかな。)

思わず、今も立ち聞きされてやしないかと、保健室の扉に目をやってしまう。
けれども、その可能性を、私はすぐに頭の中から追い払った。

(いや、そうだとしたら、窓ガラスを割った人はどうなるのよ?)

そこまでの考えに至って、私はノートの存在を思い出した。

(あのノートを手に入れてから、新しく調べようとした五人。)

(星華さん、亜衣さん、衣緒さん、伊雅さん。)

(そのほとんどが、あの場に居た筈よね。)

(窓ガラスを割った人物が犯人で、ほぼ、間違いは無いと思う。)

(じゃあ、あの場に居た四人は、犯人じゃない?)

私は愕然となった。

まさか、ノートを手に入れた翌日になって、
あっという間に手掛かりが消えてしまうとは思っても見なかったからだ。

(でも、伊雅さんは、何かを知っている風だったけど………。)

(それに、学園の裏を探ろうとはするなって?)

(耶麻台(やまと)学園に、一体、何があるって言うの?)

幾ら、考え様とも、それが今の私に分かる筈が無い。
だが、それでも、私の脳裏に閃くものはあった。

(もしかして………。 清瑞は、その事に気付いたから、殺されたんじゃ?)

清瑞からのメール、その内容を思い出す。


『ずっと悩んでいましたが、ようやく決心しました。
明日にでも、あの人に会って問い質してみるつもりです。
自分の大切な人が罪を犯した、その事は、どうしても許せそうにありませんから。』


刹那、私の背筋を電撃が貫いた。

(『あの人』が犯した罪、それは学園の裏で行われている犯罪っ!!?)

それは、途方も無い話だった。
けれども、もし、私の推理が正しければ、
私の命を狙うと言う、少々、行き過ぎた様に思える行為にも頷ける。

(そして、『あの人』は、確実に耶麻台(やまと)学園の中に居るっ!!!)

恐怖に震える肩を抱き締めて、私は保健室を飛び出した。

(清瑞の家に行こう。)

(これだけ大きい話。 必ず、清瑞は、何らかの情報を残してる筈。)

(そう。 きっと、これが、最後の手掛かり。)

職員室へ駆け込むと、私は九峪先生に清瑞の家の住所を聞いた。

表向きは、清瑞から貰ったメールの全てを、彼女の両親に渡す為。
そして、本当の理由は、彼女が残した情報を手に入れる為。

私は、今、最後の賭けに出る。


>>NEXT





<あとがき>
お久しぶりです、Jで御座います。
お待たせ致しました。

<火魅子伝サスペンス劇場 〜決して愛される事の無かった私達〜>、

無事に第十三話を投稿する事が出来ました。
一気に核心へと近付いた今回。
何やら、伊雅が重要な鍵を握っていそうな雰囲気です。

実際、今後、彼は重大な役回りを受け持つ事になるのですが………。
それは、また、別のお話と言う事で。

では、次回、『第十四話:残された真実』をお楽しみに!!!