火魅子伝サスペンス劇場

<決して愛される事の無かった私達>


作・BARD様



第十二話:いじめと警告と危機一髪と



九月九日、忌瀬さんからノートを貰った翌日。

昼休み、食堂に来た私を待っていたのは、とっても怖いお姉様達の一人だった。
………と言うか、あれは、お姉様を通り越して女王様だったかも知れない。

騒動の始まりは、食堂に来てすぐだった。

「貴方が………、慧さん?」

「はい? そうですけど………。」

見知らぬ女生徒に声を掛けられ、私は戸惑ってしまう。

そんな私の反応を気にした風も無く、
その女生徒は、滅茶苦茶に事務的な口調で話を進めた。

「貴方の事、九峪先生が呼んでるわ。 第一図書室。」

「九峪先生が? でも、第一図書室って………。」

転入して間も無い私には初耳の場所。

そこら辺の事情は分かっている筈なので、
九峪先生がそんな場所を指定するのには違和感があった。

でも、そんな私の困った様な顔に、相手の女生徒はあっさりと頷いた。

「分かってるわ。 場所が分からないのでしょう?」

「え? あ、はい。」

「付いて来て。 案内するから。」

「ど、どうも………。」

おかしいとは思いながらも、案内してくれると言うその人の好意を無駄に出来ず、
私は彼女の後についていった。

連れて来られたのは、人気が無い校舎裏だった。

音楽室、美術室、体育用具室、と、傍らの校舎には特別教室が多く、
昼休みだと言うのに人通りが全く無い。

(これって、やっぱり………。)

私の脳裏を過ぎる嫌な予感。

非常に残念な事だが、それはすぐに的中する事となる。
連れられた先に、待ち伏せするかの様な格好で、二人の女生徒が居たからだ。

まずは、奥に立っていたリーダー格っぽい人が喋り出す。

「貴方ですわね。 清瑞さんの事を嗅ぎ回っていると言う転校生は。」

「はあ………。」

「鬱陶しいので、即刻、止めて頂けます?」

「はあ………。」

「分かるでしょう? この学園は、今、自殺騒動で騒然としています。
 この問題は、部外者の貴方が面白半分に引っ掻き回しても良い事じゃないの。」

「はあ………。」

妙に威圧的な態度で言って来るので、当然、私も友好的に話す気にはなれない。
滅茶苦茶、適当に返事をしてやる。

(この人、誰だろ? ………って、大体の見当は付いてるんだけど。)

その一方で、私は冷静に相手を観察していた。

現在、清瑞の自殺を調べられて困る人物は二人居る。
一人は犯人、そして、もう一人はいじめを行っていた人物だ。

(忌瀬さんも言ってたもんね。
 清瑞が自殺をしたせいで、今も罪の意識に駆られてる人が居るって。)

そして、目の前に立つ女生徒は、おそらく………。

「貴方、星華さん、ですよね? 生徒会長の。」

「「「っ!!?」」」

突然、場の空気が、これ以上無い程に凍り付いた。
その変化が、私の言った言葉が事実だと言う事を如実に物語っている。

「………誰が、勝手な発言を許可しました?」

「全く、素直に頷いていれば良かったものを。
 どうやら、転入生の癖に、身の程と言うものをご存知無い様ですわね。」

「少しばかり、教育して差し上げた方がよろしいかしら?」

私の質問に対する返答は、これ以上無い程に理不尽なものだった。

「亜衣っ! 少しばかり、懲らしめてやりなさい。」

先程から喚いていた女生徒、星華さんが、傍らに立つ女生徒に命令口調で言う。

「………分かりました。」

言われて、亜衣さんが爬虫類の様な目付きで私を睨んだ。

(あ、やばい。 すっごく怖いかも。)

思わず、後退ってしまう。

「逃がすなよ、衣緒。」

不意に、亜衣さんが、私の後方へ向けて呟いた。

「えっ!?」

次の瞬間、私の身体は後ろから羽交い絞めにされる。

「おとなしくしていれば、すぐに済みます。」

「っ! いつの間にっ!!?」

背後に立っていたのは、
私をここまで案内してくれた女生徒、衣緒さんだった。

無表情のまま、物凄い力で私の動きを封じ込める。

「やば………っ!」

焦った私は、咄嗟に、相手の気を逸らそうとする。

「ちょっと待って!」

「何で、私が清瑞の事を調べないといけないのっ!!?」

「貴方達の勘違いじゃあ………っ!!!」

苦し紛れに言った言葉だったけど、
星華さんはこれ以上無いってくらいに嘲りの表情を浮かべた。

「何を言うかと思えば。 既に、ネタは上がっています、往生際が悪いですよ?」

その言葉に、私は違和感を覚える。

(………何でっ!?)

(私が清瑞の自殺の真相を調べてるって事、
周囲の人には、なるべく言わない様にしてるのに。)

(まさか、これって、誰かの差し金っ!!!)

私の脳裏を過ぎる、まだ見ぬ犯人の姿。

「さあ、観念して頂きましょうか。」

続いて、亜衣さんが目と鼻の先まで迫りながらも冷酷な口調で呟いた。
それを見た瞬間、私が反射的に目を閉じる。

………と、その時だった。





「そこで何をしているっ!!!」





鋭い怒声が辺りに響き渡った。

「「「っ!!?」」」

その場に居た全員が息を呑む。

「………えっ?」

私が声のした方へ顔を向けると、そこに居たのは、伊雅理事長だった。

「り、り、理事ちょ………。」

「………ちっ、拙いですね。」

「………。」

先程までの威勢は何処へやら、星華さんは顔面蒼白となって立ち尽くしている。
目の前に立つ亜衣さんは悔しそうに私の事を睨んでいた。
背後に立っているので顔は見えないが、衣緒さんは無言のままだ。

「聞こえなかったかな、生徒会長殿。」

「あ………、ああ………。」

「貴方ともあろう者が、何をしているのか、そう聞いている。」

「あの、その、えっと。」

「しかも、転入生を相手に、こんな大勢で。」

伊雅理事長の威厳に満ちた態度に、星華さん達は、完全に圧倒されていた。

「答えぬかぁぁぁっ!!!」

「「「ひいっ!!!」」」

最後には、その一喝で蜘蛛の子を散らすかの如く、逃げ出してしまう。

「ほへ〜〜〜っ。」

その様子を見ながら、私は気が抜けた風に座り込んでしまった。

「やれやれ。 大丈夫かね?」

「あ、はい。」

「ほら。 まずは立ちなさい。」

「ど、どうも。」

手を差し伸べられ、私はどぎまぎしながらもその手を掴んだ。

「よっと。」

「わわっ!?」

勢い余って、私は伊雅理事長の胸に寄り掛かってしまう。

「はっはっは! すまん、すまん。 ちと、強過ぎた様じゃな。」

「あ、大丈夫です。 その、助けてくれて、どうもありがとうございました。」

「何の、何の。」

私のお礼を豪快に笑い飛ばす伊雅理事長。

(私、勘違いをしていたかも。)

以前、忌瀬さんから、伊雅理事長は生徒思いだと言う話を聞いた時、私は素直に頷く事が出来なかった。

だって、そんな理事長が居るのなら、清瑞は自殺なんかする筈が無いと思ったから。

(こんなにも厳しく、そして、こんなにも暖かい。)

いじめの現場を前にして、激しい怒りを見せた伊雅理事長。
いじめられていた私に対して、暖かい優しさを見せた伊雅理事長。

今なら、私は、生徒思いと言う忌瀬さんの言葉にも頷く事が出来た。

(でも………。)

伊雅理事長の毅然とした姿を見ていると、ふと、私は違和感を覚えた。

(忌瀬さんの情報によれば、星華さんの家は、ここら辺でも有数の資産家だって話。)

(そして、耶麻台(やまと)学園にも、多額の寄付をしてるって噂もある。)

(だから、伊雅理事長は、清瑞が星華さんにいじめられていても知らん振りをしていたんじゃなかったっけ?)

昨日、聞いたばかりの情報を思い出して、私は首を傾げた。

少なくとも、今、私の目の前に居る人物は、星華さんの実家が資産家だからと遠慮をする様な人には見えなかったから。

(この人、一体………。)

そんな事を考えながらに見上げていると、
ふと、私の方を向いた伊雅理事長と目が合ってしまった。

「っ!? しっ、失礼しましたっ!!!」

私は弾かれた様に仰け反る。

「ほ、本当にありがとうございました。
 それじゃ、私、お昼ご飯がまだなんで失礼しますっ!!!」

その場を去りたい一心で、慌てて走り出す。





パリィィィンッ!!!





それと同時に、何処かで何かが壊れる音がした。

「危ないっ!!!」

刹那、伊雅理事長の声が耳に届く。





ブワッ!!!





続いて、宙を舞う様な感覚。





ガシャアアアンッ!!!





何が起きたか、私には理解が出来なかった。
唯、そこに在ったのは、何か大きなものに包み込まれている様な、不思議な感覚。



その感覚を最後に、私の意識は途絶えてしまった。


>>NEXT





<あとがき>

お久しぶりです、Jで御座います。

お待たせ致しました。

<火魅子伝サスペンス劇場 〜決して愛される事の無かった私達〜>、

無事に第十二話を投稿する事が出来ました。

星華ファンの方、本当にごめんなさい。

彼女、本当にいじめっ子です。

いや、別に、私は彼女が嫌いと言う訳じゃ無いんですよ。

何故か、いつの間にか、こんな風になっちゃっただけで………。(汗)

では、次回、『第十三話:事態急転、そして、最後の賭け』をお楽しみに!!!