火魅子伝サスペンス劇場

<決して愛される事の無かった私達>


作・BARD様



第十話:語られる言葉




九月六日、転校六日目、夕暮れ時。
耶麻台(やまと)学園内の屋上にて、私と九峪先生は対峙していた。

ちなみに、忌瀬さんには、屋上の出入り口付近に待機して貰っている。

万一、九峪先生が犯人だった場合、私を口封じの為に殺そうとするかも知れない。
そんな事態になった時、すぐに忌瀬さんが人を呼びに行ける様に、だ。

そして、私の近くに居ないのは、私の話を聞かれない様にする為でもある。

(清瑞からメールを貰った事、まだ、忌瀬さんには言ってないもんね。)

忌瀬さんに会話が聞こえる事の無い位置まで移動したと判断してから、私は、ゆっくりと話を始めた。

「九峪先生に、どうしてもお聞きしたい事があります。」

些か、緊張気味に言う。

「………こんなところにまで呼び出して、一体、何の用だい?」

幾分かは緊張している様だが、九峪先生の方には、まだ、余裕が見られる。
だが、それも、次の瞬間には吹き飛んでいた。

「清瑞の事です。」

「清瑞っ!!?」

転入生の私から、その名前が出るとは思わなかったのだろう。
九峪先生は驚きを隠せずに居る。

「清瑞が自殺した、本当の理由………。 先生なら、ご存知じゃないんですか?」

そんな九峪先生へと向けて、私は静かに問い掛ける。

「どうして、そう、思うんだい?」

私の問い掛けに、九峪先生は、打って変わった様に冷めた眼差しを見せた。

「清瑞と私は、メール友達でした。」

「そして、あの日………。清瑞が自殺する前日、彼女は、私にメールで心の内を話してくれたんです。」

「そのメールの中には、ある人への想いが綴られていました。
 そして、次の日、想い人に会いに行く事も。」

言いながら、私は、九峪先生から視線を外さなかった。
九峪先生が犯人ならば、何らかの反応を見せると思ったから。

でも、私の予想に反して、九峪先生は何の反応も見せなかった。

「九峪先生。 単刀直入に言います。 清瑞の想い人とは、貴方じゃありませんか?」

死刑宣告にも似た、私の言葉。

「………。」

「………。」

「………。」

その場を沈黙が支配する。


(何で・・・? 何で、黙ったままなの?)


(こんな反応されるなんて、思ってもみなかった。)


(まさか、本当に、九峪先生が犯人っ!?)


私が僅かに後退りをし始めた、その時だった。

「………見せてくれないかな?」

九峪先生が、ぽつりと呟く。

「えっ?」

戸惑いながらも、私が聞き返す。
すると、今度はしっかりとした口調で、九峪先生は言葉を紡いだ。

「清瑞から送られて来たメール、俺にも、見せてくれないかな?」

その真摯な口調を前に、私は、どうしても断る事が出来ずに頷く。
清瑞からのメールをプリントアウトしたものを、九峪先生へと手渡す。

「ありがとう。」

一言、お礼を言って、九峪先生は読み始めた。

「………。」

「………。」

「………。」

再び、その場に沈黙が訪れる。

(九峪先生、どういうつもりだろう?)

(さっき、お礼を言った時に見せた時、悲しい目をしていた。)

(清瑞を死に追いやった人が、あんな目をするだろうか。)

私の心に迷いが生じる。

(でも………。 それでも、一番怪しいのは、この人。)

雑念を振り払って、私は、九峪先生を真正面から見据えた。

(私の勘なら、絶対に、何らかの手掛かりがある筈。)

そう考えた刹那。


ポタ………


ポタ………


ポタ………


九峪先生の両目から、涙が溢れ出た。

(………えっ!?)

(何で………? 何で、泣くのっ!!?)

(どうして………?)

九峪先生の涙を見た瞬間、私は完全に混乱してしまう。

「ありがとう。」

丁寧に折り畳んで、九峪先生は手紙を私に返してくれた。

「それで、清瑞が自殺した本当の原因だったっけ?」

「この手紙を見る限り、慧の考えてる事、分かるよ。」

「それが俺にあると思ってるんだろ?」

こちらの心の内を探るかの様な、九峪先生の眼差し。
その眼差しに晒されて、私は、正直に手の内を明かす事にした。

「………分かりません。」

「正直、現段階では、清瑞の言う『あの人』が九峪先生だと言う可能性が一番高いと思うんです。」

「だから、こうして、お話しています。」

「でも、話せば話す程、自分の考えに自信が持てなくなるんです。」

「そして、今、九峪先生の涙を見て………。 もっと分からなくなりました。」

沈んだ口調で呟く。

「………。」

すると、九峪先生は、無言で私の元へと歩み寄った。
そのまま、そっと私の頭に手を乗せる。

「それで良い。 分からなくても良いよ。 こういうのは、警察の仕事だ。」

「俺の知り合いに、耶麻台(やまと)署の刑事で藤那ってのが居る。
 酒好きの代名詞みたいな奴だが、腕は確かだ。」

「そいつに、任せてみないか?」

諭す様な口調。

「………っ!」

その瞬間、私の感情が爆発した。

「誤魔化さないで下さいっ!!!」

「言っときますけど、私は真剣なんです。
 真剣に、清瑞が自殺した理由を知りたいんですっ!!!」

「九峪先生が犯人じゃないんですか!? まずは、答えて下さいっ!!!」

感情の赴くままに捲くし立てる。

そんな私の反応に驚いた様だったが、
すぐに、九峪先生は気を取り直したかの様に首を横に振った。

「………知らない。」

「えっ?」

「俺は知らないんだ。 何も………。」

「本当ですか?」

「ああ、清瑞が俺に対して告白をして来る事は無かったよ。
 それに、メールの日付の翌日、俺は耶麻台(やまと)学園には来ていない。」

「そうですか………、ありがとうございます。」

落胆の色を隠せず、私はゆっくりと後ろを向いた。

(………白紙に戻っちゃった、か。)

全く手掛かりが無い、そんな現状に、自然と溜息が洩れる。

「おい? 慧っ!?」

「このメールの事は、私と九峪先生と、二人だけの秘密にしておいて下さい。」

「秘密って………。 まだ、犯人捜しを続けるのか? 居るかも分からない犯人を。」

「居ますよ、絶対に。」

「えっ?」

はっきりと断言する私に、九峪先生は息を呑む。

「今日は、ありがとうございました。 それじゃあ。」

「あっ! おいっ!!!」

まだ、九峪先生が何かを言おうとしていたが、私はそれを綺麗に無視した。

「もう良いの?」

「うん。」

「あいあい。」

忌瀬さんと屋上の出入り口で合流し、校舎の中へと戻る。


ダンッ!


ダンッ!


ダンッ!


二人揃って、一気に階段を駆け下りる。

「その分だと、進展は無かったみたいだね?」

私の様子を見て分かっちゃったんだろう、忌瀬さんはそう言った。

「………うん。」

「諦める?」

「まさか。 まだ、諦めないよ、私は。」

「ふぅん、そっか。」

諦めろとは言わない、止めようともしない。
そんな忌瀬さんの配慮に感謝しながら、私は土曜日の出来事を思い出していた。



(犯人は居る、絶対に。)



(そう。 土曜日の放課後、私の前から逃げ出した誰か。)



(その誰かが、清瑞の言う『あの人』なのか、私には分からない。)



(でも、一つだけ、私には分かってる事がある。)



(根拠は無い。 確証も無い。 でも、あいつが犯人だ、絶対に。)



それは、奇妙なくらいの確信だった。
九峪先生を犯人だと決め付ける時とは違った、絶対的な自信。


それだけが、全ての手掛かりを失った、そんな今の私を突き動かしていた。



>>NEXT




<あとがき>

お久しぶりです、Jで御座います。
お待たせ致しました。

<火魅子伝サスペンス劇場 〜決して愛される事の無かった私達〜>、
無事に第十話を投稿する事が出来ました。

九峪雅比古が語る真実。
結局、彼は何も知らなかった様ですね………。
慧にとっては、残念な展開。

ですが、彼女も負けてはいません。
これから、再び、事件の真相に向けて突き進んで行きますよ。

予定ですと、今回で、丁度、物語の半分が過ぎた頃です。

では、次回、『第十一話:新たなる手掛かり』をお楽しみに!!!