火魅子伝〜神器に選ばれし者〜

第5話


作・ビック様



 「ねぇ〜〜〜くたにぃ〜〜〜、早くいこうよ〜〜〜」

 キョウは必死に九峪の腕を引っ張っていた。

 早く広場に行って芸人の一座を見てみたいのだ。

 なにより何かがある……と予感めいた確信がある。

 心の中で何かが叫んでいるような、ともかくキョウとしては一刻も早く広場に行きたいのだが……

 キョウに腕を引っ張られている九峪はというと…

 「おっさん! そりゃちょっと足元見すぎだろ!」

 「馬鹿言うな! 狼三匹でいいって言ってんだ! これでもまけてる方だ!!」

 とある店のオヤジと激しい激戦を繰り広げていた。

 九峪とキョウは広場に向かう途中で見かけた出店に立ち寄っていた。




 いつもの九峪なら気にもとめず広場に向かって行くのだが、異世界ではどんな物が売っているのか興味があった。

 何よりこの世界では刀の一つでも持っていた方がいいだろうと思い、出店を見て回ることにした。

 何件か目の店で柄の握り具合、刀を振ったときの感覚が九峪にぴったりなものが見つかり、いざ買おうとしたのだが、店主が代金として狼三匹を要求してきたのだ。

 二匹ならまだしも三匹!

 ただでさえこの世界に来る前も食い損ねているのに、ここに来てまた!?

 他の店に行こうとも考えたが、今まで店を回って気に入ったのはあの刀だけなのだ。

 (ここで買わなきゃ絶対後悔する!!)

 そうは思ったもののやはり三匹というのは惜しい。

 食べたいというのはもちろんだが、これが現段階においての九峪の全財産なのだ。

 残った道は店主にまけてもらうほかなかった!

 (っていうか意地でもまけさせてやる!!)

 こうして九峪と店主による激しい討論が開始されたのだった。

 
 
 キョウの声が聞こえないほど、男二人の話は徐々に白熱していった。

 「刀っていっても逆刃刀だろ?」

 「それでも刀は刀だ! 本来なら食料二十日分の所を狼三匹で売ってやろうってんだ。これで文句言ったらバチが当たるってもんだ!」

 「二十日分!?」

 「おうよ!」

 「ねぇ〜〜〜、くたにってばぁ〜〜」

 「なんでそんなにたかいんだよ!」

 「これでも相場より安い方だぞ?」

 店主の「当たり前だろ」っという表情に九峪は唸る。

 (刀ってそんなに高かったのか?」

 (よく考えたらこの世界の相場ってよくわからんしな〜〜)

 (なにより俺の世界での相場自体知らないし………)

 (刀なんて、ばあさん山ほど持ってたからな〜〜、てっきり安いのかと思ってた)
 
 日魅子が刀剣類のコレクター(槍や斧等も含まれる)だったので、家にはありとあらゆる武器が置かれていたのだ。

 『銃刀法違反? ここではワシが法律じゃ』(by日魅子)

 いつも山の中で金のないはずの日魅子の家に、あまりに多くの武器があったため安いと思い込んでいたようだ。

 日魅子が言うには昔色々あって手に入れたらしい(汗) 



 「……これで安いのか?」

 「まあ、昔はまだ安かったんだけどな。今の世の中武器になりそうな物は大体こんなもんだよ」

 「昔は? じゃあなんで高くなったんだ?」

 店主は一息ついて、あたりを注意深く見渡してから九峪に顔を近づけて小声で喋りだした。

 「今この街………いや、この国が狗根国の支配下にあるのは知ってるだろう?」

 九峪は黙って頷く。

 「まあ反乱を恐れてってことだろうなぁ。武器とかは税の取立てが厳しいんだ」

 「…………だったら売らなきゃいい……ってわけにもいかないみたいだしなぁ」

 九峪はこの街に来る前に狼の群に襲われたことを思い出しながら言う。

 「まあな、街の外には魔獣なんてのがいるし山人は狩りして生活しているからな」

 「へぇ〜〜」っと九峪が感心していると、店主がふと顔を上げる。

 「ここら辺の知識がないってことは、どうやらお前さんよほど遠くから来たみたいだな? 異国からきたのか?」

 クイックイッ

 九峪の服が引っ張られる。

 顔を向けると、さっきまで煩くしていたキョウが(実際九峪は気付いていなかったが)心配そうにこちらを見ている。

 どうやら本当のことは言わないほうがいい、と言いたいらしい。

 キョウの意図が伝わったのか、大丈夫だといわんばかりに九峪はキョウに笑いかけた。

 「まあ、そんなとこ。自由気ままに旅してたんだけど……

  ここって結構危険なとこ多そうだしね、身を守る為に刀でも買おうかなって思ってさ。

  とりあえず気に入ったのがこの刀なんだよ。

  今何かと物入りでさ〜、狼三匹が俺の全財産なわけで………やっぱり安くならない?」

 肝心な所を曖昧にして相手の興味の出る話題に戻す。

 この言葉で店主の意識は完全に逸れた。

 「駄目だ! 銘は無いが一度も使われたことのない新品同然の刀だぞ?何度も言うようだがこれでも十分まけてるんだよ!」

 商売人として、こればかりは譲れないとばかりに見事に話がそれた。

 なかなか口達者である。

 「そこを曲げてなんとか頼『カァ〜〜ン! カァ〜〜ン! カァァ〜〜〜ン!』……なんだ?」

 話を続けようとする九峪の声を遮って薄い木の板を叩いたような音が広場の方から聞こえてきた。

 「もう、こんな時間か!!! 急がねえと始まっちまう!!」

 店主は途端に荷物を整理しだした。

 どうやらもう店じまいするようだ。

 「おい、オッサン。いきなりどうしたんだよ?」

 「お前さんは来たばっかりで知らないんだったな、今の音はこの先の広場で芸を見せてる一座の、最後の演目の合図だ。

  どんなに興味のない奴でも思わず見惚れちまう。他の芸も凄かったがこの演目だけは見逃せねぇ!」

 さすがに店の物を放り出して行くわけにいかないので店主は大急ぎで商品をしまっていく。

 (………演目ってのも気になるが………チャンスだ!!)

 「待ってくれよ、その前にこの刀だけは売って行ってくれよ!! もちろん狼二匹で!!」

 「駄目だって言ってんだろ! 悪いが今日は店じまいだ!! もう帰ってくれ!!」

 「それこそ駄目だ!! 俺はこの刀が気に入ったんだ!! 売ってくれるまでここは通さねえぞ!!」

 「この餓鬼〜〜〜!!!!!」

 (………九峪って意外と策士だな〜〜〜)

 騒いでも無駄と悟って黙って静観していたキョウは感心していた。

 「早くしないと演目始まるんじゃねぇの?」

 勝ち誇った顔の九峪。

 「〜〜〜〜〜〜っ! わかったよ、売ってやるよ!! ほら!!」

 店主は九峪に刀を渡して狼を受け取るとすぐさま広場の方へ走って行った。

 (刀が安く手に入ったのはいいが………あの大荷物であの速度………あのオッサン何者だよ(汗))

 九峪は店主のあまりの素早さに苦笑した。

 「九峪ィィ〜〜、ボクたちも早く行こうよ〜〜、そのために広場に向かってたのに終わっちゃうよ〜〜〜!!」

 待ちきれないと言わんばかりにキョウが九峪を引っ張る。

 「ああ、待たせて悪かったな。欲しい物も手に入ったし、俺たちも行くか」

 九峪はキョウの頭を撫で、持っていた刀を腰に差す。

 「もう寄り道はしないからね!!」

 キョウは笑いながら九峪の手を取り走り出した。




 広場は今、静寂が満ちていた。

 そこに人がいないというわけではない。

 寧ろいつも以上にその場には人で溢れている。

 その人の波の中心にはポツリと半径5メートルくらいの空間が出来ていた。

 その中心には刀、槍などを構えた黒服の男が五人と、青い髪と肌を限界まで露出させた水着のような服を着た美しい女性がいる。

 細い剣を両手に一本ずつ持ち、優雅に立っていた。

 ゴクリッ

 人垣の中から生唾を飲み込んだ音が嫌に大きく聞こえる。

 それが合図だったかのように黒服の男達が動きだした。

 あるものは女性を中心に走りまわり、あるものは持っている武器で女性に斬りかかる。

 シャン、と女性の腕につけてあった鈴が鳴る。

 迫り来る刃を見もせず避け、右足を前に出すと同時に上半身を後ろに逸らす。

 シュ

 女性の首のあった所に鋭い斬撃がはしる。

 同じように迫り来る凶刃の嵐を次々と避けていく。

 いや、避けるというより舞を踊っているようだった。

 その光景を周りの人々は声もなく見入っている。

 不意に女性の目が鋭くなった。

 『清らかな水よ……我が呼びかけに応え……』

 声が辺りに響いた。

 けして高くはない声なのだが、不思議とその場にいた全ての者に声が聞こえていた。

 『その大いなる力を…』

 両手の刀を胸の中心のところで交差させる。

 刀から青い光が漏れ出していた。

 『ここに………しめせ!!』

 声と同時に体ごと回りながら刀を振るった。

 ドンッ

 見ると今にも女性に斬りかかろうと接近していた黒服の男達の一人が、女性の4メートルほど離れた所で倒れていた。

 一瞬の事に驚く観客、だがもう一度女性を見てさらに驚く。

 女性の周りに大小様々な水の玉が浮いているのだ。

 『………方術……』と、観客の一人が呟いた。

 多くの水の玉の中心に立つ美女、その幻想的な光景に観客の誰もが目を奪われた。




 「……………凄い………キレイ……」

 「……………………ああ」

 九峪とキョウは広場から少し離れた民家の屋根の上にいた。

 さすがに遅れて見に行ったため場所がなかったのだ。

 九峪もキョウも、視力は常人より数段上らしく見る分には十分だった。

 (でもボクにはそれ以上に何か引っかかってる……)

 (まだ九峪を連れて来た影響で上手く力が使えないせい?)

 (…………あれ?)

 (……うそ………あの子………もしかして!?)

 突然キョウの表情が強張る。

 (美しいってまさにこういうことを言うんだろうな……)

 (それにしてもスゲェ!! あの動き、演舞……いや剣舞か?)

 (まさに水の様に流れるような感じだった…)

 (……強い……な)

 (一回手合わせして欲しいかも)

 (でも、あの水みたいのは? 黒服倒した時には刀から水だして、それをぶつけたみたいだけど……)

 (俺の雷みたいにあの人も?)

 「キョウ、あの水はなんだ? まさかあの人も神器が体の中にあるのか?」

 「………………………」

 九峪は問いかけるがキョウは黙って何かを考え込んでいた。

 「……キョウ?」

 「………………」

 「お〜〜い」

 「…………………」

 キョウの態度が気に障ったのか、九峪はキョウの耳元に口を近づけた。

 「キョウ!!」

 「うわっ!!」

 耳を押さえてキョウが跳びあがる。

 「ななななっ、なんだよ〜〜九峪ぃぃ」

 「お前が急に黙り込むからだろ」

 「ぶぅ〜〜〜、なんだよそれぇ〜〜〜」

 キョウは頬を膨らまして九峪を睨む。

 「まあまあ、……で、あの水はなんなんだ? 俺と同じように体の中に神器があるのか?」

 「へっ? ああ…九峪の世界ではないんだもんね。

  あれはね『方術』っていうこの世界でも極一部の人間が使うことのできる『術』だよ」

 「…………さすが異世界、もうなんでもありだな」

 「あはは♪ そうかもね♪

  でも九峪の『雷』っていうのは方術でも出来ない凄い力なんだよ?方術は主に『火』『水』『風』『土』の力を使うんだ。

  詳しい説明はまた今度ね♪ 今は………」

 そこまで言ってキョウの顔が真剣になる。

 九峪もキョウの表情をみて只事ではないと悟ると、キョウの言葉を聞き逃すまいとした。



 「九峪………あの女の人………『火魅子の素質』を持っているかもしれない」



 あとがき

 えっと、投稿遅れて本当にすいません!!(土下座)
 しかも、志野様(オイ)登場させておいてセリフがないとは………次こそ志野様の出番増やすっす!!


 お久しぶりのビックさんのSSの続きです♪
 同盟チャットで密かにハッパかけた甲斐がありましたか♪
 もうひとつのSSの続きのほうも、アンケート等でハッパかけたら早くなるかも?(何)
 露店の親父に値切りまくる九峪って、かなりたくましいですね。日魅子の教育の賜物でしょうか(笑)志野はゲーム版同様方術が使えるみたいですね。次の話ではきちんと九峪と対面するようですし、楽しみです。
  お忙しいみたいですが、ゆっくりではあっても、未完にはしないとのことですので、お待ちしていますよ〜♪


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