火魅子伝〜神器に選ばれし者〜

第1話


作・ビック様






 「らぁぁぁああ!!」

 キィン

 ガギィイン

 「くっ、負けるかよぉぉお!!」

 緑一面の山の中から金属音と人の叫び声が聞こえる。

 山の中腹にある小さな滝を背に二人は戦っていた。

 戦っている者の一人、九峪 雅比古(くたに まさひこ)は燃えていた。

 生まれてから今までの17年間、一度もこの相手に勝てないのだ。

 それどころか掠った事さえない。

 これでも剣の腕には自信がある。

 今までどんな相手にも負けたことがない……今戦っている相手以外は……

 「くらえ!!」

 九峪の一撃が相手を捕らえる。

 「甘いよ」

 「ぐわっ!」

 捕らえたと思った瞬間相手の姿が消え、いつ回り込んだのか背後からの一撃が九峪の脳天に決まった。

 九峪は衝撃に耐えられず倒れた。

 「ふぅ、まだまだ未熟だねぇ〜。未だ私に掠りさえしないとは……」

 ………

 「この十余年……いったい何を学んできたことやら……」

 …………

 「いくら『剣術』だけの勝負でもこんな老いぼれ一人倒せないなんて」

 ……………ガバッ!!

 「うるせぇ!! 大体ばあさんの実力がでたらめすぎんだよ!!

  だいたい本当に70歳なのか!? どう考えてもおかしいだろ!!

  さては妖怪だな? 正体を現しやが「ドコッ!!」……ぐふっ」

 「そんなに三途の川が見たいのかい?」

 起き上がり叫ぶ九峪に彼女は邪悪な笑みを浮かべながらリバーブロー(肝臓打ち)を放った。

 彼女の名前は九峪 日魅子(くたに ひみこ)、九峪の育ての親である。

 血は繋がっていない。

 森の中で捨てられていた赤ん坊を日魅子が育て、成長したのが今の九峪なのだ。

 「さて、私はこれからちょっと用があって出掛けて来るけど…薪割りと食事の準備やっときなよ」

 「く、くそ〜〜」

 (これで……929戦0勝929負けか………)

 ガクッ

 日魅子は力尽きた九峪を無視して早々と去っていった。





 剣を納め日魅子は自分の手の平を見た。

 まだ、痺れが残っている。

 強くなった。

 心も体も。

 日魅子にはそれがたまらなく嬉しかった。

 今思えば捨てられていた赤ん坊の九峪を見つけた時は本当に驚いた。

 



 いつもの日課で祠に足を運ぶと、祠の手前に赤ん坊がいた。

 別に祠といっても神様を祀っているような物ではない。

 この祠は自分が捨てられていた時に持っていた物を入れた、いわば宝箱のような物だった。

 この祠も自分で作ったのだ。誰にも見つからないように森の奥に。

 誰もこの場所を知っているはずがない。

 にも拘らず赤ん坊がこの場に捨てられている。

 何よりも不可解だったのが……その赤ん坊がぼんやりと光っているのだ。

 赤ん坊だけではない。

 祠の中からも光が漏れ出している。

 何事かと祠の中を覗くと入れてあった物の一つ、手の平に乗るくらいの小さな『蒼い玉』が光を発している。

 その光は徐々に輝きを増していく。

 赤ん坊も……そして玉も……

 やがて玉は導かれるように、赤ん坊の中に吸い込まれていった。

 ……

 ………

 …………

 信じられない。

 日魅子は呆然とその光景を見ていた。

 少し落ち着き恐る恐る赤ん坊を抱き顔を確認してみると、赤ん坊は先ほどの現象などなかったかのようにすやすや眠っている。

 だが、確かに祠の中に入れておいたはずの玉は無くなってた。

 幸いにも、もう一つの『物』は無事だったようだが……

 誰がこの赤ん坊を捨てていったのか?

 何故赤ん坊と玉が光り出したのか?

 どうしてこんな事が?

 様々な思いが日魅子の脳裏をよぎる。

 ふにゅ!

 「ふぅ? (ん?)」

 しばらく思惑にふけっていた日魅子の頬が抓まれていた。

 いつの間にか赤ん坊は起きていた。

 きゃっ、きゃっ

 ……

 きゃっ、きゃっ

 ………

 きゃっ、きゃっ

 …………

 ……………ふふ!

 日魅子は突然笑い出す。

 しばらくの間、頬を摘まれながらも赤ん坊の笑顔を見るうちに、日魅子は悩んでいる自分が馬鹿らしくなってきた。

 (どうせ考えてもわかるはずが無いんだ)

 「こらこら、そんなに頬を抓るな」

 「ふぅあ?」

 日魅子の言葉を理解しているのかいないのか……ともかく赤ん坊は日魅子の頬から手を離した。

 「よしよし、いい子だ」

 頭を撫でてやると赤ん坊は気持ちよさそうに目を細めた。

 「あぅう♪」

 (一人暮らしの気ままな生活を楽しんでいたが……家族が出来るのもいいかもしれないねぇ)

 日魅子も捨て子だった。

 孤児院で育ったものの家族と呼べるような人間は一人もいなかった。

 一人立ちしてからも友人は数多くいたが、自分が惚れる様な男性がいなかったため結婚もせず今まで生きて来た。

 「お前…私の所に来るかい?」

 「だあ♪」

 「そうか……ならお前は今日からくたに……九峪 雅比古だ!!」

 「だあぁ♪」

 日魅子は赤ん坊を思い切り抱き上げ、笑いながらこの新しい家族を向かいいれた。





 あれから17年。

 少々生意気に育ったが九峪との生活は本当に楽しいものだった。

 色々と苦労も堪えなかったがそれさえ楽しく思えた。 

 (ただ……)

 急に日魅子の表情が曇る。

 (この頃妙な予感がする………まるで大切な物が無くなってしまうような………)

 日魅子の一番大切な物……それは間違いなく九峪の事だった。

 (あの子ももう17だ。 そろそろ私の元を離れていく頃なのかもしれないねぇ)

 心なしか日魅子の背中が小さく見える。

 日魅子は今日も17年前と同じように、あの『祠』に向かっていた。 


 


 「はぁ〜、しっかし日魅子のばあさんもなんでこんな山奥に家立ててんだろ?

  おかげで無人島に流されても大丈夫ってくらいサバイバル技術見についちゃったし…

  にしても今日は獲物見当たらないな〜、熊でも出ないかな?」

 九峪は日魅子に負けた後、薪割りをさっさと終わらせ、食事の準備ということで狩りをしていた。

 日魅子は自然に囲まれたほうが落ち着くということで、山の中に家を立てていた。

 山の中ということは近くにコンビニやデパートなんてあるはずがなく、自然と食事は自給自足が基本となる。

 もちろん、九峪はちゃんと学校にも通っている。

 ただ山の中から町の学校までの交通機関がなく、さらに体を鍛えるため走って登校していたため、九峪は恐ろしいほど健脚になっていた。

 当然、体を鍛えるのは日魅子に勝つためである。

 九峪にとって日魅子とは超えるべき壁であり目標だった。

 「おおっ!? 今日の晩飯発見!!」

 九峪は獲物を見つけると武器も持たずに駆けていった。





 「ふぅ〜、意外と逃げ足の速い狼だったなぁ」

 九峪は背中に狼を背負っていた。

 奇妙な事に狼からはまるで焦げているかのように煙が出ていた。

 「それにしても狼って初めてだなぁ。 美味いのか? ああ、食べるのが楽しみだ♪」

 九峪は少々一般常識が欠落しているため、狼(ニホンオオカミ)が既に日本で絶滅していることを知らなかった。

 日魅子が偏った知識を九峪に教えていたのが、主な原因である。

 「まあ獲物が獲れたのはいいとして………ここは何処だ?」

 どうやら狼を追っているうちに道に迷ってしまったようだ。

 「ん?」

 九峪は奇妙な気配を感じた。

 (なんだこれ? 体の中が芯から熱くなっていくような感覚は…)

 カァァァァァァァアア!!!!

 「うわっ!!」

 突然森の奥から眩いほどの光が射し込んだ。

 「な、なんだぁ?」

 光は治まることなく輝いている。

 「いったい何が起ってんだよ!?」

 (何だよこれ!? この感覚となんか関係あるのか?)

 九峪は根拠のないこの考えが合っているような気がしてならなかった。

 九峪は光に向かって進みだした。

 怖いという感情が無い訳ではない。

 ただ恐怖よりも何が光っているのか確かめたいという思いの方が勝っていた。

 何より自分の中の『何か』が進めと言っていた。





 九峪は知らない。

 この日が自分の運命を決めるであろうことを。





 「これはっ!?」

 日魅子の口から驚愕の声が上がる。

 17年前の現象がまた自分の目の前で起きているのだ。

 いつものように祠の中に納めてある『鏡』を磨きに来ると、突然『鏡』が光りだした。

 ただ17年前と違っていることが一つあった。

 「私の体から光が!?」 

 日魅子の体からも光が発していた。

 ただ日魅子の体から出る光は、鏡から出る光と違い酷く弱々しかった。

 サアァァァ

 「手が………」

 日魅子はかつてない以上に混乱した。

 今自分の身に起っている事が理解できない。

 (どうして鏡から光が……)

 (私の……体が………消えていく)

 日魅子の体はゆっくりと消え始めていた。

 どう……し…て……

 ……わ……し…の……から……が……

 だんだん頭の中が真っ白になってゆく。

 「ばあさん!!!」

 ハッとなって振り返ると、そこには驚きながらもこちらに駆け寄ってくる九峪がいた。

 「雅比古っ」

 「いったい何がどうしたってんだよ!?」

 九峪の声に日魅子は正気を取り戻した。

 「知らないよ! 鏡を覗いたら突然こうなったんだよ!!」

 「鏡? それか!」

 「危ないよっ!?」

 「そんなこと言ってる場合じゃねえだろ!!」

 九峪は日魅子を無視して鏡を取った。

 鏡はそれでも光を発し続けている。

 「くそっ、こうなったら…」

 「雅比古! どうするつもりだい!?」

 「ばあさんには悪いがこの鏡をぶっ壊す!!」

 九峪は鏡を叩きつけようと両手で鏡を持ち上げる。

 力を溜め、振り下ろそうとしたその時…

 『―――に選ばれし心強き者』

 「な、なんだぁ?」

 どこからか声が聞こえてくる。

 それと同時に九峪は凍りついたかのように体が動かなくなった。

 『―――を取り込みし心優しき者』

 「体が動かねぇ!」

 いつの間にか日魅子は光も消え、体も元の状態に戻っている。

 『火魅子の素質を持ち、時空を渡りし者の力を超えし者』

 「なんだよこの声は!?」

 「雅比古! お前の体が!!」

 「っっ!?」

 九峪の体は日魅子の時より強く輝き、

 そして、日魅子の時より速く体が消えていった。

 『汝を――――の世界へ誘おう』

 「うわぁぁぁぁぁああ!!」

 「雅比古ぉーーー!!」

 光は爆発的に輝きを増し、九峪はこの世界から姿を消した。

 九峪の意識はだんだん薄れていく。

 (……せめて……死ぬ前に一度でいいから……ばあさんに勝ってみたかったなぁ)





 あとがき

 うぅ、文才のない私が『最終兵器シリーズ』が終わってないのに新シリーズを書いてしまうとは……(汗。
 え〜と、まあそれはおいといて(オイ
 「九峪の姓が二つあるんだから九峪雅比古は雅比古で日魅子は日魅子って書いた方がいいんじゃない?」
 という方がいらっしゃるかもしれませんが、九峪の事を雅比古と書くのが嫌…というかなんか抵抗があったのでこうしました。
 まあ不快に思われる方もいるかも思いますが、暖かい心で許してください^^:
 一応2〜3話先までの展開も考えてはいますけど作者自身「続くのかよ!?」って感じなのです(滝汗。
 どうなるかわかりませんが今後ともよろしくお願いします。


 ビックさんの新シリーズ開始ですヽ(*^^*)ノ

 いきなり日魅子がおばーちゃんで意表をつかれましたね〜。まあ、時間軸が違うのですから、こういう設定もアリでしょう。ばーちゃん日魅子をみたキョウの反応を見たかった気もしますが(ぉ
 現代でもこれだけやってる九峪なら、火魅子世界で体力なくて、へたれたりはしなさそうですし(笑)続きがかなり気になります。
 なんでも、目指せJさん!だそうで(* ̄▽ ̄*)ノ"
 ビックさん、よろしくお願いしますね♪


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