慰 霊 祀


作・マサ様

〔前編〕 〔中編〕 〔後編〕

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 あれから二人は、いつまでも宮殿を留守にしておくと、清瑞を含む周りの者達から何を言われるかわかったものではない言う事で、宮殿に戻る事にした。その帰り道、二人の間には妙な沈黙が支配している。音羽は御影と分かれた寂しさから沈黙し、九峪は九峪でやはり寂しさを感じつつ、何とか音羽を励まそうとあれこれと言葉を考えているのだった。しかし、ついに沈黙に耐え切れずに、九峪は音羽に話し掛けた。
「ところで音羽」
「はい、なんでしょう?」
音羽の声には、覇気が感じられなかったが、それでもしっかりしたものだった。そんな事を思いながら九峪は言葉を続ける。
「今日のことで音羽が子供が好きなのはわかった。意外と言えば意外だったけどな」
「意外……ですか」
「いつも戦場では、根(こん)を振り回している音羽しか見たことが無いからな。今日は、音羽の別の顔を見ることが出来て楽しかったよ」
「えっ?えっ?それは、どういう……」
九峪の素直な気持ちだったが、音羽にはいまいち伝わっていないようだった。
「ああ、誉めているんだ。音羽が、ただ戦いにだけ身をおいている……そんな女性じゃなくて、、、なんていうかな。うまく言えないんだけど、安心したよ」
「安心……ですか?」
音羽には、どうして九峪が安心したのかわからずに聞き返す。
「ああ。戦い以外のことも考えているんだなぁってさ」
「………」
音羽は、なんと答えていいのか分からなかった。
「九峪様……それはどういうことなのでしょうか? 私だって、他の事も考えますよ」
「え? ああ、気分を害したなら謝るよ。わるかった」
九峪は音羽に向き直って謝る。
「あ、いえ、そういうことではなくて……」
音羽はどうしていいのかわからなかった。
「いや、御影の両親の事、花崗さんの事を考えたんだ。彼らは、何の為に戦ってくれたんだろうって」
「何のためって……耶麻台国を復興する事ではないんですか?」
音羽はそれ以外思い当たらなかった。その様子を見た九峪は、少し考える素振りをして答える。
「それって、手段だと思うんだ」
「手段?」
「ああ。例えば……音羽は何の為に戦っているんだ?」
「それは、耶麻台国を復興させる為です」
音羽の答えに、九峪は苦笑する。自分の聞きたいことを音羽がいまいち理解していなかったからだ。
「じゃ、質問を変えるよ。音羽はどうして戦いに参加したんだ?」
「それは……私の父が耶麻台国の武将で、私もその娘だったからです。耶麻台国を復興させるのは父の悲願であり、私の願いでもあります」
音羽は迷うことなく言い切った。その為に、幼い頃から戦う訓練をしてきた。いつか復興軍に参加する為に今まで生きてきたようなものである。
「耶麻台国の縁の者して生まれてきた者の義務です」
「義務……か……」
音羽の答えに、九峪は黙って考え込む。音羽だけではなく、他の面々も義務の為に戦う決意をした者は少なくはない。しかし、義務を全うする為に戦う事は出来ても、義務を全うする為に生きているわけではない。生きる目的と戦う目的が違う。
「その義務を果たす為に、生きているわけじゃないんだけどな」
「九峪様……それは、どういう……」
音羽は九峪の意図がわからない。
「いや、たぶん俺にはわからないことなんだろう。俺はこの世界の住人じゃないから……それに、俺が言わなくても、みんな強いからな。わかっていると思うし、いずれ自然とわかるよ」
「……九峪様は、何を危惧しているのでしょうか?」
音羽にそういわれて、九峪ははっとする。自分が何かを危惧……つまり、何かを恐れていると言う事である。
「……俺は何を恐れているんだろうな………」
「九峪様……」
九峪の自分自身に問い掛ける姿に、音羽は罪悪感を覚える。自分の言葉が九峪を悩ませてしまったからだ。そして九峪は突然音羽の顔を直視して言った。
「……なぁ音羽。義務の為に死ねるか?」
「え!?」
いきなり話を振られて、音羽は戸惑う。
「あ、いや……その……」
九峪の【義務の為に死ねるか?】とい事は、今まで考えても見なかった。戦って死ぬ覚悟は出来ている。それは他の面々も同じだろう。しかし、義務のために死ぬ事が出来るとは考えても見なかった。
「人の命を奪うには、明確な目的、つまり動機がなければ難しいし、人は義務を全うする為だけに生きているわけじゃ……生まれたわけじゃないだろう?」
「それは……その通りです」
音羽は九峪の問いに肯定する。それを確認した九峪は、言葉を続けた。
「人が生きる為には……自分が生きていく為には明確な目的……動機は必ずしも必要じゃないと思うんだ。未来なんて、誰にもわからないし、生きているうちに変ってしまうかもしれないからな。なぁ音羽。義務を全うしたその後は、どうするつもりだ?」
「その後……ですか?」
「ああ、この戦いに生き残ることが出来たとしよう。耶麻台国が復興したとしよう。義務を全うしたから、満足するかもしれない。それはそれでいいと思う。それは自分のために戦っているんだから。でも……まっとうした後、音羽には何が残る? そのときに俺はもうこの世界にはいないんだ。だから居る時に聞いておきたい」
耶麻台国が復興した時、それは神の遣いである九峪との別れを意味する。復興した後の耶麻台国を九峪は見届ける事は出来ない。しかし、音羽を含むこの九洲の民はそうではない。復興した耶麻台国と共に生き、ともに歩んでいかなければならない。九峪は、戦いの後、耶麻台国がどうなっていくのかを尋ねている。音羽の望む耶麻台国の形を……
「………」
音羽は、復興したあとの事は何も考えていなかった。漠然とした意思で復興軍に参加したからであろう。
「他の幹部にも言える事なんだけどな。復興を望み、復興軍に志願してくる人たちは、家族の為に戦う事を選んだんだと思う。九洲にすむすべての人じゃなく、自分の守りたい人たちの為に……ね。人は一人で生きていく事はできると思う。でも、幸せになる為には、一人では難しい。みんな自分や自分の周りの大切な人たちの為に、その人たちが幸せに暮らせる環境を作る為に、今を耐え忍び、戦う事を選んだんだと思うんだ。みんな、漠然とだけど、それは分かっていると思う。だから、音羽も義務を全うする為だけに戦いに身を置いているのは……悲しいんだ。もし、縛算としたものの為に戦ったりしたら……全てが終わったとき、きっと迷ってしまう。俺はそんなのは嫌だし、もしそうなってしまったらきっと悲しむと思う」
「悲しむ……ですか? 九峪様が……ですか?」
「ああ、俺が音羽の為に悲しんじゃいけないかな? 迷惑?」
「えっ!? いえ、迷惑なんてそんな……」
音羽は顔を真っ赤にして俯いてしまう。
「偉そうな事を言ったけどさ。音羽には、義務の為じゃなく、誰かと自分の幸せの為に戦って欲しいんだ。それが死んだ人達や、無くなってしまった物の為じゃなく、生きている人達の為にさ。だってそうだろ? 今を生きてこれからを作り出すのは今生きている人達なんだからさ」
「誰かの為に……」
九峪にそういわれ、音羽は考える。最初に浮かんできたのは、御影だった。
「……御影や、御影のような子達の為に……ではダメでしょうか?」
「いや、それでいいと思うし、音羽らしくていいとおもうよ」
九峪はニッコリと微笑む。その笑顔を見た音羽はぱっと表情を明るくした。何故嬉しいと思ったのか、音羽にはわからなかったが、打算なく嬉しいと感じたのは確かだった。

**************

 宮殿に到着した頃には、すでに太陽は沈みかけていた。御影の両親探しで、志野の踊りを見れなかったことが残念といえば残念だなと思いながら、九峪は門をくぐる。でも、不思議と後悔はしていなかった。
「(今度、俺の為に志野には踊ってもらえばいいしな)」
九峪はそんな事を思っている。志野には、まだいつでも会える。しかし、御影には早々会えない。そんな状況の差からだったのかもしれないが、九峪はそこまでのことは考えてなかった。
「なぁ音羽。今度、孤児院に行くか?」
「孤児院ですか?」
「ああ、あのおっさん、あの子に会いに来てくれって言ってたろ。だからさ、会いに行かないか?」
会いに行くというのは、御影の事である。いろいろ嫌な思いをして育った割には、根がまっすぐなあの少年を、九峪は気に入ったのだ。
「でも……よろしいんですか?」
音羽の不安そうな声に、九峪はなぜ音羽が何を危惧しているのかわからず聞き返す。
「なにが?」
「仮にも、九峪様は神の遣いなんですよ。その……私にはわからないのですが、いろいろ不味いんじゃ……清瑞や亜衣様は反対されるのでは?」
九峪は、清瑞や亜衣、それに嵩虎といった面々の問題の事を完全に忘れていた。きっと、これから小言の一つや二つは言われるかもしれないと思うと、九峪は気分が萎えてくる思いだった。
「ああ、たぶん反対するだろうね。でも……音羽はあの子に会いたくは無いのか?」
「そ、そりゃ……会いたいですけど……」
「だったら、それでいいんじゃないのか?」
意外にあっさりと言い放った九峪に、音羽は意外に思った。
「いいんですか?」
「ああ、いいと思うよ。いつでも会う事が出来ると言う訳じゃないしな。会える事ができるうちは、あっておいた方がいいよ」
そこで、九峪は少し顔を俯かせる。会いたい人に会えない事実は、とても寂しいものだからだ。九峪の変調に気づいた音羽は心配そうに声をかけた。
「九峪……様。大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だよ。それで何の話だっけ?」
「それでいいか悪いかという話です。この場合は、九峪様がそんなに簡単に御影に会いに行って良いかって事です」
音羽が話を戻す。
「ああ、それね。いいんじゃないかな? たぶん反対されるだろうけど……きっと何とかなるよ」
「は、はぁ……どうなっても知りませんよ」
「そのときは何とかするって」
そう言って、九峪は安請け合いをするのだった。嵩虎・亜衣・清瑞といった面々を説得する事の難しさを知らずに………
しかし、九峪のこの言葉が不思議と嫌味にならず、また本当になんとかしてしまうような気がすると音羽は思ったのだった。


******** エピロ−グ ********


 宮殿の回廊の途中から庭園に出ることの出来る場所で、九峪は外をボーと眺めていた。そこに、九峪に気がつき、傍に歩み寄ってくる者がいる。
「九峪様。ここにおいででしたか。探しましたよ」
声をかけてきたのは、志野だった。
「ああ、志野。ちょっと考え事をしてたんだ」
「考え事……ですか? 私以外の女性の事ですか?」
「ああ ――――――っ って、違うってば」
「ふふふ、冗談ですよ。九峪様の横顔を見た瞬間わかっていましたから」
志野はそう言って九峪に微笑みかける。
 まるで女神のように美しい志野に微笑みかけられた九峪は、顔を真っ赤にしてしまう。
「そんな……からかうなよ」
そう言って、九峪は志野から顔を背ける。気恥ずかしかったからだ。
「九峪様。差し支えなければ、何をお考えになっていたのか教えていただけませんか?」
「うん?」
九峪は、意外な思いだった。九峪の知っている志野であれば、九峪が何を考えているかを知りたいと思っても、聞かせてくれと言い出さない。九峪は、とても珍しく感じた。
「意外だな」
九峪は素直に自分の疑問を言った。
「意外……でしたか?」
志野が聞き返してくる。
「ああ。志野ってほら。俺に比べるとずっと大人だし、慎ましいからさ。人の気持ちを詮索なんてしなくてもわかっていそうだし、そんな事はしそうにないっていう感じだったからさ」
「そんな事はないですよ。私だって、知りたいと思うことはたくさんあります。例えば……九峪様が誰を見ているのかとか」
「うん? 俺がいま見ているのは志野だけど」
「あ、いえ、そういうことではなくて」
志野の言いたい意味をまるで理解していない九峪に対し、志野は出来の悪い弟を持った気持ちになった。可愛くても憎めない……そんな感じの気持ちである。
「(もう、鈍感なんだから)」
志野は心の中でそう呟く。
「そういうことではないって事は、どういうことなんだ?」
「自分で考えてください」
志野の言葉に、九峪は頭をひねって考える。
「ん〜、わかんねぇ。って、話がそれてるな。それで、俺が何を考えていたかってことだっけ?」
「ええ、そうです」
志野は、わかってほしかったという気持ちもあったが、いずれ九峪ならわかってくれると思い、今はその事について考える事を止めた。
「なんだか、寂しそうな表情でしたので、気になってしまって……」
「いや、そんな事はないと思うんだけどな。まぁ、俺が考えていたのは……戦いの中で死んでいった人達すべての事さ」
「慰霊祀の事……ですか?」
「うん。それもあるけど……慰霊祀を執り行う時の会議の事は覚えているだろう?」
「はい」


 今から一ヶ月前、九峪は会議の場でこう言った。
「死んだ人間の多くは、死にたくなかったろう。彼らには、彼らの思いを遂げる為に、実現する為に戦ったのだから。俺は、生きている人達に対して報いてやるだけじゃなく、死んだ人達に対しても報いてやりたい。彼らが安心して死者の世界に旅立たせてやりたい。その為に、彼らの遺志を継ぐ儀式、つまり慰霊祀を執り行う必要があるんだ。これは、耶麻台国が復興してからじゃ遅いと思う。彼らの魂が不安でこの世に留まって彷徨ったりしたら大変だしな。本当は、もっと早くにするべきだったと思う。たぶん、今やるにしてもきっと遅いほうだとおもうな」
神の遣いである九峪のこの発言には、誰も逆らわなかったし、逆らう事は出来なかった。それ以前に逆らおうともしなかった。彼は神の遣いである。神とは生を司ると同時に、死も司る存在であるからだ。宗教とは、そういうものであるが故に、九峪のこの言葉の重さは、九峪自身が思っているよりも遥かに重いのである。
現代ではあまり感じないが、当時の人々の死に対する恐怖は、神に対する畏怖と同等なものなのである。宗教とは、そうした死への恐怖を利用したものであり、死後の世界の存在を肯定する。その為、九峪のこの発言に異議を唱えるという事は、すなわち耶麻台国を守護する神々の教えに反するという事を意味する。
その為、九峪の発案は九峪が思っている以上に簡単に受け入れられ、火魅子候補を筆頭に祭りの準備を執り行う事になったのである。


「ああ。あの時言ったことは嘘じゃないんだけど……方便的な意味もあった……かな」
「え……ええ!? それは……どういうことでしょうか?」
九峪の意外な告白に、志野は驚いてしまう。そんな志野に、九峪は苦笑しながら言葉を続ける。
「慰霊祀……魂を慰める祀り……そんな意味かな。でも慰めるのは死んだ人間の魂だけじゃないんだ。生きている人の心も同時に慰める……本当の意味はそこにあるんだ」
「生きている人の魂までも慰める……」
「そ。 それじゃ聞くけど、死んだ人間に、この世の栄誉をどれだけ与えた所で、彼らに何の慰めになると思う?」
「それは……死者への手向けになるのではないでしょうか?」
志野は、少し自信がなさそうに答える。手向けとは死者の前に供える物のことである。
「ん〜、確かに手向けにはなると思う。だけど……」
九峪はここで一旦言葉を区切り、黙り込む。
「だけど?」
志野が話の続きを促す。
「だけど、彼らはそれを望んだわけじゃないしね。前も言ったけど、彼らの手向けに必要なものは、名声ではなくて、彼らの成し遂げられなかった想いをかなえることなんだよ。たぶん……」
彼らの成し遂げられなかった事。それは、家族の幸せに他ならない。九峪は、今日あった御影の事を思い出しながら続ける。
「死者の為に祈る事・誓う事で彼らの魂を慰めるだけでなく、生きてる者達の魂も慰める。それが慰霊祀の本当の目的だよ」
藤那や亜衣あたりなら、この祀りの本当の意味を最初から理解していたかもしれないなと九峪は続ける。
「志野だって、気がついていたんだろ? 志野だけじゃない。他のみんなもきっと気がついたさ。だからこそ、俺の所に来たんじゃいのか?」
「……はい。もしかしたら……という気持ちになったので」
志野の反応から、九峪の予想は大体の的を得ていたようだった。
「祀りに集まった人達の舞を舞った時……いえ、舞い終わった時の、舞を見に来てくれた人たちの表情を見て、なんとなく気がついたんです」
「ん、それでどう思った?」
「……はい。なんというか……私まで切なくなりました」
志野は、舞の様子を思い出しながら答える。
「嫌な感じだった?」
「いえ、嫌という感じはしませんでした。なんというか……その……」
志野は一生懸命言葉を捜そうとするが、うまく言葉を見つけられずにいた。
「舞を舞い終わった時、志野や志野の舞を見てくれた人達がどう思っていたかは、俺にはわからないけど……何か一つを成し遂げ達成感みたいなものを感じたなら……それで良かったんだと思う。俺もうまく言えないけどさ」
「はい。普段の舞とはまた違った感じを受けました」
「うん。明日から良い気分で過ごす事ができるなら、この祀りは成功だと思う。俺は、その瞬間を共有して欲しかったんだ。少しの間とはいえ、同じ物を共有した時に生まれた絆は……ん〜なんていうかな。これからもずっと同じ物でありつづけるだろうし、きっと未来の俺たちにとって大きな力となり、助けとなるよ。きっと」
「はい、きっと私たちにとってかけがえのないものになると思います」
志野は、笑顔で九峪を見つめる。その目は何処までも真っ直ぐで澄んでいた。九峪は志野から真剣に見つめられて、照れくさくなる。それだけではなく、自分らしくないセリフを言った事が、とても気恥ずかしく感じる。
「あ、いや……ちょっと、偉そうだったよな……うん」
そう言って、九峪は気恥ずかしさを抑えようとする。そんな九峪の仕草に、志野はくすっと笑うのだった。
「え? なに?」
志野が、何に笑ったのかわからなかった九峪は、思わず聞き返してしまう。
「いえ、何でもありません。でも九峪様は凄いですね」
「凄い? 俺が?」
「ええ。だってそこまで考えていらっしゃったんですもの。正直申し上げますよ、私はとてもそこまでは考えていませんでした。ただ、私の舞で多くの人たちの励みとなればと思ったんです」
志野は、手を胸に当てて答えた。
「うん、それで良いんじゃないかな。というか、その気持ちが大切なんだよ」
「そ、それでですね……その……あの……」
「うん?」
急に言葉を濁した志野の態度に、九峪はどうしたのかと思った。
「あの……それでですね」
「うん、それで?」
「それで……その……」
志野らしくない態度に、九峪は戸惑うが、志野が何かを伝えようとしているのはわかったので、九峪は志野が言い出すのをじっと待つ。
「その……どうでしたか? 私の舞は」
「……」
「……」
「……」
一瞬九峪の思考は停止する。そして次に頭の中に浮かんだ言葉は「すっかり忘れてました」であった。こう言うのは簡単だろう。しかしそれでは志野の機嫌を損ねてしまう。御影の両親を探していたと言ってしまえば簡単だろう。しかし、もしその事を話すとなると、宮殿を抜け出して、音羽と一緒に遊んだという所も、説明なければならなくなる可能性も出てくる。
「九峪様? もしかして……舞を見てくださらなかったのですか?」
さすが志野というか、女性はこんな時は妙に勘が鋭い。男の浮気は絶対ばれるという理屈が良くわかる瞬間だなと、九峪はわけのわからないことを思った。
「あ、いや、その」
一瞬見ていたと嘘をつこうと思ったが、志野の気迫というか、恐ろしいまでの笑顔……の裏に隠された怒気に、九峪は嘘をつくことが出来なかった。
「そうですか……見てくださらなかったのですね」
「あ、いや、ほんとは見たかったんだよ。だけど、ちょっと用事が出来て……」
「私の舞よりも、その用事の方を優先したわけですね。ええ、とても大事な用事だったんでしょうね」
志野の気迫に、九峪は体中に冷や汗をかく。
「あ、あの……志野さん。怒ってらっしゃいます?」
「い〜え、怒ってませんよ」
「本当に?」
九峪は覗き込むような感じで、志野の顔色をうかがう。
「ええ、そうですね。それでは、明日もありますので」
志野はそう言って、すたすたと九峪の元を離れる。
「あ、ちょっと待てって。まだ話は……お〜い、志野さ〜ん」
九峪が声をかけるが、志野は見向きもせずに、回廊の奥へと消えていく。
「俺が何をした!? なんで、なんでこうなるんだ−!!」
やはり九峪は、志野の踊りを見なかったことを後悔したのだった。



あとがき



九 峪:「なんでこうなるんだ−!!」
日魅子:げし!! ぼこ!!
九 峪:「あう……」パタリ
マ サ:「え、あ……え〜と、うん。私は何も見ていない。といわけで、かな〜りお久しぶりになります。始めましての方、はじめまして。お久しぶりの方、お久しぶりです」
日魅子:「おっひさです。みんなのアイドル、日魅子で〜す」
マ サ:「みんなの腐女子……の間違いでは?」
日魅子:「古来より、賢人はこう言います。「口は災いの元」と」
マ サ:「す、すいません……ではさっそく、日魅子さん、本編の指摘どうぞ」
日魅子:「ん〜と、まず音羽さん頭悪すぎ」
マ サ:「あ、やっぱりそう思いました? 実はもうちょっと切れる女性だったような……と思いながら書いていました」
日魅子:「小説の方は頭悪そうなんだけど、ゲームの方はそうでもないのよねぇ……」
マ サ:「すべてのヒロインの性格を把握しているわけではないので。どうしても小説のキャラクタ−の性格イメ−ジが強く印象に残ってしまった結果という事で」
日魅子:「次いくね。志野さん。最後のエピロ−グ部分なんだけど」
マ サ:「小説の方では、印象は薄い人ですね。出番がないわけではないのですが、表に出ようとしないためにどうしても珠洲の印象が読者には強く感じると思います。その為、性格はゲームのイメージが強くなりました」
日魅子:「珠洲ちゃん人気は、右肩上がりだもんね」
マ サ:「そうですね。まぁ、ゲームでは印象にあまり残らないキャラなんですが……」
日魅子:「それで、志野さんって、こんな性格だった?」
マ サ:「と聞かれると困ってしまいます。私のゲ−ムでの印象の志野ですから。意外と嫉妬深く、怒らせると怖い。信用の置けない人間は相手にしない……そんなイメージですね」
日魅子:「信用の〜の所は、他の人も一緒の気がするけど……ああ、亜衣さんは別か。利用できるうちは利用しつくしてポイってしそうだし」
マ サ:「怖い事をさらっと……基本的に、エピローグは物語の締め。ここではオチの為に作成しました。本来のプロットとエピソードには、プロローグもエピローグもありませんでしたし」
日魅子:「それじゃ次。店のおじさんが喋ってた言葉は?」
マ サ:「……さぁ?」
日魅子:「は?」
マ サ:「いや、どの地方の方言なんでしょうね? 書いてて自分でもわからなくなりました」
日魅子:「おいおい。じゃ普通に喋ればよかったんじゃないの? というか書き直しなさいよ」
マ サ:「いや、めんどくさかったし、あっちはあっちでおもしろいかなと………あ、ぶたないでください。つぎ、次行きましょう」
日魅子:「それじゃ次ー。全体的に見て、なんか読み応えというか……」
マ サ:「云わんとする事はわかります。この作品を見て「冒頭の説明不足じゃない?」と思った人、もしくは「まだ読み足りない」と思った人は、作家の才能があります」
日魅子:「なんで〜?」
マ サ:「まず、あらすじがあるからです」
日魅子:「???」
マ サ:「基本的に、今回の話は【慰霊祀を執り行おうと思ったきっかけの話】【慰霊祀を執り行う為の話】【慰霊祀の話】【慰霊祀が終りの話】と大きく分けて4つです」
日魅子:「ほぇ?」
マ サ:「今回の話は、この3番目にあたる【慰霊祀の話】になります」
日魅子:「他の話は?」
マ サ:「プロットのみ存在します。基本的にこの3番目の辻褄を合わせるためというか、この話を構成するにあたって必要な設定が、前二つなんです」
日魅子:「???」
マ サ:「例えば、前のあらすじで「祀りを行う」だけでは、「なんで?」という疑問がありますよね?」
日魅子:「うん」
マ サ:「だから、「祀りを行う」という部分を分解すると、「なぜ祀りを行うのか?」という部分の説明と、「どうやったら祀りを行う事ができるか?」という部分に分解できるわけです」
日魅子:「あ〜。だから【慰霊祀を執り行おうと思ったきっかけの話】【慰霊祀を執り行う為の話】の二つができるわけね」
マ サ:「その通りです」
日魅子:「だったら、最後の【慰霊祀が終りの話】というのは?」
マ サ:「それは「なぜ祀りを行うのか?」という部分の、「なぜ?」の結果にあたります。結果のない行為に価値はないですから。また物語りの構成上、作んなくても構わないかもしれませんが、必要だと判断してプロットを作成してたんです。やはり必要だという事になれば、作成しなければならないでしょうしね」
日魅子:「ふ、ふ〜ん…」
マ サ:「この4点すべての全体プロットを構成し、できるだけ辻褄の合わない、どうも理由付けが弱い……というのを回避したかったんです。一応、エピローグにもそこのところにはふれていますけどね」
日魅子:「それじゃ、残りの3つの話は?」
マ サ:「いまの所、執筆の予定無し」
日魅子:「あ、そうなの? 書けばいいのに……」
マ サ:「さて、今回はオリジナルキャラが出てきました」
日魅子:「御影君と、花崗さんね」
マ サ:「基本的に名前を考えるのは苦手です。最後まで決まりませんでしたよ……」
日魅子:「なんじゃそりゃ……」
マ サ:「御影は石の名前。花崗は岩の名前からとりました」
日魅子:「なんでまた?」
マ サ:「ヒロインのキャラクタ−の名前が、陶磁器でしたっけ? そこから取られていると言うことなので、それに関係するものから名前を取ろうかと。別に深い意味はありません」
日魅子:「御影って、なんとなくカッコいいけど?」
マ サ:「あ〜、それは私も思いました(笑)」
日魅子:「それで御影君は、これからどうなったの?」
マ サ:「さぁ? なんていうとアレなんで、この後の物語で、九峪と音羽+数名(未定)が、孤児院を訪問します。その時に再登場。いずれ書くかもしれないので、ネタ晴らしは控えておきましょう」
日魅子:「ふ〜ん………まぁいいけど」
マ サ:「といった所で、この辺で?」
日魅子:「それじゃ、またね〜」


テキスト形式で60Kもの大作を送っていただき、ありがとうございました、マサさん^^
 妄想癖のある音羽さん、か〜な〜りツボにきました。「息子は父親似!?」って・・・困っている子供を見ると放っておけない、優しい彼女よりこっちのインパクトが(笑)
 なんだかんだ言いつつも、子供のために体力使ってたり、色々考えてる九峪もいい感じですよね。

 これは4部作のうちの1つだということですし・・・完成したら超大作ですね。今のところ執筆の予定なし、だなんて仰らず、他の3作も楽しみにしてま〜す(^◇^)