火魅子伝〜異聞録〜

外伝の一・手料理の甘い罠


作・BARD様


 ※これは「未完の故郷」でBARDさん(別名Jさん)が連載されている「火魅子伝〜異聞録〜」の外伝です。
 この異聞録では、九峪は今のところ『神の遣い』と『九峪雅比古』の1人2役を演じながら、復興軍に参加しています。そこを踏まえたうえでお読みください^^



それは、とある休日に起きた出来事。

耶麻台国復興の為に狗根国と闘い続ける耶麻台国復興軍にも休息は必要。
………と言う事で、その日は仕事を忘れて休む事に決まっていた。
神の遣い、九峪は正体を隠す日常に疲れ、自室で昼寝をしていた。
「………。」
そんな九峪へと送られる熱い視線、その主は藤那だ。
「九峪は疲れている様だな。 今日は一つ、この私が一肌脱いでやるとしよう。」
復興軍に入るまでの紆余曲折。
そんな中で、随分と九峪の世話になっていた彼女は、お礼の意味も篭めて手料理をご馳走する事にした。
そのまま厨房へと向かう。

「あれ? 藤那さん?」
厨房には既に先客が居た、伊万里と上乃だ。
「伊万里殿に上乃殿か。 厨房を借りたいのだが………。」
「えっ!?」
「藤那様も、ですかぁ〜?」
藤那の言葉に驚いた風な顔をする伊万里と上乃。
二人は軽く目を見開き、そして互いに顔を見合わせた。
実は伊万里、九峪に自分の手料理を食べて貰って自分に対する評価を上げようと考えていたのだ。
勿論、発案者は上乃であり、彼女は付き合いで作っているだけだ。
(伊万里殿と上乃殿も、私と同じ事を………?)
(………?)
(なるほどぉ〜♪ 藤那様も敵って訳ね。)
藤那と上乃は一瞬にして互いの胸の内を看破した。
伊万里も何となくではあるが、乙女の勘で藤那の考えを察した様だ。
面白く無さそうな顔をして藤那を見つめている。
「ふむ。 まあ、問題は無いだろう。 私も一緒に作って良いか?」
「ええ、そうですね。 上乃も良いか?」
「うん、勿論〜♪」
三人が三人共、火花を散らしながら料理に取り掛かる。
いつの間にやら、三人の頭の中では、九峪が誰の料理を選ぶかの勝負にまで発展してしまっていた。

………しかし、だ。
(とりあえず隠し味に酒を入れよう。
 このくらい………、いや、このくらいは無いと酔えないだろう。)
自分が好きなきついお酒をたんまりと入れる藤那。
(九峪さん、美味しいと言ってくれるかな? ………って、しまった!)
考え事をしている内に調味料を入れ過ぎてしまった伊万里。
(ふんふんふ〜ん♪ 良い機会だから、新しい料理に挑戦してみよ〜っと!)
何やら、奇抜な調理法を試す上乃。
………この際だから、はっきり言おう。
このままでは九峪の命が危なかったりする、いや、本気で。
そして何事も無く(?)、料理は完成した。
三人共、味見はしていない。
一刻も早く、料理が冷めない内に食べて欲しい、と言う乙女心の為せるだ。

完成した料理を食卓に並べていると、食堂に閑谷が入って来た。
「う〜ん、良い匂い。」
「お、閑谷。 丁度良いところに来た。」
「あれ、藤那? 何してるの?」
「九峪には世話になったからな。 その礼を篭めて昼食を作ったところだ。」
「藤那の手料理っ!?」
目の色を変えて食卓を見やる閑谷。
藤那に思いを寄せている彼にとっては夢にまで見た代物だろう、それが食卓に置かれていた。
「ああ。 九峪を呼んで来てくれ、なるべく急いでな。」
「わ、分かった。」
閑谷が食堂を出て行く。
(藤那の手料理、藤那の手料理、藤那の手料理………。)
藤那の手料理を食べられない無念さ、そしてそれを食べられる九峪への嫉妬。
様々な感情をない交ぜにしながら九峪の部屋を訪れる閑谷。

………と同時に、九峪が自室から出て来た。
「あれ? 閑谷?」
「こんにちは、九峪さん。 あのぉ〜、お時間よろしいですか?」
「時間? 良いけど。」
閑谷は内心の感情を押し殺し、努めて平静を装う。
「実はですね………。」
そのまま話し始めた、その時だった。
「九峪さん。」
「「えっ?」」
不意に声を掛けられ、その方向を見やる九峪と閑谷。
そこには、楚々とした風情を携えた志野が佇んでいた。
「あ、志野? こんにちは。」
「こんにちは………。 あら、閑谷さんも。」
「志野様、こんにちは。」
とりあえず挨拶を交わす三者。
「………で、どうしたの?」
九峪は閑谷へと向き直り、話の続きを促す。
しかし、閑谷は九峪と志野を交互に見やったまま、なかなか話そうとしない。
(う〜ん、どうしよう? やっぱり志野様が一緒じゃまずいよね………。)
閑谷が言い辛そうにしているのを見て、自分には聞かせられない話なのだと悟ったのだろう。
志野がゆっくりと口を開く。
「お邪魔な様でしたら、私はお暇しますけど?」
「えっと。 いえ、そういう訳では………。」
「よろしいのですか?」
「あ、はい。 良かったら、志野様からお先にどうぞ。」
お人好しな閑谷は志野を邪険に扱う事が出来ず、順番を譲る事で、用事を終えた志野がこの場を去る様に仕向ける事にした。
「では、お言葉に甘えて………。 九峪さん、街へ出掛けませんか?」
「出掛けるって、今から?」
「ええ、外は良い天気ですよ? 出掛けないと勿体無いです。」
「ん〜〜〜。」
志野の言葉を聞き、九峪は考える様な仕草をしながら閑谷を見やる。
ここで頷いてしまった場合、閑谷の用事が聞けなくなるかも知れないからだ。

一方の閑谷はと言うと………。
(これは、もしかして………? すっごく良い話なんじゃないだろうか?)
(九峪さんと志野様が一緒に出掛けたら、
 当然、藤那の作った料理を食べる人は居なくなる訳で………。)
(残った藤那の手料理は、自然とぼくの元にぃ〜〜〜っ♪)
………悪巧みの真っ最中だった。
「閑谷? おい、閑谷?」
「………え? えっ、な、何でしょう!?」
「いや、閑谷の用事って何だったンかな〜と。
 今日じゃ無くて良いんだったら、俺は志野と出掛けるし。」
「あっ、うんっ! 全然、良いです!!
 むしろ、ぼくの事なんか気にせずに行っちゃって下さい!!」
「そ、そうか………?」
閑谷の迫力に気圧されながらも頷く九峪。
「ささ、志野様。」
「あ、え?」
「九峪さんも。」
「お、おい?」
九峪と志野を並ばせ、その背中を押す閑谷。
「お気を付けて〜♪」
そのまま二人を宮殿の外まで見送ると、閑谷は普段の彼には似つかわしく無い邪悪な笑みを浮かべた。

「藤那の手料理♪ 藤那の手料理♪ 藤那の手料理♪」
そのまま見事な浮かれっぷりを発揮しながら食堂へと戻る。
「「「………。」」」
「………と言う訳で、九峪さんは志野様と出掛けたみたいです。」
閑谷は先程の会話の一部始終をかなり脚色して説明した。
その説明に顔を曇らせる藤那と伊万里。
上乃は新作料理の実験台が逃げてしまった事に残念そうな顔をしていたのだが。
「そうか、一足遅かったな。」
「この料理………、どうするかな?」
「う〜ん。 捨てるの勿体無いし、ね。」
食卓に並べられた料理を前に頭を悩ませる三人。
「そうだ! 閑谷君に食べて貰おうよ♪」
上乃が名案だとばかりに言う。
(来た、来た、来た〜♪)
その提案を聞いた瞬間、閑谷が平静を装ったままに心を躍らせた。
「でも………、残り物を押し付けるのは失礼じゃないか?」
「うむ。 それに、閑谷にはちと多いかも知れないな。」
伊万里と藤那が申し訳無さそうな顔で閑谷を見やる。
………が、閑谷には申し訳無いどころか、望むところだったりする。
「ぼくなら大丈夫だよ。 では、頂きま〜す♪」
目を輝かせながら食卓に着く閑谷。
早速、藤那の手料理を手元に寄せると、勢い良くご飯を食べだした。

「ぱくぱくぱく………。」
「はぐはぐはぐ………。」
「むしゃむしゃむしゃ………。」
………ゴトッ!

突然、勢い良く食べていた閑谷が気を失った。
「「「閑谷(君)っ!?」」」
三人は慌てて閑谷へと駆け寄る。
(酒の分量を間違えたか!?)
(やはり塩を入れ過ぎたのが拙かったか? それとも、砂糖では中和出来ないのか?)
(狩りで採って来たキノコを入れてみたんだけど、
 この様子じゃ毒キノコだったみたいね………。)
閑谷が倒れた原因に心当たりがある三人は、
乾いた笑みを浮かべながら、互いに顔を見合わせた。
「とりあえず………。」
「こういう時にする事は………。」
「決まってるかな………。」
閑谷を一撃の下に葬った料理を見つめながら、三人は静かに証拠隠滅をし始めた。

結局、閑谷が倒れたのは下記の三つが原因と言う事で片付けられた。
二日酔い(藤那の料理)、食べ過ぎ(伊万里の手料理)、食中毒(上乃の手料理)。

後日、事のてんまつを聞いた九峪は閑谷の犠牲に涙したと言う。

さらに後日、伊万里・上乃・藤那の三人によって閑谷の処刑が秘密裏に行われた。
聞く所によると、罪状は、九峪への説明不足、九峪が志野と一緒に街へ出掛けるのを止めなかった事だとか。


<外伝の一:了>


 BARDさんから異聞録の外伝を頂きました(^-^)
 「火魅子伝〜異聞録〜」すごく面白くて大好きなんで、本編の続きも楽しみにしてますよ、BARDさん^^
 で、今回、ひどい目にあったのは閑谷でしたか・・・大抵ひどい目にあうのは九峪くんなんですけど、しっかり「九峪のスケープゴート」の役を果たしたみたいで(笑)もっとも今回のは自業自得っつーか、藤那への愛のなせるワザというか。
 そして3人の料理は・・・今回は、量が多すぎ(藤那&伊万里)と素材がヤバ過ぎ(上乃)でしたが・・・普段の腕は一体どうなのか、ひじょ〜に気になるところですね♪
 BARDさん、どうもありがとうございました!!